5月14日、女子サッカーに新たな歴史が刻まれる。

 今季、WEリーグ初代女王に輝いたINAC神戸レオネッサが、ホーム最終戦を東京・国立競技場で開催することを発表した。

 対戦相手は三菱重工浦和レッズレディース。観客は2万人を目指す。WEリーグ初代チャンピオンか、はたまた皇后杯女王かーー。集客力と競技力の両面で、女子サッカーの力が試される一大イベントになる。

「浦和とのチャンピオンシップを国立でやりたいと思い、決断しました。国立で試合をすることには、夢があるし、価値もある。一番人口の多い東京で、女子サッカーの試合にどれぐらい人が入るのか?という挑戦でもあります」

 そう語ったのは、このプロジェクトを主導したINAC神戸の安本卓史(やすもと・たかし)社長だ。

 かつてJ1ヴィッセル神戸の常務取締役を務めた営業力を生かし、INAC神戸でも就任以来、毎年黒字を達成している。競技面でも、代表クラスの選手を毎年補強して戦力アップを図ってきた。選手ばかりでなく、WEリーグ1年目の今季は2011年の“なでしこフィーバー”を牽引した星川敬監督も招聘し、9年ぶりのタイトルを獲得した。

 国立競技場では4月29日に、FC東京がガンバ大阪を迎えて初のJ1公式戦を開催。コロナ禍以降で最多の4万3125人が詰めかけた。ただ、1試合あたりの平均観客数は、Jリーグが約1万2000人であるのに対し、WEリーグは約1,500人にとどまる。

 そうした難しさに加えて、国立競技場での開催には、1,500万円とも言われる高額なスタジアム使用料がかかる。

 国立での開催に至った経緯とは?

 INAC神戸は高いハードルをどのようにクリアし、国立での“2万人プロジェクト”に挑むのか?

 壮大なチャレンジの裏側について、安本社長にお話を伺った。インタビューを2回に分けてお伝えする。

安本卓史社長(新入団会見時)
安本卓史社長(新入団会見時)

安本社長インタビュー

ーーまず、今回国立競技場で試合をすることになった経緯を教えていただけますか?

安本氏:

きっかけは、ノエビアスタジアムが使えないことです。ヴィッセル神戸はアジアチャンピオンズリーグで、5月14日(vsサガン鳥栖)、18日(vs川崎フロンターレ)と、試合があります。本来は15日(日)がINACのホームゲームですが、1週間に3試合となると、芝に負担がかかってしまう。ヴィッセルを後方支援するつもりで会場を変更しました。

去年も芝の状態が悪くて、9月の開幕戦(vs大宮)はギリギリ間に合ったのですが、芝の成長を促すための砂をピッチに50トン以上撒いたので、選手たちの足に負担がかかっていました。それでも5-0で勝ってくれた。

その後、第2節の千葉戦の会場をJグリーン堺(大阪)に変えました。今年3月の埼玉戦も、ノエスタのピッチを全面改修していたので、ユニバー記念競技場に変えました。今回で3回目だぞ、という思いもありますが(苦笑)。それならいっそのこと、国立で初めての興行に挑戦しよう、と思いつきました。

ーー昨夏の東京五輪の女子サッカーは国立競技場で決勝が行われることになっていましたが、結局、直前で会場が変更(暑さのため)になり、実現しませんでした。

安本氏:

そうなんですよ。だから、国立になってから女子のクラブがやるのは今回が初めて。男女合わせても他府県のチームが興行を開催するのは初です。それをINACのホームゲームとしてやることに大きな価値があると思い、決断しました。「国立に行ったことがないけど、一度行ってみたかった」という方が、INACの試合をきっかけに来ていただけたらな、と。

対戦カードが浦和さんだったのは偶然ですが、他のチームだったらやらなかった。皇后杯優勝の浦和だからこそ、国立でチャンピオンシップを戦うことができる。そのためにも、この試合までに優勝を決めておきたかったので、監督や選手たちには感謝しています。

ーーそうだったのですね。国立開催について、監督や選手たちの反応はいかがでしたか?

安本氏:

選手たちに話を聞いたら、「国立でやれるのは嬉しい」と言っていました。今季、どのチームも首位のINACから勝利を奪おうと全力で向かってくる中で、毎試合が決勝戦のような戦いを続けてきました。その中で、3試合を残して優勝を決めることができたのは、チームの地力がついてきたからだと思っています。バラバラになりかけたこともありましたが、様々な試練を乗り越えて、本当にいいチームになった。その頑張りに報いるためにも「聖地でやらせてあげたい」とモチベーションが高まりました。

ーー最初は、どのようなことから始められたのですか?

安本氏:

まずは本当に国立競技場が使えるのかどうかを確認しに行きました。最初に行ったのが1月末で、開催が決定したのは2月。3カ月間で神戸と東京を10回以上往復しています。国立で何ができるのかを、まず(社長の)自分が知らないといけないですから。今となっては、裏の導線も全部わかるようになりましたよ(笑)。

ーースタジアム使用料がかなり高そうですが、どのようにクリアされたのでしょうか?できたら、具体的な数字もお聞きできればと思うのですが。

安本氏:

赤字でもやるつもりでしたが、ビジネス的に言えば、収支がトントン(±ゼロ)ならさらに価値があります。使用料は警備代を含めて1500万円ぐらいですが、実際にはもっとかかるとわかりました。広告に対しての手数料とか、ブースを作ったり、特別席でのケータリング費用などを含めてスタッフに試算してもらったところ、「3000万円ぐらいかかりますよ」と言ったんです。

ーー3000万円! さすがに集めるのは難しいですよね?

安本氏:

当初は2000万円ぐらいの予算規模でやれればいいな、と思っていたのですが、そこで営業魂がフツフツと沸いてきまして。今回のマッチスポンサーや試合への協賛など、10日で3000万円を集めました。

ーー信じられません…。それほどの額を、どのようにして集めることができたのでしょうか?

安本氏:

国立競技場には、今まで使ったことがないような広告枠が、たくさんあることがわかったんですよ。たとえば、ピッチの周りに設置されているLEDビジョンに、スポンサーの広告を大きく出せるんです。コンコース(観客席までの通路スペース)にも広告枠があります。綿密な打ち合わせの結果、これらの枠を全部使えることを確認して、協力してくださる企業に見合う価値をお約束できると確信しました。

スタンドはVIPラウンジの他に、野球場みたいなボックス席もあるので、協賛していただいた企業には貸切で見ていただけるようにしました。スタジアムは浦和からの方が近いですが、あくまでINACのホームゲームなので、スポンサーの従業員の方で関東圏にお住まいの方たちも招待しています。

WEリーグの関連企業やパートナー企業からもご協賛いただきました。電通や、Yogibo(ヨギボー)、旭化成ホームプロダクツ、リーグのユニフォームスポンサーの「X-girl(エックスガール)にもブースを出してもらいます(INACのユニフォームスポンサーは「hummel」)。「みんなが主人公」と謳っているのだから、ファンもサポーターも、パートナー企業もスポンサー企業も主人公。1年目の最後に、みんなで一緒に女子サッカーを盛り上げましょう、と。

国立のスタンドを赤く染める(写真提供:INAC神戸)
国立のスタンドを赤く染める(写真提供:INAC神戸)

後編に続く

2021-22 Yogibo WEリーグ 第21節

INAC神戸レオネッサ vs. 三菱重工浦和レッズレディース

5月14日(土)16時00分キックオフ@国立競技場

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*表記のない写真は筆者撮影