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デビューから5試合で4ゴールのFW千葉玲海菜。決定力とインテリジェンスで、なでしこの新戦力候補へ

松原渓スポーツジャーナリスト
千葉玲海菜

【代表初招集】

 リーグデビューから5試合でなでしこジャパンの候補入り。WEリーグに、新星ストライカーが現れた。

 筑波大学からジェフユナイテッド市原・千葉レディースに新加入した22歳のルーキー、FW千葉玲海菜(ちば・れみな)。

 千葉(玲)は今春に大学を卒業し、3月5日の後期リーグ開幕戦でデビューを果たしたばかり。しかし、出場3試合目の広島戦で初ゴールを決めると、続く相模原戦、仙台戦と3試合連続で計4ゴールを決め、チームを3連勝の波に乗せた。

 そして、4月4日から福島県で行われるなでしこジャパンの合宿に追加招集されたのだ。

 千葉(玲)の魅力は、なんといってもスピード。DFの背後に一瞬で抜け出し、力強いスプリントで違いを見せる。フィジカルに恵まれ、泥臭い守備や体を張ったキープも特徴だ。身長は162cmだが、そうしたプレースタイルもあってか、実際にはもっと大きく見える。

 「決定力」は、千葉(玲)が千葉にもたらした最大の好変化だ。

 猿澤真治監督も、「これだけ点を取ってくれている。そこが1番の評価です」と嬉しそうに話す。

「彼女はサッカーを理解する早さが特徴で、スピードとパワーがあります。正直、これまでもっといい攻撃をしながらも点が取れずに苦労していたので、彼女が決めてくれているのは大きいです」(仙台戦後)

 4ゴールの内訳は、相手最終ラインの背後に抜け出して2点、アグレッシブな守備からそのままゴールに突き進んで1点。仙台戦ではそのスピードを対策されていたが、相手DF陣の慎重な対応を逆手にとって、長い距離のドリブルから決めた。

 好調の要因を聞かれた千葉(玲)は、控えめだがしっかりとした口調でこう語っている。

「本当にできるとは思っていなかったのですが……新加入体制発表(会見)で、残り10試合で10得点と大きな目標を掲げてしまって(笑)。言ったからにはやろう、という気持ちはあります。残り5試合で6得点なので、まだ足りないですね。

緊張するタイプではないです。『絶対に決める』という強い気持ちは持っていますが、みんな期待していないと思うので。気楽な気持ちで臨んで、やるべきことをしっかりやって結果がついてくればいいな、というモチベーションで臨んでいます」

 チーム内では、いじられ役や盛り上げ役も担う。デビュー戦後に「(ゴールの)喜び方がダメ」と言われたことを明かしていたが、最初は初々しかったガッツポーズも、少しずつ板についてきたように見える。

ゴールの後にガッツポーズ
ゴールの後にガッツポーズ

 2018年から4年間、大学に通いながら千葉の特別指定選手(所属チーム登録のまま、WEリーグやなでしこリーグでプレーできる)として練習に参加し、試合にも出場していた。それだけに、馴染むのに時間はかからなかった。

 ロングボールで初ゴールをアシストしたDF市瀬千里は、「千葉選手は合流して間もないですが、どこに蹴ったら(特徴を)生かせるか常に話し合っていたので、狙い通り。信じて蹴ってよかったです」と振り返った。また、相模原戦の3点目をアシストしたMF鴨川実歩も、「レミナのストロングポイントを生かして、ジェフらしいサッカーができていると思います。強いし早いし、野性的で頼もしいですね」と、活躍に刺激を受けていることを明かした。

【7年間で培ったインテリジェンス】

 とはいえ、プロ選手たちが鎬(しのぎ)をけずるWEリーグで活躍を続けることは相当にハードルが高い。今後、千葉(玲)のマークが厳しくなることは必至。それを上回る対応力を見せることができるか、真価が問われる。

 その点、猿澤監督が評価する「サッカーを理解する早さ」という非凡な能力がカギになりそうだ。

 千葉(玲)は、2016年U-17W杯準優勝、19年のユニバーシアード準優勝など年代別代表の実績があり、同年代では知られた存在だった。FWやMFが主戦場だが、センターバック以外のポジションはすべて経験したことがあるという。そのユーティリティ性やインテリジェンスは、どこで培われたのか。

「藤枝順心高校時代のコーチがすごくサッカーの勉強を大切にしている方で、そこでの学びも大きかったですし、筑波大学(の女子サッカー部)は、選手主体で(映像の)分析や試合の振り返りなどを行っていました。個人がうまくない分、チームで組織的に考えなければいけなくて、自分自身もそういうことが好きだったので興味を持って取り組んでいました」

 静岡の強豪・藤枝順心高校では3年間で3度の日本一を経験。大学では関東女子サッカーリーグと関東大学女子サッカーリーグで、いずれも2部からスタートし、1部定着の原動力になった。4年時には、強豪校が集う全日本大学女子サッカー選手権大会で準決勝まで勝ち上がった。

 7年間、積み上げてきたたしかなサッカー観があり、ゴール前ではストライカーらしくボールを要求する。一方で、「監督の指示をすぐに表現すること」や、チームメートの言葉をしっかり聞きながらプレーすることを心がけてもいるという。

 同年代が多いなでしこジャパンでも、そのフレッシュな勢いとコミュニケーション力で活力を与えてほしい。

年代別代表などで活躍した(写真は2019年ユニバーシアード)
年代別代表などで活躍した(写真は2019年ユニバーシアード)写真:森田直樹/アフロスポーツ

【新戦力を加えたサバイバルレースがスタート】

 4月4日から10日まで行われるなでしこジャパンのトレーニングキャンプでは、千葉(玲)の他に、FW井上綾香(大宮)、FW白木星(仙台)、MF祐村ひかる(埼玉)、DF高平美憂(仙台)の4名も初選出されている(*後記:高平はコンディション不良のため不参加となった)。

 なでしこジャパンは チーム立ち上げから3カ月で臨んだ1月のアジアカップで3連覇を逃し、悔しさを噛み締めた。来夏にW杯を控え、今年は欧州遠征(6月)、E-1選手権(7月)、アジア競技大会(9月)と、活動が本格化する。

 今回の合宿では、国内組26名が参加する。新たにセットプレー専門のコーチが加わるなど、代表の指導体制の強化も図っており、収穫の多い1週間となりそうだ。WEリーグで頭角を表した選手たちの競演と、サバイバルの行方に注目したい。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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