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“雪の決勝”を制した早稲田大が4大会ぶりの大学日本一。無失点で頂点へ

松原渓スポーツジャーナリスト
早稲田大学が4大会ぶりの優勝を飾った

 【明暗を分けた雪】

 雪とともに、人々の記憶に刻まれてきたサッカーの名勝負がある。

 最も有名な試合は、1997年、記録的な大雪とともに伝説となった国立競技場の東福岡高校対帝京高校戦(全国高校サッカー選手権大会)だろう。海外では、2012年のインテル対パレルモ戦(セリエA)。雪中でも4-4の凄まじい撃ち合いになったことが話題となった。1987年のポルト対ペニャロール戦(トヨタカップ)は、寒さでボールが破裂するアクシデントも。試合は、雪の中で浮き球のパスを繋ぐ技術が目を引いたという。

 1月6日に行われた全日本大学女子サッカー選手権大会(インカレ)決勝。静岡産業大学と早稲田大学の激闘もまた、記憶に残る“雪試合”となった。

 会場は味の素フィールド西が丘。試合前から大粒の雪が間断なく降り続き、ピッチは瞬く間に白い絨毯に覆われていった。

 雪が降り始めた前半は、両者の積み上げてきた成果がしっかりと表れていた。早稲田大は球際が強く、攻撃はダイナミックに素早くパスを繋ぎ、シュートまでのバリエーションも多かった。一方の静産大は、押し込まれながらも徹底して “繋ぐ”サッカーを志向。少ないながらも確実にチャンスを作ろうとしていた。その中で、前半は早稲田大がシュート数13対1と圧倒したが、静産大のGK河合茉奈のファインセーブもあってゴールをこじ開けることができない。

時間とともに雪が積もり、試合内容が変化した
時間とともに雪が積もり、試合内容が変化した

 0-0で後半に突入すると、雪で見えづらくなったため、蛍光オレンジのカラーボールに変更された。ただ、積雪によってパススピードは一気に遅くなり、流れは膠着。

 そうしたピッチコンディションの悪化にいち早く適応したのが早稲田大だった。

「(雪だからこそ)はっきりしたプレーをしよう、と伝えました。それから、守備の時にどうしても滑って(ピンチが増えて)しまうので、前線の選手もしっかりボールを追っていこうと。雪が積もり切っていたので、相手を(ロングボールで)ひっくり返して相手陣内に押し込む狙いでした」

 後藤史コーチは試合後にそう語っている。シーズン中に福田あや監督からバトンを受け継ぎ、チームを牽引してきた。

 その狙いを選手たちがしっかりと実践。ロングボールを効果的に使ってボールを前に運び、FW吉野真央、FW廣澤真穂、FW高橋雛の3年生3トップが果敢にゴールを目指した。

 均衡が破れたのは52分だった。フリーキックのこぼれ球を、センターバックのDF後藤若葉が右足一閃。「当たった瞬間、きた!と思いました」(後藤)というボールの芯を捉えた強烈なシュートが、静産大のゴールを破った。

後藤が決勝ゴールを決めた
後藤が決勝ゴールを決めた

 終盤は雪かきタイムで試合が中断するアクシデントもあったが、1点のリードを守った早稲田大が勝利。4年ぶり、7度目の王座に輝いた。

 試合終了時の気温は氷点下に近づいていたが、勝者たちの歓喜の声がいつまでもピッチに響き渡っていた。

【無失点で優勝できた理由】

 大会MVPには、決勝点を決めた後藤若葉が選ばれた。後藤は年代別代表の常連で、中高生で皇后杯4強入りを果たした日テレ・東京ヴェルディメニーナ出身。今大会は2年生ながら守備の要として、全試合無失点という成果ももたらした。

「大会を通じて、パス一本を通させないための声がけにもこだわってきました。それが最後に体を張って守ることや、無失点優勝に繋がったと思います。去年、1回戦で敗退したことがずっと心残りで……今年こそはチームを引っ張ってくれた4年生のために、チームのために(優勝したい)という想いが原動力になっていたので、喜びをみんなでやっと分かち合うことができて本当に嬉しいです」

後藤若葉
後藤若葉

 後藤にはメニーナからベレーザに昇格してプロを目指す選択肢もあったはずだが、自身の成長のために進学した。左サイドバックのDF船木和夏(ふなき・のどか)も、同じ道を歩んできた先輩だ。

 だからこそ、昨年、皇后杯関東予選のメニーナ戦(9月)に2-6と大敗したことは、後藤の脳裏に焼き付いていた。古巣の強烈な洗礼。それは、チームにとっても一つの転機になった。

「4冠を掲げていた中、皇后杯予選でメニーナにあそこまでボロボロにされて…。後輩たちの成長は嬉しかったのですが、自分たちがリーグ戦(関東大学女子サッカーリーグ)で調子がいい時期だったので(高くなりかけていた)鼻を折られ、活を入れられたと感じました。それから小さいことも後回しにせず、一つずつ解決していくようになり、その積み重ねが優勝につながったと思います」

「優勝は通過点ですが、この道を選んで間違いではなかったと自分にもう一度言い聞かせて、ここからまた2年間、頑張っていきたいと思います」

 早稲田大はこの試合、先発メンバーのうち、11名中後藤を含む8名が2、3年生だった。今大会で頂点に立った選手たちは、来年以降も黄金期を築くことができるだろうか。

【本田美登里監督の視点】

 静産大を率いていた本田美登里監督は、今大会での退任を発表している。今後の去就はまだ発表されていない。

 日本で最高位の指導者資格であるS級ライセンスを女性で初めて取得した草分けで、30年以上の指導歴を持つ。以前はなでしこリーグの岡山湯郷Belleや現WEリーグのAC長野パルセイロ・レディースでも指揮を執った。元なでしこジャパンキャプテンの宮間あやを筆頭に、個性際立つ選手たちを育てている。

本田美登里監督
本田美登里監督

 静岡では、なでしこリーグ2部の静岡SSUアスレジーナ(昨季は3位)の監督も兼任。静産大の選手たちはその指導の下、「止める」「蹴る」「運ぶ」といった基礎技術を磨きながらパスサッカーを体得してきた。

 数々のファインセーブでチームを牽引した主将のGK河合茉奈は、悔しさに目を腫らしながらも胸を張った。

「本田さんが来てから、サッカー(のスタイル)がパスサッカーにガラッと変わりました。サッカーの深さや難しさを教えてもらい、こんなにサッカーって楽しいんだ、と思えて。私たちのサッカーを(観客の)皆さんに見せるのが楽しみでした」

 本田監督は明確なスタイルを持ったチームを作り、「静岡に女子サッカーの火をつける」ことをテーマに掲げてきた。

「負けに不思議の負けなし」。だからこそ、敗戦を感傷的に語ることはない。「自信を持ってボールを動かすことがまだまだできなかった。基礎の技術が不足していました」

 キッパリした口調で敗戦を振り返った。

 一方で、2年連続準優勝という一定の成果も残した。本田監督は、社会人中心のアスレジーナの監督として2年間、選手獲得などにも携わってきた立場から、大学女子サッカーの現状を厳しく見ている。卒業後になでしこリーグやWEリーグに加入できる選手は、一握りなのだ。

「なでしこリーグのチーム(アスレジーナ)では、育てるために高卒の有力選手を獲得することがありますが、大卒選手は即戦力級でないと厳しい。最近は平均点が60点ぐらいの選手はいるけど、強烈なものを持っている選手が少なくなってきていると感じます。大学が勝つことも大事ですが、個人を成長させていかないといけない。勝ちにばかり走ってしまうと、強烈な選手が育たないのでは、とも思います」

 優秀な選手を確保することは、大学女子サッカーの強化のために生命線となる。大学の魅力の一つは学業との両立を図りながらサッカーのスキルを磨けることだ。セカンドキャリアを考える上でも、学歴は一定の重みを持つ。

 その点、文武両道を掲げ、オフザピッチの取り組みに力を入れる早稲田大や、スポーツ科学の研究などにも力を入れる筑波大(今大会は3位)は不動の人気がある。

 また、選手の成長を引き出すことができる指導者の存在も、魅力的な“看板”になる。その点、強豪校を率いる元選手たちが増えているのは頼もしい。

 そうした明確なコンセプトや強みを持った大学が増え、本田監督が期待する“強烈な選手”たちが台頭してくることを期待している。そして、インカレがプロで即戦力となる選手たちの登竜門になればと願っている。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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