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10代の育成チームがプロに挑んだ皇后杯。白熱した激戦を制し、決勝進出を決めたのは?

松原渓スポーツジャーナリスト
2試合とも、ハイレベルな技術と組織力の攻防となった

 平均年齢19歳のセレッソ大阪堺レディースと、同16.3歳と中高生が主体の日テレ・東京ヴェルディメニーナ。10代のアマチュア選手たちの快進撃は、今年の皇后杯を大きく盛り上げた。

 両チームとも、未来のスター候補が揃う育成の名門チームだ。

 1月5日に行われた準決勝では、この2チームに、WEリーグの三菱重工浦和レッズレディースと、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの分厚い壁が立ちはだかった。

 浦和と千葉にとっては、プロの意地がかかった一戦でもあった。

 結果は、両試合とも1-0のスコアでプロチームが勝利。浦和は3年連続、千葉は12大会ぶりの決勝進出となった。

 だが、僅差のスコアに象徴されるように、若い選手たちの挑戦はゲームを白熱させ、会場を沸かせた。

【浦和が示したスキルと連係力】

 C大阪堺は、これまでコンスタントに代表候補を輩出してきた。主力が移籍しても、持ち前の育成力を発揮して毎年のように新たなタレントが頭角を現してくる。

 今大会では、高い技術と息の合った守備でWEリーグ勢の壁を破ってきた。昨年、なでしこリーグでは浦和にも勝っている。最後まで足が止まらないC大阪堺の粘り強さは、浦和の選手たちもわかっていたはずだ。

 試合は両者一歩も譲らない展開に。その中で、技術と組織力の攻防を制したのは浦和だった。

 MF柴田華絵とMF安藤梢のボランチコンビがピッチ全体を俯瞰するような視野で攻守のバランスをキープ。相手のプレスを逆手に取るようにテンポよくボールを動かす。要所ではロングボールも効果的に使い、右サイドからはDF清家貴子が再三の攻撃参加でチャンスを演出。MF塩越柚歩がドリブルでアクセントをつけ、MF猶本光は得意のミドルシュートで攻撃を完結させた。

 シュート数は浦和が19対1でC大阪堺を圧倒。2、3点差がついてもおかしくない内容だったが、実際には1点が遠いゲームだった。猶本も、「ビッグチャンスを決めきれなかったことはチームに申し訳ないなと思います」と、収穫よりも反省点を強調する。

決勝点を決めた菅澤優衣香
決勝点を決めた菅澤優衣香

 待望のゴールを決めたのは、FW菅澤優衣香。66分に得た1本目のPKはC大阪堺のGK山下莉奈にストップされ、肩を落とした。だが、76分に得たPKはしっかりと決めてエースの責任を果たした。

 浦和が交代枠を一つも使わなかったことは、最後までギリギリの駆け引きが続いていたことを証明している。

 楠瀬直木監督は、「控えメンバーがそこ(交代)に見合うところまでもう少し(足りない)というところがありますし、ケガ人が多いこともあります」と厳しい台所事情を明かし、「予想以上にセレッソさんの走力が(後半も)落ちなくて、プレッシャーもきつかったです」と、相手のファイトを讃えた。

 ファイナルは、初優勝とともに天皇杯で優勝した男子の浦和レッズとのアベック優勝がかかっている。

【堅守を貫いた千葉】

 メニーナが千葉に挑んだ第2戦も、両者の良さがぶつかり合い、一瞬も目が離せないゲームだった。19時キックオフで気温は1度台まで下がったが、ピッチ上は湯気が出そうなほど白熱した。

 メニーナはWEリーグの日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織。トップチーム同様、パスの正確性やコンビネーションに優れる。加えて、若い選手特有の身軽さやスタミナも強みだ。今大会はプロのINAC神戸レオネッサや大宮アルディージャVENTUSを破って4強に進出した。

WEリーグでも活躍中の17歳・大山愛笑(中央8)を中心に長短のパスを使い分けて攻める
WEリーグでも活躍中の17歳・大山愛笑(中央8)を中心に長短のパスを使い分けて攻める

 だが、公式戦9試合負けなしと絶好調の千葉の壁は厚かった。

 前半8分、千葉が前線からのハイプレスでボールを奪い、MF鴨川実歩が豪快なシュートを突き刺した。

 その後は、メニーナの攻撃を堅いブロックでシャットアウト。ボールを支配していたのはメニーナだが、千葉は5バックでスペースを消し、ペナルティエリア内に侵入させなかった。

「プロが若いチーム相手に守備的に守り抜いた」と皮肉めいた感想も耳にしたが、筆者の見方は異なる。

 千葉は昨季から3バック(5バック)で戦っている。この試合はメニーナの強さを十分に研究した上で、自分たちのサッカーを貫いたのだ。

決勝ゴールを決めた鴨川実歩
決勝ゴールを決めた鴨川実歩

 千葉の強みは堅守だが、リーグ戦から攻撃力も右肩上がりに高まっている。堅守速攻やハイプレスからのショートカウンターを得意とし、特にクロスからの攻撃は複数の得点パターンがある。準々決勝のベレーザ戦では同じように、ボールを支配されながらも3-0で勝った。そして、この試合も最後まで追加点を狙い続けていた。

「(WEリーグでは)試合の流れで自分たちに流れを持って来られることが多いのですが、最後まで相手チームがよく頑張ったなと思います」

 千葉の猿澤真治監督は、若い挑戦者たちの強さを讃えた。実際、自分たちの戦い方を貫いて千葉を苦しめたメニーナの戦いぶりは見事で、駆け引きの要素を織り交ぜたハイテンポなパスワークは、これまでの番狂わせが偶然ではないことを証明していた。

千葉(黄色)らしいサッカーで激闘を制した
千葉(黄色)らしいサッカーで激闘を制した

 千葉の選手たちがタイムアップの瞬間に力強く拳を握ったのもうなずけるほど、メニーナは強かった。

 守備の要として千葉を牽引するDF林香奈絵は、試合後にスッキリとした表情でこう語っている。

「対戦相手が中高生主体のチームとわかっていましたが、実力をリスペクトした上で自分たちのサッカーをしようと思っていました。90分間、1分1秒も逃さず自分たちのサッカーができたと思っています」

 これで、10試合負けなし。地道に積み上げてきた自信は、 12大会ぶりとなるファイナルへの扉を開いた。

【今大会が顕在化させたもの】

 2月27日にサンガスタジアム(京都)で行われるファイナルは、どちらが勝っても初優勝となる。代表5人を要する浦和か、勢いのある千葉かーー実に楽しみな一戦だ。

 ただその一方で、決勝まで1カ月半近く空くことでコンディション面の難しさはつきまとう。特に、1月のアジアカップに5名を送り出す浦和は、全員での練習期間がほとんどないまま決勝に臨む可能性もある。

 日程に苦しんだのは、WEリーグ勢だけではない。

 メニーナは、1月4日に始まったU-18女子サッカー選手権大会と皇后杯準決勝の日程が重なった。そのため、日本サッカー協会は、特例としてU-18選手権でメニーナの選手の追加登録を許可。

 その理由として、「育成年代の出場選手に移動を含めた過大な負荷が生じることを避けるため」と説明している。

 一方で、「皇后杯準決勝にエントリーした選手は、U-18女子選手権の1、2回戦(4日と6日)には出場できない」等のルールも付記された(デイリースポーツより)。

 そのため、メニーナの坂口佳祐監督は高校生を中心とした主力を皇后杯に送り、U-18選手権1、2回戦を、U-15の中学生チームで戦った。大分トリニータレディースとの初戦はPK戦の末になんとか勝ち抜いたが、2回戦で強豪・セレッソ大阪堺ガールズ(C大阪堺の下部組織)に0-7で大敗した。

 トップチームから受け継がれたC大阪堺ガールズの強さには目を見張るが、メニーナも大会連覇がかかっていた。それだけに、大会が重なったことでベストメンバーを組めなかったことは残念だ。

 皇后杯で勝ち上がった選手たちの成長ぶりを同年代の大会でも見てみたかった。きっと、メニーナの飛躍は他のチームにとっても刺激になっていたはずだ。

 今回のことは、皇后杯で顕在化した、アマチュアとプロのシーズンが異なることによる影響とも無関係ではないと思う。裾野からトップリーグまで幅広く女子サッカーを盛り上げるためにも、来年以降の柔軟な対応に期待したい。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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