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なでしこジャパンの得点力不足に募る危機感。主力不在のオランダに勝てず…欧州2連戦の収穫はあったのか

松原渓スポーツジャーナリスト
オランダ戦に臨んだなでしこジャパン(写真提供:JFA/PR)

 悔しいが、これが今の現在地だ。

 なでしこジャパンは11月29日、オランダ・ハーグでオランダ代表と対戦し、スコアレスドローに終わった。25日のアイスランド戦から中3日で立て直しを図り、臨んだ一戦だった。池田太監督新体制の初勝利は、次の機会に期待することにしよう。

 オランダは世界ランク4位の強豪だが、この試合はアーセナルのFWビビアン・ミーデマや、バルセロナのFWリーケ・マルテンスなどの主軸が欠場。マーク・パーソンズ監督は新戦力を多く起用した。ここ数年、苦戦続きのオランダに胸を借りたいところだったが、相手はベストチームには程遠かった。

「このオランダに勝てないようじゃ、というか…勝たなければいけない相手でした」

 そう危機感を滲ませたのは、前体制に続き、新チームでもキャプテンマークを託されたDF熊谷紗希だ。池田監督体制下で海外組は今回が初合流。ドイツでプレーする熊谷もその1人。短い準備期間でチームコンセプトを理解し、チームを牽引した。

 熊谷のリーダーシップもあり、連動したハイプレスでボールを奪うシーンが増え、最終ラインも安定。代表初出場のGK田中桃子も落ち着いたプレーぶりで、ピンチらしいピンチはなかった。オランダが主力を投入してきた後半は苦しい時間帯もあったが、前半にゴールを決めることができれば勝てる内容だった。

熊谷紗希(写真提供:JFA/PR)
熊谷紗希(写真提供:JFA/PR)

 課題として浮かび上がった得点力不足を解消するためには、どうすればいいのだろうか?

 海外経験が豊富で、代表屈指の決定力を持つFW岩渕真奈は、以前から個のレベルアップの必要性を口にし続けてきた。試合後にはこう振り返っている。

「最終的には個で相手を剥(は)がせたり、個でゴールに向かうことの重要性はすごく感じます。サッカーはチームありきですけど、FWはもう少しグイグイいってもいいのかなと」

 岩渕は現在、イングランドの強豪・アーセナルでプレーしていて、以前の取材では、「世界のトップの選手たちとやれて、改めてこの歳(28歳)になってサッカーって楽しいなと感じます」と話していた。

 フォワードは、岩渕のように日常から海外選手の中でプレーすることが得点力を磨く有効な手段であることは間違いない。身長156cmの岩渕は、海外で日本人選手の小柄さがハンデにならないことを証明している。

 同じく、海外組のMF長谷川唯(ウエストハム/157cm)やMF林穂之香(AIKフットボール/157cm)も高さはないが、このオランダ戦では、一回り大きい相手に1対1で優勢に立っていた。

 林はボランチだが、個の強さを身につけるために「そういった(海外の)環境でプレーすることも一つの選択肢だと思います。でも、組織としての連係・連動と、90分間を通してしっかりやるところは日本の良さでもあるので、その融合は大事だと思います」と、実感を口にしている。

林穂之香(写真提供:JFA/PR)
林穂之香(写真提供:JFA/PR)

 アイスランド戦に比べて、その連係・連動性は向上したように見えた。 

 ワクワクしたのは、38分のシーンだ。MF宮澤ひなたが相手のペナルティエリア手前右でボールを持った際、右サイドを駆け上がったDF清水梨紗がオーバーラップして相手DFを引きつけた。さらに、2列目からMF長野風花がゴール前に飛び出す。長野が宮澤のスルーパスを受けると相手センターバックを引きつけ、マイナスに折り返した。ここに、岩渕とFW菅澤優衣香が飛び込み、完璧に崩した。わずかにパスが合わずゴールとはならなかったが、こういったコンビネーションから生まれた決定機の数は日本が上回った。

 ただ、ラストパスやシュートは相手の長い足に引っかかった。170cm台の長身選手が揃うオランダの最終ラインを突破するためには、個の力はもちろんだが、もうワンランク上の強度と精度が欲しいと感じた。

「コンビネーションや、共通のタイミングを作って突破していくところは、もっと高めていかなければいけない」と、池田太監督は語る。

 もちろん、限られた代表活動期間でコンビネーションを高めることは簡単ではないだろう。

「もっと一人ひとりが主張して、ぶつかり合いではないですが、そういったコミュニケーションも大切になると思います」

 熊谷がそう言うように、衝突を恐れず、ピッチ内でオープンに要求し合えるようになることを期待したい。

 また、国内組が多いなでしこジャパンが欧州勢に追いつくためには、WEリーグのレベルが底上げされていくことが何よりの近道となる。その点、リーグで好調の選手たちが今回の2連戦でしっかりと存在感を残していたことは頼もしい。

 左サイドバックは層が薄いポジションの一つだが、国内組ではDF宮川麻都の安定感が際立っている。オランダのスピードスター、FWファン・デ・サンデンを牽制しながら攻撃に繋げた対応力が光った。

 また、右サイドハーフでは、宮澤が持ち前のスピードを生かして数々のチャンスに絡み、抜群の存在感を放った。アイスランド戦で代表デビューしたMF成宮唯とともに、サイドのポジション争いは活性化しそうだ。また、U-20W杯優勝を導いた長野と林のダブルボランチは、一つの有力なオプションになるだろう。

宮川麻都(写真提供:JFA/PR)
宮川麻都(写真提供:JFA/PR)

 チームはこの後、W杯予選を兼ねた1月のAFC女子アジアカップに向かう。

「今までに招集していない選手も含めてチームの考え方を広げていくといいますか、選手に浸透させていく、そういった幅を広げることも考えなければいけないと考えています」

 今回の2連戦を終えて池田監督はそう語っており、アジアカップでは新たな選手も加わる可能性が高い。

 オランダ遠征の2連戦で大きな課題を持ち帰った新生なでしこジャパンは、ここから再びチーム作りを加速させていく。

 新型コロナウイルスのオミクロン株への対応で、チームは帰国後14日間の待機を求められることとなった(*)。そのため、12月に予定されていた国内合宿の予定は変更を余儀なくされている。先の見えない状況ではあるが、感染の早い収束を祈りたい。

(*)チームは帰国後、PCR検査で全員の陰性が確認されているとのこと

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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