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WEリーグで絶好調のMF成宮唯が代表デビュー。アイスランド戦でアップデートされた自身の現在地とは?

松原渓スポーツジャーナリスト
成宮唯(写真提供:JFA)

 新生なでしこジャパンの初陣となったアイスランド戦で、新たなアタッカーが代表デビューを飾った。WEリーグ・INAC神戸レオネッサのMF成宮唯(なるみや・ゆい)だ。

 154cmと小柄だが、センス溢れるパスやテクニックで相手の逆を取り、惜しみないハードワークでチームを助ける。中盤から両サイド、前線までプレーエリアは広く、特筆すべきはその運動量だ。WEリーグでは、1試合平均13km走っている。これはJリーグでも上位に入る数値だ。

 アイスランド戦は右サイドハーフで先発し、57分までプレー。試合は0-2で敗れたが、存在感は残した。

 今回の欧州遠征は、成宮にとって2017年のU-23ラマンガ国際大会以来の国際試合となる。当時、U-23代表を率いていたのが池田監督だった。もちろん、成宮自身、年代別代表となでしこジャパンでは、相手の強度やスピードが違うことはわかっていた。

「ボールを晒(さら)す持ち方は、海外の相手だとかっさらわれるので。自分の懐の深いところでボールを持つように意識していました」

 長身のアイスランド選手に対し、ボールを持つと顔を上げて相手を牽制し、複数の選択肢を持ちながら少ないタッチ数でパスを回す。ピッチの右半分の広いエリアを流動的に動き、攻撃のテンポを上げた。

 相手が密集するゴール前でボランチのMF長野風花から鋭いスルーパスを引き出した43分のシーンは、わずかに動き出しのタイミングが早くオフサイドになったが、ゴール前の駆け引きが光った。

 だが、相手の寄せの速さや予想以上に伸びてくる長い足にパスが引っかかることもあり、1点のビハインドを押し返すことができないままピッチを後にした。そして、試合後は言葉に危機感を滲ませた。

「WEリーグでは、ミスがミスにならないようになんとかできるのですが、外国人選手相手だと、そこがミスとしてはっきり出て、失点につながってしまう。一つひとつの質を上げていかないと通用しないなと感じました」

「創造性、3人目を意識した動きや前に関わる人数、アイデアが試合を通じて不足していました。特に最後の質は上げていかないと、『ゴール前までの崩しは良かったね』と言われて終わるので……。コミュニケーションを取って、みんなで同じ絵を描けるようにしていきたいです」

 準備期間2日というほぼぶっつけ本番での試合で、結果を除けばデビュー戦としての出来は悪いものではなかったように思う。ただ、成宮が見据えるのは代表に定着し、チームを勝たせること。このアイスランド戦で、そのスタートラインに立った。

アイスランド戦で代表デビューを果たした(写真提供:JFA/PR)
アイスランド戦で代表デビューを果たした(写真提供:JFA/PR)

【首位快走の原動力に】

 成宮は現在26歳だが、その経歴を考えれば、代表デビューは遅いぐらいだろう。

 中高一貫のエリート養成施設であるJFAアカデミー福島で育ち、11年のAFC U-16女子選手権(優勝)と、翌12年のU-17女子W杯(ベスト8)では、キャプテンとしてチームを牽引。U-19代表やU-23代表でも候補入りし、19年にはなでしこチャレンジ(A代表入りを目指す実力のある選手たちを発掘・強化するプロジェクト)に選出されている。

 所属チームはベガルタ仙台レディース、コノミヤスペランツァ大阪高槻、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースを経て、今季からINAC神戸に加入している。

 A代表はリーグの上位チームから選ばれることが多く、高槻や千葉では常に中心選手の一人だったものの、なかなか縁がなかった。

 だが、INACでの活躍ぶりはしっかりと結果にもつながっている。プレシーズンマッチで2ゴールを挙げると、開幕戦から全9試合に先発し、3ゴール3アシスト。ゴールの起点となったプレーも含めると、INACが記録した全16ゴール中9ゴールに絡んでいて、首位快走の原動力になっているのだ。

INAC神戸加入1年目から期待通りの活躍を見せている(左は高瀬愛実/筆者撮影)
INAC神戸加入1年目から期待通りの活躍を見せている(左は高瀬愛実/筆者撮影)

「これまでとはまったくサッカーが違う中で、スムーズに馴染めたところは自分でもびっくりしています」と話す成宮。そこには、さまざまなクラブで異なるサッカースタイルを体得してきた経験が生かされている。

「元々は走れない選手だった」という。だからこそ、中学・高校時代に人一倍走り込み、ベースとなるスタミナを培った。その上で、高槻では実戦を重ねながらさまざまなスキルに磨きをかけ、千葉では苦手としていた球際のプレーを強化し、華麗さに泥臭さを融合させた。

 90分間アグレッシブに走り続けるだけでなく、苦しい時間帯でもスプリントを繰り返せるところは成宮の強みだ。

 そして、INAC神戸では星川敬監督が掲げるポジショナルプレーを学び、世界を意識した高強度の練習を重ねている。その中で、特に進化を見せているのがポジショニングだ。10月に今季の好調の要因を聞いたとき、成宮はこう語っていた。

「星川監督からは、いいポジションにいる時は動きすぎずに止まることも必要だから、『動きすぎるな』と言われています。ボールの動きに合わせて、常にいいポジションに立つことを意識しています。オフザボールの動きの質と立ち位置は、伸びている手応えがあります」

 INACではプロになり、24時間サッカーと向き合えるようになったことも大きいだろう。「海外のトップクラスの選手たちの映像もそうですし、今までこんなに自分の映像を見たことがないと言うぐらい、客観的に見ています」と話していた。

 その努力と成長の手応えを、今回の欧州遠征で発揮しようと全力で臨んでいる。

 アイスランド戦後は、「いつもやっている感覚とは違うものをすごく感じたので、このままじゃダメだな、と強く感じました」と、自身の現在地をしっかりと受け止めた。

 なでしこジャパンは11月29日(日本時間30日)には、強豪・オランダとの戦いを控えている。日本はアイスランド戦の課題を克服し、世界トップクラスの相手とどう対峙するのか。

 成宮がピッチに立った時には、そのプレーの変化にも注目してみたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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