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女子プロサッカー「WEリーグ」開幕前夜。「世界一のリーグ価値」を創るために必要なことは?

松原渓スポーツジャーナリスト
WEリーグ開幕記者会見で全チームのキャプテンが登場

【開幕戦の見どころは?】

 今週末の9月12日(日)、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が開幕する。9月6日には、開幕に先立ってWEリーグ開幕記者会見がオンラインで行われ、出場する11チームの監督とキャプテンが意気込みを語った。

 初年度の参加チームは、以下の11チームだ。

マイナビ仙台レディース 

大宮アルディージャVENTUS

ちふれASエルフェン埼玉

ジェフユナイテッド市原・千葉レディース

日テレ・東京ヴェルディベレーザ

ノジマステラ神奈川相模原

三菱重工浦和レッズレディース

AC長野パルセイロ・レディース

アルビレックス新潟レディース

INAC神戸レオネッサ

サンフレッチェ広島レジーナ

 4月から6月にかけて行われたプレシーズンマッチでは、INAC神戸レオネッサが4試合連続無失点で唯一の4連勝を飾り、カウンター攻撃に好感触を見せた。だが、星川敬監督は、むしろプレシーズンマッチ後の進化に手応えを感じているようだ。

「プレシーズンで結果は出ていますが、内容を見れば、(運も味方につけるなど)偶然出た結果でもあります。得点に関して取れなかった部分は新しい選手が2人入って、(代表から)帰ってきた選手と新しく入ってきた選手を融合してもっと良くなっている手応えはあります」(星川監督)

 6月以降、INACは大型補強を次々に発表。日本代表歴を持ち、2014年のなでしこリーグMVPにも輝いたFW後藤三知が、浦和からスペインに渡って4年半の鍛錬を積み、今夏加入した。さらに、セレッソ大阪堺レディース(現なでしこリーグ1部)で育った17歳の新鋭、FW浜野まいかも獲得。また、スペインで2シーズンを戦って帰国したDF羽座妃粋と、シンガポール女子代表キャプテンのDFロスナニ・アズマンが加入。各ポジションの戦力バランスも整って選手層が厚くなっており、戦い方のバリエーションは増えそうだ。また、五輪代表に多くの選手を送り出していた浦和やベレーザも、全員が揃った8月以降に本格的に戦術の落とし込みをしており、プレシーズンマッチで見せたサッカーは、さらに進化している。

 WEリーグ参入でプロ選手が増え、各チームは2部練習が可能になったり、選手個々の強化や体のケアなどに充てる時間が増えた。そうした環境面の向上によってパフォーマンスが高まり、ハイレベルな試合が増えるだろう。

 とはいえ、目に見えるような変化を実感できるまでには、時間がかかるかもしれない。WEリーグは、春から秋にかけて行われるJリーグやなでしこリーグとは逆の秋春制が導入されており、寒い時期の試合が選手たちのパフォーマンスに与える影響は未知数だ。秋春制導入は、トップクラスの代表選手たちが集う欧州各国と足並みを揃えることが大きな狙いの一つで、代表の強化を後押しするが、日本では初の試み。コンディション面のマネジメントは、シーズンを重ねる中で最適解を見つけていくことになる。

 プロ化で様々な変化の兆しが見える中、リーグのトップを務める岡島喜久子チェアは、その成果が表れる時期について、「2023年のW杯、24年の五輪で、WEリーグの成果を見てほしいと考えています」と話している。

オンライン記者会見では全チームの監督も登場した
オンライン記者会見では全チームの監督も登場した

【課題の集客は…】

 プロ化によって求められるのは、競技レベルの向上だけではない。

 持続可能なリーグにしていくためには、観客を増やさなければならない。なでしこリーグ時代から、集客は女子サッカー全体の課題だ。1993年のJリーグ開幕時は、代表の盛り上がりやナビスコカップ開幕による観客増が契機となり、華やかな開幕を迎え、その熱がしばらく続いた。当時のJリーグと比べると、WEリーグはコロナ禍での開幕で、プレシーズンマッチは観客制限も重なり、盛り上がりを欠いた。そして、東京五輪では、日本はメダルに手が届かなかった。リーグは「1試合平均5,000人」の目標を掲げているが、開幕までに期待されていたような“追い風”は吹いていない。

 WEリーグは、スポーツライブストリーミングサービス「DAZN(ダゾーン)」と8年間の放映権契約を締結しており、視聴環境は整っている。だが、スタジアムに足を運んでもらうためには、戦略的にプロモーションを行っていく必要がある。

 各チームは、様々に工夫を凝らしている。これまでのチームポスターは、各選手のプロフィールを貼り付けただけのような味気ないものもあったが、WEリーグでは、選手たちが飛び出してきそうな立体感やプレー中の迫力が伝わる写真や、一方で選手たちの素顔が垣間見えるような、遊び心が感じられる写真もあって面白く、目にすれば興味を惹かれると思う。SNSでは各選手のキャリアを辿ったインタビュー動画や、選手同士の掛け合い、オフショットなどを各チームが積極的に発信しており、個々のSNSを通じた呼びかけにも熱がこもる。

 そうした中、開幕戦の目玉の一つである日テレ・東京ヴェルディベレーザと三菱重工浦和レッズレディース戦(味の素フィールド西が丘/東京都)のチケットは、入場者数の制限があるものの、販売された2,700枚が完売した。

 五輪にも出場したベレーザのMF三浦成美は、「本当は五輪でいい結果を残してWEリーグを盛大に盛り上げるのが理想でしたが、(ベスト8という)結果を受け止めて、(WEリーグ各チームが)自分たちのプレーで盛り上げていくしかないと自覚しています」と、厳しい現実を受け止めつつ、「女子のプロリーグが開幕するということで、いろいろな人に見てもらいたいです。週末が楽しみになったり、試合を見て元気になれたり、小さい子が、すごく憧れて、サッカーをやりたいと思えるようなリーグを作っていけたらと思っています」と、“初代WEリーガー”としての決意を言葉に込めた。

 取材をする時、これまでは試合内容や勝敗にフォーカスして話すことが多かった選手が、「見にきてくれた人が楽しんでくれるような試合をしたい」と、「見せる」視点で話すことも多くなり、プロになることへの意識の変化も感じる。

 岡島チェアは、リーグから各チームへのサポートについて、「選手たちの労働環境を整える、クラブに集客策を提供する、クラブに対して金銭的な配分金で還元していくことなど」としている。また、集客案として、既存の層に加えて、これまで少なかった若い女性や家族連れなどの新規層にアピールしていくこと、コロナ禍で緊急事態宣言中は県をまたいでの移動が制限されるため、地元層の関心に訴えつつ、子供たちが楽しめるようなイベントの開催なども提案している。

 だが、集客には資金も必要で、最終的な判断は各クラブに委ねられている。選手がフロントの立場で集客策を考えたり、SNSなどでアイデアを募ったりすることも。頼もしい行動力は、切実な危機感の現れでもある。代表が好成績を出し続けることも大切だが、今後はリーグ独自の発信にも期待したい。

 たとえば、新規層にアピールし、デジタルを活用したマーケティングに力を入れて集客増を実現したBリーグのやり方は、WEリーグにも参考になる点が多そうだ。

 歌手やアーティストを呼ぶイベントなどは一般的だが、Bリーグでも集客面で実績のある千葉ジェッツは、BMXのショーなど、躍動感のあるエンターテインメントを取り入れている。電光掲示板を使って、観戦初心者にも分かりやすいように、ルールを表示したり、アナウンスすることもあるようだ。ターゲットを絞り過ぎず、誘いやすいきっかけを作ることにフォーカスした施策も奏功している。BリーグはMLS(メジャーリーグサッカー)にヒントを得たそうだが、そうしたノウハウに加えて、それを実行するマンパワーの必要性も教えてくれる。今後、他競技からマーケティングに長けた優秀な人材をヘッドハンティングすることも、一つの考え方だろう。

 ハーフタイムショーは資金面の負担や、スタジアムによっての制限も考慮しなければならないが、音楽に合わせたフリースタイルのリフティングショーなどは子供たちが喜びそうだし、今はその道を極めた女性アーティストも出てきている。試合に出ていない選手たちも参加できれば盛り上がるだろう。また、ホームチームの地域性が感じられるミニイベントなども、アイデアは広がりそうだ。そうした新しいコンテンツを模索しつつ、肝心の競技で毎試合、白熱した試合を続けて地道に観客を増やしながら、イベント面のスポンサーも募っていきたい。

【「世界一のリーグ」を目指して】

 プロリーグの船出への期待は大きい反面、Jリーグ開幕時のように、外国人のビッグネームの加入の動きがほとんど見られないことは残念だ。

 春先には、リーグ側が各チームに対し、「外国籍女子選手受け入れ支援制度」と「ASEAN女子選手受け入れ支援制度」を発表した。前者は、「FIFAランキング上位13位までの加盟国の代表経験(ユースカテゴリーを含む)のある選手」など、いくつかの条件を満たす選手を獲得した場合、「1名につき320万円の支援金が出る」というもの。後者も同様で、ASEAN加盟国の選手を対象として一定の条件を満たす選手を獲得した場合、「1名につき上限300万円の支援金が出る」制度だ。

 ただし、9月9日現在、発表されている外国籍選手の加入は、6名にとどまっている。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースがフィリピンとオーストラリアから各1名、ノジマステラ神奈川相模原がドイツとナイジェリアから各1名、INAC神戸レオネッサがシンガポールから1名、ちふれASエルフェン埼玉がフィリピンから1名の加入を発表している。

 彼女たちの加入によって、スピードやパワーあふれるプレーが多くなるだろう。一方、今後の理想としては、各チームに最低一人、強豪国の代表レギュラークラスを迎え入れたい。コロナ禍で渡航制限もあり、また海外のビッグクラブと違って潤沢な資金があるわけではないだろうから、現状は難しい。だが、「お金は後からついてくるもの」と考え、各クラブの独自色、戦術面での多様性、個々のハイレベルなパフォーマンスを追求して、WEリーグが謳う「世界一のリーグ価値を」というビジョンの軸足をぶれないようにすることが大切だろう。

 日本から海外挑戦を目指す選手も増えているが、選手たちの海外挑戦は、巡り巡って国内リーグを豊かにすると思う。日本人選手が世界でプレーし、活躍することで、海外リーグで日本人選手の需要が高まる。そして、海外で成長した選手たちが、日本に戻って再び活躍するーーJリーグには、その好循環がある。それは、アンドレス・イニエスタをはじめ、ビッグネームの獲得を続けてリーグを盛り上げているヴィッセル神戸の功績もある。そして、Jリーグで活躍した選手たちが海外へと旅立っても、その背中を見てきた新しいタレントが次々に頭角を現している。

 女子サッカーの場合は、海外リーグでの日本人選手の需要が男子と同じようにあるとは言えない中で、たとえば、WEリーグと海外リーグ、あるいはWEリーグのクラブと海外のクラブが提携して、期間限定で選手トレードなどができないだろうか?

 いつか、世界のトップ選手たちと日本人選手がしのぎを削る白熱した試合を見るーー。そんな未来を描きつつ、12日のWEリーグ開幕を楽しみにしたいと思う。

開幕戦日程

(*)記事内の写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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