どのような結果が出ても、その責任をすべて背負うぐらいの、覚悟のこもった表情だった。7月27日に宮城スタジアムで行われたグループステージ最終戦のチリ戦。FW田中美南はスッキリした表情で後半からピッチに立った。そして、立ち上がりから積極的なプレーでコーナーキックを獲得。そのプレーを皮切りに、立て続けにシュートを放った。相手ボールになると前線から追い、スライディングで奪いにいく気迫を見せた。

 チームとして、狙い通りにボールを奪える場面は決して多くなかった。だが、田中の決意は固かった。

「自分たちは勝つしか前に進む道が残っていなかったので、どんなにシュートを外しても、一本決めたら後ろが守ってくれると信じてやり続けよう、と思っていました」

 チリのシュートが日本のクロスバーを叩き、あわやゴールかという大ピンチもありながら、0-0で迎えた77分にチャンスがきた。MF杉田妃和の縦パスを受けたFW岩渕真奈が、粘って相手DFとGKの間に出したボールにすかさず反応。世界最高GKの一人で、長い手足でコースを塞ぐチリの守護神、クリスティアン・エンドラーとの1対1の場面で、駆け引きする余裕を見せた。

「GKが(体を倒して)寝るかな、というのを冷静に見て浮かせました。本当に厳しい戦いでしたけど、みんなが90分集中して戦ったおかげで、最後に点が取れたと思います」

 ゴールを決めた後、田中はベンチで待つチームメートのところに飛び込んでいった。   

 2戦目のイギリス戦(●0-1)は先発したものの、相手の圧力を受けてゴール前まで行く機会が少なく、ノーゴール。試合後は、「後半に入る時に、『失点をしたくない』という意識が強すぎて、守りに入ってしまっていた」と反省点を挙げた。チリ戦ではリアクションで動くのではなく、“自分たちから仕掛ける守備”で先手を取りに行くことを掲げ、言葉通りに表現してみせた。

「初戦のカナダ戦でPKを外してしまいましたが、みんなのおかげで取り返すことができたので、感謝しています」

 カナダ戦で、MF長谷川唯とのコンビネーションから相手DFの背後に抜け出してファウルをもらい、獲得したPK。相手GKステファニー・ラベの動きをギリギリまで見極めようとしたが、ラベが最後まで動かなかったため、決断が遅くなり、ボールの勢いが失われてしまった。試合後、「自分が決めていれば勝てた試合だと思います」。田中は毅然とした態度で結果を受け止めた。

 そして、負ければ後がない大一番のチリ戦で、最高の結果を出した。

 田中は体幹が強く、足元で収めてからのターンが速い。スピードがずば抜けているわけではないが、相手最終ラインとの駆け引きからの10m、20mの背後へのスピードは国内でトップクラスだ。下部組織から長くプレーした日テレ・東京ヴェルディベレーザではゴール前でのプレーを磨き、4年連続得点女王に輝いた。だが、2019年のW杯メンバー落選をきっかけに、「来年の自分がどうありたいかを考えた時に、このままではダメだと思った」と、ベレーザからINAC神戸レオネッサに移籍。阿吽の呼吸でボールを呼び込み、ゴールを量産できたベレーザとは違い、INACで初めてプレーする選手たちと呼吸を合わせることで適応力を磨いた。プレー面では中盤まで降りてゲームを作ることやシュートレンジを広げることなど、新たな武器を手に入れた。

 そして、日本で初の女子プロサッカーリーグとなる「WEリーグ」が始まる今年、田中は2月からドイツ1部のレバークーゼンに5カ月間の期限付き移籍を決断。ドイツはアメリカに次ぐ女子サッカー大国で、代表チームはFIFAランク2位の強豪だ(東京五輪は不出場)。田中にとってはコロナ禍で日本との行き来が難しくなるリスクもあったが、「いい環境でいい相手と試合数をこなして、いい状態で五輪に向かいたかった」と、目標の舞台で活躍するためにも新たな環境に飛び込んだ。そして、ドイツで5カ月間プレーし、成長したのは、「知らない選手たちの中で、言葉がわからない中でも自分のプレーを出す、思っていることを伝えるなど、臨機応変な対応力」(田中)だ。

「(ドイツでは)ミスとか、ボールロストが日本に比べて圧倒的に多いんですが、その分切り替えが早くて、どんどんゴールに向かう。試合の展開もめちゃくちゃ速いんです。そういう縦の速さは大事だし、一番はゴールだから、そこを逃してボールを回すのは意味がないと思っています。(代表でも)その瞬間を逃しているならFWとして要求したいし、自分のアクションを見てもらえるようにしたいです」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 球際の強さや、一本のシュートを確実に決めてくる勝負強さ、与えられた時間で100パーセントを出し切るメンタリティの強さも学んだという。一方、代表合宿に招集されて帰国した際には、「日本人選手独特のうまさやタイミングやリズムがあるので、五輪に向けて、再確認しながらコンディションを上げていきたいと思います」と話していた。その後、国際親善試合で進化した自分をアピールし続けて、非公開の試合などでも結果を出したことで、田中は今大会のピッチに立っている。個人としてもチームとしても次のステップに進むために、全力を尽くすつもりだ。

 逆境にあったとき、田中は自ら試練に飛び込み、自分に足りないものを探りながら乗り越える習慣を身につけた。うまくいかないことも言語化する努力を続けたことで、「伝える力」も身についた。

 苦しい試合が続いているなでしこジャパンで、田中はチームを鼓舞できる選手の一人だろう。

 なでしこジャパンの次の相手は、今大会で絶好調の優勝候補・スウェーデン。経験値の高い選手が多いアメリカや、身体能力が高く、3カ国で得点女王に輝いたFWサマンサ・カーを擁するオーストラリアなど、強者揃いのグループを3連勝で突破してきた。

 負ければ終わりだ。ここからは1点の重みが格段に大きくなり、一つのプレーの重みも違ってくる。その緊張感の中で、田中自身がどのようなチャレンジをし、積み上げてきた努力の成果を見せるのか、期待したい。