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なでしこジャパン、グループステージ第2戦は惜敗。イギリスにあって、日本になかったもの

松原渓スポーツジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 なでしこジャパンは7月24日、東京五輪第2戦でイギリスと対戦し、0-1で敗れた。決勝トーナメント進出の可能性は、第3戦のチリ戦に持ち越されることとなった。

 試合後、取材エリアに現れた日本の選手たちは、やり場のない悔しさや、力を出し尽くした疲労感を漂わせていた。取材エリアはピッチに直結しており、両国の選手が同時に通るため、勝者と敗者のコントラストはここでも鮮明になる。日本の選手たちの脇を、無失点の2連勝で自信をみなぎらせたイギリスの選手たちが通り過ぎていった。

 今大会のイギリスは、イングランドとスコットランドとウェールズの混成チームで出場しており、22人のうち19人がFIFAランク6位のイングランド代表というメンバー構成。高倉ジャパンは、イングランドと2019年から3度対戦し、3連敗中だった。最後に対戦したのは昨年3月で、1-0で敗れている。それ以降、両国ともコロナ禍で代表活動はブランク期間があったが、この半年に限れば、日本は今年9月にスタートする「WEリーグ」のプレシーズンで、集中的に代表合宿を組むことができた。それでも、19年のフランスW杯や、昨年3月にシービリーブスカップで対戦した時と比べて実力差が縮まったようには見えなかった。

 ただし、昨年の対戦と違うのは、イギリスがこの試合でベストと思われるメンバーを組んできたことだ(昨年の試合では後半途中に交代でピッチに立ったホワイトに決勝ゴールを決められた)。その中で、日本が主導権を握る時間も確実にあった。日本は、初戦のカナダ戦ではボールの奪いどころが定まらず、課題が噴出した。

「チームとしてスイッチの入れどころを、ボランチやセンターバックがもっと発信すること」(MF中島依美)

「ボールホルダーにもう少しプレッシャーをかけにいくために全体の守備を再確認すること」(DF南萌華)

 こうした課題に対して、中2日で修正の跡は見られ、特に前半は高い位置で奪える場面が少なからずあった。相手との最終ラインはこの試合で初先発となったGK山下杏也加と、カナダ戦に続き出場したDF熊谷紗希、DF南萌華の両センターバックが、FWエレン・ホワイトに対し安定した対応で仕事をさせなかった。初戦から先発5人を入れ替えて臨んだ中、前半はフレッシュな選手たちの存在も利いていた。昨年のFIFA最優秀選手であるDFルーシー・ブロンズや、スピードのあるFWニキータ・パリスを配するイギリスの右サイドに対しては、日本は左サイドハーフのMF杉田妃和とサイドバックのMF宮川麻都は、左サイドで的確にコースを切りながら寄せ、主導権を握った。バックアップメンバーから先発に抜擢されたMF林穂之香は、中央を幅広くカバーしながら積極的な攻撃参加を見せ、13分、15分、27分と立て続けにシュートを放った。日本の右サイドは、対峙するFWローレン・ヘンプのドリブルが脅威だったが、2試合連続先発となったDF清水梨紗とMF塩越柚歩がコンビネーションで食い止めた。「初戦はもっと仕掛けられるという課題があったので、積極的なプレーを心がけました」という塩越は、持ち前のドリブルやターンで果敢に仕掛け、初先発のFW田中美南はストライカーらしい動きから、32分にペナルティエリア角からコースを狙ったシュートを放った。前半のシュート数はイギリスの5本に対し、日本は7本。カナダ戦に続き、ボールポゼッションで上回ることはできなかったが、希望を感じさせる前半だった。

林とローレン・ヘンプ
林とローレン・ヘンプ写真:ロイター/アフロ

 しかし、後半に流れは一変した。イギリスは長短のパスを交えて攻撃のリズムを変え、サイドから早いタイミングでクロスを入れられる場面が続発した。前半は積極的な守備ができていた日本は、自陣に引いてブロックを作り、押し込まれる時間が続く。

 そして74分、それまで沈黙していたエースに仕事をさせてしまう。ブロンズのクロスに、飛び出したGK山下と、クリアしようとした中島の前に入ってきたのはFWホワイト。「自分たちが疲労で開けてしまったスペースに入られてしまいました。これが世界レベルだと感じました」(山下)という動き出しで、山下より先にボールに触り、ボールはファーサイドへと吸い込まれていった。イギリスは、初戦のチリ戦でもブロンズとホワイトのホットラインで2得点している。日本は初戦のカナダ戦に続いて、最も警戒すべき選手に決められてしまった。

 ここぞという場面での勝負強さ。それは、強豪国のFWは全員持っている。だが、この試合でイギリスにあって日本にないものは、それだけではなかった。前半の緊迫した展開は日本の選手たちを消耗させたが、イギリスは後半、さらにギアを上げ、日本の守備の穴を的確に突いてきた。そこに、1年前の対戦時には体感できなかった、ベストメンバーによる力の差を見せつけられた。

 この試合でイギリスは、初戦のチリ戦からメンバー4人を入れ替えたが、その内訳はマンチェスター・シティから7人、アーセナルから3人、チェルシーから1人で、国内リーグ(FA WSL)オールスターと言っていい顔ぶれ。戦術理解度の高さや連係の成熟度は、国際経験豊富な選手が多いことに加え、日常からクラブレベルで落とし込まれているものだろう。

 これまでに何度もイングランドと対戦経験のある清水は、試合前に、「いい配置に一人ずつが立って、そこからサイドハーフがどんどん仕掛けてきたり、ボランチが顔を出して展開したり。攻撃の形を持ちながら、フィジカルを前面に押し出してくるチーム」という印象を口にしていた。

 目指す形があり、判断基準が明確で、それに慣れた選手たちが阿吽の呼吸で補完し合いながら個の強さを最大化している。そうした戦い方が徹底しているから、集中力も90分間持続するのだろう。

 日本は、「攻守にアグレッシブにプレーする」というコンセプトの下、男子チームとの練習試合などで海外勢との対戦を想定した精度や強度を高めてきた。変化する組み合わせや複数ポジションに対応することで、選手個々の対応力は磨かれ、レギュラーと控えの実力差はなくなり、チームとしての一体感は強まったように見える。だが、強豪相手の攻撃は岩渕の決定力に依存してしまい、ボールを持てない試合では個々の良さが消えてしまう。

 日本とイギリスの間には、戦術的練度に差があった。

 攻撃の核となるはずのMF長谷川唯が90分間守備に奔走せざるを得なかったことは、象徴的だった。長谷川は、試合前日のオンライン取材で、「前に人数を増やすことで、連係やサイドの突破ももちろんですが、真ん中の崩しもたくさん作れると思います。サイドハーフやサイドバックが幅を取って相手を広げながら、中に人を増やして連係で崩していくのが理想です」と、攻撃のイメージを豊かに語っていた。だが、試合後は相手に自由にクロスを上げさせてしまったことを反省点に挙げ、「攻撃に行くための守備ができませんでした」と悔やんだ。

 中2日で臨む27日のチリ戦(宮城スタジアム)で、勝てば決勝トーナメント進出が決まる。修正する時間は少ないが、カナダやイギリスと違ってボールを持てる時間は増えるだろう。その中でこのチームが目指してきた多彩な攻撃を花開かせ、連動した攻撃から複数得点で勝利し、自信を持って決勝トーナメント進出への切符を掴み取りたい。

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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