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カナダ戦で見せたプレーで引っ張る「背中」。コロナ禍の東京五輪で岩渕真奈が伝えようとしているもの

松原渓スポーツジャーナリスト
岩渕真奈(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 これまでとは一味もふた味も違う、FW岩渕真奈を見た試合だった。

 7月21日に、札幌ドームで行われた五輪初戦のカナダ戦。日本は立ち上がりの6分に先制されたが、終盤の83分に、岩渕のゴールで追いつき、1-1で引き分け勝ち点「1」を得た。

 チームを勝たせるゴールは、W杯、アジアカップ、アジア大会など、国際舞台で何度も決めてきた。だが、背番号10を背負って初めて望んだ東京五輪の初戦で、強豪相手に決めたこのゴールは、勝利と同じぐらい価値があるように思える。

 日本が終盤に同点ゴールを決めた後、カナダは2点目を狙い、スピードのある選手を生かしたカウンター攻撃は脅威だった。

 前半から前線で厳しいマークに遭いながらも奮闘していた岩渕はその時間帯、遠目に見ても肩で息をしているのがわかった。それでも、自分よりも一回り以上大きく、速い相手を、プレーが切れるまで追い続けた。タイムアップの笛が鳴った後、膝に手をついた岩渕は、そのまま倒れてしまいそうに見えた。

 2012年のロンドン五輪で、背番号10を背負ってなでしこジャパンを牽引し、銀メダルを獲得した澤穂希さんは、カナダ戦の岩渕のプレーについてこう語った。

「チームが苦しい時に結果を残すのが10番としての役割だと思うので、岩渕選手を褒めてあげたいです。私は言葉でうまく伝えられないけど、プレーでチームを引っ張るのが自分の役割でした。岩渕選手もそういう選手だと思います。苦しくても残り少ない時間帯で決め切るところに、彼女の成長をすごく感じました」

 カナダ戦の試合後、会見場に現れた岩渕の表情には疲労の跡があったが、記者の質問に対して、チームのポジティブな面を言葉にした。

「自分だけではなく、(熊谷)紗希を中心にいろんな選手が声をかけてピッチで盛り上げてくれていました。無観客は寂しいですが、その分ベンチからのパワーを感じました。できる限りの力をみんなが出し切った試合だったと思います」

「ゴールしたのは自分でしたが、全員の気持ちが乗ったゴールだったと思います」

 今年28歳を迎えた岩渕にとって、東京五輪はロンドン五輪に続く2度目の五輪となる。ただし、これまでのキャリアではケガが多く、世界大会にケガを抱えずに臨んだことがなかった。だからこそ、6月末の千葉合宿時には、今大会に向けて心身の状態が「すごくいいです!」と、万全の状態で臨めることへの喜びを口にしていた。そして、東京五輪に出場する意義についてこう語っていた。

「競技のくくりだけでなく、スポーツの価値が問われる大会なので、自分たちがサッカーをできていることに感謝しながら、自分たちの(五輪アスリートとしての)立ち位置を認めてもらうように頑張らなければいけないと思っています。(勝敗だけでなく、そういうことも含めた)いろいろな要素が、今大会にはあると感じています」

 コロナ禍、酷暑、厳しい世論。2年前には想像もできなかった環境下でスタートした東京五輪で、アスリートたちは、プレーできることへの感謝を、それぞれの言葉やプレーで表現しようとしている。

 岩渕がカナダ戦で見せた全身全霊のプレーには、そうしたメッセージも込められているような気がした。

 中2日で臨む7月24日の相手は強豪・イギリス(札幌ドーム、19:30キックオフ)。岩渕の存在が鍵になることは間違いないが、疲労の回復具合によって、フル出場が厳しい場合も考えられる。だが、ピッチに立った時には、岩渕が見せる輝きとプレーから発するメッセージを、しっかりと受け取りたい。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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