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なでしこジャパン、五輪初戦の相手はカナダ。逆境での“反発力”が試される一戦に

松原渓スポーツジャーナリスト
初戦、カナダ戦に臨むなでしこジャパン(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 なでしこジャパンは、7月23日の東京五輪開幕に先立ち、21日に札幌ドームでカナダとグループステージ初戦を戦う。16日間で最大6試合を戦う熱戦の日々が、いよいよ幕を開ける。

 札幌市内で行われた前日練習には全員が参加し、冒頭15分以外は非公開に。MF中島依美は、「個人個人が緊張感を持っていて、その中でもいい雰囲気でやれています」と語り、FW岩渕真奈は、「明日の試合を勝つか負けるかによって自分たちの首を絞めるか、その先を見据えられるかがある(決まる)ので、強敵相手ですけれど、自分たちが持っているものすべてぶつけて、勝って良いスタートを切りたいと思います」と、明日の初戦を見据えた。

 カナダは、2012年のロンドン五輪と16年のリオデジャネイロ五輪で2大会連続銅メダルを獲得しており、FIFAランキングは日本の10位に対して8位。女子サッカー大国のアメリカと地理的にも近く、アメリカの女子プロサッカーリーグ(NWSL)や大学でプレーする選手が過半数を占めている。その一人であるFWクリスティーヌ・シンクレアは、代表キャップ数が「299」、ゴール数は「186」と、男女合わせて代表チームでの歴代最高記録を更新し続けているレジェンドだ。W杯5大会に出場し、五輪は今回が4大会目。日本戦で出場すれば、代表キャップ数が「300」になり、女子サッカーの歴史にまた大きな足跡を刻むことになる。

クリスティーヌ・シンクレア(左)
クリスティーヌ・シンクレア(左)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 日本は19年10月の国際親善試合でIAIスタジアム日本平(静岡県)にカナダを迎え、4-0で快勝した(非公開の2試合目は0-0)。W杯の3カ月後に行われたこの試合は、高倉ジャパンにとってターニングポイントだった。チームの軸が固まった中で連係が向上し、流れの中から鮮やかに4ゴールを決めた。

 日本もカナダも、当時の試合に先発したメンバーが全員、今大会もメンバー入りしている。ただし、カナダは2020年10月に監督が交代し、現在は同国やイングランド代表で年代別代表やA代表のアシスタントコーチを歴任してきたベヴ・プリーストマン監督がチームを率いる。日本は同監督が就任して以降は初対戦となる。

 カナダでは女子サッカーが人気スポーツで、競技人口が多く、15年のカナダW杯が、女子W杯の史上最多観客数(135万3506人)を記録したことも記憶に新しい。また、5人に1人を移民が占めると言われる移民国家で、選手のバックグラウンドも多様だ。アメリカやジャマイカ、ドミニカ共和国、香港などにルーツを持つ選手がいて、体格は日本と比べても一回り大きく、高さやパワー、一瞬のスピードは脅威だ。

 最終ラインでキーになるのが、オリンピック・リヨン(フランス)で国内リーグ3回、チャンピオンズリーグ4回のタイトルを獲得したセンターバックのDFカデイシャ・ブキャナン。その他、OLレイン(アメリカ)でFW籾木結花のチームメートでもあり、中盤でゲームを作るMFクイン、前線は直近のオランダ戦で2ゴールを決めたFWジャニーヌ・ベッキーや、俊敏なターンで攻撃の起点となるFWニシェル・プリンス、粘り強い守備が印象的なFWディアン・ローズなどが、シンクレアの脇を固める。以前は3バックも使っていたが、最近の試合では4-3-3や4-2-3-1の布陣で戦うことが多い。

 カナダは今年2月のシービリーブスカップでアメリカに0-1で敗れたが、世界女王に対して互角の戦いを見せ、サイドのスピードを生かした攻撃でチャンスも作っていた。その後、4月にイングランドに2-0で勝ち、6月にはブラジルに0-0で引き分けるなど、強豪相手に結果を残している。今大会で来日後の7月14日には、世界ランク4位のオランダと練習試合をして3-3と引き分けており、着実に調子を上げてきているようだ。

 平均年齢は、24.6歳の日本に対し、カナダは27歳。日本は16年のリオデジャネイロ五輪に出場しておらず、五輪経験者はDF熊谷紗希とFW岩渕真奈の2人だけだが、カナダは22人中15人がリオ五輪での銅メダルを経験しており、2大会以上経験している選手は4人いる。世代交代の過渡期ではあるものの、そうした国際舞台での実績を考えると、ホスト国の優位性を加味しても、日本がチャレンジャーの立場であることに変わりはない。

カナダは多様なバックグラウンドを持つ選手たちがいる
カナダは多様なバックグラウンドを持つ選手たちがいる写真:ロイター/アフロ

 ただし、技術とスタミナでは日本にアドバンテージがある。カナダは前半に勝負を仕掛けてくるかもしれないが、数的優位を作ってボール保持率を上げながら守備の時間を減らし、限られた決定機をしっかりと生かしたい。前半を無失点で終えることができれば、後半、勝機は必ず巡ってくる。 

 だが、そう簡単に勝たせてくれるはずはない。高倉麻子監督は「うまく行かないときに何をするか、どう考えるかで真価が問われる」と強調する。

 試合は無観客で、相手と自分たちの声だけが響き渡る研ぎ澄まされた緊張感の中で戦う。その中で困難に直面した際に、どう解決策を見出していくのか。逆境で試される"反発力"――なでしこが脈々と受け継いできたその底力を示したい。熊谷、岩渕を筆頭に、チームが苦しい時に、声やプレーでチームを導く選手は多ければ多いほどいい。

 強豪国が待ち構える決勝トーナメントに向けて、この初戦を勝ちきり、弾みをつけることができるだろうか。21日19:30、運命のキックオフの笛が鳴る。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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