【プレシーズンマッチで示した可能性】

 今年9月に開幕する日本女子プロサッカー「WEリーグ」は、今季の日程を発表した。

 4月から行われているプレシーズンマッチでは、全4試合を消化したチームの中で唯一、INAC神戸レオネッサが無傷の4連勝を飾った。次いで3勝1敗のアルビレックス新潟レディース、2勝2分のマイナビ仙台レディース、2勝1分1敗のサンフレッチェ広島レジーナが続く。いずれも新監督の下で補強の成果が表れており、9月からのリーグ開幕に期待を持たせる内容だった。

 多くの選手がプロになってプレー環境が向上し、ほとんどの選手がアマチュアだった昨年までと比べると、リーグ全体のレベルアップも感じられる。

 プレシーズンマッチの大きなトピックの一つは、新規参入チームの広島が、躍動感あふれるサッカーを見せていたことだ。広島は様々なチームから選手を集め、文字通り「ゼロからのチーム作り」を進めてきた。にもかかわらず、始動から約4カ月で、実績のある強豪チームに勝るとも劣らない完成度の高さを示した。

 初戦は、同じ新規参入チームの大宮アルディージャVENTUSを1-0で下し、第2戦は、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに2-0で連勝を飾った。第3戦は、昨季なでしこリーグ女王の浦和レッズレディースと2-2のドロー。そして、6月5日にホームの広島広域公園第一球技場で行われた最終戦では、昨季2位のINACに0-1で敗れはしたものの、最後まで拮抗した熱戦を演じた。

 INACには代表候補が多く、ボールを持たれる時間帯も多かった。だが、広島は粘り強い守備を見せ、ピッチを広く使ってしっかりとボールを動かし、得意のサイド攻撃からチャンスを作り出している。4-3-3の中盤から前線にはスピードや技術のある選手が揃っており、両サイドのスピードスター、FW中嶋淑乃とMF立花葉が相手最終ラインの裏を虎視眈々と狙った。

 前半17分のビッグチャンスは、狙いどおりのショートカウンターから生まれた。相手陣内の右サイドで立花が奪うと、最後は中央でフリーになったFW上野真実がペナルティエリア内で強烈なシュートを放つ。しかし、これをINACのGK山下杏也加が右手一本で止めるビッグセーブ。広島のGK木稲瑠那も好パフォーマンスを見せていたが、64分、INACのMF成宮唯の至近距離のシュートを木稲が弾いたボールがそのままゴールに吸い込まれ0-1。終盤は交代で入ったMF川島はるなやFW谷口木乃実らがチャンスを作ったものの、全試合無失点の堅守を誇るINACの最終ラインを崩すことができず、初の敗戦となった。

 広島の中村伸監督が強調してきた、「攻撃でも守備でも、自分たちが主導権を握る」ことは、4試合を通じて表現されていた。4試合で決めた5得点は、すべて流れの中から崩した形。苦しい時間帯や重要な局面には、W杯優勝経験を持つボランチのMF近賀ゆかりやディフェンスリーダーのDF中村楓が声やプレーでチームを鼓舞する。また、各ポジションに異なる個性が控えており、交代選手の活躍も光った。

年代別も含めて、代表経験のある選手が過半数を占める(中央は近賀ゆかり)
年代別も含めて、代表経験のある選手が過半数を占める(中央は近賀ゆかり)写真:森田直樹/アフロスポーツ

 選手を適材適所で生かすことができているのは、バランスの良い選手獲得、サッカーの明確なビジョンの下、試合を重ねて積み上げているものが大きいのだろう。プレシーズンマッチ以外にも、他カテゴリーの女子チームや、地元の男子高校、サンフレッチェ広島のジュニアユースなどと練習試合を重ねてきた。攻守の強度と質を上げるために、フィジカルやスピードのある男子チームとの練習試合は効果的だ。プレシーズンマッチ最終戦の後に、中村監督はここまでの手応えをこう語っている。

「(サッカーは)相手があってのことなので、『相手のどこにスペースがあって、何をされたら嫌なのかを感じながらプレーしていこう』『判断をしてすり合わせていこう』『やれることを少しずつ増やしていこう』と選手と話しながら取り組んできました。そういった部分で、表現できる数が少しずつ増えてきたと思います」

 このまま順調に積み上げていくことができれば、9月からのWEリーグ本戦でも旋風を巻き起こすかもしれない。

【左サイドバックのキープレーヤー】

 プレシーズンマッチで存在感が際立っていた一人が、4試合にフル出場したDF木﨑あおいだ。 

 涼しげな表情で相手の逆を取ったかと思えば、大胆にドリブルで中央を切り裂いていくこともある。

 木﨑は現在23歳だが、メリハリを利かせたプレーからは職人のような雰囲気が漂う。身長は161cmと、一見小柄で細身だが、そうしたフィジカル的な要素を補ってあまりある基礎技術の高さと、インテリジェンスに裏打ちされたプレーに魅力がある。中村監督は、「状況判断や質はもっと上げていってほしいですが、ここまではよく(攻撃の)起点になってくれています」と、木﨑のプレーを評価する。

 プレシーズンマッチでは、左足のフィードから決定的なチャンスを演出する場面が多く、アシストも記録した。利き足は右だが、左足からも精度の高いクロスや決定的なラストパスを供給できる。ボールタッチが細かく、両足のインサイドとアウトサイドを使ったドリブルやパスは、相手に的を絞らせない。そして、状況に応じた引き出しが多彩だ。

 筆者としては、彼女の最大の魅力は、“目立たないファインプレーが多い“ことだと思っている。

 たとえば、浦和戦で2-1と逆転され、相手のペースに引きずり込まれそうになっていた時間帯に見せた一連のプレーは印象的だった。浦和のアタッカー陣が広島の左サイドに複数でプレッシャーを仕掛けた際、木﨑はリスクの低いタッチライン際にドリブルしながら、小さくフェイントを入れて前線に蹴り出す素振りを見せた。それによって、ブロックしようと飛び込んだ相手を軽やかにかわし、フリーの味方にパスを送っている。その直後、再び相手のプレッシャーがかかった中でバックパスを受けると、今度はダイレクトで複数の相手選手の頭上を越すフィードを送った。これがピッチ中央のFW増矢理花の足元にぴたりと収まり、そこから一気にカウンターへと繋げている。代表クラスの選手の厳しいプレッシャーに対しても、予測力とテクニックが光った。

「サイドバックは、ボールを受ける時のポジショニングが一番大事だと感じています。自分が相手のプレッシャーを受ければ、ボランチやウイングが空くこともあるので、試合中はいつも、『相手のどのポジションに自分をマークさせるか』、『自分が相手のプレッシャーをどのぐらい引き受けるか』ということを考えています。クロスでアシストしたり、ゴールに直結するプレーにも喜びを感じますが、地味なプレーでも、左サイドに相手を集めてから、逆サイドのスペースに大きく展開して局面を打開したり、味方とのワンツーで相手の逆をとってかわしたりするプレーは楽しいですし、上手くいくと『よし!』と思いますね」

 ピッチの中央でも落ち着いたプレーができるのは、360度の視野で試合をコントロールするボランチ出身の強みもある。木﨑は浦和レッズレディースユースで育ち、U-19、U-20の代表候補にも入っていた。2016年にトップチームに昇格後、17年にサイドバックにコンバートされている。

 浦和時代は、「終盤になって疲れてキツくなるとプレーが雑になったり、1試合を通して気持ちにムラがあった」という。負けん気の強さや勝負へのこだわりは木﨑の個性でもあったが、パフォーマンスが安定しないことは課題だった。転機は、その後に訪れる。

 2019年、ユース時代から7年プレーした浦和から、地元・飯能のちふれASエルフェン埼玉(当時なでしこリーグ2部)に移籍。エルフェンでは、男子代表選手やJリーガーなど、数多くの逸材を育てた菅澤大我監督(現・FC町田ゼルビアアカデミーダイレクター)の下で、2シーズンをレギュラーとして戦い、プレーの幅を広げた。菅澤監督は、試合中にシステムを複数使い分けて戦い方を変化させる難易度の高いサッカーを目指し、完成度を高めるのには時間がかかった。だが、様々な戦術を学ぶ過程で、選手個々が「楽しみながら勝つ」感覚を身につけることも目指していた。菅澤監督がサイドバックに求めた資質は、「絶対的な技術を持っている、数的優位を作れる、ラストパスが出せる、シュートを決められる、守備能力が高い」の5条件。木﨑はこれらを満たし、2シーズンで様々なスキルを体得している。

 結果的に、2シーズンともリーグ2部優勝にあと一歩届かなかった。だが、内容面ではどのような相手に対してもボールを支配し、木﨑は左サイドで攻撃の起点となっていた。

 そして、プレーの進化はメンタル面の成長も促した。エルフェンに移籍した19年の終わりに、菅澤監督はこう語っている。

「彼女は感情が球際に出るし、プレーにも出やすい。うまく出るときは面白いのですが、悪いときは一発屋みたいになってしまう。でも、若いから大きな間違いをしていいんです。攻撃的な側面も必要で、ぎゅっと教育しすぎてしまうと、彼女の良さがどこかにいってしまいますから」

 失敗を繰り返しながら、だが良さを消すことなく、木﨑はその個性をコントロールする術を身につけていった。

「菅澤監督に出会って気持ちのコントロールができるようになり、プレーでも強くいくところと冷静になる部分が使い分けられるようになったと思います」

 今は飄々とプレーしているように見えることもあるが、その内側には、勝利を求める熱い炎が燃えているのだ。

 今季、エルフェンもWEリーグに参入したが、木﨑は広島からオファーをもらい、一期生として挑戦する道を選んだ。

「2年後、3年後に自分が成長している姿を考えた時に、新しい環境で挑戦してみたいなと思ったんです」

 ゼロから作り上げる広島の目指すサッカーが、自身のビジョンと重なった。

 アマチュアのなでしこリーグ2部からプロリーグへと一気にステップアップした。だが、獲得してきたスキルは、高いレベルでもしっかりと発揮できている。

「プレッシャーの強度は2部でプレーしていた頃に比べると高くなっていますが、どうしたらこの相手を剥(は)がせるんだろう?と考えながら、トライすることを楽しんでいます」

 理想のサイドバック像を聞くと、マンチェスターシティの左サイドバック、オレクサンドル・ジンチェンコを挙げた。MF出身で、高い技術とインテリジェンスや予測で攻撃に関わっていくプレーなど、木﨑が目指しているところがよくわかる。

「ジンチェンコ選手は守備も安定しているし、テクニックがあって、ゲームメイクもチャンスメイクもできる。見ていて楽しいプレーだなと感じますね。ああいうゲームメイクができる選手になれたらいいなと思っています」

 そう言って、大きな瞳を輝かせた。

【WEリーグ開幕へ、勝負の3カ月】

 始動から4カ月。木﨑は、チームがスピード感を持って成長している要因として、コミュニケーションと中村監督のチーム作りを挙げている。

「ピッチ内外で選手同士がサッカーの話をよくしますし、プライベートも含めて仲が良く、よくコミュニケーションを取るチームだなと感じています。最初はコンビネーションが合わない部分も多かったのですが、中村監督の目指すサッカーが明確ではっきりしているので、全員で一つの目標に向かうことができているのは大きいですね。球際で粘り強くいくことや、ゴール前で体を張ることは特に強調されていて、試合でも表現できるようになってきました」

中村伸監督
中村伸監督写真:森田直樹/アフロスポーツ

 INAC戦はメインスタンドの一部の座席が完売し、1,573人の観客が入った。プレシーズンマッチは、緊急事態宣言が出ている県や無観客で開催された試合もあるため、単純に比較はできないが、最高は大宮の2,856人だった。集客は今後のリーグ全体の課題だが、広島はリーグでも上位の人気チームになるだろう。地元報道陣の多さも印象的で、Jリーグやプロ野球、Bリーグなど、各競技で国内トップリーグを戦うチームを持ち、スポーツ観戦文化が成熟した県の強みも感じられる。

 この後は、束の間のオフを挟んで、プレシーズンマッチで得た収穫と課題を、9月のリーグ開幕に向けてチーム作りに落とし込んでいく。木﨑自身は、1対1の対応や、体づくりも含めて守備面のさらなるレベルアップを目指している。

「プレシーズンマッチでは、成果もありましたが、課題の方が多かったと感じています。それは一日一日、練習から全員で積み上げていくものだと思うし、自分自身は守備の1対1やパスの精度も課題です。すべてにおいてレベルアップしていかないと、まだまだ優勝には厳しい位置にいると4試合を通じて感じたので、開幕までの残り3カ月を大事に過ごしていきたいです」

 9月12日に予定されている開幕戦の相手は、ちふれASエルフェン埼玉(熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)だ。

 プレシーズンマッチで大きな可能性を感じさせた広島は、魅せながらも「勝てるチーム」を目指し、3カ月間で更なるレベルアップを図る。

 サイドバックに転向して5年目。平坦な道ではなかったが、技と心を磨き続けてきた技巧派サイドバックは、新天地でプロのキャリアを順調に歩み始めた。

※表記のない写真は筆者撮影