昨季国内リーグ女王・浦和レッズレディースが継続路線で臨むWEリーグ。アカデミー強化方針も明らかに

左から島田芽依、森総監督、福田史織、楠瀬監督、河合野乃(写真提供=浦和レッズ)

【継続路線へ】

 9月に開幕を迎えるWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)。初代優勝候補の一角と目されるのが、昨季なでしこリーグ女王の浦和レッズレディースだ。1992年のJリーグ創設時に加盟した「オリジナル10」の男子トップチームに続き、女子もWEリーグ「オリジナル11」に名を連ねており、今後の女子サッカー界を盛り上げるビッグクラブへと躍進が期待されるチームの一つだ。

 昨季、浦和は2014年以来6季ぶりに国内リーグ女王に輝いた。前線からのアグレッシブな守備と、流動性に富んだ攻撃でボールを支配。2位以下に9差をつけての文句なしの優勝だった。それは、19年から指揮を執る森栄次監督の下で、継続してスタイルに磨きをかけてきた成果でもある。

 中盤は、MF柴田華絵を中心にテクニックと機動力のある選手たちが揃い、前線では、ポストプレーに長け、決定力のあるFW菅澤優衣香を軸に多彩な攻撃を見せた。170cm前後の長身選手が多く、全得点の4割近くを占めるセットプレーも強みだ。その攻撃の土台となるのが連動した守備で、失点数は一昨年に続きリーグ最少タイ。攻守の切り替えが速く、相手のカウンター攻撃に対しては対人に強いDF長船加奈とDF南萌華のセンターバックコンビが強さを見せ、GK池田咲紀子は昨季、最も広いスペースをカバーしたGKだった。

 観客数は1試合平均1,548名でリーグ1位。コロナ禍で制限がある中でも、多くのサポーターが浦和駒場スタジアムに駆けつけ、チームに声援を送った。

 一方、年末の皇后杯では、日テレ・東京ヴェルディベレーザに3-4で敗れ、2冠は叶わず。悔しさの中から得た課題を糧に、昨季のサッカーにさらに磨きをかけ、WEリーグ初代女王を目指す。

 オフには4名がチームを離れ、新たに3名が加わった。DF乗松瑠華とFW大熊良奈が新規参入チームの大宮アルディージャVENTUSに、ユース出身のMF加藤千佳が、ちふれASエルフェン埼玉に移籍し、同ユース出身のFW小嶋星良が引退を発表した。新加入選手は、ユースから昇格したGK福田史織、FW島田芽依、DF河合野乃子の3名で、登録メンバー25人中15人がユース出身となる。WEリーグ初年度は各チームの選手が大きく動いたが、浦和はレギュラー全員が契約を更新しており、チームの結束の堅さが窺える。

(写真:keimatsubara)
(写真:keimatsubara)

【森監督は「総監督」に】

 森栄次監督は、今季は「総監督」として、ユースやジュニアユースも含めたチーム全体を統括する立場になる。女子トップチームの新監督には、昨年まで浦和の女子ユース監督だった楠瀬直木監督が迎えられた。

 WEリーグでは、監督として指揮を執るための要件として、JFAが定める規定でS級(S級相当)ライセンス、もしくは同資格を取得中の女性指導者、または、女性指導者を対象としたJFA・A-Pro(Associate-Proライセンス)の資格を持つ者でなければならない、とされている。

 森監督は、2015年から17年までベレーザで3連覇、浦和では就任初年度にリーグと皇后杯で2位、2年目で優勝と揺るぎない実績を持つが、A級ライセンスのため、WEリーグでは監督という立場では指揮を執ることができないのだ(*1)。女子サッカーで指導歴を持ち、なでしこリーグで優れた実績を残した男性監督は貴重であり、特例を期待する声もあったが、実現はしなかった(*2)。

 森監督が総監督になったのは、「(アカデミーも含めた)クラブ全体を強化ほしい」というクラブ側の希望でもあるという。東京ヴェルディやベレーザの下部組織で実績があるため、浦和でもアカデミー強化の手腕に期待がかかる。

「外から(優秀な選手を)呼ぶ作業も大事ですが、それだけに頼るのではなくて、育成組織から魅力ある選手を上げていく。トップチームに入りやすい環境をもっと強化できればなと思います」

 2月9日の新加入選手記者会見でそう語った森監督は、女子トップチームについてはこれまでのスタイルを継続しつつ、楠瀬新監督の視点も生かしたチーム作りを進める方針を明かした。試合では森総監督もベンチ入りし、「選手やメンバー決定、選手交代などは、今までのスタイルや形を大きく崩さずに2人で話し合いながら、新しく『こういうことを取り入れてみたら?』ということがあれば、トライしていっても面白いかなと思っています」と、二頭体制で強化を進めていくという。

(*1)なでしこリーグはS級に加え、A級を持つ監督も指揮することができる。WEリーグに参加するチームでは、昨季なでしこリーグで指揮を執った日テレ・東京ヴェルディベレーザの永田雅人監督、アルビレックス新潟レディースの奥山達之監督、AC長野パルセイロ・レディースの佐野佑樹監督も同じくA級ライセンスである。ベレーザの永田氏と長野の佐野氏は今季、ヘッドコーチとして引き続きチームを指導することになり、新潟の奥山氏はGMとしてチームをサポートすることになった。

(*2)S級取得には高いハードルがあり、年間で最大20名しか受けられない定員に入るための選考に加え、受講者は年間を通して、海外と国内での実地研修を含む長期間の講習を受ける必要があることから、現役の監督にとっては基本的にハードルが高いものとなっている。男性のS級取得者が500名以上いるのに対し、女性のS級取得者は8名と少ないことから、JFAとWEリーグでは女性指導者の育成を推進している。

【チームの底上げ】

 楠瀬直木監督は、東京ヴェルディや町田ゼルビアでアカデミーに携わり、女子ではU-17日本女子代表や日体大FIELDSなどで監督を歴任した。森総監督とは読売サッカークラブ(現読売ヴェルディ)でプレーした現役時代からの30年来の先輩・後輩の仲で、サッカー観も近く、昨年は女子ユースでも共通点の多いサッカーを実践してきたという。

 今季は女子トップチームで、「これまでやってきたことを、より一層精度を上げる、ミスを減らす、強度を上げるということを繰り返していくことが大事だと思います」と、攻守に磨きをかけていく方針だ。

 一方、さらにプラスしていきたい部分として、楠瀬監督は選手層を厚くしたい狙いを語っている。

「今年は試合数が増えると思いますし、五輪もあるので、選手全員がフル稼働することになると思います。誰が出ても同じ水準を保てるようにしなければいけない。そういう点では、WEリーグが始まるまでの半年間に、若手選手や二番手(サブ)だった選手たちをかなりトレーニングしていかなければいけないと思っています。周りのチームからは研究されてくると思うので、新戦力が活躍できるようにしていければ、新たなレッズのスタイルができていくのではないかなと思います」

 昨季はシーズンを通して先発メンバーの顔ぶれが変わることはなく、コロナ禍でカップ戦がなくなったために、出場機会がほとんど得られない選手もいた。浦和は代表選手が多く、予定されていた代表活動の多くが中止になったことで主力が抜けることが少なかったが、今季は3月から7月にかけて、五輪に向けた合宿が多くなる。9月のWEリーグ開幕までの期間はサブの選手も含めた連係構築のチャンスであり、そこで培った選手層の厚さが、シーズンを乗り切る重要なポイントとなる。

 そうした点で、リーグと代表で揺るぎないキャリアを刻んできたFW安藤梢の背中は、若い選手たちに大きな影響を与えそうだ。安藤は、一昨年まで先発していたが、昨年は途中出場が多かった。それでも、ピッチに立てば必ずといっていいほど流れを引き寄せ、優勝の行方を左右する重要な試合でゴールを決め、日独通算350試合の金字塔も達成した。

 優勝を決めた試合の後に、「強いチームは戦える集団だと思います。球際の強さは自分たちの今シーズンの強さを支えていたと思います」と語った言葉は印象的だった。その強さや戦う気持ちを若いチームに植え付けたのは、他でもない彼女自身だったのではないだろうか。

安藤梢(写真:keimatsubara)
安藤梢(写真:keimatsubara)

 森総監督は、相手に研究される中で勝ち続けるためには「サブの選手がすごく大事だと思っています」と強調する。また、競争力を活性化していくために、下部組織から若い選手を積極的に上げたり、各選手を複数のポジションで起用することを挙げた。控えにはFW高橋はなやMF遠藤優、DF長嶋玲奈をはじめ、ユース出身、年代別代表経験者が顔を揃えており、レギュラー陣を脅かす存在になれば、浦和の強さはさらに揺るぎないものになるだろう。

【WEリーグの顔に】

 キャプテンは柴田華絵、副キャプテンは南萌華が昨年に続き、務める。ユース出身の南は、19歳だった2018年からスタメンに定着。対人の強さを武器に、長船加奈と共に浦和の堅守を支えてきた。18年のU-20女子W杯で主将として世界一になった後、A代表に定着し、19年夏のフランス女子W杯にも出場している。そうした経験に裏打ちされたプレー面の成長もさることながら、リーダーシップの面でも進化を見せている。

 メンタルが安定していて、ミスをしても引きずらず、切り替えがうまい。メディア対応も堂々としており、試合内容やチームについて語る言葉の選び方は素早く、適切で、端々に責任感の強さを感じさせる。

レギュラー陣では最年少の22歳だが、昨年末の皇后杯では、ケガで出られない柴田の代わりにキャプテンマークを巻いた。皇后杯決勝の後には、こんな言葉を残している。

「若いからといって、チームに紛れているだけではチームも強くならないし、私自身、センターバックで全体が見えるポジションですから。個人としてもチームの中心で戦っていかなければ、という自覚は強くなりましたし、皇后杯はキャプテンをたくさんやらせていただける時間が多かった分、なおさらチームを勝たせたい気持ちが強くなりました。この気持ちを忘れずに、プレーとリーダーシップの部分でもさらに成長していけたら良いなと思います」

南萌華(写真:keimatsubara)
南萌華(写真:keimatsubara)

 昨季はコロナ禍でイレギュラーなシーズンだったが、メリハリのある時間の使い方を考えるきっかけにもなったようだ。これからはプロになるため、さらに結果が重要になることも自覚している。キックの精度向上やバリエーションを増やすことを目指しつつ、体づくりにも力を入れるという。

「他のチームが研究してくることは間違いないと思うので、チームとしてはそれ(相手の狙い)を逆手にとって、回避しながら楽しみたいと思っています。昨シーズンも掲げていた最小失点をまたチーム全員で確認していきながら、失点の数をもっと減らしていきたいです」

 南同様に、昨年のベストイレブンで、A代表に初招集された塩越柚歩もWEリーグの「顔」になる選手の一人だろう。

 塩越は、11日の練習後のオンライン取材で、「去年試合に出ていたから今年も出られるとは思っていないです」と気を引き締め、個人の目標としてはよりゴールに絡むプレーを増やすことを挙げた。

塩越柚歩(写真:keimatsubara)
塩越柚歩(写真:keimatsubara)

 WEリーグ発足は、プロになることを目指していた選手や、これから目標とする子供たちにとっては大きなチャンスである。サッカーを始めた小学生の頃から、「プロ選手になることが夢だった」という塩越も、この機会を成長に繋げ、「子供たちに憧れてもらえるような存在になりたい」という強い想いを持っている。

「今までは昼は仕事をして夜にトレーニングをするサイクルでしたが、これからは他(サッカー以外)の仕事がなくなるので大きく変わります。自分が成長するためにかけられる時間が増えて、サッカーに対する責任感も増えると思います」

 いつかは、「海外のビッグクラブからオファーがもらえるような選手になれるように」と、高い理想を描く。塩越をはじめとした、“初代WEリーガー”のサクセスストーリーが、未来のなでしこ選手たちに与える影響は大きいと思う。たくさんの子供たちが浦和駒場スタジアムのスタンドを埋める光景がみられる日が待ち遠しい。