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充実補強でWEリーグ優勝を目指す。マリーゼ、ベガルタの歴史を繋ぐマイナビ仙台レディースのリスタート

松原渓スポーツジャーナリスト
6名の新加入選手を迎えた(写真:マイナビ仙台提供)

【震災から10年目の節目で】

 宮城県仙台市を本拠地とするマイナビ仙台レディース(以下、仙台)は、今年秋に開幕予定のWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)に参戦する。

 これまではアマチュアリーグのなでしこリーグで戦っていたが、プロ化によって、Jリーグのベガルタ仙台、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルス、Bリーグの仙台89ERSに続く、仙台で4つ目のプロスポーツチームとなった。

 WEリーグは秋春制で行われるため、初年度の今年は移行期間として9月の開幕まで時間がある。春秋制のなでしこリーグは、1月中に始動するチームが多いが、WEリーグの各チームは、選手のプロ契約が発効する2月以降に始動。練習開始日もチームによっては1カ月近く開きがある。その間も選手は各自で自主トレーニングを行っている。仙台は9日に選手が揃って初練習日を迎えた。また、それに先立って2月5日には新体制発表会見、8日には新加入会見が行われた。

 その後、13日の夜に福島県と宮城県で震度6を記録する大きな地震があったが、チームは選手・スタッフを含む全員の安全が確認され、練習場や事務所なども損害は受けていないという。その後の余震も心配されるが、これ以上被害が広がらず、チームも無事に活動できることを祈りたい。

 クラブには、幾つかの転機を重ねて、紡いできた歴史がある。福島県を本拠地として1997年に創設された東京電力女子サッカー部マリーゼが、2011年3月の東日本大震災の影響で活動休止となり、受け皿となったベガルタ仙台によって「ベガルタ仙台レディース」が創設され、翌12年からなでしこリーグに加わった。マイナビは14年からJリーグのベガルタ仙台、16年からは女子チームのオフィシャルスポンサーになり、17年からは女子チームのネーミングライツを取得。そして、昨年からのリーグプロ化の流れと、新型コロナウイルス感染症拡大で厳しい経営状況に陥ったベガルタ仙台の状況を鑑み、今年2月1日からは経営権を引き継いだ。マリーゼとベガルタの歴史も受け継ぐ形で、震災から10年目の節目に「マイナビ仙台レディース」として再スタートを切ったのだ。

 チームカラーはマイナビのカラーであるブルーが基調色になり、「杜の都」と言われる自然豊かな仙台の緑と、ベガルタ時代から愛されてきたゴールドの3色で構成される。新エンブレムには、仙台を象徴する「仙台七夕まつり」から、ベガルタの名称の由来にもなった「織姫(ベガ)」と「彦星(アルタイル)」の2つの星に、夏の大三角形を構成する超巨星「デネブ」を加えた3つの星が象られている。マリーゼ時代から続くクラブの歴史を知るFW浜田遥は、「最初に見た時に、この水色がマリーゼの水色と近かったので、涙が出そうになりました。本当に、素敵なエンブレムだなと思います」と語った。ホームスタジアムはこれまで同様、ユアテックスタジアム仙台が本拠地となる。

【期待の新戦力】

 仙台は今回のオフに、各チームの主力級を獲得する補強と、新監督招聘で話題をさらった。

 新監督には、男女の指導歴があり、女子では日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、ちふれASエルフェン埼玉、INAC神戸レオネッサなどで指導経験があり、多くの代表選手を育てた松田岳夫監督が迎えられた。

松田岳夫監督(写真:マイナビ仙台提供)
松田岳夫監督(写真:マイナビ仙台提供)

 松田監督の練習は、「頭を使いながらハードワークする」ことを求められるメニューが多く、「体以上に頭が疲れる」と話す選手も少なくない。INACで指導していた頃は2部練習も多く、練習はハードだった。だが、良いものを持っていてもなかなか力を発揮できない若い選手たちを、様々なトレーニングで刺激し、競争を促しながらチームの底上げを図るマネジメントが光った。

 2015年に37歳で引退した澤穂希さんは、「サッカーが上手くなりたい」という強い思いを持ち続け、松田監督の練習の楽しさやバリエーションの豊かさを熱い口調で語っていた。“松田塾”の卒業生は皆、長く現役で活躍し、今もサッカーの楽しさや奥深さを追求し続けている選手が多い。「日本で一番『人』が育つクラブ」というコンセプトを掲げる仙台にとって、理想的なキャスティングだろう。

 J2のガイナーレ鳥取や、J3の福島ユナイテッドFCなども指揮した松田監督は、8日の新加入会見で、4年ぶりに女子チームの指導をすることについて聞かれ、こう答えている。

「男子チームと女子チームで何が違うんですか?という質問をよくされます。男子は(女子より)キック力もあるし、キックのスピード、走るスピードなどがより早く、より強く、どうしてもサッカーがスピーディになる。そこで、ゴールを目指すためにサッカーの大事な要素、本質的な部分を飛ばしてしまうことがあるように感じます。スピードやボールの飛距離などは、男子ほどはない女子では、ボールをより多く動かしたり、相手の逆を取るなど、スピードやパワーだけではないサッカーの本質の部分が(より見えやすく)必要になると感じます」

 新加入の6名は、全員が21歳〜22歳世代の有望株だ。

 MF長野風花(←ちふれASエルフェン埼玉から加入)、FW宮澤ひなた(←ベレーザ)、GK福田まい(←日体大FIELDS横浜)の3名は、18年にU-20W杯で世界一になった。また、昨季セレッソ大阪堺レディースで攻撃を牽引したFW矢形海優(←C大阪堺)、U-19代表歴のあるDF原衣吹(←ベレーザ)、昨年12月の代表候補合宿に初招集されたDF西澤日菜乃(←エルフェン)が加わった。

左から西澤、原、宮澤、松田監督、長野、矢形、福田(写真:マイナビ仙台提供)
左から西澤、原、宮澤、松田監督、長野、矢形、福田(写真:マイナビ仙台提供)

 今年の新加入選手に限らず、仙台には若くして頭角を現してきた選手が多い。昨季15得点で得点ランク2位になったFW浜田遥を筆頭に、FW池尻茉由、FW白木星、MF隅田凜、DF市瀬菜々、DF國武愛美、DF万屋美穂、GK松本真未子をはじめ、A代表や年代別代表に選ばれたことのある選手が並ぶ。

 長身の選手が多いのも特徴で、高さとスピードを生かしたダイナミズムを武器に、15年にはなでしこリーグ1部で過去最高の2位になった。18年と19年は8位、昨年は7位と、そうした特徴を生かせず低迷したが、プロ化と共に心機一転、新たなサイクルが始まる。全体の平均年齢は23.4歳と若いが、勝利や成長に対して貪欲な選手たちの強烈な個性が適材適所で発揮されれば、一気に優勝争いに加わる可能性もある。

 ヘッドコーチには、ベガルタ仙台やG大阪で選手として活躍した佐々木勇人氏を招聘。ユースコーチには、昨季まで仙台でプレーした有町紗央里氏(U-16日本女子代表コーチを兼任)、ジュニアユースは同じくクラブOGの田原のぞみ氏の就任を発表した。同OGの小野瞳氏がフロントスタッフに入り、オルカ鴨川FCで昨季引退を発表した山守杏奈氏をフィジカルコーチに迎えるなど、WEリーグの理念でもある「女性活躍社会の牽引」の実現や、現役選手のセカンドキャリアの受け皿を創出するという点でも積極的な動きが光る。

 WEリーグでは、各チームが15名以上とプロ契約を締結するという要件がある(その数を超えた場合、アマチュア契約も可)が、仙台は初年度の今季、登録選手26名全員とプロ契約を結んでいる。マイナビは就職や転職情報の提供なども主業務としており、「女子プロサッカー選手という存在(職業)が、女性アスリートの新たなキャリアとして成立する世界を作りたい」という理想を掲げている。

 これまでほとんどの選手は仕事を持ち、練習は16時から行われていたが、これからはサッカーに集中できる環境となり、練習時間も早まる。

【開幕への土台づくり】

 松田監督は、新チームで志向するサッカーのスタイルについて、「型にはめたくないので、選手の個性を理解してから、スタイルは決まっていくと思います」と語っている。その言葉と、新体制発表と練習初日に語ったいくつかのキーワードから、松田監督の理想のサッカー像が見えてくる。

「サッカーは相手があってのスポーツなので、判断や表現するプレーはその都度変わってきますが、自分たちが意図的にゲームを進めたい」

「ボールを動かすことにこだわって、攻守においてアグレッシブに、常に主導権を握るゲームを考えていきたい」

「出る選手によっていろんな顔を持ったチームを作っていきたい」

「ゲームをしながら成長していけるチームでありたい」

 松田監督は、これまで在籍していた選手も含めて個々の特徴は情報として把握しているが、練習ではフラットな目で見て、ゼロからチーム作りをしていくことも明かした。例年、シーズン当初は走り込みからのスタートだったが、松田監督はボールを使ったトレーニングが中心で、GKもフィールドプレーヤーのパス回しに参加する。ゲームの中で楽しみながら、効率的にスキルや持久力を高めるーーその引き出しの多さは、名伯楽の手腕だ。

 浜田遥は、初練習を終えた感想をこう語っている。

「(これまで)頭を使っていなかったんだな、と痛感しました。今までは無意識に早くプレーすることを考えていたのですが、プレースピードだけではなく、頭の回転を早くして、状況を理解してプレーすることが楽しかったです。足下の技術が高い選手が多いので、それに頭を使えるようになれば、チームとしてももっとボールを回せるようになると思うし、もっと楽しくサッカーができるのではないかなと思います」

浜田遥(写真:keimatsubara)
浜田遥(写真:keimatsubara)

 浜田は、WEリーグ初年度の目標を聞かれ、「初年度の得点女王になることです」と、力強く語った。自分のために使える時間が増えた中で、武器であるスピードに磨きをかけ、初速を上げることや、無駄のない動きをするためのフィジカルトレーニングにも力を入れるつもりだ。また、プロになった心構えとして、「マイナビに入りたい、と子供たちに思ってもらえるように、日頃から責任を持って行動したいと思います」と、表情を引き締めた。

 新加入の宮澤ひなたは、「プロサッカー選手が小さい頃からの夢だった」という。スピードと緩急自在のドリブルを生かし、ベレーザでは、国内リーグ2回、リーグ杯2回、皇后杯3回、女子クラブW杯女王など、代表選手も多い中で数々のタイトルに貢献してきた。

「(松田監督が目指すサッカーが)少しベレーザと似ているところがあるように思います。練習も、ボールを動かしながらのプレーがメインなので、やっていて楽しいですし、チームとして出来上がってくれば、見ている人にも楽しいサッカーを見せられるのではないかなと思います。同い年や一つ上の年代が多く、アンダー(世代)やなでしこジャパンでも一緒にプレーしたことがある選手が多いので、すごくやりやすいですし、これからもっと自分のプレーを出していきたいです」

 宮澤は前線ならどのポジションでもプレーできるが、前線には高さのあるストライカーが多いため、サイドや、1.5列目のシャドーストライカーとしても輝きそうだ。個人目標は、「ゴールに絡む回数を増やすこと」だという。代表で活躍することも目標の一つだが、宮澤自身が描く理想の選手像は、以前からずっと変わらない。

「たくさんの人に応援されて、愛されるプロサッカー選手になっていければと思っています」

 二文字の違いだが、「サッカー選手」から、「プロサッカー選手」へと変わっているところに、新たなキャリアへの覚悟が感じられた。

宮澤ひなた(写真:マイナビ仙台提供)
宮澤ひなた(写真:マイナビ仙台提供)

【秋春制の寒冷地対策】

 WEリーグは秋春制で行われるため、寒冷地の仙台は、シーズン中に積雪に見舞われる可能性も高い(12月から2月までは中断期間が予定されている)。クラブを運営するマイナビフットボールクラブの粟井俊介代表は、そうした時期は、首都圏や、暖かい地域でのホームゲーム開催も考えていると明かした。また、同氏はリーグが目標とする平均5,000人の観客数を達成するための案を聞かれ、「ハーフタイムの催しとか、ユアテックスタジアムは駅からアクセスも良いので、ホームゲームにおける企画面の強化は必須だと思います。また、これまで来場者の属性を分析したり、データの解析をしきれず、チケットも(オンラインではなく)紙のままだったので、その仕組みも含めて見直しながらPDCA(*)を回せるように、初年度から着実にやっていきます」と、集客にも積極的な姿勢を見せた。

(*)(Plan:計画するDo:実行するCheck:評価するAction:改善する)

 4月末に予定されているプレシーズンマッチは、新生チームの魅力をアピールする重要な機会であり、9月のリーグ開幕に向けた運営面でのシミュレーションの場でもある。多彩な個性を活かした躍動感あふれるサッカーと、オフザピッチの集客や地域密着などの取り組みでも、仙台は新リーグに新たな旋風をもたらしてくれるかもしれない。

 スポーツが盛んなこの地で、未来のなでしこが目指す新たな星となる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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