なでしこジャパンが7カ月ぶりに再始動。個性が躍動するリーグで「今後、代表で見てみたい選手」は?

代表に初招集された塩越柚歩(右)と、代表レギュラーの三浦成美(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【積み上げと見極め】

 オランダのユトレヒトで海外勢を中心に1年ぶりとなる活動を開始したサムライブルー(男子日本代表)に続き、なでしこジャパンが約7カ月ぶりに国内で活動を再開した。10月19日から26日まで、福島県のJヴィレッジで候補合宿が行われている。

 23名のメンバーの内訳を見ると、(10月19日現在)首位の浦和レッズレディース、2位のINAC神戸レオネッサ、3位の日テレ・東京ヴェルディベレーザから5名ずつ、2部から昇格して好調の4位、セレッソ大阪堺レディースから4名が選出された。一方、なでしこジャパンの活動自粛前最後の遠征となった今年3月のシービリーブスカップに参加した選手で、今回も選ばれている選手は23名中13名にとどまった。

 当初、今年7月に予定されていた東京五輪で選ばれることが濃厚だと思われていた選手たちも、その保証はなくなった。新型コロナウイルス感染の世界的な拡大を受けて五輪が延期された後、リーグ開幕以降、ケガをしたり、本来のパフォーマンスを発揮できていない選手もいる。コロナ禍は代表メンバーにも影響をもたらしている。

 しかし、一方で延期されたことで時間的余裕を得てケガから復帰できたり、今季、好パフォーマンスを見せることで可能性が出てきた選手もいる。今回の合宿はそうした選手が多く、代表チームとしての積み上げと、選手の見極め(選考)を同時に行う狙いが窺える。高倉麻子監督は「今回と11月の2回のキャンプをラージ(枠)として捉えてやっていきます」と話しており、五輪候補は今回と11月の合宿である程度まで絞られるだろう。

 

 新型コロナウイルス感染が欧州を中心に再拡大している現状を考えれば、対外試合は当分、期待できそうにない。とはいえ、他国の動きを見ればのんびりはしていられない。欧州ではUEFA欧州女子選手権(女子ユーロ)の予選が始まり、公式戦が再開している。昨夏のW杯女王のアメリカ代表も、7カ月ぶりに国内合宿を再開させている。

 なでしこジャパンは今後、男子高校生や大学生チームとのトレーニングマッチを積極的に行っていくと考えられる。対外試合ができない分、そうした海外勢を想定したゲームの中で、戦術面の細かい調整やセットプレーなど、チームとしての積み上げに割く時間を増やしたい。逆算すれば、メンバーの見極めにかけられる時間はもうほとんど残されていないはずだ。

【新戦力への期待】

 そうした現実と矛盾するようだが、今季のリーグを見ていると、代表選手たちに負けじと個性を光らせ、「一度は代表で見てみたい」と思える選手が少なくない。今回初招集となった3選手も、そうした活躍を見せてきた。

伊藤美紀
伊藤美紀

 MF伊藤美紀(INAC)は、150cmと小柄だが、鋭い危機察知能力とバランス感覚を備えたボランチだ。INACでは2017年から3人の監督の下でレギュラーとしてピッチに立ち続けている。15年に引退したなでしこのレジェンド、澤穂希さんのダブルボランチの“最後の相方”として、その大きな背中から学んでいた姿が強く印象に残る。当時はまだ20歳だった。それから経験を重ねてきた中で、技術や判断が洗練されてきたのだろう。

 スピードやパワーのある海外勢に対して、ピンチを嗅ぎ分けるセンサーをどれだけ生かすことができるのか見てみたい。

 MF塩越柚歩(浦和)はテクニックがあり、スラロームするように滑らかなドリブルが印象的だ。今季は試合の流れで左右のサイドハーフやトップ、ボランチなど、様々なエリアでプレーしている。自身の持ち味について「(相手と相手の)間で受けてから相手の逆を取るターン」と明かしているように、ボールタッチがスムーズに決まる時は、強いプレッシャーの中でも両足の内側を巧みに使って面白いように相手を抜いていく。小柄な選手が多い代表の中盤で、166cmのサイズも魅力だ。現代表メンバーのDF南萌華、DF清家貴子らと同じレッズレディースユース出身で、U-20など年代別代表にも選出されてきた。現代表には年代別代表でプレーした選手も多く、連係面でもアドバンテージがある。

脇阪麗奈
脇阪麗奈

 MF脇阪麗奈(C大阪堺)は、今季、C大阪堺の躍進をボランチとして支えてきた。最大の魅力はボール奪取力だ。ピッチを所狭しと走り回ってピンチの芽を摘み、球際でファイトする。リーグ全体のインターセプト成功率が出れば、確実に上位に入るはずだ(なでしこリーグは残念ながらそうした統計やデータが出ない)。今回の招集に当たって評価されたのも、“潰し役”としての実力だ。

 また、脇阪はセンターバックでのプレー経験もある。守備的なポジションならどこでもこなすことができるユーティリティー性は、うまくはまれば貴重なピースになり得る。

 3人のポジションは中盤だが、これまでの高倉監督の起用を見れば、最終ラインで試されることもあるかもしれない。サイドバックは負傷者や負傷明けの選手が多く、バックアッパーも含めて層を厚くしたいところ。五輪は18枠しかないため、複数のポジションをプレーできることは大きなアドバンテージになる。求められるのはどのポジションでも「海外勢の強度の高いプレーに対応できる」クオリティだ。

 その意味では、今季、浦和の右サイドバックとして抜群のスピードと強さで毎試合のように見せ場を作っている清家が新たなレギュラー候補に名乗りを上げるかもしれない。清家は現代表でも特に多い96~98年生まれの世代で、年代別代表で活躍したFWであり、いざとなれば前線に入ってパワープレーにも対応できる。

【千葉対伊賀のドリブラー対決】

 「代表で見てみたい」と思わせる魅力的な選手がいるのは、上位チームだけではない。

 たとえば、18日に千葉のフクダ電子アリーナで行われた第15節。ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(6位)と伊賀FCくノ一三重(9位)の試合は、両チームの戦い方ではなく、個々の選手にフォーカスして試合を見た。

 結果は、2-1で千葉が勝利。173cmの長身でダイナミックなヘディングシュートを決めたFW大滝麻未のゴールが決勝点となった。

大滝麻未
大滝麻未

 大滝は前節の伊賀戦でもハットトリックを決めており、好調だ。フランスの強豪オリンピック・リヨンで過去にプレーし、FIFAマスターを修了した経歴や、「なでしこケア(※)」を創設するなど、アスリートでありながら女子サッカーと社会との接点となるコーディネーター的役割を果たす一面も見せる。今年の2月に話を聞いた際には、「サッカーを楽しみながら、東京五輪を目指しています」と話していた。女子サッカー界の第一線で長く戦い、「可能性がある限り代表を目指す」と公言できるのは、心身ともにベストの状態で試合に臨めるように、普段の生活から細部にまでこだわっているからだろう。

(※)「女子サッカーの価値向上」と「地域や社会の課題解決」を目的として立ち上げられた一般社団法人

 試合の内容面に目を向けると、千葉と伊賀、両チームの“ドリブラー対決”が目を引いた。

成宮唯
成宮唯

 千葉の攻撃を牽引するFW成宮唯のドリブルは、試合ごとにキレを増している。伊賀戦では、細かいボディフェイントと切り返しで、ハードな守備を持ち味とする伊賀陣内に果敢に切り込み、観客を沸かせた。今季はそのドリブルから多くのチャンスとゴールを演出しており、第11節のベレーザ戦(○1-0)と第12節のINAC戦(○2-1)で、3ゴールを決め、強豪相手に連勝したことは大きなインパクトを残した。

 代表という観点で見ると、現代表ではFW岩渕真奈、MF長谷川唯、FW籾木結花など、テクニックやドリブルに長けたゲームメーカーと特徴が重なる部分もある。だが、成宮自身も流動的な動きの中でプレーできる選手であり、豊富な運動量で前線からの守備も続けられるため、フィットするのはそう難しくはなさそうだ。

杉田亜未
杉田亜未

 伊賀では、左サイドハーフでプレーしたMF杉田亜未が印象に残った。1対1の対決を避けて安易にパスを選ぶのではなく、ドリブルで積極的に仕掛けてチャンスを作り、攻め込んでチームを勢いづけていた。ボディフェイントで相手を揺さぶるようにして軽やかに抜いていく成宮のドリブルとは異なり、杉田は、体の入れ方やコース取りを工夫しながら、相手のファウルを誘うような力強いドリブルだった。

 伊賀はなでしこリーグの中でも、プレー強度の高いサッカーをしている。4-3-3の布陣や縦に速い攻撃など、戦術面で代表とは異なる点も多い。だが、普段から男子選手との練習試合などをこなしながら強度の高いプレーに慣れ、それを続ける持久力も鍛えてきたため、1対1では負けない強さがベースにある。以前は華麗な印象があった杉田のプレーは力強さを増していた。現代表では激戦区のエリアだが、ポジションに空きが出れば、候補に加わってもおかしくない選手だろう。

 

 リーグ戦は残り4試合。浦和の強さは揺るぎないが、ベレーザとの上位対決を制したINACが勝ち点「1」差でベレーザとC大阪堺をかわして2位に浮上し、上位争いも白熱している。一方、優勝の可能性がなくなったチームにも、個性的なプレーで楽しませてくれる選手たちがいる。そうした観点で、残りのリーグ戦を観るのも面白いと思う。

※文中の写真はすべて筆者撮影