難敵に完勝の浦和レッズレディースがタイトルに前進。昨年から進化した攻守と「目の前の試合に勝つ」集中力

なでしこリーグは残り6試合。浦和が6季ぶりのタイトルに突き進む(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【勢いに乗る千葉を下して首位を堅持】

 2014年以来のリーグ優勝に向けて、浦和レッズレディースが力強く前進した。10月3日の第13節で、ホームの浦和駒場スタジアムでジェフユナイテッド市原・千葉レディースと対戦。日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサに連勝し、勢いに乗る難敵を3-0で下した。2位のベレーザがアウェーでノジマステラ神奈川相模原に敗れたため、勝ち点差は「9」と開き、首位を独走している。

 浦和は昨季も後半戦の途中まで先頭を走っていたが、終盤に調子を落とし、優勝まであと一歩届かなかった。だが、今季の浦和にはそうした不安はなさそうに見える。ベレーザやINACなどの昨季上位陣が敗れる波乱が少なくないなか、ここまで10勝1分1敗と強さを見せつけているのだ。

 代表クラスの選手を多く抱え、長く優勝候補に挙げられてきたが、昨年からチームを率いる森栄次監督の継続的な強化によって、それがようやく実ろうとしている。

 森監督は、メンバーをある程度固定した上で、試合中はポジションに流動性を持たせながらボールを支配する戦い方を落とし込んだ。それをベースに、今季は状況に応じてカウンター攻撃や、相手陣内で奪って素早くゴールに迫るショートカウンターなど、戦い方のバリエーションが増えている。

 千葉は第8節から採用している3バックが安定し、9月の上位2連戦は持ち前の走力と粘り強い戦いぶりで勝ち抜き、この試合も浦和陣内でハイプレスを仕掛けた。しかし、浦和は、GK池田咲紀子とセンターバックのDF長船加奈とDF南萌華、サイドバックのDF佐々木繭とDF清家貴子の4バックがチャレンジ&カバーを徹底して千葉のショートカウンターを牽制し、シュートに持ち込ませない。

 ボールを奪うと、ワントップのFW菅澤優衣香をターゲットにしたシンプルな攻撃でチャンスを窺った。すると、15分にセットプレーから先制点が生まれる。相手陣内の左サイドでフリーキックを獲得し、MF猶本光のキックに中央で菅澤が頭で合わせて先制。さらに、37分には清家からパスを受けたボランチのMF柴田華絵が、絶妙のスルーパスで菅澤の2点目をお膳立てした。

 この2ゴールで優位に立つと、後半は自分たちのペースに持ち込んだ。攻め急がず、テンポの良いパスワークで千葉のプレッシャーをいなしながら、ダブルボランチの柴田とMF栗島朱里、MF水谷有希が豊富な運動量と正確なパスで中盤を安定させる。トップ下の猶本とMF塩越柚歩が力強いボールキープやドリブルからチャンスを作り、菅澤は中盤でゲームメイクに参加しながら相手のマークを惑わせた。右サイドバックの清家は、隙があれば前線のスペースにスプリントを繰り返して会場を沸かせた。

 54分にMF安藤梢が前線に投入されると、再びゲームが動く。72分にMF遠藤優、FW大熊良奈、DF高橋はなの3人を同時投入すると、その直後のフリーキックで3点目が生まれた。猶本のキックにニアサイドで長船が囮になり、ファーサイドに詰めていた安藤が決めて3-0。

 終盤は千葉の猛攻からピンチを迎えたが、守備陣が集中を切らさず、6試合ぶりの無失点で勝利に華を添えた。

【守備力と攻撃力がレベルアップ】

 試合後、オンライン取材に出席した森監督、長船、栗島の3名が揃って口にしたのは、「無失点で勝てたこと」だ。ここまで12試合を終えて失点「10」はリーグ最少だが、意外にも失点ゼロで勝利した試合は少なく、6試合ぶりだった。

長船加奈
長船加奈

 自身も現役時代はディフェンダーとしてハードな守備を持ち味としていた森監督は、特にセンターバックの2人には前への強さを求めてきた。タイミングなどが少しでもずれれば背後を取られるリスクも伴うが、170cmの長船と172cmの南は1対1に強く、チャレンジ&カバーの意識も徹底している。

「FWが強いチーム相手には怖さはありますが、そこは本当にみんなでカバーしてくれるという気持ちがあるので、昨年に比べたら前に行きやすい部分はあります」

「裏をやられても結果的に中を固めて、ということはうまくできていたと思います」

 長船はそう話し、周囲のサポートの質の高さに感謝を込めた。高いラインを敷く4バックの背後のスペースを任されてきた池田は、従来のビルドアップ能力に加えて、守備範囲を着実に広げている。また、前線からの連動した守備もセンターバックの2人を助ける。森監督は特に、ボランチの2人の貢献を高く評価した。

栗島朱里
栗島朱里

「柴田はグラウンドに11人ではなく(味方が)12人いるんじゃないかというくらい運動量があり、非常に評価しています。栗島も潰しや読みが良く、タイミングの取り方は後ろと合っていると思います。後ろの選手が『ある程度この辺りに出てくる』と限定できる分かりやすいディフェンスをしてくれています」

 攻撃に目を転じると、エースの菅澤がこの試合もしっかりと仕事をこなした。得点数は12試合で「15」まで伸びており、自身のキャリアでも過去最多ペースだ。得点力と同じぐらい、厳しいプレッシャーの中でもボールキープできることが戦い方の幅を広げている。周囲は菅澤に預けた上で、安心して上がることができる。

 好調の要因について、菅澤本人はハットトリックを決めた11節のINAC戦の後に、夏場の暑さに徐々に慣れてきたことと「周囲との距離感の良さ」を挙げた。今季、ケガなくプレーできている要因について、体幹トレーニングなど「普段通りのことを、毎日コツコツやっています」と明かしている。

 また、今季2点目を決めた安藤は、この試合で1部の最年長ゴールを更新(38歳86日)した。浦和のレジェンドは、8年近いドイツでの経験を、2017年から古巣である浦和に還元してきた。今季は途中出場で流れを変えるジョーカー役を担うことが多いが、球際の強さやサッカーに向かう姿勢など、その姿が若い選手たちに伝えているものは計り知れない。

安藤梢
安藤梢

【多彩な個性が躍動する中盤】

 こうした最終ラインと前線の安定感に加えて、中盤の充実が、チームのパワーアップを加速させている。柴田と栗島のダブルボランチに加えて、2列目は個性が躍動している。水谷は比較的中央でプレーすることが多く、広い視野とテクニックを生かし、決定的なパスが出せる。この試合ではサイドバックの清家の攻撃力を引き出しつつ、中盤の底でバランスを取り、柴田や栗島の攻撃参加をサポートする場面も多かった。逆サイドの塩越は、スピードに乗ったドリブルでスルスルと相手を抜いていくプレーに見応えがある。どのポジションでもプレーできるユーティリティ性も魅力だ。

 そして、トップ下では猶本がパワフルなシュートやボールキープで前線を活性化し、菅澤のフィニッシュをお膳立てしてきた。この試合ではフリーキックで2つのゴールをアシスト。今季はコーナーキックからも複数のゴールをアシストしている。

猶本光
猶本光

 オフにドイツから帰国して浦和に加入し、前半戦は途中交代がメインだったが、この試合で2試合連続フル出場を果たした。2シーズンプレーしたドイツ仕込みのプレー強度の高さを生かしつつ、浦和のスタイルにもしっかりとフィットしてきている。

 INAC戦後には、「サイドでプレーしてもトップ下でプレーしても、距離感は(2018年)以前にいたときよりは近いと思うので、そういうところは意識してポジションを取るようにしています」と話し、守備でも相手の攻撃を牽制したり、「後ろに奪わせる」ことを意識していると明かしていた。

 ボールの奪い方や球際の強度に関して、ドイツやフランスでは守備時に1対1で奪うことを求められることが多いと聞く。一方、日本はパスコースを限定しながら複数で奪い、素早く攻撃に転じる切り替えを重視するチームが多く、浦和もそうした守備を強みとしている。猶本は対照的なスタイルを経験した上で、「相手や味方の状況に応じて使い分ける力」を培ってきた。

 今季の浦和はそうした個性を生かしつつ、試合状況に応じた修正ができるようになっている。昨年のように重要な局面で勝利を落としそうな危うさを感じさせない理由は、そうした戦術面の成熟に加えて、経験が糧になった部分もあるだろう。追われる立場は昨年と同じだが、森監督は特別な働きかけをしていないという。栗島は、力を込めてこう話す。

「先を見据え過ぎたら足元をすくわれる、じゃないですが、本当に目の前の試合に勝てなければ絶対に優勝は見えてこないですから。『優勝』という言葉はたまには出てきますが、それよりは『今日の試合まずは勝とうね』とみんなで言っています」

 リーグ全体を見ると、ケガ人が増えてきており、コロナ禍で夏場の連戦を強いられた影響は少なからずあるように思う。その意味でも、終盤戦はサブも含めた総合力が試される。

 浦和はレギュラー陣のコンディションや連係が安定しているため、控えの選手たちにとって、出場時間を伸ばすことは簡単ではなさそうだ。だが、長い目で見て安定した強さを得ていくためにも、チーム全体が競争の中でさらに一体感を高めるサイクルを生み出していければ理想的だ。

 浦和は今週末の10月11日に、ベレーザとアウェーのAGFフィールド(東京都調布市)で上位決戦を迎える。勝ち点差は「9」開いているが、何が起こるかわからないのが今季のリーグだ。

 昨季も優勝争いを盛り上げた2チームのハイレベルな駆け引きを堪能したい。

※文中の写真はすべて筆者撮影