大型補強とエンゲルス監督新体制でタイトルを目指すINAC神戸。切り替えて臨む再開への道のり

強力な新戦力が加入した(写真提供:INAC神戸レオネッサ/撮影は活動自粛前)

 新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言と、その延長を受けて、なでしこリーグの各チームが活動自粛を発表してから1カ月半が経とうとしている。

 5月14日には、39の県で緊急事態宣言の一部解除が発表されたが、第二波がくるリスクもあり、スポーツイベントの再開はまだ先になるだろう。

 通常通りのトレーニングができない状況下で、各チームはどのような工夫をしているのだろうか。

【王座奪還への序章】

 昨年、リーグを3位で終えたINAC神戸レオネッサ。

代表クラスの花形選手を多く擁しながら、3年連続タイトルを獲れていない現状を打破すべく、今季は新指揮官にJリーグの京都や浦和、神戸などを指揮してきた経験を持つゲルト・エンゲルス監督を招聘した。

 また、リーグ5連覇中の日テレ・東京ヴェルディベレーザからなでしこリーグ4年連続得点王のFW田中美南を補強し、他チームで花形として活躍してきたMF阪口萌乃やDF西川彩華ら代表候補も獲得。高卒ルーキーからは、年代別代表候補のDF長江伊吹やMF菊池まりあら有望株も加わった。

 INACは、4月7日の緊急事態宣言発出を受け、9日になでしこリーグから各チームに活動自粛要請が出される以前の4月4日に、その後の状況を予測していち早く活動自粛を決めている。

 エンゲルス監督は、1月の始動日からコロナ禍の現在に至るまで、クラブハウスがある六甲アイランドからはほとんど出ていないという。それでも、電話口の声は明るかった。

ゲルト・エンゲルス新監督(筆者撮影)
ゲルト・エンゲルス新監督(筆者撮影)

「この生活にもう慣れましたよ。コロナがあるから無理して外に行かないけど、ソーシャルディスタンスを保ってカフェでコーヒーを飲んだりはします。気分転換にジョギングやランニングもしています」

 日本での生活は25年近い。Jリーグでの指導歴を辿れば、関西圏は馴染みのある土地だ。

 1月末の新入団会見では、「サッカーですから、女性、男性も関係ないと思います。積極的なサッカーをやりたいですし、選手たちの武器を思い切り生かしたいです」と、クラブカラーの赤いネクタイを締め、力強く宣言した。

 コロナ禍で現在のところ、リーグ開幕の見通しは明らかではないが、この2カ月近い自粛期間中、INACはどのような対策をとってきたのだろうか。

【「中断期間なし」がリーグを面白くする?】

 今年から神戸での生活を始めたFW田中美南に、自粛期間中の自主トレーニングについて聞いた。

田中は現在の状況について、「この状況になることは誰も予測できませんでしたし、誰の責任でもないですから。試合ができる時に、しっかり力が出せるような準備をしています」と、さっぱりした口調で切り出した。

 週に1回、全員でオンライン会議ツール「Zoom」を使ってトレーナー主導でストレッチや体幹トレーニングを30分から40分行っている他、週に1回、長距離のランニングが全員に課されているという。また、フィジカルトレーニングのメニューも提供され、そのデータをトレーナーに送る。

「トレーニングの量はそこまで多くないのですが、家でも(室内用の)トレーニングアイテムを使ってやっていて、公園でもボールを蹴っているので時間的には長いですね。みんなで集まって練習がしたいし、何より、率直に試合がしたいな、という気持ちはありますけど、近所の公園でリフティングをしたりサッカーテニスをしていると、時間が経つのを忘れて何時間もやれるんです。ブッチー(チームメートの岩渕真奈)さんと一緒にやることが多いですけど、子供の頃に戻った感じで。土だから滑るし、難しいんですけどね(笑)」

 エンゲルス監督は、この期間も選手たちと様々な方法でコミュニケーションを取っているようだ。

 なでしこリーグで指揮を執るのは初めてだが、エンゲルス監督にはヨーロッパでプレーする20代の娘さんがおり、同年代の選手たちとのコミュニケーションもスムーズだ。温厚な笑顔で、サッカーについての鋭い洞察をユーモアとともに説明することもある。

 

「シンプルなコミュニケーションは、電話で話をすること。僕だけではなくて、コーチたちも選手とコミュニケーションをとるし、ライングループもあります。それを使ってメッセージを入れたり話をしたり。僕が今、一番大事にしているのはメンタルとフィジカルです。サッカーの映像も少し渡して、合同練習ができるようになるまでに観てもらうけれど、戦術的なことはピッチの上で一緒にやることの方が効果的です。サッカーを見ても、その場で説明することがすごく大事だと思いますので」

 通常の練習はメニューが豊富で、選手に考えさせるものが多いという。基本的にはポゼッションスタイルを好むそうだが、厚みを増した戦力でどのような崩しを見せてくれるのか楽しみだ。

 今後、リーグ戦が開幕した場合は、中断期間はなく、凝縮されたスケジュールで試合が行われるだろう。エンゲルス監督はその状況をこう受け止める。

「リーグ戦がコンパクトになって、公式戦を続けることはすごくいいと思います。1年でリーグ戦18試合は少ない方ですが、間が空くと(チーム状態が)アップダウンすることもある。実際、前半戦を9試合やった後、(後期の再開まで)3カ月間空くのは怖かった。でも、それがなくなるから逆に面白い勝負になると思います。そのかわり準備する余裕はなくなるから、今のうちに18試合分の準備をしなければいけないですね。練習はいい雰囲気で楽しいけれど、サッカーは勝負。そこでしっかり勝負できないとね」

【再びスパイクを履いて…】

 東京五輪の延期は、INACの代表選手たちにも想定外の長い休みをもたらすことになった。五輪での活躍を期して大型移籍を決断した田中もその一人だ。

 前述したように、田中は今の状況をネガティブに捉えていない。これまでにも様々な壁を乗り越え、そのたびにパワーアップし、結果的にその過程も含めて自らの血肉にしてきたからだろう。今は何より、試合ができる日を心待ちにしている。

今季、即戦力を多く獲得した(前列中央が田中/筆者撮影)
今季、即戦力を多く獲得した(前列中央が田中/筆者撮影)

「INACのユニフォームを着て、ファンの皆さんの前で試合をするのが楽しみですし、そこでゴールを多く取りたいなと思っています」

 公園で夢中でボールを蹴ることの他にも、自粛期間中の“新たな発見”があった。

「料理をする時間が増えたんです。こっちにきてから外食ばかりで、今までまともに料理をしたことがないのですが、食材を買って、自分で調べながら料理を作っていたら、ちょっと楽しいなと。悪くないな、と思えてきたんです(笑)」

 再びスパイクを履いてピッチに立つ日を心待ちにしながら、新生活も楽しんでいるようだ。

 INACは昨年、1試合あたりの平均入場者数がリーグ最多の3,045人を記録した。それは、安本卓史社長のもとで経営の安定化を図り、地道な営業活動や戦略的に集客のための様々な活動を行ってきた成果でもある。

参考記事:

なでしこリーグ1の集客力の秘訣。人気と実力を備えたプロクラブを目指すINAC安本社長の挑戦

 コロナ禍でこれまでのように集客ができなくなる中、試合を待ちわびるサポーターと共に、安本社長はそこで生じる課題をどのようなアイデアで乗り越えるだろうか。

 リーグが開幕したその時に、新生INACが見せるサッカーと共に、注目したいポイントだ。

(※)インタビューは5月中旬に電話取材の形で行いました。