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なでしこジャパンは新型コロナウイルスにどう立ち向かうか。 JFA女子委員長が語る、収束後への展望

松原渓スポーツジャーナリスト
3月のシービリーブスカップは大勢のファンがテキサスのスタジアムを埋めつくしていた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【スポーツができることの意味】

 新型コロナウイルスの世界的流行により、スポーツ界も様々な形で忍耐を強いられる日が続いている。

 Jリーグやなでしこリーグの開幕も延期が重なり、未だはっきりとした見通しは立っていない。ここまでの大幅な延期は、2011年の東日本大震災以来だ。

 震災後は、サッカーは復興に向けた一つの希望になった。チャリティーマッチや、選手主導の被災地支援活動などが行われ、なでしこジャパンはこの年の7月、女子ドイツW杯で数々の逆境を覆して世界一になった。世界各国からも支援の手が差し伸べられ、サッカーファミリーの温かい絆を感じることができた。

 だが、今回の新型コロナウイルスでは、そうはいかない。スポーツ業界全体が直接的な影響を受けており、サッカー界も春から夏にかけてのカレンダーは空白となっている。

 なでしこジャパンは、3月上旬にアメリカで行われた4カ国対抗戦「シービリーブスカップ」に参加していた。

 2万人近い観客が熱狂するテキサスのスタジアムでなでしこジャパンとアメリカ女子代表の試合を取材したのは3月12日(日本時間)のことだった。ほんの2カ月前の出来事が、今となっては遠い日の記憶のように思える。

 その後、3月21日から予定されていたなでしこリーグが延期になり、3月末には東京五輪の2021年への延期が決定。それによって、五輪に向けた強化試合として組まれていた3試合と、3回の国内キャンプの中止が発表された。

 このような状況下、今後なでしこリーグと代表はどのような展望を持てるだろうか。

 日本サッカー協会(JFA)女子部のトップである今井純子JFA女子委員長に、現在の状況、代表活動の見通しについて話を伺った。

「普通の生活の中で心置きなく人と触れ合うことができない状況なので、スポーツができることの意味を身に染みて感じます。W杯やオリンピックは、世界中の人々が安心してスポーツができるような状態でないと成り立たないことですから、今はこの状況に対して世界中が心を一つにして取り組んでいくことが大切だと思います。

 代表チームの活動については、様々な状況を想定しつつ、なでしこリーグの各チームがトレーニングをできるようになり、リーグ戦が始まった段階でその後の五輪に向けたプランを提示することになります。なでしこリーグの各チームには不自由な状況で細心の注意を払いながらできることをしていただいているので、その状況はこちらも把握しています。

 代表チームスタッフは皆この状況を冷静に理解していて、『リーグの状況や選手の状況が整うことが最優先ですから、それまでに、自分たち(スタッフ)側の情報の整理や提示の準備をしっかり綿密にしておこう』と話していますし、スタッフ間でのミーティングや準備も行っています」

【収束後に向けてカギとなるコンディション調整】

 代表候補選手たちは、直近の2年間、海外遠征や国内リーグで、移動も含めたハードスケジュールをこなしてきた。その中で東京五輪は大きなモチベーションとなっていた。だが、五輪延期が決定してからは、選手たちは早い段階でその現実を受け止め、プラスに捉えることによって前を向いていた。

「この夏に五輪があってもなくなっても、自分がやるべきことは変わりません。準備期間が増えることはプラスだと思います」(籾木結花/日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

「来年開催される場合は、延期されたこの1年間で成長できるし、そうするしかないと思っています。今年(ベレーザから)INACに移籍して、環境を変えた中でやれることも増えると思います」(田中美南/INAC神戸レオネッサ)

 感染拡大の収束が見えない中、アスリートも観客も安全に参加できる五輪を開催するために必要な条件が1年後までに揃うかどうかは分からない。だが、たとえ時間がかかってもスポーツができる日々は必ず戻ってくるし、選手がピッチでその実力を示す機会は必ず巡ってくる。

 その日のために、今をどう過ごすか。

 特に重要なこととして、今井女子委員長はコンディション調整について語った。

「これだけ開幕できずにいるなかで、実際に試合ができる状況になるまでには、コンディションを段階的に整えていくことが非常に重要だと考えています。ここで怪我をすることなくパフォーマンスを上げていけるよう、慎重に、段階的に上げていく必要がある、ということを、広瀬統一フィジカルコーチとも話しています。なでしこリーグの各クラブで取り組んでいることがありますが、それに加えて参考にしてもらえるように、広瀬コーチが作成した情報を発信しつつ、クラブと情報交換・共有をしています。

 海外ではリーグを始める国も出てきましたし、状況を見極めた上で日本でもなるべく早く始めたい気持ちはありますが、その一方でコンディションをしっかり整えていくことは、女子の場合は特に重要だと思います。リーグが開幕後は過密日程になることも予想されますし、五輪までの日程を考えても、ケガやコンディション不良を起こさないようにして、段階を追って慎重に上げていくことが最善だと考えています。

 この状況が収束した後に何かが失われていることなく、みんなが元どおりか、この状況を逆に生かしてこれまで以上の状態で戻れるように、この状況を乗り越えて、そしてパワーアップして東京五輪に臨んでいきたいですね」

 感染者数が減り、自粛や外出規制が緩和される国も出てきた。その一つである韓国は、男子サッカーのKリーグが5月8日にリーグ戦を再開。女子WKリーグも6月15日の開幕を正式に発表している。秋春制の欧州では、リーグを中断していたドイツの女子ブンデスリーガが5月29日に再開を予定している。一方、フランスやスペインの女子リーグは打ち切りを決めた。

 なでしこリーグは現在、公式戦の開催を6月28日まで延期することが決まっており、4月から8月に開催が予定されていたなでしこリーグカップ2020は中止を余儀なくされた。リーグから各チームへの活動自粛要請は5月31日まで延長されている。

 全員で集まってトレーニングができない状況で、「Zoom」などのwebツールを使ったトレーニングなど、各チームも様々な工夫をしている。

 一方、JFAの代表チームも、クラブを通じて選手たちにコンディション面で留意点や個別にメニューを提供するなどの働きかけをしている。

 その内容は、年代別代表(U-17、U-19)にも共有されているという。その具体的な取り組みについては、広瀬コーチにインタビューをさせていただいた

 コロナ禍が明けた後の新たなスタート地点をより高くするためにーー。今を雌伏の時と捉え、選手、クラブ、そして協会がどのような取り組みをしていくのか、引き続き注目したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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