国内女王・ベレーザを追い詰めた2部エルフェン。雨中の120分間の激闘は皇后杯史上に残る一戦に

クラブ史上初の皇后杯ベスト4に進出したエルフェン(筆者撮影)

 12月22日(日)午後6時からNACK5スタジアム大宮で行われた皇后杯準決勝第2試合は、リーグ5連覇、今季4冠目を目指す国内女王の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)と、クラブ史上初のベスト4進出を果たした2部のちふれASエルフェン埼玉(エルフェン)が対戦した。

 冷たい雨が降りしきる中、120分間に及んだ激戦は、延長前半9分にベレーザのFW小林里歌子が勝ち越しゴールを決め、大会3連覇を目指す国内女王が2-1で決勝への切符を勝ち取っている。

 雨でボールが走りやすくなったことで、テンポよく繋がれる両チームの流麗なパスワークは見応えを増した。

 戦略、戦術、駆け引き、技術。時間の経過とともに雨脚の強さと震え上がるような寒さは増していったが、それを忘れさせるほど、洗練されたハイレベルな攻防が会場を熱気の渦に巻き込んでいった。

 下馬評では代表11名を擁する国内女王の勝利を予想する声が圧倒的だった。それを覆すまでには至らなかったが、一世一代のジャイアントキリングまであと一歩のところまで迫ったエルフェンの健闘に対して、試合後はスタンドから大きな拍手が送られた。

 

 試合を通じて22本のシュートを打ったベレーザに対し、エルフェンは14本を記録している。守備を固めてカウンターを狙ったわけではなく、パワーやスピードなどを生かしたフィジカル勝負に持ち込んだわけでもない。11人が連動して守り、攻撃では駆け引きの中で力強くパスを繋ぎ、崩していく。スタート時の4-1-4-1のフォーメーションや、高い最終ラインなど、ベレーザと共通点の多いサッカーで真っ向勝負を挑み、女王を苦しめた。

 エルフェンのサッカーを初めて見た観客は、こんなサッカーをするチームが2部にあったのかーーと、驚いたのではないだろうか。

 実は、ベレーザの永田雅人監督とエルフェンの菅澤大我監督はともに読売クラブ出身で、20年来の指導者仲間である。以前、取材した際に菅澤監督は、「ナガ(永田監督)とは20年以上一緒に指導をしていたので、見る映像やイメージするものも近いと思います。これだけサッカー観が合う人はなかなかいないですね」と話していた。

 両チームとも試合中、状況に応じた11人のポジショニングに論理性があり、複数の戦術を使いながら個性を輝かせる。カテゴリーは1部と2部で違うが、共通しているのはボール支配率の高さだ。また、エルフェンにはFW荒川恵理子やMF上辻佑実、DF木下栞などベレーザ出身者も多い。あらゆる面で、互いの特徴を知り尽くした者同士の対戦だった。

 エルフェンのスターティングメンバーは、GK浅野菜摘、最終ラインは右からDF高野紗希、DF西澤日菜乃、DF 木下栞、DF木崎あおい(「崎」の字は右側の大の部分が「立」/以下同)。アンカーにMF長野風花、2列目は右からMF薊理絵、MF上辻佑実、MF田嶋みのり、MF中村ゆしか。トップにFW荒川恵理子が入る4-1-4-1でスタートした。

 試合は前半30分にベレーザのFW宮澤ひなたが右サイドを突破し、U-19女子代表のMF菅野奏音(かんの・おと)のゴールで先制すると、一気にベレーザペースに傾くかに思われた。だが、エルフェンはボール支配ではやや劣勢ながらも、コンパクトな守備と球際の粘りを見せる。攻撃では、10月の南アフリカ戦で代表に初招集されたばかりのGK浅野の正確なキックを生かして最終ラインからしっかりとつなぎ、中央の長野を起点にベレーザのハイプレッシャーをテンポよくいなしてシュートまで持ち込む場面が何度かあった。

 中でも、荒川が右サイドで抜け出し、角度のない位置から放った45分のシュートは会場を沸かせた。2000年代に代表のエースとして大きな注目を集め、後に語り継がれる数々のゴールを挙げてきた荒川は、リーグデビューから23年目を迎えるレジェンドだ。大きなアフロヘアーをトレードマークに、ピッチ上では今も変わらない存在感を放っていた。

 1−0で折り返した後半、ベレーザの永田監督は62分に小林、74分にFW籾木結花、88分にはFW遠藤純と、現代表の主力選手を次々と前線に投入。一方、菅澤監督は3バックにして前線からのプレッシャーを強化し、57分にFW齊藤あかね、72分にMF祐村ひかると、攻撃のキープレーヤーを投入。祐村が入った後、アンカーの長野を起点に立て続けにチャンスを作ると、81分、ついにその瞬間が訪れる。

 高い位置でボールを奪ったエルフェンは、狭いスペースの中でワンタッチパスを繋ぐと、長野のパスを受けた祐村がペナルティエリア内右で迷わず足を振り抜き、ついにベレーザゴールをこじ開ける。その瞬間、会場からは割れんばかりの拍手が降り注いだ。

 その後、エルフェンは再びシステムを4バックに戻し、アディショナルタイムにはセットプレーのこぼれ球をダイレクトで捉えた田嶋のミドルシュートが快音を響かせ、ベレーザのゴールマウスを捉えた。しかし、ここはなでしこジャパンの正守護神でもあるGK山下杏也加がスーパーセーブで弾き出す。

 結局、試合は1-1で30分間の延長戦に突入。

 ベレーザは皇后杯を戦う間に、女子クラブ選手権、EAFF E-1サッカー選手権と、代表活動も含めて海外遠征が相次いだ中で主力の多くが超・過密日程を強いられていた。そのベレーザにとって、自分たちが後半に放った4本のシュートを上回る6本のシュートを記録したエルフェンの勢いは、明らかに脅威となっているように見えた。

 だが、女王は意地を見せる。

 延長では4人目の交代が認められるため、ベレーザはディフェンスリーダーのDF土光真代を投入。そして、延長前半9分、小林が右サイドを突破して個人技でゴールをねじ込み、国内女王の底力を見せた。

 延長後半3分には、この試合で目を見張るような精度の高いキックとファインセーブを再三見せていた浅野からのピンポイントキックで、カウンターから祐村がチャンスを作る。その6分後には、左サイドを崩されてベレーザのエース、FW田中美南の決定的なシュートを浅野が止めて踏ん張ると、試合終了間際には流れの中から齊藤、コーナーキックから木下のシュートが立て続けに枠をとらえた。だが、前者は山下に止められ、後者は無情にもポストの内側を叩く。その直後に、エルフェンの敗退を告げる静かな試合終了の笛が鳴った。

 菅澤監督は、落ち着いた口調で120分間をこう総括している。

「今日のゲームは我々2部のチームにとって、絶対王者のベレーザとどんなゲームができるかが楽しみでした。トータルで言えば『良くやった』と言われるような内容であり結果だったと思いますが、こういう結果が一番もったいないし、反省しなければいけません。(この結果を)しっかり受け止めないと、次のステージには進めないと思います」(菅澤監督)

 エルフェンの挑戦は、クラブ史上初の皇后杯ベスト4という成績で幕を閉じることとなった。

【2シーズンで築かれた新生エルフェンの土台】

 過去10シーズンで1部昇格と2部降格を3回ずつ経験したエルフェンは、昨年から菅澤監督の下で腰を据えたチーム作りを進めている。

大型補強をしたちふれASエルフェン埼玉。経験豊富な選手たちを惹きつける菅澤サッカーの魅力(1)

大型補強をしたちふれASエルフェン埼玉。経験豊富な選手たちを惹きつける菅澤サッカーの魅力(2)

「1部で戦えるチーム」へーーなでしこ2部エルフェン、菅澤監督が示す手応え。リーグ女王との共通点とは?

 今季、リーグカップ(2部)では準優勝。リーグ戦は3位で、昨年(3位)に続き、あと一歩で昇格圏の2位以内を逃している。だが、この試合でエルフェンが見せた実力は、1部でも十分戦えるのでは、と思えるものだった。

 そう思わせたポイントは2つある。一つはボールの動かし方と、フィニッシュまでの攻撃パターンの多彩さだ。前線からのプレッシャーの中でも浅野、長野、上辻らを中心に、個々の高い技術が存分に生かされていた。また、今季2部で得点王に輝いた薊の得点力も武器となっている。

 なでしこジャパンの正GKでもあるベレーザの山下は、試合後のインタビューで、「ビルドアップが、2部のチームとは思えない実力だった」と、率直な思いを明かしていた。

 もう一つのポイントが、複数の戦術を使い分けることで、ベレーザに対して先手を取ったことだ。 

 ベレーザの永田監督は先制した後、いつものように追加点が奪えなかった理由について「シンプルに相手の方が良いサッカーをしたというところが、一番大きな原因だったと思います」と、語っている。

 リーグ戦では、各チームが様々なベレーザ対策を打ち出してきた。だが、ベレーザの選手たちは試合の中で相手の出方を早い段階で読み、その対策を無効化する。あるいは、永田監督の指示で試合中にポジションをローテーションしながら先手を取ることもある。

 だが、エルフェンのそれは、他チームの対策よりもさらに手が混んでいた。

菅澤大我監督(筆者撮影/今年1月)
菅澤大我監督(筆者撮影/今年1月)

 菅澤監督はこの試合に向けて、4つのオプションを準備していたことを明かしている。

「4-1-4-1を基本にしながら、3-4-3から5-3-2になる形、3-4-3でマンツーマンの守備、と4つ(の戦術を)用意して、わかりづらいタイミングで戦術変更をすれば、相手に察知されづらいだろうと考えました」(菅澤監督)

 菅澤監督は1点を追う中で後半から3バックに変更し、前線の枚数を増やして前線からのプレッシャーの強度を上げている。81分に同点に追いついた後に再び4バックに戻してバランス良く追加点への流れを作り出した。そして、延長戦では再び3バックに変更した。

 両チームに共通しているのは、監督の指示でフォーメーションを変えながら、ピッチ上の選手たちがそれを柔軟に使いこなしていることだ。それは個々の戦術理解度の高さの証でもある。

 エルフェンの変幻自在のシステムチェンジを可能にするポイントの一つが、両サイドバックの高野と木崎だ。2人の共通点は「ボランチ出身」であること。以前、木崎について菅澤監督はこう語っていたことがある。

「エルフェンに必要なのは、中盤ができるサイドバックです。中央でプレーできるテクニックと戦術眼があって、上下のアップダウンというよりは、中盤でラストパスを出せる選手。その選手たちが外から中に行くことによって、いつもは3人のところが5人になるし、ボランチに入れば中央で有利になる。木崎は彼女ならではのタイミングの良さというか、調子がいい時は天才的なワンタッチで(相手の狙いを)外せるし、急所を突くような感覚を持っている。高野はもともと10番の選手で、彼女もその感覚を同じように持っています」

 今季、リーグ戦全試合に先発してきた2人は、エルフェンのサッカーに欠かせないピースとなっている。

 こうしたポイントも含めて、土台を築くまでには時間がかかり、結果が出ない時期もあった。

 菅澤監督就任1年目は、前半戦で3勝4敗2分と苦しんだが、ベースとなる戦い方が浸透した後半戦は5勝4分の負けなしで3位まで浮上した。

 そして、2年目の今年は、オフに菅澤監督の練習に参加して移籍を決断した選手が多く、1部から8名の強力な戦力が加入したほか、韓国WKリーグ(1部)でプレーしていた長野が加入。新たな選手たちに戦術を浸透させながら2年目の上積みを目指し、結果は前半戦が5勝3分1敗、後半戦は4勝4分1敗。結果的に失点数を大きく減らし、得点数も増え、勝ち点も昨年を上回った。

【きらめく個性】

浅野菜摘(筆者撮影/今年11月の代表初招集時)
浅野菜摘(筆者撮影/今年11月の代表初招集時)

 個々に目を向けると、GKの浅野は、175cmの長身を生かした守備範囲の広さに加え、持ち味の左足を生かしたフィールドプレーヤーさながらのビルドアップやフィード力の高さが光った。リーグ戦では相手が自陣を固めることも多く、戦いづらさもあったが、この試合では前線からプレッシャーをかけてくるベレーザに対してむしろ戦いやすかったという。

「自分の強みが、1部でいくつものタイトルを取っているチームに対してどれぐらい通じるか楽しみにしていました。まだまだ足りないところもありましたが、通用したところはすごく自信になりました。リーグ戦では相手に合わせてしまう部分がありましたが、今日は自分たちよりも実力が上だとわかっていたので挑戦的になれて、(自分たちの力を)結構出せたかなと思います」(浅野)

 なでしこリーグ史上最多となる通算326試合出場の記録を持つ山郷のぞみGKコーチの下、ポジション争いをするのは、山郷コーチとともに10年以上、なでしこジャパンのゴールマウスを守り続けたGK福元美穂。なでしこジャパンのGKの歴史に名を刻んだレジェンドたちの下で、浅野は右肩上がりの成長曲線を描いている。

長野風花(写真は昨年11月の代表招集時)
長野風花(写真は昨年11月の代表招集時)

 また、中盤の底でゲームをコントロールしていたのが長野(集合写真上段左から3番目)だ。2014年のU-17女子W杯と昨年のUー20女子W杯で、ボランチとしてチームを牽引して世界一になった20歳は、的確なファーストタッチやボディフェイント、スルーパスなど、プレッシャーの中で持ち前のセンスを発揮した。長野はユース時代から浦和レッズレディースで育ったが、昨年、さらなる成長を期して韓国の最強女子クラブ、仁川現代製鉄レッドエンジェルズに移籍。WKリーグでタイトルを獲得したが、今季前に菅澤監督の練習に刺激を受け、「若いうちに個人戦術を学んでプレーの幅を広げたい」と、国内復帰を決断した。この国内女王との対戦では、たしかな成長を示した。

「私たちエルフェンは、リーグ戦ではよくなかったんですが、皇后杯では吹っ切れたというか、自分たちがやりたいサッカーがやれるようになってきたと思います。相手のプレッシャーに慌ててしまって自分たちから崩れる場面もありましたが、1部と戦えることは証明できたと思うので。来シーズンは(2部で)全勝優勝を目指して、1部に上がれるようにしたいです」(長野)

荒川恵理子(筆者撮影/リーグ第16節大和シルフィード戦)
荒川恵理子(筆者撮影/リーグ第16節大和シルフィード戦)

 その長野が、姉のように慕っているのが荒川だ。この試合で57分にピッチを退いた荒川は、延長戦が始まる前に、「自分の分も頼む!という感じで、パワーを送りました」(荒川)と、長野をはじめ、ピッチに出ていく選手たちを熱く激励した。

 しかし、あと一歩及ばず、試合後の言葉からは悔しい胸の内も伝わってきた。

「ボールの関わり方とか、もっとみんなできるはずだし、これからもこだわってやりたいですね。自分自身は今年はケガが多かったのですが、まだまだやりたいし、やれると思っています。年齢の数字は、ただ重なっていくものに過ぎないと思っているので、自分を信じてやっていきたいです」(荒川)

齊藤あかね(筆者撮影)
齊藤あかね(筆者撮影)

 一方で、今シーズン限りでの引退が発表されていた齋藤あかねは、この試合がラストマッチとなった。東京電力女子サッカー部マリーゼ、浦和レッズレディース、AC長野パルセイロ・レディース、そしてエルフェンと、4つのクラブで活躍してきた齊藤はまだ26歳と若く、そのパワフルなプレーがもう見られなくなるのは寂しい。だが、この試合で終盤に見せた力強いミドルや、同点の可能性を感じさせた終了間際のシュートは、観客にジャイアントキリングの希望を与えた。試合後は、すっきりとした表情で、こう語ってくれた。

「本当に人に恵まれたサッカー人生でした。怪我が多かったですけれど、最高の仲間の中でキャリアを終えられたことが、自分にとってすべてです。今まで歩んできたすべての道が大正解で、最高の選択だったと思います」(齊藤)

 

 エルフェンのシーズンはこれで終わったが、来季への戦いはすでにスタートしている。「今年のベースをさらに引き上げる形で、さらに成長できると確信しています」と菅澤監督は力強く締めくくった。そのサッカーに勝負強さが備わった時、エルフェンは1部に昇格し、旋風を巻き起こすかもしれない。

 皇后杯決勝は、12月29日(日)、14時からNACK5スタジアム大宮で、浦和レッズレディースと日テレ・ベレーザが頂点を競う。試合はNHK-BS1で生中継される。

来季の1部昇格を目指す(筆者撮影)
来季の1部昇格を目指す(筆者撮影)