五輪前最後のE-1選手権で好スタートを切ったなでしこジャパン。9-0で大勝した初戦から見えたもの

チャイニーズ・タイペイに9-0で快勝したなでしこジャパン(筆者撮影)

【4大会ぶりの優勝へ】

 EAFF E-1 サッカー選手権 2019 決勝大会(E-1選手権)が12月10日(火)に釜山(韓国)で開幕した。

 なでしこジャパンは11日の初戦でチャイニーズ・タイペイ(台湾)女子代表と対戦し、9-0で圧勝。4大会ぶりの優勝に向けて幸先良いスタートを切った。

 今大会は東アジア王者を決める大会で、日本(FIFAランク10位)、韓国(同20位)、中国(同16位)、チャイニーズ・タイペイ(同40位)の4カ国が総当たりで頂点を競う。大会3連覇中の北朝鮮(同9位)は、政治的情勢を考慮して今大会の不参加を表明している。日本は自国開催だった2017年の前回大会では、中国(○1-0)と韓国(○3-2)に連勝したものの、最終戦で北朝鮮に0-2で完敗して2位だった。

 しかし、翌18年のアジアカップとアジア競技大会で日本はアジア2冠を達成。北朝鮮が不在の今大会は優勝候補の筆頭だ。

 

 日本は東京五輪には開催国枠で出場するため、アジア予選が免除になる。そのため、他国とは違って本番前の公式戦は今大会が最後となる。短期間の連戦となる五輪を乗り切るためのチームの総合力や、18人のメンバー絞り込みに向けたサバイバルにも注目したい。

 ただし、今大会はFIFAが定める国際Aマッチデーではないために選手の拘束力がなく、オリンピック・リヨン(フランス)でプレーするキャプテンのDF熊谷紗希が不在。今回、高倉麻子監督が招集した23名は、リーグ優勝(5連覇)の日テレ・ベレーザから10名(FW植木理子が怪我のため不参加)、同2位の浦和レッズレディースから4名(FW菅澤優衣香がコンディション不良のため不参加)、同3位のINAC神戸レオネッサから4名、と大半を占める。6月のW杯に出場したメンバーは23名中15名で、8名はW杯未経験者だが、全体的に今季の国内リーグの活躍を反映した選考となった。

 また、全体の平均年齢は23.2歳で、出場24カ国中2番目に若かった今年6月のフランス女子W杯(23.9歳)からさらに若くなった。

 W杯ではケガ人が多く出て、チームとしてベストな状態を維持できなかったことも、ベスト16敗退の一因となった。だが、五輪に向けて再スタートを切った10月のカナダ(FIFAランク7位/○4-0)戦、11月の南アフリカ(同55位○2-0)戦はともに快勝で、五輪に向けて理想的なリスタートを切った。

 W杯でピッチに立ったメンバーを中心にチームの軸が固定された中で戦術練習を重ね、守備の安定感が攻撃の勢いにもつながっている。2016年から約3年間をかけて少しずつ、着実に積み上げてきた個々の成長やチームの共通認識が、しっかりとピッチに現れるようになった。

 その中で迎える今回のE-1選手権での見どころの一つは、各ポジションの選手層強化だろう。

 激戦区のFWには、4年連続リーグ得点王のFW田中美南、韓国WリーグでプレーするFW池尻茉由、今季2部MVPに輝いたFW上野真実(追加招集)が競争に加わった。

 一方、ボランチ、センターバック、サイドバックは主軸を支えるバックアッパーの層が薄く、新戦力の台頭が期待されるポジションだ。センターバックにはDF土光真代とMF松原有沙(ボランチ兼任)、右サイドバックにDF清家貴子、ボランチにMF栗島朱里とMF林穂之香(追加招集/初)が選出されており、W杯メンバーの中で各自がどれだけ持ち味を発揮できるか注目したい。

「オリンピックは18人なので、前め(のポジション)は意外と(流動的に)動かせると思いますが、特に後ろの構築では、けが人が出たり不測の事態が起きたりというときにパズルのピースをうまく動かせるように、選手をこの3試合で見極められればいいなと思っています」(高倉監督)

 南アフリカ戦では左サイドハーフが本職のFW遠藤純が左サイドバックで起用されたように、レギュラー組のコンバートも考えられる。ただし、高倉監督は「どの位置でどの選手がプレーするかということにこだわっているわけではなく、それぞれの場所でその選手の良さが出せればいいなという思いがある」とも語っており、全体の中で、各個性を最大限に輝かせるバランスを探っているようだ。

【主将・岩渕に導かれたゴールラッシュ】

 初戦の相手となったチャイニーズ・タイペイは、かつてアジアの強豪国だった。日本女子代表は1981年6月に最初の国際試合として同国と対戦しており、この時は0-1で日本が敗れている。

 その後はチャイニーズ・タイペイが伸び悩み、日本とのパワーバランスは逆転した。だが、現在は同国が再び強化に力を入れており、日本サッカー協会とのパートナーシップ協定で指導者が派遣され、現在は越後和男監督(前マイナビベガルタ仙台レディース監督)と大友麻衣子GKコーチ(元アルビレックス新潟レディース)の下で強化を図っている。

 東京五輪予選の1次予選と2次予選は全勝で首位通過し、来年2月から3月にかけて行われる最終予選に進出。日本が優勝した昨年のアジア競技大会ではベスト4にも入る健闘を見せ、その強化は着実に実っているようだ。

 だが、この試合は日本の一方的な展開となった。

 日本のスタメンはGK池田咲紀子、4バックは右からDF清家貴子、DF三宅史織、DF南萌華、DF遠藤純。MF栗島朱里とMF松原有沙がダブルボランチを組み、中盤は左にFW小林里歌子、右にMF中島依美。FW岩渕真奈とFW田中美南が2トップを組む4-4-2で、栗島と清家が代表初出場を飾った。

 熊谷に代わってキャプテンに指名されたのは岩渕だ。今回のメンバーの中では、唯一、11年のW杯優勝を知る国際経験豊かな26歳だ。

 試合前、チームメートに対して「(プレーの)正解、不正解はないし、声を出してくれたらミスは全員でカバーできるから、とにかく楽しんで、自分(の良さ)を出して」と、声をかけたという。

 その言葉に導かれるように、日本は立ち上がりから攻撃的に試合を進めた。そして前半7分、岩渕自身が豪快なミドルシュートで、日本のゴールラッシュを導く。

 直後の9分には、松原の縦パスを受けた田中が相手ディフェンダー2人の間を強引に割って決め、2-0とする。16分には、三宅のロングパスを岩渕が相手を引きつけながら絶妙のヒールパスで落とし、走り込んだ小林が決めて3点目。自陣に引いて守りを固めたチャイニーズ・タイペイを右に左に、ピッチを広く使って揺さぶると、38分には田中がペナルティエリア内で倒されPKを獲得。これを自ら決めて4-0とした。44分には小林の素早いリスタートから、抜け出した遠藤の折り返しに松原が合わせて5-0と大差で前半を折り返す。

 後半、高倉監督は代表初出場の林をボランチに、池尻を右サイドに投入。この交代に伴ってセンターバックの三宅が左サイドバックにスライドし、ボランチの松原がセンターバックに。中島がサイドを右から左に移し、右サイドの小林が2トップの一角にポジションを移した。試合の中でポジションを流動的に変えながら、攻撃に変化を加えた日本は、53分には池尻がPKを獲得し、自ら決めて6-0。そして、66分には相手陣内の左サイドで得たFKで、中島のキックを清家が頭で決めて7点目。

 71分には岩渕が1点目と同じような形から豪快な2点目を叩き込み、後半アディショナルタイムには、中島のシュートのこぼれ球を池尻が蹴り込み、9-0で試合を締めくくった。

【存在感を示した代表初出場の2人】

 チャイニーズ・タイペイに対して、日本は結果的に新戦力を交えた陣容で46本のシュートを打ち、被シュート数をゼロに抑えた。

 11月末に韓国で開催された「女子クラブ選手権2019 FIFA/AFCパイロット版トーナメント」に出場し、過密日程の中で今大会に臨んでいたベレーザ勢の出場を3名に抑えて温存し、その3名も途中交代でセーブできた。そして、松原、池尻、清家の3人が代表初ゴールを決めるなど、新戦力の活躍が光った。

 高倉監督はチームとしての収穫についてこう振り返っている。

「オリンピックに向けて攻守にわたってのレベルアップ、質をあげていくことを目標にしていますが、そのことは選手の成長なしではありえません。(主力)選手がチームの約束事をしっかり把握しながら伝えて、新しい選手たちもそれを受け止めながらゲームができるようになっていると感じます。(今日は)新戦力も、チームの力になりうるなと感じさせるプレーがいくつかみられました」

 フル出場組の中では、主将として言葉とプレーでチームを牽引した岩渕がたしかな存在感を示したが、ともに代表初出場だったボランチの栗島と右サイドバックの清家もインパクトを残した。

 栗島と清家は主軸の選手たちとスムーズな連係を見せ、清家はデビュー戦で初ゴールという貴重な記録も残している。

 2人は10月と11月の代表活動でも招集されている(栗島は11月の南アフリカ戦は怪我のため途中離脱)。

 栗島は10月のカナダ戦翌日に行われたカナダとのトレーニングマッチ(一般非公開)では、前半は硬さも見られたが、時間とともに存在感を増し、強い印象を残している。

MF栗島朱里(筆者撮影/写真は10月のカナダとのトレーニングマッチ)
MF栗島朱里(筆者撮影/写真は10月のカナダとのトレーニングマッチ)

 この試合では、前半から細やかなポジショニングでパスワークの潤滑油になり、セカンドボールへの反応の速さも目立った。自らカウンターの起点となってドリブルで持ち上がるプレーも見せ、ゴールも狙った。

 高倉ジャパンの中盤には高いテクニックと戦術的柔軟性が求められる。前後左右の選手が流動的に動く中で空いているスペースを埋め、交代などで選手の配置が変わってもチームのバランスを良好に保ち、その中で攻撃参加を求められる。栗島はこの試合でそれらをスムーズにこなし、自分の「色」をしっかりと出していた。

 それができるのは、今年の浦和が同じように流動的なスタイルのサッカーを目指してきたこともあるだろう。試合後は「楽しかったです」と笑顔で手応えを口にし、「特に前半は前線のコンビネーションが良く、みんなが次の動きを意識してできていましたし、その中で自分も点をとりたかったですね」と続けた。

 ボランチは現在、W杯にも出場したMF杉田妃和とMF三浦成美がレギュラーだ。他には、中島やDF宮川麻都、松原がボランチで起用されてきたが、中島は右サイド、宮川は左サイドバックが本職。松原はボランチが本職だが、空中戦の強さやフィード力など、プレースタイル的にセンターバックで起用されることも多い。栗島はボランチが本職で、サイドバックでもプレーできる。周囲の特徴を引き出すのが得意なので、杉田や三浦とも相性は良さそうだ。試合後はこう話し、表情を引き締めていた。

「若い選手が多いですが、オフザピッチではみんな生き生きしていますし、私もあまり緊張せずにできています。優勝するために、この後の2戦に頭を切り替えていきたいと思います」(栗島)

 右サイドバックでフル出場した清家も、右サイドバックの層に厚みを加える存在として期待がかかる。

DF清家貴子(筆者撮影/写真は10月のカナダとのトレーニングマッチ)
DF清家貴子(筆者撮影/写真は10月のカナダとのトレーニングマッチ)

 元々FWとしてプレーしていた清家は、動き出しのスピードやタイミングの良さを武器に、10代から年代別代表でもエース級の存在感を放っていた。浦和のユースからトップチームに昇格して1年目の2015年にはリーグ新人賞を獲得するなど、その身体能力とポテンシャルの高さは光っていた。だが、15年から16年にかけて膝のケガで長期離脱を余儀なくされ、復帰後は代表クラスが揃う浦和攻撃陣の中でスーパーサブに甘んじてきた。

 だが今季、監督に就任した森栄次監督の下で右サイドバックにコンバートされ、その能力を大きく飛躍させることとなった。コンバートされた当初については、「冗談かな、と思いました(笑)」と、以前振り返っていたが、いざリーグが始まると瞬く間に定着。リーグ戦全18試合に先発し、ほとんどの試合にフル出場して、浦和のリーグ2位に大きく貢献した。

 対戦相手のチームにとって清家の存在が脅威になっていたことは、取材の中でよく耳にした。

「FWでプレーしていたときに、『ここに欲しい』と思っていたポイントとタイミングを意識しています」という質の高いクロスで、リーグ得点ランク2位になった菅澤のゴールを数多く演出した。また、隙あらば裏のスペースを窺い、浦和の最終ラインを押し上げていた。その背後のスペースを狙うチームは多かったが、清家は守備面でも高い能力を見せた。特に1対1の対応で、体の当て方や、相手の動き出しを予測したボールの奪い方などは、守備的なポジションが未経験とは思えないほど力強かった。

 この試合では守備の機会は少なかったが、攻撃面では持ち味を発揮。前半は裏への抜け出しからシュートに持ち込んだり、積極的なオーバーラップで攻撃に絡み、縦を警戒されると利き足ではない左足で際どいクロスを入れるなど、たびたびチャンスを演出した。

 サイドハーフが中島から池尻に代わった後半は「ドリブルで仕掛ける彼女(池尻)の特徴が出ていたので、後ろからのサポートを心がけました」と攻撃を自重しつつ、セットプレーでは虎視淡々とゴールを狙い、相手ディフェンダーと駆け引きを繰り広げた。その姿勢が、66分に決めた代表初ゴールに結実している。

 一方、自身の課題については、「スピードに乗った状態だとコントロールが効かなくなることがまだある」ということや、「精度を上げて、流れの中で得点に関わることです」と、明快な口調で語った。

 コンバートからわずか1年で代表にサイドバックとして呼ばれるほどの急成長を遂げた清家。いざとなればアタッカーとしてもプレーできるのは強みだ。栗島もそうだが、複数のポジションがこなせることは、18人と枠が少ない五輪では一つのアドバンテージになる。

 日本はこの後、中2日で中国(14日)、韓国(17日)と戦う。中国は昨年のアジア競技大会で準優勝の強豪国だ。大柄な選手が多く、同大会の決勝では、シンプルにフィジカルを生かしたサッカーにかなり苦しめられた印象がある。また、今年7月に中国大手企業のアリババ傘下のアリペイが代表も含めた中国女子サッカー支援に10年間で10億元(約158億円)のサポートを約束したと報道された。その影響はじわじわと現れてくるはずだ。また、初戦は韓国とスコアレスドローだったが、中3日で日本より1日休みが長いため、万全のコンディションで臨んでくるだろう。

 高倉監督は、この中国戦でベストメンバーを組んでくる可能性がある。注目の一戦だ。

 試合は12月14日、15時55分(日本時間も同じ)キックオフ。フジテレビ(地上波)で生中継される。