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7-0でオーストラリアに圧勝のヤングなでしこ。U-20女子W杯出場権獲得、アジア王者に王手

松原渓スポーツジャーナリスト
オーストラリアに快勝し、決勝に進んだ(筆者撮影)

【圧倒した90分間】

 ポゼッション率79.8パーセント、パス総数「741」、相手陣内でのパス成功率82.4パーセント、シュート数25本(オーストラリア2本)。日本の圧勝で終わった試合内容は、スタッツにもはっきりと表れていた。

 タイで開催中のAFC U-19女子選手権で、ミャンマー、韓国、中国と同居するグループAを3連勝の首位で勝ち抜いた日本は、準決勝でグループB2位のオーストラリアと対戦。FW大澤春花とFW廣澤真穂の2ゴールなどで7-0と大勝して、3大会連続の決勝進出を決め、同時に、上位3位までに与えられる2020 FIFA U-20女子W杯への出場権を獲得した。決勝戦は9日に行われ、韓国を3-1で下した北朝鮮と対戦する。

 日本とオーストラリアの試合は、これまでで最も遅い夜8時キックオフとなったため、30度を超える日中の暑さも和らぎ、比較的戦いやすいコンディションとなった。中2日のハードスケジュールで4試合目となったが、中国戦の試合後はコンディション回復を重視し、チームの雰囲気の良さもあって選手たちに疲れは見えない。試合を重ねるごとに、チームは結束を強めてきた。

 試合前々日の夜には、キャプテンのDF高橋はなが中心となって選手だけのミーティングを行ったという。DF松田紫野(まつだ・しの)はこう振り返る。

「グループステージを突破したことを自信にして、準決勝に向けて気持ちを入れ替えて、まずは(U-20女子)W杯のチケットを手に入れようという目標を確認し合いました。その上で、一人ひとりが試合のためにしてきた準備や目標を話しました。それぞれの役割をこなすために周りのサポートも必要になるので、言葉にすることでお互いに頑張ろう、と話しました」(松田)

池田太監督(筆者撮影)
池田太監督(筆者撮影)

 

 そうした一体感を、池田太監督も頼もしく感じていたようだ。準決勝に進出した4カ国の監督が登壇した前日記者会見ではこう話していた。

「グループステージを通じて選手が自分たちでゲームの流れを読んだり、相手の分析をしたり、コミュニケーション能力が上がったことを感じています。その力を明日(のオーストラリア戦で)、表現してほしいと思っています」

 日本のスターティングメンバーは、GK田中桃子、4バックは左からDF船木和夏(ふなき・のどか)、DF後藤若葉、DF高橋はな、DF松田紫野。MF菅野奏音(かんの・おと)とMF中尾萌々(なかお・もも)がダブルボランチを組み、右にMF森田美紗希(もりた・みさき)、左にMF伊藤彩羅 (いとう・さら)。大澤春花(おおさわ・はるか)とFW山本柚月(やまもと・ゆづき)が2トップを組む4-4-2のフォーメーションでスタートした。

 オーストラリアのキープレーヤーは、ワントップのFWマリン・ファウラー。グループステージ3試合の得点はほとんどが彼女を起点に生まれており、自身でも3ゴールを決めている。オーストラリアは彼女が前線に張り、残りの10人が自陣でブロックを作ってゴール前を固めた。ボールを奪いにくるというよりは、日本のミスを待って、ボールを持つと躊躇せずファウラーに放り込む割り切った戦い方だ。

 日本はボールを失っても高い位置で奪い返す場面が多く、最終ラインでは高橋と後藤のセンターバックコンビがファウラーにしっかりと対応。高い位置ではチャレンジアンドカバーを徹底し、ゴールに近い位置では攻撃を遅らせて複数で奪えていたため、怖さはなかった。

 だが、想定していた以上に相手が自陣に引いてきたことで、日本の立ち上がりは慎重さも目立った。その中で、ボランチの菅野を中心にテンポ良くボールを動かしながらブロックに侵入し、徐々に攻撃にリズムが生まれていく。前線の6人に加えて、両サイドバックの松田と船木も高い位置で攻撃に参加。ピッチの中で選手同士が声を掛け合い、狙いどころを共有する工夫も見られた。

 10分に伊藤がドリブルで左サイドをえぐってファーストシュートを放ち、16分には菅野のミドルシュートがバーを叩く。18分には左サイドから崩して伊藤のダイレクトパスを大澤がシュートに持ち込んだ。

 そして、先制点は前半20分に生まれた。

 ペナルティエリア内で伊藤がギリギリまで相手を引きつけてオーバーラップした松田にパスを送ると、松田が倒され、主審はPKを宣告。

「相手が(完全に自陣に)引いてきた中で自分たちから仕掛けていかないと崩れないと思ったので、伊藤彩羅選手に声をかけて、オーバーラップするところを使ってほしいと伝えました。彩羅がボールを足下に置くことで相手を引きつけてくれたので、自分が仕掛けてファウルを誘うことができました」(松田)

 

 なんとか守りきって無失点で前半を終えたいというオーストラリアの狙いを打ち砕いたこのプレーで、日本のゴールラッシュは幕を開けた。このPKを菅野が冷静に決めて先制。

 さらに、3分後には中尾の中央からのクロスに大澤がフリーで抜け出して決め、すぐにリードを広げた。

 得点には繋がらなかったが、42分の左サイドの崩しは見事だった。オーストラリアがラインを上げた瞬間を見逃さず、センターバックの後藤が左サイドの伊藤の足下に、中盤の相手の頭上すれすれを越すライナー性のフィードをピタリとつけると、連動して中央から松田が駆け上がり、完全に相手を崩した。個々の判断と技術を連動させた細やかな崩しはその後、右サイドや中盤でも生まれ、オーストラリアを消耗させていった。ピッチサイドで戦況を見守っていたリア・ブレイニー監督が、成す術がないとでも言いたげな表情で何度かベンチの方を振り返っていたのが印象的だった。

 池田監督はハーフタイムに次のような指示を伝えたという。

「前半はボールを動かせていたのですが、中盤で選手の距離感が開きすぎていた部分があったので、距離感を縮めて、コンビネーションが生まれるようにトライしよう、と伝えました」

 そして後半、オーストラリアが点を取りに来たこともあり、日本の攻撃が面白いように形になっていく。

 48分、ワンツーパスから中尾のループパスに抜け出した大澤の2点目で3-0。50分には菅野のパスをゴール前で受けた山本が鋭いターンから左足で鮮やかに決めた。さらに、その2分後には右サイドでボールを受けた山本がファーサイドにクロスを入れ、伊藤がオーストラリアの選手の上からヘディングで豪快に叩き込む。わずか5分あまりで3ゴールを追加し、集中力が切れかけたオーストラリアは58分までに3人の交代枠を使い切る。しかし、交代選手が躍動したのは日本だった。

 2トップの一角に入ったFW廣澤真穂(ひろさわ・まほ)が、初戦のミャンマー戦に続き、途中出場でジョーカーとしての存在感を発揮。80分、右サイドで船木の浮き玉のパスに抜け出すと自らドリブルで持ち込み、「ゴールしか見えていなかったので、思いっきり打ちました」(廣澤)と、GKの頭上を抜く迫力満点のゴールを決める。86分には、同じく途中交代でピッチに立ったFW水野蕗奈(みずの・ふきな)とMF瀧澤千聖(たきざわ・ちせ)との連係から再び廣澤が中央を抜け出し、ゴール右に流し込んだ。

 前線が流動的にポジションを変えながら個の突破を武器とするオーストラリアのストロングポイントを出させることなく、最後まで攻め抜いた日本。この試合のプレイヤー・オブ・ザ・マッチには、フル出場で中盤を支え、印象的な2アシストを決めた中尾が選出された。

【攻撃を彩った3人】

 16得点1失点。持ち前の粘り強い守備と技術の高さを存分に発揮し、日本は決勝までの4試合を勝ち抜いた。池田監督はこのチームの強さの要因を聞かれ、こう明かしている。

「選手全員が常に良いパフォーマンスをしてくれるので、誰が出ても良い状態を作ることができているのがこのチームの強みだと思います」

 個々が高いパフォーマンスを発揮できている要因の一つは、切り替えの早さやサポートの質で相手を上回り、チーム全体が細やかに連動できているからだろう。

 その中で、所属チームが同じ選手同士のホットラインも強力な武器になっている。たとえば菅野と松田はリーグ5連覇中の日テレ・ベレーザに所属しており、後藤、伊藤、山本はその下部組織のメニーナ所属だが、二重登録でベレーザの試合にも出ている。GK田中と船木もメニーナ出身だ。大澤と中尾はジェフユナイテッド市原・千葉レディースの下部組織、廣澤と船木は現在、早稲田大学のチームメートだ。この試合は各チームのホットラインがゴールに直結した。

松田紫野(筆者撮影)
松田紫野(筆者撮影)

 個々に目を向けると、オーストラリアの守備を崩す上では、左サイドバックの松田の効果的な攻撃参加が光った。

 昨年のFIFA U-17女子W杯(ウルグアイ)ではキャプテンとしてチームを牽引。ニュージーランドとのPK戦の末にベスト8で敗退し、大粒の悔し涙を流しながらテレビのインタビューに答えていた姿が忘れられない。今季はベレーザの最終ラインで出場時間を伸ばし、2冠に貢献。主力のほとんどがなでしこジャパンの選手という中で研鑽を積み、成長を見せている。オーストラリア戦後、松田は楽しそうにこう語った。

「今日はW杯の出場権がかかっているという緊張感もあったのですが、試合が始まったら、サイドを自分たちの好きなように崩せていたので、サッカーの楽しさを感じながらプレーできました」

 決勝で対戦する北朝鮮にはサイドにスピードとテクニックのあるアタッカーがいるが、試合に出れば見応えのあるマッチアップになりそうだ。

 ここまで攻撃陣では山本が4ゴール、大澤が3ゴール、廣澤が3ゴールを決めている。先発で試合の流れを作る山本と大澤の活躍は際立っているが、途中出場の2試合で3ゴールを決めている廣澤の決定力も光る。この試合の終盤に決めた2ゴールはどちらも力強く、強烈なインパクトがあった。

「出場機会が(これまでは)限られているなかで、チームが苦しい時に点を取れるような選手になりたいと思っています。貪欲にゴールを目指してチームの流れを変えたり、試合を決定づけることを心がけています」(廣澤)

 167cmと長身でフィジカルが強く、そこに決定力も加われば、相手にとっては嫌な存在に違いない。北朝鮮もこれまでの試合では、途中交代の選手がゴールを決めており、層の厚さを感じさせる。決勝は両監督の采配と、交代でピッチに立つ選手の役割にも注目したい。

ダブルボランチを組む中尾萌々(左)と菅野奏音(右)(筆者撮影)
ダブルボランチを組む中尾萌々(左)と菅野奏音(右)(筆者撮影)

 また、北朝鮮は守備の堅さや、連動した崩しの形が多いという点で日本と共通している。日本が主導権を握るためには、攻守のタクトを握る菅野のパフォーマンスが一つのポイントになりそうだ。オーストラリア戦では「(相手が)ここまで引いてくるとは予想外でした」と振り返ったが、その中で引いた相手を崩す引き出しの多さを示した。

 1点が勝負を分ける試合になれば、セットプレーも大きなカギになる。菅野はキッカーとして精度の高いキックを蹴っており、特にコーナーキックではゴールの匂いが漂う。韓国戦では拮抗した中で鮮やかなミドルシュートを決めたように、流れの中の一発も持っており、期待がかかる。

 前日の選手ミーティングについて菅野は、「キャプテンのはなさんがまとめてくれて、全員で自分の目標を話し合って、チームの結束は高まったと思います」と高橋への感謝を込めた。

 U-20女子W杯出場権獲得を喜びつつも、それはあくまで「通過点」であることを強調し、「大事な試合で点を取って勝ちを決められる選手になりたいので、決勝は得点を狙います」と、力強く宣言した。

【決勝は3大会連続で北朝鮮との対戦に】

 日本がAFC U-19女子選手権決勝で北朝鮮と対戦するのは、過去10大会で5回目。2015年の前々回と、17年の前回大会はいずれも日本が勝っている。

 ここまでの試合を見る限り、韓国やオーストラリアのような高さはないが、個々の技術が高く、攻守によく組織されている。ここまで4試合で14点を決めているが、そのうち5点がコーナーキックから生まれており、クロスからのゴールが多い。

瀧澤千聖(筆者撮影)
瀧澤千聖(筆者撮影)

「DPR KOREA(北朝鮮)の選手は全員が気持ちが入っているのがプレーでも表れているので、まずはそこに圧倒されないようにしたいです。自分たちがそれを跳ね返すぐらいの気持ちと、このチームらしいサッカーをしていけば結果はついてくると思います」

 

 キャプテンの高橋は北朝鮮の印象についてこう語り、表情を引き締めた。

 また、2年前のAFC U-16女子選手権では準決勝で韓国に敗れた経験を持つ瀧澤はこう語った。

「表彰式で、優勝したDPR KOREAがカップを掲げる姿を悔しい思いで見ていました。今回は同じ思いをしないように全員で戦って、笑顔で優勝カップを掲げたいです」

 その表情には、勝利への強い意欲が見えた。

 これまでの4試合とはまた違ったさらに強いプレッシャーの中で行われる北朝鮮との決勝戦。高く険しいハードルを乗り越えることで得られる真の強さとアジアチャンピオンの称号を、23人全員で掴み取ってほしい。

 試合は11月9日(土)日本時間22時キックオフ。21時55分よりCSテレ朝チャンネル1で放送される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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