予想外のプレーを生み出す“感覚派”。FW増矢理花は大一番でINACの切り札になるか

リーグ杯決勝進出の立役者となった増矢理花(右/写真はリーグ第6節)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 なでしこリーグカップ1部は7月27日(土)と28日(日)に準決勝の2試合が行われた。INAC神戸レオネッサ(INAC)はノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)に2-1、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)は浦和レッズレディースに3-2で勝利。8月3日(土)に味の素フィールド西が丘で行われる決勝戦は、2年連続で同じ顔合わせとなった。

 昨年、リーグ、リーグ杯、皇后杯の3冠を達成したベレーザに対し、INACはいずれも準優勝。INACが最後にベレーザに勝った試合は2017年5月のリーグ第9節(○1-0)まで遡らなければならない。

 INACの鈴木俊監督はベレーザでヘッドコーチを務めたことがあり、ベレーザの永田雅人監督とは旧知の仲。相手の強みは知り抜いている。

 準決勝のノジマ戦の後、鈴木監督は3日の決勝戦に向け、チャレンジャーとしての立場を強調した。

「ベレーザはうまくて賢くて強い。自分たちの持っているものをぶつけるには理想の相手なので、やるべきことを整理して戦うだけです。一発勝負は何があるかわからないので、自分たちにもチャンスがあることを伝えながら準備したいと思います」

 今度こそ、INACは「シルバーコレクター」を返上することができるだろうか?

【存在感を増す背番号9】

 決勝で活躍が予想される選手の一人がMF増矢理花だ。対ベレーザ戦は直近の2試合で2得点と相性が良く、いずれも先制ゴールでゲームの流れを引き寄せている。

 

 6月の女子W杯では選外となったが、高倉ジャパンにはコンスタントに招集されてきた。ポジションは前線を広くカバーできるが、INACではトップ下のイメージが強い。鋭いターン、深い切り返しを交えたドリブル、ワンタッチパス、相手GKのタイミングを外すシュートなど、狭い局面を打開するアイデアが豊富だ。

 準決勝のノジマ戦では2ゴールに絡む活躍で勝利の立役者になった。MF中島依美のクロスに頭で合わせた67分のゴールが決勝点となったが、先制ゴールの起点となった54分のMF八坂芽依へのスルーパスは、何度もリプレイで見たくなるようなスーパープレーだった。中盤右サイドでボールを奪うと、中央にカットイン。2回のタッチでマークを1人はがし、相手ディフェンダーが密集する中に右足のアウトサイドでパスを送った。絶妙なコースどりで複数の相手の重心の逆をとり、針の穴に糸を通すようなコースに通されたそのパスは、トップスピードでゴール前に抜けていく八坂の足下にピタリと収まる絶妙の軌道だった。

「考えすぎず、シンプルにプレーしています。感覚的にやっている部分も多いですね。今日は(八坂)芽依がいいタイミングで裏のスペースに動き出してくれていたし、(京川)舞さんも裏で要求してくれていたので出しやすかったです」

 増矢は試合後、自身のプレーについて飄々と振り返った。「感覚的」という自らのプレースタイルを培った原点について聞いてみると、子供のような照れ笑いを浮かべてしばらく考えた後、「どこで……というよりは、サッカーをやる中で、いつも相手の意表をつこうとは考えていました」と口にした。

サポーターと勝利の喜びを分かち合った(増矢は左から2人目/筆者撮影)
サポーターと勝利の喜びを分かち合った(増矢は左から2人目/筆者撮影)

【年代別代表で際立ったセンス】

 徳島県出身の増矢は、日本サッカー協会が立ち上げたエリート養成所であるJFAアカデミー福島で、中学から高校までの6年間を過ごした。非凡なセンスは、年代別代表でプレーしていた頃から注目されていた。2012年のU-17女子W杯では、FW籾木結花、MF長谷川唯、MF杉田妃和ら、後にフル代表で活躍するメンバーがずらりと揃うチームでエースナンバーを背負った。同大会で日本はベスト8で敗退したが、指導者や関係者の中には、当時のチームを「歴代のU-17女子代表の中でもトップクラスのポテンシャルを持った選手の集まりだった」と評価する人もいる。増矢はその世代で非凡な才能を認められた一人だった。

 14年にINACに入団してからも、リーグではコンスタントに出場機会を得てきた。だが、感覚的なプレーは計算してできるものではない。非凡なパスも、味方とイメージが共有できなければミスになってしまう。

「考えすぎると自分のプレーが発揮しづらくてミスも増えてしまうので、難しいですね。うまくいくのは感覚でやれている時、それが成功している時です」

 16年のシーズン前に増矢はそう話していた。当時INACを指導していたのは、澤穂希をはじめ、11年のW杯優勝世代を育てた松田岳夫監督(現・福島ユナイテッドFC)。その松田監督が、「女子選手の中にはこんなタイプがいるのか」と新鮮に感じたと話していたのが増矢だった。当時、こんな風に明かしていた。

「普段の練習ではいろんなことを意識させても、いざ試合をやってみたら、すべてを忘れて自分の持っているものを出し尽くそうとする。ここまで天然になりきれるのか、と。試合は自分の良さを出す場なのでね、こうやって出す選手もいるんだな、と感じました。逆に言えば、まったく考えていない(笑)。練習で意識したことがすぐには身にならない。でも持っている力は常に100%出す。こういう選手がどれだけ時間をかけて伸びていくのか、楽しみですね」(松田監督)

 16年3月にスペインで行われた23歳以下のラ・マンガ国際大会で、増矢はU-23日本女子代表の背番号10を背負った。同大会で日本はノルウェー、スウェーデン、ドイツに3連勝。筆者は同大会を取材していたが、アメリカをはじめ、他国の育成関係者のなかで話題になっていたのが増矢だった。高く評価されたのは、その技術の高さだった。

【視野の広がりが生む変化】

 17年から増矢を見てきた鈴木監督は、27日のノジマ戦の後に、増矢の成長についてこう明かしている。

「彼女はこれまで、全員が驚くようなターンをした後にとんでもないミスパスをすることがありました。『感覚だけでサッカーをするな』と伝えてきましたし、丁寧にやるようになってきたと思います。ただ、誰も持っていない感覚なので、それをなくしてもらっては困るし、代表や海外を目指す上であのターンは絶対に武器になると思うので尊重しています。どうやってチームにフィットさせていくのかは本人次第なので、我慢しながら(の起用)ですけれど、彼女の良さは出てきていると思います」

 ノジマ戦では得点に直結した2つのシーン以外にも、囮になって背後から走り込む味方のスペースを作ったり、ワンツーで相手を交わしたりと、味方とイメージを共有して崩すシーンが多く見られた。

 自分のプレーに対して、以前にはなかった手応えを感じているのではないかーー?

 それが知りたくて様々な角度から聞くと、増矢は訥々とこう語った。

「(ボールの)持ち方は気にしています。あとはファーストタッチや、(ドリブルで)スピードを上げすぎないようにしたりとか、ですね。昔はボールだけを見てプレーしていたのですが、スペースや味方の動きなど、周りが見られるようになりました」

 最後の一言には、確信を込めた響きがあった。今まで見えていなかったものが自然と見えるようになってきたーーそんなニュアンスも感じられた。

 増矢は今季、INACで6シーズン目にして初めて、リーグ戦とカップ戦の全試合に出場している。

 途中出場でも途中交代でも精神的に波がなく、安定しているーー。それも彼女の非凡な才能だ。女子W杯期間中に行われたリーグカップ予選では、主力を複数欠いた中でほとんどの試合にフル出場してきた。

「代表から外れた時もすごく前向きにチームのために取り組んでくれていました。彼女は落ち込むことがあるのかな、と思うほどポジティブで、ムードメーカーの一人ですね。チームでの自分の立ち位置をしっかりと考えながら、中心選手としてコンスタントに力を発揮できるようになってきたと思います」(鈴木監督)

 試合に臨む時の心の準備について増矢に聞いてみると、プレーについて話す時とは異なり、言葉がスムーズに紡ぎ出された。

「チームが勝つことを一番に考えているので、先発で出るときは『出られない人の分もやろう』と思うし、途中から出るときは『流れを自分が変える』という気持ちですね。悔しさとか、感情は出ている方だと思いますけどね(笑)。(東京五輪に向けては)チームがあっての代表だと思うので、(メンバー入りを)目指しながらも、まずはチームでしっかり結果を残したいと思います」

 以前よりも広くなった視野の中で生み出される直感的な閃きは、相手の守備に脅威を与える鋭い矛(ほこ)へと変わりつつある。

 3日の決勝で、その威力は発揮されるだろうか。

 今季一つ目のタイトルを手にするのは、ベレーザか、INACか。なでしこリーグの2大勢力のプライドを懸けた戦いに注目したい。