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W杯の“前哨戦”は完敗。強豪イングランドに敗れ、3位で大会を終えたなでしこジャパン

松原渓スポーツジャーナリスト
第3戦でイングランドと対戦したなでしこジャパン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【前半30分までに0-3】

 女子W杯を6月に控え、なでしこジャパン(FIFAランク8位)はアメリカ(同1位)、ブラジル(同10位)、イングランド(同4位)との4ヶ国対抗戦「シービリーブスカップ」に出場。W杯に向けたチームの最終調整と新戦力の見極めを同時に行いながら、アメリカ戦(△2-2)、ブラジル戦(○3-1)と強豪相手に好ゲームを重ね、引き分け以上で優勝が決まる状況で第3戦のイングランド戦を迎えた。

 両者は今年6月の女子W杯グループステージで対戦が決まっており、“前哨戦”とも言える一戦だったが、日本は0-3の完敗。

 初戦のアメリカ戦後にキャプテンのDF熊谷紗希、GK齊藤彩佳、DF市瀬菜々の3名がインフルエンザと診断され、MF三浦成美も体調不良で2試合を欠場。加えて、イングランド戦では攻撃の軸であるMF中島依美を欠くことに。大黒柱を欠く非常事態の中、高倉監督はこの試合でも新戦力を積極的にピッチに送り出した。

 ダブルボランチはアメリカ戦と同じMF松原有沙とMF杉田妃和のコンビを起用し、センターバックにはブラジル戦に続いてDF大賀理紗子、DF南萌華の2人。そして、2トップにはFW池尻茉由と最年少のFW遠藤純を抜擢した。今大会でA代表デビューを飾ったばかりの若い選手たちで中央を構成したのだ。

 一方、GKは3試合連続で山根恵里奈。両サイドバックにはDF鮫島彩とDF清水梨紗、両翼にMF長谷川唯とMF阪口萌乃と、外枠は安定感を重視した構成となった。

「最終的な選手の見極めも考えながら、前半はとにかく耐えるイメージで並べました」

 高倉監督はスターティングメンバーの狙いをそう明かしたが、結果的には前半30分までに3失点という苦しい展開に陥った。

 12分に中央をドリブルで割られ、マークが甘くなったところでFWスタニフォースにグラウンダーのシュートを叩き込まれると、24分には日本の左サイドのスローインから振り切られてクロスを上げられ、中央に走り込んだMFカーニーもフリーにしてしまう。29分には守備の連係ミスをつかれ、日本の左サイドの裏のスペースに走ったMFミードの突破を許し、0-3。守備の強度や集中力において、経験の浅さと連係不足を露呈してしまった。

 フィールドプレーヤーで唯一イングランドとの対戦経験があり、この試合でキャプテンマークを巻いた鮫島は、「(失点の形は)このパターンもあったな、というイングランドらしい形。わかっていながらやられました」と振り返った。

 イングランドを率いるのは、かつてマンチェスター・ユナイテッドなどでプレーしたP.ネヴィル監督。同氏はこれまでの2戦からメンバーを替え、それまでの4-2-3-1ではなく4-1-4-1で、日本(4-4-2)との中盤にミスマッチを生じさせた。日本は初戦のアメリカ戦でも中盤のミスマッチによってマークが曖昧になったところから失点しており、後半に修正してなんとか同点に追いつくことができたが、ネヴィル監督は、そこに隙を見出したのかもしれない。

 イングランドはアメリカやブラジルに比べてもボールの動かし方に工夫が感じられ、ミスが少なかった。そして、日本はアメリカ戦の教訓を生かし、早い段階で修正することができなかった。

 また、アメリカ戦とブラジル戦の日本はテンポの良い攻撃によって、相手の勢いをある程度牽制してきたが、この試合は攻撃がうまくいかないことも守備に波及した。全体的に選手同士の距離が遠く、嫌な失い方からカウンターを受ける悪循環に陥った。

【流れを引き寄せた後半】

 3失点を喫し、イングランドにゲームをコントロールされてもおかしくない状況だったが、後半は一転、守備を固めた相手に主導権を握り、数多くのチャンスを作った。

 流れを引き寄せたのは、交代だ。

「プランよりも早めに動きました。先発で送り出した以上時間は必要で、(先発で送り出した選手が)どのように立て直していくのかということも見ていましたが、前半は相手を裏返す(勢いを跳ね返す)パワーが出ませんでした」(高倉監督)

 そう話した指揮官は、ハーフタイムに「4枚替え」を敢行。

 FW横山久美とFW小林里歌子がツートップを組み、MF籾木結花が右サイドハーフに。ボランチには三浦を投入し、松原を一列下げて南とセンターバックを組む形にした。

 

 前線はキープ力に長けた横山と籾木、パスの潤滑油になれる小林が入ったことで攻撃に厚みが生まれた。また、中盤では三浦が低い位置でバランスをとり、杉田や長谷川の効果的な攻撃参加を引き出していた。松原の本職はボランチだが、大学時代はセンターバックだった。代表では練習でもやっていなかったポジションだが、ハードルの高いリクエストは、“選手見極めのテスト”でもある。そんな中、松原は柔軟に対応し、コンタクトプレーの強さや、中盤からの強烈なミドルなど、持ち味でもあるスケールの大きさをみせていた。

 日本は後半、ほとんど3分おきに決定機を作り出し、試合が終わってみれば16本(イングランドは10本)ものシュートを放っている。だが、最後まで引いたイングランドの堅守を破ることはできなかった。

 最終成績はイングランドが優勝、アメリカが2位で、日本は1勝1分1敗、4ヶ国中3位の成績で大会を終えることとなった。

【攻守の課題と収穫】

 確固たるスタイルと実力を持つイングランドに対し、若く、経験の浅い選手たちを送り出すことのリスクは十分に予想できた。だが、あえて選手に高いハードルを課すことで、「戦える選手を見極める」狙いを、指揮官は試合前に強調していた。

 優勝にこだわっていなかったわけではない。実際、日本はアメリカ戦、ブラジル戦と、多くの欠場者を出しながら総力戦で戦い抜き、コミュニケーションを深め、1試合ごとに自信も積み上げてきた。

 アメリカやブラジルのような強豪国と戦える機会を無駄にしたくない、という強い覚悟を、新戦力の選手たちも含め、それぞれがしっかりとピッチで表現してきた。だが、イングランドに見せつけられた現実は厳しいものだった。

 代表には結果を出さなければならない責任もついて回る。敗戦によって突きつけられるその重みも、ピッチに立った者でないとわからないだろう。

 大会を通じた収穫に目を向けると、守備面では、アメリカやブラジルなど、これまで苦手としていた欧米国に対して粘り強く守れたことだ。一方、イングランドのように、組織的な攻守の中で身体能力を生かしてくるチームに対する守備は今後の課題だろう。

「選手間でコミュニケーションは取れていますが、こういう結果なのでもっと必要だと思います。試合に出るメンバーで状況に応じた決め事を話すので、それを積み上げていきたいですね」(鮫島)

 試合ごとにメンバーが変わる中で、守備の共通意識を上げていくことのポイントを、鮫島はそう話した。

 攻撃面では、新戦力も含めた個の力が見えやすく、いくつかのホットラインが強豪国に通用することもわかった。イングランド戦で後半に見せた迫力を前半から示せていたら、結果は違ったものになっただろう。

 後半からピッチに立った籾木は前半をベンチから見て、

「相手のプレッシャーを受けにいくのではなく、相手を引き出すようなポジショニング」を意識したという。大会3試合で2ゴール2アシストの結果は申し分なく、強豪国に対する決定力の高さを証明した。

 また、籾木とともに攻撃の軸になったのが横山だった。強豪相手に多くのゴールを決めてきたが、今大会は周囲を生かす献身的なプレーが目立った。FW岩渕真奈やFW菅澤優衣香、FW田中美南といった、同じくレギュラークラスのFW陣がいない中、その役回りは本人も覚悟していたという。

「いろんなことをやらないといけなかったし、点を取るだけではないのがFWですから。でも、一番肝心な仕事はゴールを取ることで、結果を残せなかったことは自分の力不足。でも、これが(本番前の)この大会でよかったなと思います」(横山)

 

 また、3試合を通じて成長が見えたのがFW小林だ。フリーでボールを受ける動きの質が高く、イングランド戦でも攻撃の流れをスムーズにした。

「裏に抜け出す動きを入れると相手が早く下がるのはわかっていました。そこで(フェイントを入れて)止まったところを周りの選手が見てくれるので、(周りとの)タイミングは合っていました」(小林)

 アメリカ戦では自分らしいプレーが出せなかったという小林だが、ブラジル戦では積極的にボールに絡んで日本の逆転ゴールを決めた。そして、イングランド戦では相手の強度やスピードを感じながら、周囲との連係からフィニッシュまでの形も作り出すなど、試合ごとに国際大会の強度に順応していったのは印象的だった。

 

【W杯まで3ヶ月】

 W杯まで100日を切った。ここからの過ごし方が、チームの命運を握っていると言っても過言ではないだろう。4月には、フランス(FIFAランク3位/4日)、ドイツ(同2位/9日)との対戦が決まっている。そして、5月末からの直前合宿を経て、チームはフランス入りする。 

「世界一を目指す上で、通用する選手(を選ぶ)という意味で、厳しい判断を下さないといけないと思います。ドイツ、フランスという(W杯)優勝を狙うチームと対戦できるので、欠けているピースと軸になるものを固めていくつもりです」(高倉監督)

 

 過去3年間で50名以上の候補が高倉ジャパンのリストに入ってきた。その中から、3ヶ月後の最後の23枠に残るのは誰かーー。 

 今大会には招集されなかったレギュラークラスの実力者たちや、若手有力候補もいる。そして、今大会で結果を出した新戦力のアピールも、4月のメンバー選考に反映されるだろう。

 3月21日に開幕するなでしこリーグでは、そういった選手たちが高いモチベーションでしのぎを削り合う。各地で繰り広げられるであろう好プレーを目に焼き付けておきたいところだ。

W杯本番でも対戦するイングランドが優勝した(筆者撮影)
W杯本番でも対戦するイングランドが優勝した(筆者撮影)

 

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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