京川舞の決勝ゴールでINACがベレーザとの元日決戦へ。W杯イヤーのスタートを優勝で飾るのはどちらか

2年ぶりに決勝進出したINAC(京川は右から2番目/2016年皇后杯準決勝)(写真:アフロスポーツ)

【激闘を制した決勝ゴール】

 決勝ゴールが生まれたのは、PK戦突入が目前に迫った115分だった。

 12月29日(土)に行われた皇后杯準決勝。

 2年ぶりの優勝を目指すINAC神戸レオネッサ(INAC)を待ち受けていたのは、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)だった。

 千葉はベスト4進出チームで唯一、全3試合を無失点で勝ち上がっており、INACがその堅守を破ることができるかどうかは見どころの一つだった。

「ジェフとは必ず競った試合になるので、120分間、PKも含めて(戦い方を)プランニングした」と鈴木俊監督(INAC)。

 ボールを持つ時間が長くなったのはINACだが、千葉は得意のカウンターから“一発”を虎視眈々と狙い続けた。結局、試合は両チームとも決め手を欠いた中で15分ハーフの延長戦に突入。

 関西地方を襲った大寒波の影響で寒さが厳しさを増す中、膠着した展開に終止符を打ったのはFW京川舞だ。

 自陣ゴール前でボールを奪ったINACがカウンターを発動。自陣中央でボールを収めたFW岩渕真奈が、右にターンして柔らかいスルーパスを送ると、ハーフウェーライン手前から猛然とダッシュして2人のディフェンダーを振り切った京川が走り込み、GKとの1対1を迎えた。そして、角度のない位置からゴール左隅にグラウンダーのシュートを突き刺した。

 動き出しのタイミングの良さに加え、延長後半でも衰えない走りと決定力の質が、ストライカーとしての非凡さを証明していた。

「相手と駆け引きしながら、背後に抜ける動きをずっと狙っていました。あの(ゴール)シーンはブッチー(岩渕)さんのボールが良かったし、自分自身もいいタイミングで抜けることができました」(京川)

決勝ゴールを決めた京川舞(写真:Kei Matsubara)
決勝ゴールを決めた京川舞(写真:Kei Matsubara)

 前日に25歳の誕生日を迎え、2つの祝福を受けた試合後、京川は喜びを噛みしめるように言った。皇后杯ではここまで4試合で5ゴールを挙げており、高い決定力が光る。

 終盤まで前線の交代カードを切らなかった理由について、鈴木監督は「京川が疲労していれば変えようと思いましたが、(プレーの質が)落ちていなかったので」と、試合後に明かしている。

 一方、京川は120分間高い集中力を継続できた理由をこんな風に分析した。

「動きすぎないで、常に(ゴールするための)いい位置にいるようにと監督から言われてきました。今シーズンはそれがやれるようになってきたからこそ、100(パーセント)で(シュートに)いける回数が増えたり、チャンスで顔を出せるようになったと思います」(京川)

 豊富なスタミナが持ち味の一つでもある。守備や長い距離のダッシュでも手を抜かず、献身的なプレーでチームを助けてきた。反面、裏に抜け出す場面ではオフサイドにかかってしまう場面も多く、動き出しのタイミングは課題の一つでもあった。

 だからこそ、今季はそのスタミナをより効果的に生かすために、判断の質や、出し手との呼吸にもこだわってきた。効率の良い動き方は、バルセロナのFWルイス・スアレスを参考にしてきたという。

 岩渕のスルーパスに対してオフサイドギリギリの絶妙なタイミングで飛び出した決勝ゴールは、まさにその取り組みが実を結んだゴールだった。

【超高校級ストライカーの苦悩】

 各年代別代表でエース級のストライカーとして活躍した京川は、2012年に女子サッカーの名門・常盤木学園高校を卒業してINACに入団。

 当時のINACには前年の女子W杯で優勝した代表の主力メンバーが多く所属し、リーグでは無敗優勝(2011)するなど無双していた。そんな中、2011年のU‐19女子アジア選手権(優勝)で得点王とMVPに輝いた京川の入団は、同期のMF仲田歩夢とMF田中陽子とともに、「なでしこブーム」の後押しも受けて、大きな注目を集めた。そして、その年のリーグ戦では開幕から4試合連続ゴールを挙げるなど、トップリーグでのキャリアを理想的な形でスタートさせたかに見えた。

 だが、同年のリーグ戦第5節で左膝の内側側副靱帯および内側半月板損傷、さらに前十字靱帯断裂の大ケガを負ってしまう。約7カ月のリハビリを乗り越えた復帰直後には再び同じ箇所を痛めるなど、試練は続いた。

 そして、ピッチにコンスタントに立てるようになってからは、厳しい競争の中で定位置を得るのに苦労した。代表とチームの双方でサイドバックに適性を見出されてコンバートされた時期もあるが、目に見える「結果」は、なかなか出なかった。

 高校時代に京川のストライカーとしての資質を引き出した常盤木の阿部由晴監督は、彼女の特長と適性についてこう語っていたことがある。

「京川の怖さは前(のポジション)でやれることだと思います。ボールを追いかけていく1、2mのスピードは、まるで何かに変身したかのように速い。その速さは女性がなかなか持てないもので、違うポジションだとその良さが出てこない。ディフェンダーがボールを持った瞬間にスピードを上げて奪い切る。そのうち、彼女が動いただけで相手がミスをするようになる。あのスピードは天性のものです」

 試練が次々に訪れる中で、京川自身、やり場のない悔しい思いも山ほど味わってきたはずだ。

 メディアに対して自分の弱さを率直に語ることもあったが、それは、厳しい現実から逃げずに向き合っている証でもあった。代表の話題になれば、「サッカーをやっている以上は代表に入ることが目標です」と、強い想いを口にした。

 そして、入団して7年目の今季、京川は鈴木監督の下でシーズン途中からワントップのポジションに定着し、輝きを放ち始めている。

「彼女の特徴は、スペースに対して飛び出していくところ。今シーズン、その飛び出しにチームが救われているシーンが何度もあります。シュートがうまいしヘディングもできるし、今、うちで得点を取らなければいけないのが京川。決勝でも嗅覚を研ぎ澄ませて得点してほしいです」

 鈴木監督は皇后杯決勝戦に向けて、京川への強い期待を言葉に込めた。

 試合後の取材中、印象的な場面があった。試合について一通りの質問に答えた後、記者から「今日は寒かった?」と何気なく聞かれた時のことだ。

「はい!今日は寒かったですね、特に(日が落ちた)後半は。でも絶対に、試合を見ているほうが寒いですよね」

 疲れを微塵も感じさせない明るい口調で、京川は言った。

 その細やかな気遣いは以前から変わらず、先輩からも後輩からも愛される人柄が伝わってくる。

 それは、FWとしては必ずしもプラスに働かないこともあるだろう。強引さやエゴを感じさせるプレーは元々、あまり多くない。

 だが、気遣いや思いやりは「想像力」にも置き換えられるはずだ。

 ゴールから逆算した動きでより効果的にボールを引き出せるようになり、自分らしいFW像を見つけつつある京川の今後が楽しみである。

【元日決戦を制するのはどちらか】

 皇后杯決勝の相手は昨年女王の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)。

今期4度目の対戦で勝利なるか(写真:Kei Matsubara)
今期4度目の対戦で勝利なるか(写真:Kei Matsubara)

 今シーズン、INACはベレーザと3度対戦して、1分2敗と一度も勝っていない。ただし、敗れた試合は全て1点差で、直近のリーグ戦(10月20日、リーグ第16節)はスコアレスドローで終えた。

 リーグ戦もリーグ杯も2位でベレーザの後塵を拝しており、元日の決勝で、3冠達成を見届ける悪夢は何としても避けたいところだろう。

 鈴木監督は、7月のリーグ杯決勝(●0-1)では守備を固めて戦い、10月のリーグ戦(△0-0)では「ラインを高く保った中で、自分たちのゴールから遠ざけた状態でボールを回させる」(鈴木監督)戦い方を選択した。

 果たして、元日の決勝ではどのような策を講じるのか。指揮官は準決勝の後、その一端をこんな風に明かした。

「自分たちの守備の時間が長くなるかもしれないですが、(INACには)粘り強く戦っていく中でワンチャンスをものにする選手たちが揃っているので。流れの中とリスタートを含めてなんとか1点取って勝ちたいと思っています」(鈴木監督)

 準決勝で、その「ワンチャンス」をものにした京川を筆頭に、INAC攻撃陣の顔ぶれはベレーザに負けず劣らず豪華だ。

「INACの(攻撃陣に)は同じ種類の選手がいないんです。お互いの特徴を、それぞれが引き出せるようになってきたと思います」

 決勝進出のもう一人の立役者でもある岩渕は、12月初頭の3回戦の後にそう話していた。岩渕のドリブル、FW増矢理花の緩急、MFイ・ミナの突破力、高精度を誇る仲田の左足。そして、京川の運動量と決定力。それらの多彩な個性をここぞという場面で活かし合えるかどうかが、ベレーザの堅守を破る上でカギになるだろう。

 皇后杯決勝は1月1日、14:45にパナソニックスタジアム吹田でキックオフを迎える(入場は無料)。

 W杯イヤーの2019年のスタートとなるこの一戦は、ベレーザが大会連覇を達成し、11年ぶりの3冠達成を実現するか。

 はたまた、INACが2大会ぶりの女王の座に輝くのかーー。

 日本女子サッカー界の2大勢力が意地とプライドを賭けて戦う一戦は必見だ。