新潟が皇后杯でベスト8に進出。リーグと代表で存在感を増すMF阪口萌乃の急成長が上位進出のカギに

代表とリーグで存在感を増す阪口萌乃(3月24日 千葉戦)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【利き足で作った伏線】

 その場面は、1-1で迎えた70分に訪れた。

 アルビレックス新潟レディース(新潟)のMF阪口萌乃が右足でクロスを上げようとキックモーションを入れると、相手ディフェンダーは足を投げ出してブロックを試みた。

 すると、阪口はこれを鮮やかに切り返してかわし、逆足でグラウンダーのパスに切り替えた。左足から放たれた、強さもコースも絶妙のパスをFW佐伯彩がスルーし、ファーサイドから走り込んだDF小原由梨愛が押し込んだ。

 12月2日に行われた皇后杯3回戦で、新潟は日体大FIELDS横浜(日体大)と対戦し、3-1で勝利している。拮抗した流れを新潟に引き寄せたのが、この2点目だった。

 鮮やかに決まった阪口の右足のフェイントは、それまでのプレーに伏線があった。新潟のセットプレーは、左利きのMF上尾野辺めぐみと右利きの阪口が状況に応じて蹴り分けており、トップ下のポジションを務めた阪口は、流れの中でも右足で数多くのチャンスを創出していたのだ。

 その中で迎えた冒頭のシーンで、阪口のフェイントに相手選手が思わず足を投げ出したのも無理はなかった。

「駆け引きしながら、イメージ通りにかわすことができました。中でもみんながしっかり駆け引きしてくれた中でゴールに繋がって良かったです」(阪口)

 阪口は丁寧に言葉を選び、訥々と語った。

 皇后杯は一発勝負のトーナメント形式で、負ければ即敗退が決まる。それだけにどのチームも守備は固く、ゴール前の駆け引きにもリーグ戦とは異なる緊張感が漂う。その中で、阪口のテクニックは際立っていた。

 極め付きは76分。相手のセンターバックに鋭く寄せてミスを誘い、間髪入れずに動き出して佐伯のスルーパスを引き出した阪口は、相手ディフェンダーとボールの間に体を滑り込ませるようにドリブルし、ダメ押しの3点目を決めている。

 プレーに派手さはないが、丁寧で確実。そして、局面を有利に運ぶ引き出しをいくつも持っている。1試合見ただけでプレーの魅力を語ることはできないだろう。

 新潟に加入して6シーズン目の今年は代表にも初招集され、ますます存在感を増している。

「(リーグの)オフ期間なしに代表に行ってプレーするのは、新潟で昨年までの5シーズンはなかったことです。タフでハードで、体調管理の部分では大変なシーズンでした。その中で(ケガなく)やって来られたことは自信になりました」(阪口)

 激動のシーズンを、阪口はそう振り返った。

ベスト8進出を決めた新潟イレブン(阪口は前列左から2番目/写真:Kei Matsubara)
ベスト8進出を決めた新潟イレブン(阪口は前列左から2番目/写真:Kei Matsubara)

【リーグ屈指のユーティリティ選手に】

 阪口がなでしこジャパンに“発掘”されたのは、今年2月に大阪で行われた、代表の「チャレンジキャンプ」だった。

 その後、2019年フランス女子W杯アジア最終予選を兼ねた今年4月の女子アジアカップで負傷者が出たため、追加招集でA代表入りを果たしている。そのアジアカップでは出場機会がなかったが、6月のニュージーランド遠征でトップ下のポジションで途中出場し、積極的なプレーでアピールした。

 高倉麻子監督はこの時に、

「自チーム(新潟)での活躍を見て招集しました。足下の技術が非常にしっかりしているし、前を向くスピードと判断のスピードも速いので、前で点を取るプレーに期待できる」

 と、攻撃面の可能性を高く評価している。

 その後、7月のアメリカ遠征以降はサイドバックでの起用が続いたが、そこでもしっかりと起用に応え、8月のアジア大会は左サイドバックでレギュラーの座を勝ち取り、金メダル獲得に貢献した。

 複数のポジションでプレーできることは、18名しか登録できない東京五輪では重要な評価基準の一つになる。阪口はその点で、代表の厳しいサバイバルレースを勝ち抜く強力なアドバンテージを手にしたと言える。

 昨年までは、ボランチが主戦場だった。だが、今年新潟を率いた山崎真監督は、阪口を攻撃的なポジションにコンバートし、フォーメーションも流動的に変化させた。その中で、阪口は昨年を上回る5ゴール(チーム最多得点タイ/18試合)を決め、自身初のリーグベストイレブンにも選出されている。

 Jリーグの新潟や広島、名古屋などで育成年代を長く指導してきた指揮官は、彼女の成長をどのように促してきたのか。

「彼女は僕が監督でなくても成長したと思います。向上心やひたむきさを人一倍持って日々の練習に真摯に取り組んでいますから。女子サッカーを知らないまっさらな状態でチームを預かり、最初に彼女を見た時に、『どんどん(ポジションを)動かして躍動させたい』と感じました。そういう役割の方が、彼女の力が伸ばせてチームにも生かせると思ったので、前目の『動く』ポジションで起用しています」(山崎監督)

 そして、今後の伸びしろについて問われると、山崎監督は「彼女は底が知れない選手だと思います」と強調した。

【世界王者への挑戦】

 その“底知れなさ”を目の当たりにしたのは、7月に行われたアメリカ、ブラジル、オーストラリアとの4カ国対抗戦だった。

 阪口がサイドバックで起用されるきっかけとなった大会である。ポジションはもちろん、ディフェンスラインに入ること自体が、阪口にとってサッカーを始めてから初めての経験だった。そんな中で迎えた初戦の相手は、世界ランク1位のアメリカ。しかも、マッチアップしたのは豊富な経験とスピードを兼ね備えたFWクリステン・プレス。そのハードルはあまりにも高いものに思えた。 

 結果的に、日本は2-4でアメリカに敗れている。だが、この試合で阪口が見せた1対1の駆け引きの巧さや安定感のあるビルドアップは、敗戦の中で得た収穫の一つだった。

 3点ビハインドの状況で迎えた後半31分には、代表初ゴールとなるロングシュートも決めている。「イメージ通りに行きすぎてびっくりした」と試合後に本人が振り返ったそのゴールは、勝利を確信していた2万人近くのアメリカサポーターを一瞬、静まり返らせた。

 しかし、阪口自身は、そのゴールすら霞むほどの衝撃を受けたことがあったという。それは、後半から出てきたアメリカ代表屈指のテクニシャン、FWトビン・ヒースとのマッチアップだ。

「最初にマッチアップした選手(プレス)は、スピードが合う感じだったので、そこまでやられている感じはなかったのですが、17番(ヒース)はテクニックもあってスピードもあるので、最初は『なんだこりゃ!』と思って……。(出足の)2、3歩が速くて、びっくりしました。変に近づきすぎてやられないように、スピードを合わせながらチャンスがあれば奪いにいくようにして、何度かそれができたことは収穫です」(阪口)

 そこには、静かに言葉を紡ぐいつもの口調とは違う、素の驚きがあった。そして、百戦錬磨のアメリカ代表選手たちや、2万人近い相手サポーターが作り出した完全アウェーの雰囲気に飲まれることなく、チャレンジし尽くした手応えも感じられた。

 現在のなでしこジャパンには、女子W杯優勝(2011年)、U-17女子W杯優勝(2014年)、U-20女子W杯優勝(2018年)と、各年代で世界一を経験した選手たちが多い。阪口はいずれの世代でもなく、年代別代表などの実績も少ないが、持ち前の度胸と引き出しの多さで、今後のさらなる飛躍を期待させる。

【悲願のタイトルへ】

 皇后杯は、新潟にとって悲願のタイトルだ。特に、阪口が加入した2013年以来、新潟は5シーズンで3度決勝に進出しているが、一度も頂点に立っていない。

 初タイトルに向けては、チームの攻守を司るボランチの上尾野辺と阪口のコンビネーションがカギになるだろう。上尾野辺は、2006年の加入から第一線でチームを牽引し続けてきた中心選手で、新潟一筋で13年目を迎えた“バンディエラ”でもある。阪口はその上尾野辺とのコンビネーションに自信を見せる。

「なるべくメグさんにボールが入るように動きながら、メグさんが持ったらすぐにサポートにいくようにしているし、昔からイメージを共有できている部分があります。近くにいることで、お互いのいいところを出せると思います」

 一方の上尾野辺は、阪口の存在を攻撃面で生かしたいと話す。

「ボールを持ったらまず、萌乃とトップの選手を見るようにしています。すぐ目に入るところにいてくれるので、まず預けてから、受け直す。萌乃はキックの精度も高いし、得点に絡むプレーも増えているので、守備で負担をかけないようにしたいですね」(上尾野辺)

 皇后杯はいよいよ、準々決勝のステージに突入する。ベスト8はなでしこリーグ1部の上位8チームが占める順当な結果となったが、ここからは何が起こっても不思議ではない。

 新潟は、越えられなかった過去の壁を超えることができるだろうか。その中で、阪口のパフォーマンスは特に着目したいポイントだ。次は12月22日に栃木県グリーンスタジアムで、過去3度の決勝で対戦し敗れているINAC神戸レオネッサと対戦する。

皇后杯で初タイトルを目指す新潟(写真:Kei Matsubara)
皇后杯で初タイトルを目指す新潟(写真:Kei Matsubara)