三世代で世界一に輝いた黄金世代が融合するなでしこ。年内最後の活動を締めくくったトレーニングマッチ

女子W杯に向け、残り7ヶ月が勝負だ(2018トーナメント・オブ・ネーションズ)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ガイナーレ鳥取U-18とのトレーニングマッチ】

 11日に鳥取市営サッカー場 バードスタジアムで行われたノルウェーとの国際親善試合(○4-1)の翌日、なでしこジャパンは同会場でガイナーレ鳥取U-18(鳥取U-18)とのトレーニングマッチ(30分×2本)を行った。

 女子代表は全カテゴリーで、強化合宿中に男子チームとの練習試合を積極的に組んでいる。外国人選手のパワーやスピード、高さを想定したシミュレーションになるからだ。

 実際のところ、欧米の女子選手と男子高校生では、身体の使い方なども含めて異なる部分は少なくない。これは筆者の主観だが、男子との試合では性別の違いやケガ予防の観点からもコンタクトプレーへの配慮が見られる。一方、寄せの速さや瞬間的なスピードなど、アジリティは海外の女子選手よりも男子高校生の方が高いように思える。

 それでも、国内リーグでは感じられない間合いへの対応や、予測の精度を高める上で、男子チームとの対戦が有効な手段であることは間違いない。

 今回、鳥取で行われた5日間の合宿中は、地元の男子高校生チームと合同練習を二度行い、相手のカウンター攻撃やクロスへの対応などをトレーニングしていた。ノルウェー戦を想定した有意義なシミュレーションになったようだ。

 12日のトレーニングマッチは、前日のノルウェー戦で控えもしくは途中出場だった選手が中心に起用され、怪我人などのアクシデントで足りなくなったセンターバックには鳥取U-18の選手を助っ人として借りる形に。

 スターティングメンバーはGK池田咲紀子、4バックは左からDF有吉佐織、DF南萌華、鳥取U-18の選手、DF阪口萌乃。MF杉田妃和とMF猶本光がダブルボランチを組み、サイドは左にFW宮澤ひなた、右にMF川澄奈穂美。FW田中美南とFW増矢理花が2トップを組む4-4-2でスタートした。

 なでしこは相手のハイプレッシャーと縦に速い攻撃を受け、ノルウェー戦とは対照的に守備の時間が多くなったが、強豪揃いのW杯では同じような展開は十分にあり得る。その点では、明確な共通意識を持てるようになった。高倉麻子監督はこう振り返る。

「相手の圧力を受けている時間帯にどういう考え方をするのか。『相手にやらせている』という状況(考え方)で、『最後(ゴール前)はやらせない』守り方に徹することもチームとして必要だよね、と。今はいろいろな相手と対戦しながら、そういうチームの共通意識を積み上げている段階です。後半はボールを動かせる時間帯もありましたし、ボールがないところでの準備と駆け引きと精度が私たちのキーになるので、その点ではまだまだ伸びていけると思っています」(高倉監督)

 前半17分にコーナーキックで競り負けて失点し、前半終了間際には中央左サイドを突破されて0-2とリードを許す。

 後半はGK平尾知佳が入り、後半10分頃には2トップの一角にFW菅澤優衣香、右サイドハーフにFW籾木結花、ボランチにMF長野風花、左サイドハーフにFW遠藤純を投入。相手のプレッシャーを効果的にかわしながらゴールに迫る場面も増えた。後半15分に右コーナーキックのこぼれ球に遠藤が詰め、ライン上でクリアされたが、それが最もゴールに近づいた場面だった。しかし結局、ゴールを奪うことはできず0-2で敗戦。

 相手チームの選手を借りた最終ラインだけでなく、中盤や前線も含めて新しい組み合わせで臨んだことを考慮すれば、連係面のぎこちなさは止むを得ないだろう。

 その中で、個々のチャレンジでは手応えを感じられることもあった。

【急造チームで光った個のチャレンジ】

 印象的だったのは、フル出場した阪口の安定感だ。ノルウェー戦では終盤からの出場となったが、競争が激しい前線のポジションで限られた交代枠を勝ち取った。

 そして、このトレーニングマッチでは8月のアジア大会以来のサイドバック起用にも落ち着いた対応を見せた。ボールを奪われないテクニックは分かりやすい強みだが、奪った際に攻撃へとスムーズに移り変われるのは、常に良いポジショニングを取っているからだろう。

 W杯の登録人数は23人だが、東京五輪は18人。限られた戦力で疲労やケガも考慮しながら連戦に対応するためには、複数のポジションをこなせる選手が不可欠となる。その点、所属クラブと代表で今シーズン、GKとセンターバック以外の全ポジションを経験している阪口は、質の高いオールラウンダーとして、存在感を高めている。

トレーニングマッチで安定感を見せた南萌華(写真:Kei Matsubara)
トレーニングマッチで安定感を見せた南萌華(写真:Kei Matsubara)

 また、今回初招集となった20歳の南も阪口と同じくフル出場で、急造4バックにしっかりと対応。相手FWに入るくさびのパスを鋭い出足でカットしたり、スピードに乗った相手選手のドリブルを的確な間合いで食い止めるなど、いくつかのチャレンジを成功させていた。フィールドプレーヤーではDF熊谷紗希に次ぐ171cmの高さがあり、U-20女子W杯で見せた空中戦の強さや、外国人選手のリーチに対応できる身体能力の高さも魅力だ。ボールを持てる展開になれば、攻撃面の強みも生かされるだろう。

 その南とともにU-20女子W杯を制した長野は、前日のノルウェー戦で45分間出場しており、このトレーニングマッチは終盤の限られた時間の出場だったが、スムーズな入りでなでしこに流れを引き寄せた。守備では、フィジカルの強い選手が多い韓国リーグで培った球際の粘り強さを発揮。ノルウェー戦のようにボールを持てる試合でも、この試合のように守る時間が長くなっても、ダブルボランチを組む相手や前線の組み合わせが変わっても柔軟に対応でき、チームの歯車になれることを、限られた出場時間の中で証明してみせた。

「先輩がやりやすい雰囲気を作ってくれていますし、(なでしこジャパンでプレーする)難しさは感じていないです。U-20でもそうでしたし、なでしこでも、チームの規律を守りながらいかに自分の良さを出せるかがポイントです。そこはもっと自分が追求しなければいけない部分だと思います」

 今年から加入した仁川現代製鉄レッドエンジェルズ(韓国)、U-20女子W杯で初優勝したヤングなでしこ、そしてなでしこジャパンと、長野は今年、様々なチームで足跡を残した。今回、「視野の広さが特徴で、サッカーの理解度も高い」と指揮官が評価した19歳が示した豊かな可能性は、今後への期待を膨らませる。

 

 同じくU-20女子W杯でブレイクし、今回、最年少の18歳でA代表に初招集された遠藤は、終盤の約20分間ピッチに立った。年代別代表よりもプレーの強度や判断の速さが求められるなでしこでは荒削りな部分も見えたが、スピードや166cmのサイズ感、そして“飛び道具”の左足は、小さなミスを補って余りある魅力を感じさせる。

 前日のノルウェー戦でその高いポテンシャルの一端を垣間見せた宮澤も含め、新戦力として呼んだ20歳以下の4人について高倉監督は、

「慣れればできると思います。ただ、もうちょっと見てみないと分からないですね。前目の(ポジションの)選手が多く、人数バランスもありますから。でも、いいものはいいので、そこは競争してほしい」

 と、今後も継続してチャンスを与えていくことを示唆した。

【声の「質」へのこだわり】

 トレーニングマッチで気になったのは、試合中の声だ。観客の声援や拍手の中で戦ったノルウェー戦と違い、鳥取U-18との試合は一般非公開だったため、試合中の声はスタンドにも届いた。だが、なでしこの選手たちは、前日の主力組に比べるとかなり大人しく見えた。

 そんな中で、スタンド上部からでもはっきりと聞き取れる声を響かせていたのが川澄だ。

「細かい部分でも、ひと声かければ解決できるな、と思えることが練習からすごく多いので。それは一回できたらからいいということではなくて、ずっとやり続けなければいけないことだと思うんです」

練習から声を響かせていた川澄奈穂美(写真:Kei Matsubara)
練習から声を響かせていた川澄奈穂美(写真:Kei Matsubara)

 4月のアジアカップから、そういった川澄のスタンスははっきりしていた。そして、その声が練習の空気を変えた。それは、経験のある選手たちをはじめ、多くの選手が口にしてきた。

 もちろん、選手はそれぞれが自分なりに声を出してコミュニケーションを図っている。だが、重要なことはその質と結果なのだと、川澄は示唆する。

「チームを盛り上げるための声は最低限のことで、当たり前だと思うし、『もう一歩右』とか、そういう声出しにも『いつ、どういう風に声を出すか』という質の高さが必要です。言ったように動いてもらえないと伝わっていないのと一緒、というぐらいに突き詰めたいし、このチームはそこが弱いな、と感じているので。私は『うるさいな』と言われるぐらいやり続けたいと思っています」

 それは経験のある・なしではなく、ピッチに立つ選手の使命だろう。川澄は高倉ジャパンでは最年長の33歳だが、若い世代の突き上げや、彼女たちの巧さを認めつつも、競争の中でポジションを勝ち取るべく、一つひとつの練習を全力でこなす。その姿勢から、若い選手たちが学ぶことはたくさんあるはずだ。

【7ヶ月後に迫った女子W杯】

 今回のノルウェー戦で、なでしこジャパンとしての年内の活動は最後になった。

 高倉監督は、7ヶ月後の女子W杯に向けて来年はメンバーを徐々に固定していく方針を明らかにしているが、同時に、代表入りへの門は常に開かれていることも否定していない。

 それは、来月初頭に「なでしこチャレンジキャンプ」の実施を決めていることからも明らかだ。

「なでしこジャパン入りの可能性がある選手の見極め」を目的として、今年2月に行われた同キャンプからは、MF三浦成美、阪口、平尾が代表候補入りを果たしている。

「代表は、今いる選手たちだけの競争ではなくて、チャレンジ(合宿)も含めての競争だと考えています。『自分は(代表には)関係ない』ではなくて、本気で代表入りを狙ってくる選手たちの日々の生活が日本を強くすると思いますし、リーグあっての代表、代表あってのリーグだと考えています」(高倉監督)

 チーム立ち上げから2年半。結果が出ず、苦しんだ時期も長かった高倉ジャパンにとって、2018年はターニングポイントとなる1年だった。それは、2年間の集大成として見据えてきたアジアカップとアジア大会2つの大会で最高の結果を出したことが何よりも大きい。

 熊谷、MF阪口夢穂、DF鮫島彩、DF宇津木瑠美、有吉、FW岩渕真奈、そして川澄ら、経験のある選手たちが上昇へのきっかけを作り、若い選手たちが、国を代表して戦うことへの自覚や責任を強く持つようになった。そして、世代間の融合を進めながら、日本の強みを地道に磨いてきた。

 そんな中、苦しみながら勝ち獲った2つのタイトルがもたらした自信が、選手たちをさらに一段階上のステップへと引き上げた。

 U-17、U-20、そしてA代表と、各カテゴリーで世界一を経験したメンバーが融合したなでしこジャパンは、2019年、どんなチャレンジを見せてくれるだろうか。