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2部との入替戦に挑む日体大。なでしこリーグ終盤戦で見せた1部残留への執念と成長の跡

松原渓スポーツジャーナリスト
2部との入替戦に回ることになった日体大(写真:Kei Matsubara)

【1部で磨かれたスタイル】

 残り30分を切った試合終盤、立て続けに失点を重ね、自力で掴めるところまできていた「1部残留」が遠のいていった。

 試合終了を告げる長い笛が鳴り、スタンドへの挨拶を終えると、何人かの選手はベンチで全身から力が抜けたように顔を伏せた。

 リーグ最終節、ホームにINAC神戸レオネッサ(INAC)を迎えた日体大FIELDS横浜(日体大)は、0-3で敗れた。また、勝ち点1差で日体大を追っていたマイナビベガルタ仙台レディース(仙台)が勝ったため、日体大と仙台の順位が逆転。仙台は8位で残留を決め、日体大は9位で、2部2位との入替戦に回ることが決定した。

 入替戦は12月中旬にホーム&アウェーで行われ、勝てば1部残留、負ければ2部降格となる。

 INACは、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)と共にリーグ2強を形成する強豪だ。それでも、希望はあった。

 1部に挑戦の舞台を移して1年目の今シーズン、日体大は6月までのリーグ前半戦で1勝もできず、自動降格圏の10位から抜け出せない時期も長かった。だが、9月以降の後半戦は、内容面で競った試合が多くなり、残留争いの行方を占う大一番だった第16節の仙台戦に勝つと、残留圏の8位に浮上。第17節の浦和レッズレディース(浦和)戦も接戦を制して初の連勝を飾り、この最終節をとてもいい雰囲気で迎えていた。

 だが、最後まで1点が遠かった。

 試合終了直後のホーム最終戦セレモニーで、小嶺栄二監督は悔しさを押し殺したような表情で一息つくと、スタンドに向かい、静かなトーンで言葉を紡いだ。

「一部は本当に苦しいリーグだと改めて感じました。1ヶ月後に残留のための入替戦があります。我々はまだ、このリーグで戦いたいです」

 思い描いた結果にはならなかったが、INACに対しても多くの決定機を作ったように、日体大のサッカーはシーズン当初に比べて明らかに変化した。小嶺監督はその経緯をこう振り返る。

「1部でのリーグ前半戦を経験した中で、自分たちの足りないところとストロングポイントを(中断期間に)整理して、後半戦はうまくハマるようになりました。『球際ではとにかく怖がらずにやろう』と。前線にスペシャルな選手がいるわけではないので、パスをつないでゴールまで運ぶサッカーを目指してきました」

 中断期間前に採用した3バック(5バック)が機能し、リーグ後半戦は守備が安定した。また、最終ラインは相手のプレッシャーを受けても簡単に蹴り出さず、個々が体を当ててしっかりとキープしてからしっかりとつなぐようになった。

 ダブルボランチのMF嶋田千秋とMF三浦桃が質の高いプレーで遅攻と速攻をコントロールし、前線ではU-20女子代表のFW児野楓香が、献身的な守備と勝ち点につながる得点で存在感を高めた。

試合後、サポーターに挨拶する小嶺監督(写真:Kei Matsubara)
試合後、サポーターに挨拶する小嶺監督(写真:Kei Matsubara)

【入替戦に向けて鍵となるのは?】

 シーズンは終盤に差し掛かっているが、日体大の本当の戦いはこれからだ。皇后杯、入替戦、そして全日本大学女子サッカー選手権大会(インカレ)と、重要な大会が続く。

 その中で、鍵になる選手の一人がGK福田まいだ。最後の砦として体を張ることはもちろん、コーチングでチームの守備を落ち着かせる重要な役割を担う。

 試合後は立ち上がれないほど悔しさをにじませていた福田だが、切り替えるのも早かった。

「狙われてましたね。中島さんの1点目と、ウッシー(DF牛島理子)の2点目と…。情けなかったなぁ…」

 INAC戦の3つの失点シーンを脳裏に蘇らせながら、悔しそうに口を引き結んだ。

 福田は今季、主力の一人としてチームを支えてきた。先発に定着したのは第5節。その後はゴールに立ち続け、第16節の仙台戦と第17節の浦和戦では決定的なシュートを止めて連勝に貢献した。小嶺監督は言う。

「彼女は(日体大で)ずっとセカンドキーパーだったので、巡ってきたチャンスを彼女自身の力でつかみました。U-20(代表)では試合に出られなかった悔しい思いから、練習の取り組みや雰囲気も変わって、以前よりさらに貪欲にトレーニングに取り組むようになったと思います」

今シーズン、日体大で正GKとしてゴールを守った福田まい(写真:Kei Matsubara)
今シーズン、日体大で正GKとしてゴールを守った福田まい(写真:Kei Matsubara)

 今夏のU-20女子W杯では一度もピッチに立てなかったが、試合に出続けたGKスタンボー華(INAC)を献身的にサポート。オフザピッチでも明るいキャラクターでチームを盛り上げ、大会初優勝に貢献した。だが、背中にはいつも「試合に出たい」という強い渇きを漂わせていた。

 福田の身長は168cmで、高さがない代わりにポジショニングを磨き、「味方を動かしてシュート数を減らす」ためのコーチングには特にこだわってきた。

「1部ではコーチングで味方を動かしても、『そっちに来るか!』というシュートがあるんです」

 先発に定着した6月頃に福田はそう話していたが、その表情は生き生きとしていた。

 サッカーは「ミスのスポーツ」と言われるが、福田は「ミスの先を見たい」と思わせる選手だ。

 自身が出た試合のデータを集計して、セーブ率を代表候補のGKと比較したり、海外の選手のような体の使い方を目指すなど、オフザピッチでも勉強に余念がない。目指すGK像を聞くと、真剣な表情で「ビルドアップとシュートストップはバルセロナのテア・シュテーゲン、飛び出しはバイエルンのノイアーです」と答えた。

 人懐っこく、物怖じしない性格は、INACに所属する双子の姉で、昨年の新人賞にも輝いたMF福田ゆい(INAC)ともそっくりだ。2人は異なる場所から、2年後の東京五輪を目指す。

【大学チームの命題】

 入替戦と皇后杯、そしてインカレとの兼ね合いは、日体大にとって難題の一つだ。

 というのも、日体大の女子サッカー部員は80名を超えており、なでしこリーグを戦うトップチームには嶋田やFW植村祥子のように社会人選手も登録されているが、インカレは大学生主体。

 つまり、11月末から年末にかけて、2つのチームを同時進行で動かし、皇后杯と入替戦とインカレを戦わなければならない。

 例年、この時期は学生主体に切り替えてインカレを目指してチームづくりを行ってきた。だが、今年は年末に入替戦を戦うことになったため、切り替えのタイミングが難しい。

 限られた準備期間の中で、日体大は1部残留を勝ち取ることができるか。入替戦の相手は、同じ横浜を拠点とするニッパツ横浜FCシーガルズ。熱い一戦となりそうだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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