ノルウェー戦に臨むなでしこに新風。リーグ頂上決戦で輝いたFW宮澤ひなたは高倉ジャパンの即戦力になるか

ノルウェー戦のメンバーに選出された宮澤(右は鮫島彩/7月21日リーグカップ決勝)(写真:松尾/アフロスポーツ)

【ノルウェー戦のメンバーが発表】

 11月11日(日)に鳥取県で行われるノルウェー女子代表との親善試合に臨むなでしこジャパンのメンバーが、23日に発表された。

 今回は、4月のアジアカップと8月のアジア競技大会の優勝メンバーを中心に、海外組も含めた28名のメンバーが選出された。

 特筆すべきは、今夏のU-20W杯で優勝したU-20女子代表メンバーから、DF南萌華(初)、MF長野風花、FW宮澤ひなた、FW遠藤純(初)の4名が選出されたことだ。

 高倉麻子監督の下で2016年にチームが立ち上がってから約2年。7ヶ月後にフランスで開幕する女子W杯、そして再来年の東京五輪に向けた新たなサバイバルが始まる。

 森保ジャパンはロシアW杯を戦った経験のある選手たちと海外組中心の新世代が融合し、9月からの3試合で上々の船出を見せた。新戦力が加わった高倉ジャパンにも躍動感溢れる試合を期待したい。

 新戦力の中で注目したい選手の一人が、18歳の宮澤だ。今年1月になでしこジャパンの候補合宿に招集されたが、親善試合を戦う代表メンバーとしての招集は初となる。

 高倉監督は選出理由について、

「宮澤はスピード、ドリブル突破というところで非凡なものを見せますし、テクニックが高く、ドリブルからシュートに持ち込んでいける武器もある。そこを前面に出して戦ってほしいと思います」(高倉監督)

 とコメントした。

 

 日テレ・ベレーザ(ベレーザ)のサイドアタッカーとして、スピード感あふれるプレーでリーグに新たな息吹をもたらした新星が高倉ジャパンでどのようなプレーを見せるのか、楽しみだ。

【頂上決戦で示した存在感】

 今年、星槎国際高等学校からベレーザに入団した宮澤は、ここまでリーグ戦16試合中15試合に出場し、4ゴール6アシストを記録。4連覇を目指す国内女王の即戦力として存在感を示している。

 20日に味の素フィールド西が丘で行われたベレーザとINAC神戸レオネッサ(INAC)との1位・2位対決は、両チーム合わせてなでしこジャパン候補が16人も揃うオールスター対決だった。そんな中、左サイドハーフのポジションで先発した宮澤は、代表選手たちに負けない強烈なインパクトを残した。

 宮澤の武器は、50mを6秒8で駆けるスピードとドリブルだ。タッチラインギリギリまで開いてボールを受け、ドリブルで中央にカットインしてゴールを狙うーーそれは得意とするプレーの一つだが、INACもしっかりと対策を練っていた。

 だが、宮澤は個人技と連係プレーを巧みに使い分けてチャンスを演出。緩急を効かせたドリブル、フェイントを使った切り返しや股抜きなど、1対1のアイデアも多彩だった。

 60分のシーンでは、MF中里優とのワンツーから矢のようなスピードでサイドを駆け上がり、FW長谷川唯のシュートに至る流れを作った。オフザボールでも持ち味を発揮していた。

 試合後はスコアレスドローで優勝が次節以降に持ち越しとなった悔しさを口にしたが、自身のパフォーマンスについては、こんな風にコメントしている。

「この一週間でやっと、頭がクリアになりました。リーグ前半戦の、チームに慣れてのびのびやらせてもらっていた時の感覚をやっと取り戻せたと思います」(宮澤)

 そう語った背景には、8月にフランスで行われたU-20女子W杯からの帰国後に宮澤を悩ませてきた、“ある事情”があった。

【変化の中でぶつかった壁】

 ベレーザに入団してからリーグが中断期間に入るまでの4ヶ月間、新たな環境でしっかりと自分の居場所を築いた宮澤は、心身ともに充実感をみなぎらせ、U-20女子W杯が行われるフランスに向かった。

U-20女子W杯の決勝で鮮やかなゴールを決めた(写真:Kei Matsubara)
U-20女子W杯の決勝で鮮やかなゴールを決めた(写真:Kei Matsubara)

 そして、全6試合に先発。国内リーグとは異なる欧米各国のスピードやパワーをしっかりと体感しながら、持ち味のスピードを生かして1試合ごとに存在感を増していった。そして、スペインとの決勝戦では目の覚めるようなミドルシュートを決め、日本の大会初優勝に貢献。

 各国の女子サッカー関係者が勢ぞろいし、未来のスター候補の“見本市”とも言える舞台で、たしかな爪痕を残した。

 だが、試練は帰国後に待っていた。

 U-20女子W杯準決勝のイングランド戦で痛めた右足を完治させるため、9月のリーグ再開後の2試合はピッチに立っていない。9月22日の浦和レッズレディース戦で試合終盤の74分に復帰を果たし、そこから少しずつ出場時間を伸ばしていったが、リーグ前半戦のような躍動感は、影を潜めていた。

 

「正直、今はあまり調子が良くないです」

 それは、10月初旬の、真夏の猛暑日がぶり返したような暑い午後だった。

 宮澤は落ち込んだ様子でも、深刻な口調でもなかった。どんな結果も真正面から受け止めて前を向く、いつもの冷静な語り口だった。

「原因は自分でもよくわからないんです。プレーがダメというよりは、『何かが違うな』という感覚ですね。(リーグ)前半戦は試合の流れを見ながら自分の長所を出せていたと思うんですが、今はボールを持った時にアイデアが出てこなかったり詰まることがあって、どうやったら前のような感覚に戻るか考えています。(リハビリ中の)右足だけの問題ではないと思います」(10月7日)

 右足の状態は万全とは言えなかったが、ボールタッチの感覚に違和感があるわけではなく、コンディションが悪いわけでもなかった。右サイドでプレーすることが多かったリーグ前半戦と違い、後半戦は左サイドで起用されることが多くなったが、元々、両サイドでプレーできるため、そこに違和感を感じているわけでもないようだった。

 他に考えられる原因として、相手チームの守備対応の変化があった。リーグ後半戦に入ってからは、どのチームも宮澤に対してマークの数を増やしたり、特徴を踏まえた上で対策を練ってくるようになったからだ。

「サイドでボールを持った時に、相手を一人抜いてもすぐにカバーの選手が出てくることが増えて、2人目のことも考えなきゃいけなくなりました。(対峙する相手の)間合いの取り方が変わってきたのも感じています」(同)

 

 スピードのある選手に対しては、一発でかわされないようにある程度間合いをとって守るのが定石だ。宮澤に対しては、そのような対応をするチームが増えてきた。

 そして、宮澤を悩ませたもう一つの要因が、ボールを持った時の「選択肢の多さ」だった。今年のベレーザはポジショニングや選手同士の距離感を良くすることにプライオリティを置いており、ボールホルダーの周りには常に複数のパスコースが用意されている。しかも、全員が代表レベルのクオリティを備えた個だ。それは、これまで宮澤がプレーしてきた環境とは明らかに違っている。

「高校時代も(U-20)代表でも、自分で打開していく場面が多かったんです。でも、ベレーザではみんながゴールを決められるし、みんながチャンスメイカーになれる。だから、ここで自分が仕掛けた方がいいのか、味方の選手(が上がってくるの)を待った方がいいのか、シンプルに出した方がいいのか、どの選手を生かしたらいいのか…と、(判断に)悩んでボールを取られてしまうことがあります」(同)

 だが、そう話している間も宮澤の表情に暗さはなかった。そして、その場をこう締めくくった。

「イメージはあるんです。だから、考えすぎるよりやるしかない。どこかで点を取れたり、ふっ切れて気持ちの整理がつけば戻るのかな、と思っているんです」(同)

【壁を乗り越えた先に掴んだチャンス】

 その後、8日の日体大FIELDS横浜戦と13日のマイナビベガルタ仙台レディース戦で連続してアシストを決め、迎えた20日の大一番、INAC戦で、宮澤は伸び伸びと攻撃に関わった。そのプレーには、2週間前に話していた停滞感を吹っ切ったような感じがあった。

 宮澤は試合後に「やっと感覚を取り戻せた」と話したが、むしろ、以前よりもプレーの幅が広がっている手応えを感じていたのではないだろうか。

 その後、改めて今シーズンを振り返り、自身の変化についてこう分析した。

「今までは目の前のことでいっぱいになっていました。たとえば仕掛けるにしても、目の前の相手しか見えなくてカバーの選手にぶつかってしまったり。そういうところでもがいていたのですが、永田(雅人)監督が用意してくれる映像を見たり、コーチも何をクリアにしていくべきかを話してくれて。やってみなければわからない部分はありましたが、『今日(のINAC戦)はいける』という感覚が、試合前からありました」(宮澤)

 今年、ベレーザの監督として迎えられた永田監督は、選手たちに新たなプレーモデルを提示したり、個々に合った映像を見せながら積極的なチャレンジを促し、個と組織の両方を進化させてきた。

 その中で、宮澤自身も成長している。この試合では、リーグ再開後、最長となる89分間ピッチに立った。

 永田監督は、宮澤の変化について試合後にこう明かしている。

「今までの彼女は『ボールを持って自分が何をするか』という主体性ばかりが目立っていたのですが、自分がボールを持ったときに味方と相手がどこにいて、自分が何かをすることで周りの選手をどう生かせるか、というように奥行きを持って物を見ることとか、クロスを入れるときに誰と誰がゴール前に入っているかを把握して入れる、というように、自分の意識できるエリアを広げていこう、という話はしました。試合の振り返りや新しい映像なども見ながらチャレンジしてもらっています。悩んで足が止まったり動きが止まったり、そういう失敗はたくさん出してくれていいと思っているので。いっぱい悩んで、どんどん『分かりません』と言ってくれたらいいなと思っています」(永田監督)

 

 INAC戦の宮澤は、自分の持ち味であるドリブルを抑えるのではなく、周囲の動きもしっかりと把握した上で、そのドリブルを最大限に生かしていた。以前に比べて、プレーにさらなる奥行きが感じられたのはそういうことだったのか、と納得できた。

 

 来月(28日)に19歳を迎える宮澤は、変化とチャレンジの1年をどう締めくくるのか。

 ベレーザ入団、初ゴール、リーグカップ優勝、U-20女子W杯優勝ーーそして、ついに届いたなでしこジャパンへの招待状。その一員として初めて立つピッチで、背番号28はどんなプレーを見せてくれるだろうか。