ヤングなでしこを牽引した背番号10、長野風花。変化と決断の先に辿り着いた世界一

中盤でチームを牽引した長野風花(左は宮川麻都 写真:Kei Matsubara)

【転機となった決断】

 U-20女子W杯で世界一に輝いたヤングなでしこ(U-20日本女子代表)。その中で背番号10をつけ、フル出場で優勝に貢献した一人がMF長野風花だ。

 準決勝のイングランド戦でプレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞。決勝のスペイン戦では3点目を決めて、日本の優勝をたぐり寄せた。

 10代前半から代表のユニフォームに袖を通してきた長野だが、ここに至るまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。

 2014年のU-17女子W杯は飛び級で選ばれ、主力の一人として世界一に貢献。2016年の同大会はキャプテンとしてチームを牽引し、個の力も見せつけた。だが、チームはPKの末に準優勝。長野はMVPを獲得したが、トロフィーを持つ表情にも悔しさが表れていた。

 その後も年代別代表ではコンスタントに選出されてきたが、所属の浦和レッズレディース(浦和)ではなかなか出場機会を得られず、長野は今年、ついに決断する。3月中旬、仁川現代製鉄レッドエンジェルズ(韓国WKリーグ)への移籍が発表された。

 ジュニアユース、ユース時代を含め、2011年から浦和一筋だっただけに、海外挑戦の決断からは強い覚悟が伝わってきた。

「なでしこジャパンの一員として、東京五輪に絶対に出たい。そして金メダルを取る」。固く誓ったその目標に近づくためには、まずはコンスタントに試合に出て、活躍し続けなければーー。「そのためには、このままではダメだ」という、焦りに似た思いも感じられた。

 オフにイングランドのチェルシーLFCの練習に参加し、各国の代表選手たちとプレーした経験も、海外挑戦の意思を強くした。先輩たちの活躍でルートが確立されてきた欧米の女子リーグではなく、日本ではまだ前例が少ない韓国のリーグへの移籍には驚きもあったが、長野は新たな場所で、成長できると確信していたのだろう。

 移籍から2ヶ月ほどが経った5月中旬に、U-20の国内合宿で聞いた言葉が蘇る。

「韓国の選手は体がすごく大きくて強いんです。決定力や技術もあって、そこにスピードがついてくる。最初はそのフィジカルの差に苦労して、守備も攻撃も対応するのが難しかったんですが、徐々に慣れてきました。攻撃の起点になったり、ゴールを狙える場面も増えて、楽しめるようになってきました」(長野/5月)

 この直後の試合で、長野は新天地での初ゴールを決めた。それから、さらに2ヶ月。長野は試合勘を取り戻し、韓国リーグ特有の連戦も経験したことで、心身ともにタフさを身につけていた。

U-17女子W杯では大会MVPに(2016 FIFAクラブW杯表彰式 写真:長田洋平/アフロスポーツ)
U-17女子W杯では大会MVPに(2016 FIFAクラブW杯表彰式 写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【会場を沸かせたスルーパス】

 そんな中で臨んだ今回のU-20女子W杯。長野にとっても悲願だった世界一を勝ち取ったが、全てが好調だったわけではない。今大会は19日間で6試合を戦ったが、長野は1試合ごとにプレーのキレを増していった印象がある。

 初戦のアメリカ戦とスペイン戦では、相手の強いプレッシャーに晒された。そんな中、長野はタッチ数を減らしてテンポよくかわそうとしたが、味方との距離感が噛み合わず、耐える時間が続いた。

 また、日本が決勝トーナメント(決勝T)進出を決めたグループステージ(GS)3戦目のパラグアイ戦(◯6-0)では、味方が得たPKを相手GKに止められ、決勝T進出は決めたものの、長野自身は悔しさが残る内容だった。

 しかし、大会が進む中で、全員で映像を見たり意見を出し合う時間が増え、懸念していた選手同士の距離感は良くなっていった。その中で、長野自身のプレーも輝きを増していく。

 

 準決勝のイングランド戦。長野は美しいスルーパスを何本も通して日本の攻撃をコントロールし、2-0の勝利を牽引した。そして、過去のU-20女子W杯で日本が越えられなかった準決勝の壁を打ち破る原動力となり、プレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞。針の穴を通すような精緻で多彩なパスに、目の肥えた観客たちも大いに魅せられたようだった。

 長野のゲームメイクにはチームメートたちも厚い信頼を寄せていた。大会中、長野とダブルボランチを組んで抜群の相性を見せたMF林穂之香は、長野の視野の広さを強調した。

「空いているスペースを見つけるのがすごく上手で、ボールを持っていない自分の方が気づけていないパスコースがあったりすると、試合中に『すごいな』と思います」(林)

 また、浦和でジュニアユース時代からともに歩んできたキャプテンのDF南萌華も、そのパスセンスに太鼓判を押す。

「相手の逆をついたパスや、後ろ(センターバック)からも見えていないスペースがよく見えているんです。後から試合のビデオを見ても、『ここが見えていたの?』という場所にパスを出す。そういうセンスがすごいですね」(南)

 長野の真骨頂でもあるスルーパスは、的確なファーストタッチから始まる。そして、相手DFの体の角度によって生じるわずかなスペースや、味方の動き出しの一瞬のタイミングを逃さない。パスコースを創り出すために、意図的にボールを晒すこともある。そして、パスを出す瞬間はノールック。だから、相手は分かっていても長野のプレーを読めないのだ。

【平常心で臨んだ決勝戦】

 決勝の前日、長野の表情から緊張は感じられなかった。

「明日が決勝ですけど、決勝という感覚があまりないんです。(GSで敗れた)スペインにリベンジできる機会がきて楽しみだし、ワクワクしています。勝つイメージしかないですね」(長野/決勝戦前日)

 そのイメージは現実になった。日本はスペインに3-1で快勝。3点目は長野の大会初ゴールだった。ゴールが決まった次の瞬間、長野は歓喜の輪の中で、抑えていた感情を爆発させるように空を見上げた。

 そして、試合直後のフラッシュインタビューでは、大粒の涙を隠すことなく、世界一になった喜びをこんな風に表現した。

 

「みんなで目指してきた場所に立てて、すごく嬉しいです。(U-17女子W杯での準優勝など)本当に悔しい思いをしてきたので。このW杯の決勝でしっかりリベンジできて良かったです」(長野)

 大会中、ロッカールームを出てから入場までの間に、長野が必ずしていたことがある。

 少しの間、手を胸に当てて目を瞑り、思いを巡らせるのだ。その神聖な一瞬を切り取った写真は、FIFAの公式サイトでも取り上げられていた。

「いつもやっていることなんです。今まで乗り越えてきたことだったり、支えてくれている人たちの顔が頭に浮かんできて。『いろんな人のために勝つぞ』という思いでしています」(長野)

 

 年代別代表の中心選手として、常に大きな期待を背負ってきた。「未来の●●」、「ポスト◯◯」などという枕詞とともに語られたこともある。時には、そんな周囲からの期待がプレッシャーに変わったこともあっただろうし、理想と現実のジレンマと戦ったこともあるだろう。

 だが、長野はピッチに立てば、いつも勝ち気な目をしていた。それは、「一度決めたことは絶対にやり遂げる」という強い意思の表れにも思えた。

 育成年代最後の大会で得た世界一のタイトルを新たな自信に、長野は次のステージへと向かう。

  

 なでしこジャパンの高倉麻子監督は、今回のU-20のメンバーから何人かをA代表に上げることを示唆しており、長野にもチャンスは巡ってくるだろう。

 だが、なでしこのボランチには強力なライバルが大勢いる。長野はU-20女子W杯前の6月になでしこジャパンに初招集されたが、さらに難しいのは、そこで生き残っていくこと。本当の戦いはここからだ。

 東京五輪まであと2年。プレーにさらに磨きをかけて新天地でも結果を残し、唯一無二のボランチになることができるか。

 海外組の長野にとって、重要な一年になる。