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5連勝で3位に浮上。ノジマステラの上位進出を支える7年目の成熟と進化

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグ5連勝の勢いをカップ戦に持ち込みたい(2018なでしこリーグ 開幕戦)(写真:松尾/アフロスポーツ)

【内容が伴った勝利】

 破竹の5連勝も、うなずける内容だった。

 なでしこリーグは第9節を終え、全18試合の半分の日程が終了。優勝争いは勝ち点「2」差に4チームがひしめき合う混戦となった。

 その中で、前半戦を3位で折り返したのが、ノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)だ。

 ノジマはゴールデンウィークの第5節から5連勝で、内容も13得点2失点と絶好調。1-0で粘り勝ちを収めた第9節のアルビレックス新潟レディース(新潟)戦は、その強さが凝縮された90分間だった。

 

 新潟のハイプレッシャーに対し、ノジマはショートカウンターとリトリート、ショートパスとロングボールを巧みに使い分けて対応。選手間のイメージの共有もスムーズで、試合の主導権を握った。

 

 試合が動いたのは27分。右サイドバックのMF石田みなみから、絶妙のタイミングで裏に抜けたMF川島はるなにロングパスが入った。

「みなみが相手を越えて、かつキーパーに届かないボールを出してくれたので、シュートはイメージ通りでした」(川島)

 相手2人にはさまれながら、柔らかいファーストタッチでそのパスを足下に収めた川島が、相手GKの頭を越すドライブシュートでネットを揺らす。

ファインゴールで勝利を引き寄せた川島はるな(2018なでしこリーグ 開幕戦 写真:松尾/アフロスポーツ)
ファインゴールで勝利を引き寄せた川島はるな(2018なでしこリーグ 開幕戦 写真:松尾/アフロスポーツ)

 1点リードで迎えた後半は、なでしこジャパンのMF阪口萌乃を前線に上げた新潟が主導権を握り返し、ノジマのピンチが続いたが、守備でもスーパープレーが飛び出した。

 3度の決定的なピンチを防いだのは、GK久野吹雪だ。67分にエリア内のハンドで与えたPKを完璧な読みでストップすると、直後の70分と71分には、至近距離からのシュートを連続で防いだ。今シーズンからノジマのゴールを守る新守護神は、これでホーム無失点記録を5試合に更新。久野は、

「流れが悪い中でも、守れるという自信がありました。このスタジアムはピッチが本当に綺麗で、気持ちの良い試合ができる。すごくいい場所です」(久野)

と、振り返った。

 試合はこのまま、ノジマが的確なゲームコントロールで1点を守りきって勝利した。

 リーグはここから約3ヶ月間の中断期間に突入するが、ノジマはこの勢いをもって、今週末、カップ戦でアウェーのマイナビベガルタ仙台レディース戦を迎える。

ゴールを死守した久野吹雪(2018なでしこリーグ 開幕戦 写真:松尾/アフロスポーツ)
ゴールを死守した久野吹雪(2018なでしこリーグ 開幕戦 写真:松尾/アフロスポーツ)

【7年目の進化】

 リーグ戦9試合を終えて、ノジマが得た勝ち点は「19」。現時点で、すでに昨シーズンの総勝ち点「14」を超えている。菅野将晃監督は、好調の理由として、「継続」を挙げた。

「昨シーズンは非常に苦しみましたが、変わらずにやり続けてきたことや、経験、悔しさ、自分たちのやってきたサッカーに対する思い。そういうものを、この9試合でうまく表現できたと思います」(菅野監督)

 ノジマは、2012年の創部時から、一貫したスタイルで1部まで勝ち上がってきた。コンパクトな守備とショートパスを主体とした攻撃、そして、素早い攻守の切り替え。小柄だがボールコントロールに長けた選手が多く、選手間の連係を強みとして、そのスタイルを実戦の中で研ぎ澄ましてきた。

 だが、一つの戦い方に固執すれば当然、研究される。一つの武器でだけでは勝ち抜けないのが、1部の厳しさでもある。その結果、昨シーズンは後半戦9試合で1勝もできず、残留のボーダーラインである8位でシーズンを終えた。

 しかし、ノジマはスタイルを変えることなく貫いた。

 分かりやすいのが、守備のアプローチだ。新潟戦で決勝ゴールを挙げた川島は、

「(今年は)取られた瞬間の5秒間で奪い返すことを、みんなが頭の中でイメージできています。3、4人で囲んで奪える距離感も意識しています」(川島)

 と、守備が成熟した手応えを口にする。攻撃のバリエーションが増えたことも、昨シーズンとの明らかな違いだ。先制点にも象徴される、背後のスペースを狙った攻撃は、昨シーズンはあまり見られなかった形だ。

「昨シーズンは(ショートパスに)固執して、判断悪く(パスを)つけて狙われて失点するシーンもありました。今年は一つだけのやり方じゃなくて、複合的にやれているところが、昨シーズンとの違いです」(菅野監督)

 攻撃のパターンが増えた背景には、新戦力の活躍がある。

 高さとパワーのあるMF松原有沙の加入によって、中盤で競り勝つ場面が増えた。また、MF田中萌(めばえ)は、キレのあるドリブルと相手の背後を取るプレーで、FW南野亜里沙に集中しがちな相手のマークを分散させた。後方では、久野が安定したセービングと正確なゴールキックで起点になり、高い最終ラインの背後をカバー。そして、現役生活21年目を迎えたベテランのFW大野忍は、試合の中で相手との”駆け引き”を楽しむことを、自らのプレーで提示した。

 異なる4人の個性が生きているのは、ノジマが確固たるスタイルを貫いてきた土台があったからとも言える。新潟戦の勝利を牽引した久野は、ノジマの強さをこんな風に語った。

「このチームは点が取れるので、しっかり後ろが守れれば勝てると思っています。(守備でも)みんなが一生懸命戻ってきてくれて、体を張ってくれる。走れるって強いな、と」(久野)

 ケガで戦列を離れているキャプテンのDF吉見夏稀の穴を、この試合では石田がしっかりと埋めていた。今週末は、DF高木ひかりが代表戦(6月10日、対ニュージーランド女子代表)のためにチームを離れる。リーグ戦の勢いを後半戦につなげるためにも、踏ん張りどころだ。

【再開後の大一番に向けて】

 ノジマにとって優勝するための大きな壁が、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)とINAC神戸レオネッサ(INAC)、浦和レッドダイヤモンズレディースの3チームに勝つことだ。リーグ戦とカップ戦のいずれも、ノジマはこの3チームに未勝利。代表選手も多いこの3チームに勝つためには、組織としてのさらなる質の向上が不可欠だろう。

「去年は内容が悪くて負けていた試合が、今年は良くない中でも勝っている試合がある。積み上げてきたサッカーのレベルが上がって、それが通用していることを感じています。それを、ベレーザやINACやレッズに対してどこまでできるか。その3チームに対して、いいポジション(順位)で、堂々とチャレンジしたいです」(菅野監督)

 9月9日(日)のリーグの再開初戦は、ホームで迎えるINAC戦。2位と3位の上位決戦で、勝てば順位は入れ替わる。まさに、待ち望んだシチュエーションだ。その前に、カップ戦で7月1日(日)に同カードが行われる。リーグ戦の大一番の前哨戦としても、注目の一戦だ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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