中国に快勝し、決勝進出。アジア連覇まであと一歩と迫ったなでしこジャパン

残すは決勝戦のみとなった(写真:Kei Matsubara)

【新たな組み合わせで臨んだ準決勝】

 AFC女子アジアカップ・準決勝で、なでしこジャパンが中国を3-1で下し、20日(金)に行われる、オーストラリアとの決勝戦に駒を進めた。

 日本はグループステージ(GS)でベトナム(○4-0)、韓国(△0-0)、オーストラリア(△1-1)と対戦し、グループ2位で準決勝に進出。

 守備的な入りを見せたGS第3戦のオーストラリア戦から一転、日本はこの試合で、再び攻撃的なスタートを見せている。高倉麻子監督はその狙いについて、次のように振り返った。

 

「今日は『前半で決着をつけたい』という強い思いがあったので、前半からアグレッシブに攻撃しようと送り出しました。中国がグループステージで点差の開いたゲームを戦ってきた中で、(日本が中国に対して)最初から圧力をかけることで、(中国が)プレーの強度に慣れる前に仕留めようという意図がありました」(高倉監督)

 

 強豪揃いのグループを競って勝ち抜いた日本に対し、中国はグループAで、格下のタイ、フィリピン、ヨルダンと対戦し、15得点1失点の3連勝で勝ち上がった。日本は、緩いプレッシャーの中で主導権を握る試合に慣れてきた中国の、感覚のギャップをついたのだ。

 その狙いはハマり、前線からプレッシャーをかけ続ける日本が、立ち上がりから主導権を握った。また、中国のキープレーヤーである10番の李影と7番の王霜を十分に警戒して臨んだ日本に対し、中国の守備陣は、日本の攻撃陣への対応を練れていないように見えた。そこにも、日本の狙いはあった。

 高倉監督はこの試合で、初めての11人の組み合わせをピッチに送り出している。

 GS3試合にフル出場したGK山下杏也加、DF鮫島彩、DF市瀬菜々に替えて、GK池田咲紀子、DF有吉佐織、DF三宅史織を起用。また、ボランチは、同じくフルで攻守を牽引してきたMF阪口夢穂ではなく、DF宇津木瑠美とMF隅田凜のコンビを抜擢。そして、フォーメーションも、これまでの4-4-2ではなく、4-2-3-1を選択している。

 ダブルボランチと4バックに関しては、これまで公式戦や親善試合で見たことがない組み合わせである。中国が、今大会で日本が戦った3試合からメンバーを予想しても、まず当たらなかっただろう。

 日本はこれまで、対戦相手の特徴や組み合わせによって先発メンバーを変えてきたが、裏を返せば、相手チームにギリギリまで対策されないための策でもある。それは同時に、過密日程における突発的なアクシデントにも耐えうる選手層の厚さも意味している。

 そのために、チーム結成から2年間をかけて様々なポジションや組み合わせ、システムを試し、チャレンジとエラーを繰り返してきた。

 中国に対し、この組み合わせはうまく機能していた。

 中国はFW、MF、DFと3ラインが等距離を保っていたが、一方の日本はテクニックと機動力に優れた前線の4人ーーFW岩渕真奈、MF長谷川唯、FW増矢理花、MF中島依美ーーが、タイミングよく間でボールを受け、テンポよくパスをつないだ。

 また、左サイドバックの有吉がビルドアップの起点となってボールを落ち着かせ、前線でボールを失った際には、宇津木と隅田のコンビがすぐに前で奪い返していた。

「ルーさん(宇津木さん)が守備のところで強くいってくれるので、なるべく高い位置からゴールを狙っていきました」(隅田)

 隅田は、代表ではボランチとして、どちらかといえば守備的な仕事をこなすことが多かったが、対人の守備に強い宇津木と組むことで、この試合では積極的な攻撃参加を何度か見せている。2人には、初めてとは思えないバランスの良さがあった。

 そんな中、待ちに待った一発は、前半39分に生まれた。

 右サイド、ペナルティエリア手前で隅田の縦パスを受けた岩渕がターンし、右足でボールをまたぐと左足を一閃。強烈なシュートが、相手GKの手を弾いてゴール右上に突き刺さった。グループステージからフル出場で攻撃陣をけん引し、頼もしいエースになりつつあるストライカーの一撃が、日本に貴重なリードをもたらした。

 

 しかし後半、試合の様相は一転。前線から強く圧力をかけてきた中国に対し、日本は押し込まれる時間が続いた。だが、DF熊谷紗希を中心に声を掛け合いながら、この時間を我慢強くしのぐ。1試合ごとに粘り強さを増してきた強固な守備は、メンバーが変わっても崩れなかった。

 

 試合は、日本が1点リードを保ちながら終盤に突入。そんな中、68分にFW川澄奈穂美、73分にFW横山久美が投入されると、試合が再び動く。

 85分、左サイドのペナルティエリア手前で有吉からパスを受けた横山が、ターンしてすかさず右足を振り抜く。アウトにかかったシュートは、外回転の弧を描きながら、ゴール右上に吸い込まれていった。久々に決めたダイナミックなゴールに、横山の笑顔が弾けた。その直後、ベンチに一目散に走った。

「試合に出られなくて、みんなが気にしてくれていたので。チーム全員で喜びたいな、と思ってベンチに行きました」(横山)

 ピッチに立てない悔しさを共に分かち合い、気遣ってくれた仲間への感謝の想いが溢れた。さらに、その3分後、横山のシュートが相手ディフェンダーの手に当たってPKを獲得。自らゴール左隅に決め、3-0とした。

 試合終了間際には、自陣ペナルティエリア内でPKを献上して1点を失ったものの、試合はこのまま3-1で終了。全員で守り、決めるべき選手が決めた日本は、文句なしの決勝進出を決めた。

【23人で勝ち獲った決勝進出】

「色々な選手が(試合に)出てきましたが、出られないことで悔しい思いをしている選手もいます。それでも、この4試合目でピッチに立った選手たちが答えを出してくれました。チーム全員で勝てたという意味で、この試合は特に、いつも以上の喜びがあります。チーム全員、23人で勝ち獲った決勝への切符だと思います」(熊谷)

 高倉ジャパンのキャプテンとしてチームを牽引してきた熊谷の言葉が象徴するように、総力戦で掴み取った決勝進出である。ゴールはいずれも、岩渕と横山の個人技だったが、局面ではコンビネーションで崩すプレーも多く見られた。

 また、初めての組み合わせが公式戦でしっかりと機能していたことも、一つの成果だ。

 

決勝に向けてコミュニケーションをとる熊谷と有吉(写真:Kei Matsubara)
決勝に向けてコミュニケーションをとる熊谷と有吉(写真:Kei Matsubara)

 日本は、決勝戦で再び、オーストラリアと対戦することとなった。

 オーストラリアは準決勝でタイを破ったが、ターンオーバーをした中で、下馬評に反して劣勢を強いられた。2-2からの延長戦でも決着がつかず、最終的にPK戦で辛うじてタイに勝利している。

 オーストラリアは当然、決勝に照準を合わせてきているだろう。

 昨年夏から数えて3度目の対戦となり、互いの特徴をよく知る両チームが、どのような分析と対策をして試合に臨むのかも、決勝の見どころとなる。

【チームの成長を支えるもの】

 選手たちは、今大会前の国内合宿からすでに3週間以上を共にしている。

 全員で過ごす時間、ピッチ内外でのコミュニケーションの密度が、攻守に好影響をもたらしているのは間違いない。若い選手たちも、以前に増して伸び伸びと良さを発揮している。

 もちろん、毎日取材をしていると、試合に出ていない選手たちの悔しさも伝わって来る。だが、各々がいつ呼ばれてもいいように、しっかりと準備している。

 FW田中美南も、その一人だ。

「(試合に出られなくて)辛くても、やらなきゃいけないことに変わりはないですから。それなら、高いモチベーションでやりたい。出られないのは自分だけじゃないし、みんな、その気持ちを抑えて頑張っているから。フォワードは決めることが仕事だし、優勝に貢献できた、と思えるようにしたいです」(田中)

 コンスタントに試合に出ていなくても、100%の準備をしておくという点で、若い選手たちが実績のある選手たちから学ぶものは大きい。

 オーストラリア戦は大会初スタメンでMVP級の活躍を見せた宇津木、韓国戦と中国戦でプレーした川澄、ベトナム戦と中国戦でプレーした有吉。3人に共通しているのは、揺るぎないメンタリティだ。

「どんな状況でも腐らずやることは、プロの世界では当たり前ですけれど、当たり前のことを当たり前のようにやり続ける難しさもあります。私はそれをやり続ける先輩方を見てきたからこそ、自分自身が同じ立場になった時は、しっかりと表現したいと思っています」(川澄)

 そういった姿勢も、なでしこの血として受け継がれていくものだろう。

 1試合ごとに成長を遂げてきたチームは、決勝戦でオーストラリアに勝ち、偉大な先人たちと肩を並べることができるだろうか。

 

 試合は、日本時間20日(金)の深夜1時50分よりテレビ朝日系列(地上波)とNHK-BS1にて、それぞれ生中継される。

練習から100%を出し切る姿勢が光る川澄(写真:Kei Matsubara)
練習から100%を出し切る姿勢が光る川澄(写真:Kei Matsubara)