W杯出場権をかけた日韓戦はスコアレスドロー。なでしこジャパンの命運は、強豪・オーストラリアとの一戦に

韓国戦で鋭いタックルを見せた隅田凜(2018年1月 国内合宿)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【ワールドカップ出場権は次戦以降に持ち越し】

 

 AFC女子アジアカップ第2戦。勝てば2019FIFA女子ワールドカップフランス大会への切符を得る韓国との大一番は、0-0のスコアレスドローに終わった。

 なでしこジャパンのW杯出場権の行方は、次戦以降に持ち越しとなった。

 

 韓国にとってはシナリオ通りの引き分けだろう。

 韓国はグループステージ第3戦で格下のベトナムとの対戦を残しており、日本はオーストラリアとの対戦を残す。日本はあと1勝すればグループ2位以内が確定し、準決勝に進出(W杯出場権を獲得)できるが、オーストラリアに0-0の引き分け以下だとグループ3位になり、5位決定戦に回る可能性が高い。

 現時点でW杯優勝国にも挙げられるほど、世界から実力を認められているオーストラリアから勝ち点3を奪うことは至難の業とも言える。韓国は日本戦に引き分けても、最終戦で日本とオーストラリアのどちらかが勝てば、2位以内が決定する。そのような状況に陥らないためにも、日本はこの韓国戦で勝っておきたかった。

 そして、韓国はそんな日本の心理を突いた巧みなゲーム運びを見せた。

 日本はベトナム戦から先発メンバー5人を入れ替え、右サイドバックにDF清水梨紗、ボランチにMF隅田凜が入り、右サイドハーフにFW川澄奈穂美、左サイドハーフにMF長谷川唯、2トップの一角にFW田中美南が入った。

 韓国の攻撃の核は、以前INAC神戸レオネッサ(以下:INAC)でプレーしたMFチ・ソヨンとMFチョ・ソヒョンの2人に加え、今年INACに加入したMFイ・ミナという、日本でもおなじみの3人。手の内を知り尽くした元(現)チームメート同士も多い。

 だが、試合が始まると、日本は韓国のタイトなプレッシャーとショートカウンターに防戦を強いられた。

 最も警戒すべきエースのチ・ソヨンに対しては、MF阪口夢穂と隅田のダブルボランチを軸に複数で対応したが、手薄になったスペースをうまく使われた。

 前半8分には、カウンターからイ・ミナに決定機を作られたが、GK山下杏也加が的確な飛び出しで防ぎ、なんとか切り抜けた。

 日本はボールを奪ってもパススピードが上がらず、相手最終ラインの背後を狙うも、完璧な呼吸を見せる韓国の4バックが隙を見せることはなかった。

「前半は、韓国のディフェンスラインがほとんど動いていませんでした。攻撃面では、もうちょっと(選手同士の)距離感が近かったら、ボールを取られても前からパッパッパ、と(マークを)はめて奪い返せたんですけど…」

 そう振り返ったのは阪口だ。

 日本は、高さとポストプレーで勝負できるFW菅澤優衣香を後半から投入。その菅澤が前線でターゲットとなり、残り30分を切ったあたりで足が止まり始めた韓国を押しこんだ。中盤でこまめにポジションを変えてゲームを落ち着かせ、冷静に攻撃の糸口を探っていた阪口は、後半、韓国の守備に隙が生じた瞬間を見逃さなかった。

 そして、阪口の攻撃参加を合図に、73分には7本のパスをつないで長谷川がフィニッシュまで持ち込んだ。また、83分には長谷川、阪口、FW岩渕真奈とダイレクトでつなぎ、最後は岩渕がミドルシュート。しかし、いずれもあと一歩のところで仕留めきれず。

 岩渕は終盤にもドリブルから決定的なシュートを放ったが、これも相手GKに阻まれ、まもなくタイムアップ。日本は勝ち点4のグループ2位で、グループステージ最終戦のオーストラリア(同1位)戦を迎えることとなった。

【交代枠を残した理由】

 高倉麻子監督は、なぜ交代枠を1つ残したのか。日本のベンチにはFW横山久美、DF宇津木瑠美、MF中島依美といった、これまでに試合の流れを変えてきた経験豊富な選手たちが控えていた。そして、ラスト20分間、韓国は疲労困憊していた。

 同じような状況で、これまで、高倉監督は早い段階で選手交代のカードを切ってきた。

 しかし、この試合で横山が投入されたのは、試合も終盤に差し掛かった86分。あらゆる角度から枠を捉えることができる横山の決定力に期待したが、あまりにも時間が短かった。

 高倉監督は試合後、交代枠を1つ残した理由について次のように振り返った。

「引き分けの状況では、交代でバランスが崩れてしまうこともあるし、攻撃のアクセントになるか、悩むところです。結果的に、今日は慎重になりました」(高倉監督)

 日本にとって、この試合は「勝たなければいけない試合」だったが、同時に「絶対に負けてはいけない試合」でもあった。負ければ、その時点で日本が準決勝に進出できる可能性はほぼ消滅するからだ。

 また、韓国は自陣に押し込まれながらも、わずかな残り時間の中で、カウンターから途中出場のFWジョン・ガウルの一発に賭けるような怖さがあった。その空気感の中で交代カードを切ることは、後半、安定していた守備のバランスを崩すリスクがあったということだ。

 結果的にはゴールを奪えずに引き分けたため、「交代枠を使っていたら」という想像は尽きない。だが、これが、グループ2位以内に入るために「絶対に負けられない」一戦だったことは確かだ。一つのミスが試合の明暗を分けるその緊張感を、ピッチに立つ選手たちは感じていただろう。

【詳細な公式スタッツから見えてくるもの】

 試合後にAFCのサイトに掲載された公式スタッツ(http://www.the-afc.com/competitions/afc-womens-asian-cup/matches/2017/972821)によると、この試合のシュート数、ボール支配率など、いずれも日本が上回っている。パス成功率やデュエル成功率も同様だ。それを意外に感じるのは、韓国が、より効果的に決定機を作り出していたからだろう。

 実際、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチには、攻守にパワフルなプレーを見せたチョ・ソヒョンが選ばれている。

 スタッツの中で日本が韓国に劣っているのが、ロングパスの成功率だ。韓国はこの試合、サイドからワントップの前のスペースにライナー性の鋭いクロスを入れる攻撃で、2度の決定機を作った。その形には、オフサイドにならないタイミングと、クロスの質を安定させるべく練習を重ねてきた成熟度の高さが表れていた。

【収穫は守備の安定、課題はセットプレー】

 この試合の日本の最大の収穫は、韓国の猛攻を食い止め、無失点で乗り切った守備陣の粘りだろう。

 特に、センターバックのDF熊谷紗希とDF市瀬菜々は素晴らしかった。24分に、相手FKのこぼれ球をゴールのほぼ正面から打たれたシュートは、熊谷が体を投げ出してブロック。熊谷は、空中戦もほぼ全勝だった。また、市瀬はベトナム戦に続き、くさびのパスに厳しく寄せ、韓国のビルドアップをことごとく封じた。

センターバックとして試合ごとに成長をみせる市瀬菜々(2018年2月22日 国内合宿 写真:中西祐介/アフロスポーツ)
センターバックとして試合ごとに成長をみせる市瀬菜々(2018年2月22日 国内合宿 写真:中西祐介/アフロスポーツ)

「1対1で負けないことを意識していたので、何回か止められて良かったです。最後のところで、シュートを打たれる瞬間に足を出すことを意識しました」(市瀬)

 ペナルティエリア内に侵入され、強引に止めざるを得ない場面もあったが、すべて、ノーファウルでしのいだ。また、市瀬はフル出場した選手の中で、パス成功率がチームトップの88.5%。ボールを受ける際のポジショニングの良さが光った。

 中盤では、この大一番に阪口の相方として抜擢された22歳の隅田が、攻守に積極的なプレーを見せた。隅田のボールタッチ数はチーム最多の「81」。また、タックルの数もチーム最多の「5」(うち、ファウルが「2」)。特に、チ・ソヨンに対しては容赦なかった。隅田は2013年に、国内リーグでチ・ソヨンと対戦経験がある。

「これまで対戦した中で一番うまいな、と思った選手です。攻撃の部分がずば抜けていて、相手の逆を取るシュートとか、一つひとつが本当にうまかった。そのプレーにどれだけ対抗できるかが楽しみです」(隅田)

 試合前日に実感を込めてそう話していた隅田は、この試合、前半は彼女の巧みなステップとドリブルで抜かれる場面もあったが、後半は踏ん張り、阪口とともにチ・ソヨンを挟み込んで前を向かせなかった。

 一方で、日本は韓国に対し、数的優位でも奪えないシーンがあった。オーストラリアは韓国以上にスピードのある選手が多く、手強い。球際の強度は次戦までに修正したいポイントだ。

 また、この試合でも、セットプレーをモノにできなかった。唯一、可能性を感じたのが、川澄の左コーナーキックに菅澤が頭でドンピシャで飛び込んだシーン(62分)だ。菅澤は今大会、練習からキレのあるプレーを披露している。「一発」がある選手だけに、期待がかかる。

 日本は昨年7月のアメリカ遠征でオーストラリアに2-4で敗れており、その強さが骨身にしみている選手も多いはずだ。だからこそ、この大一番でリベンジしたい。

「自分たちが持っているものを出し切れれば、勝てる相手だと思っています」(高倉監督)

 オーストラリア戦は、日本時間13日(金)の22時35分よりNHK-BS1、22時40分より、テレビ朝日系列(地上波)にて、それぞれ生中継される。