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MF國澤志乃のゴールで、長野が開幕2連勝。勝利を支えた堅守と、進化する攻撃サッカー

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグ2連勝を飾った長野(國澤は背番号6/写真:Kei Matsubara)

【リーグ3連覇の王者から奪った1点】

 3月25日(日)に行われたなでしこリーグ第2節で、長野パルセイロ・レディース(以下:長野)がリーグ3連覇中の王者、日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)を1-0で下し、開幕2連勝を飾った。

 値千金の決勝ゴールで長野Uスタジアムのホーム開幕戦に詰めかけた3000人を超える観衆を沸かせたのは、ボランチのMF國澤志乃だ。

 試合終盤の83分。國澤は左サイドから中央に流れてきたボールにいち早く反応すると、FW鈴木陽(はるひ)にダイレクトでボールを預け、前線に駆け上がった。

 狙った獲物を一瞬で仕留めそうな重心の低い走りが、ピッチの中央で異彩を放つ。

 

 鈴木のリターンパスを受け、GK山下杏也加の状況を確認した國澤は、ゴールまで25mほどの位置から左脚を一閃。

 全身をしなやかに使ったダイナミックなバックスイングから放たれたシュートは、山下の手からこぼれ落ち、後方のゴールに吸い込まれた。

決勝ゴールを決めた國澤志乃(写真:Kei Matsubara)
決勝ゴールを決めた國澤志乃(写真:Kei Matsubara)

 ベレーザのワンサイドゲームになりつつあった中、それは、長野が後半に放った唯一のシュートだった。

 國澤は、自らのゴールを「入ってくれてラッキーでした」と振り返りつつ、「守備陣の頑張りが結果につながって良かった」と、ベレーザの猛攻を凌ぎ切ったチームの堅守にホッとした表情を見せた。

 長野にとって、大きな価値のある1勝だった。

 ホーム開幕戦の勝利に加え、相手は昨年4回対戦して一度も勝てなかったリーグ王者。開幕2連勝は、1部に昇格してからは初となる。また、昨シーズンからスターティングメンバーの約半数が入れ替わった中、内容面でも手ごたえを感じさせる勝利だった。

【体を張った堅守】

 この試合で、ベレーザが“不調“だったわけではない。

 今シーズン、新監督として迎えられた永田雅人監督の下、MF阪口夢穂をワンボランチに置く4−1−4−1のシステムを採用。新しいシステムになってから日は浅いが、4-2-3-1がベースだった直近の3シーズンとメンバーはほぼ変わっておらず、動きにぎこちなさは感じられなかった。

 ポジションを流動的に入れ替え、少ないタッチ数でボールを動かしながらゴールを目指す戦い方はこれまでと変わらないが、各ポジションの動きの自由度は増した印象がある。

 その中で、コンビネーションと個人技を巧みに使い分ける個々の技術と戦術理解度の高さは、さすがだ。

 ベレーザにとっての誤算は、ボールを支配し、多くのチャンスを作りながら、最後まで決定的な形でシュートを打てなかったことだろう。

 

 だが、それこそが長野の狙いだった。ベレーザにボールを支配されることは想定内。待っていたのは、縦パスが入る瞬間だ。長野の本田美登里監督は、守備の狙いを次のように振り返る。

「(なでしこジャパンの)アルガルベカップで、日本がデンマーク戦など、他のチームにボールを回されているシーンがありました。その原因を考えた時に、くさびに入った縦のボールに対して日本の選手たちが厳しくいけていないシーンが多かったんです。このチーム(長野)に置き替えた時に、押し込まれたり、ハーフコートゲームになる原因はそういうところだと思い、縦に入ったボールに、とにかく厳しくいくことを徹底しました」(本田監督)

 その守備は、ベレーザを苦しめた。特に、2年連続リーグ得点王でもあるFW田中美南にボールが入ると、長野はセンターバックのDF坂本理保、DF高橋奈々を中心に四方から圧力をかけ、90分間を通じてシュートを1本も打たせなかった。

 1対1で仕掛けられた局面でも、長野が簡単にやられる場面はほとんどなかった。それは、以前、マンツーマンディフェンスを採用していたこととも無関係ではないだろう。

 4バックとともに、中盤の底で強固な守備を見せた國澤は言う。

「数的優位を作ってボールを奪うことも大事ですが、個で負けないようにしています。今日のベレーザは特に小柄な選手が多く、テクニックがある分、体をぶつけてボールを奪いにいきました」(國澤)

 それでも、後半はかなり厳しい戦いを強いられた。

 ベレーザは後半から右サイドにMF宮澤ひなたを、67分には、左サイドにFW植木理子を投入。スピードとテクニックを備えた18歳コンビが繰り出す、緩急の効いたドリブルは脅威だった。

 前半、左サイドでインターセプトの起点となっていたサイドバックのDF野口美也は、後半、宮澤と対峙することとなり、緊張感のある1対1を強いられ続けた。

 それでも粘り強く駆け引きし、縦に突破されそうになった50分のピンチでは、長い脚を生かしたスライディングで阻止している。

「(宮澤選手は)よく走って、キュンキュン(したキレのある動き)でした。特に裏への対応は気をつけていたのですが、技術もスピードもあったので、わかっていてもやられてしまう。体を張って止めるしかありませんでした」(野口)

 連係で劣る部分は個々が体を張り、相手の猛攻を跳ね返した。その中で全員が90分間集中力を切らさず、無失点で乗り切った。

【進化する攻撃サッカー】

 長野は昨年、FW横山久美が海外移籍した7月以降、得点力不足に苦しんだ。それでも、堅守をベースに勝ち点を稼いだ前半戦の貯金もあり、なんとか6位でシーズンを終えている。

 シーズンを通して攻撃面は物足りなさが残ったが、守備面は目に見えて洗練された。

 本田監督は今シーズン開幕前に、「点を取られても取り返す」攻撃的なサッカーを目指すことを公言。それは、爆発的な得点力でリーグ3位になった2016年のスタイルに立ち返るということでもある。

 もちろん、目指す方向性は同じでも、2016年と今年のチームは違う。そこには、4つの「違い」が見られる。

 

 まず、今年のチームには、昨シーズンのリーグ戦で培った確かな守備力がある。

 加えて、前線の顔ぶれが変化した。2016年の攻撃サッカーを支えたFW横山久美とFW泊志穂はいない。だが、補強してきた新戦力がうまくフィットしつつある。

 たとえば、前半3分のプレーでは、高橋が最終ラインでボールを奪った後、MF中村ゆしか、MF木下栞、FW西川明花と、右サイドでワンタッチパスをつなぎ、良い形で攻撃につなげた。木下以外は今シーズンから長野に加入した選手だ。

 

 続いて、守備から攻撃に転じた際のパスミスが減ったことが挙げられる。

 本田監督は、

「パス&コントロールの練習を、選手が飽きるぐらい徹底してやり続けてきました」

 と、日々のトレーニングの成果を口にした。

 

 そして、交代選手が試合を決める活躍をする流れも、今年のチームの良さになりつつある。

 常盤木学園から加入したMF滝川結女(ゆめ)は、なでしこリーグデビュー戦となった開幕戦で、途中出場で決勝ゴールを決める大仕事をやってのけた。

 滝川はこの試合でも、65分に右サイドハーフに投入されると、攻守に躍動。88分には相手陣内で単独でボールを奪い、鈴木のシュートチャンスを演出した。

「(守備で)いくところはしっかりいけましたし、(鈴木)はるひにいいパスも出せて、自分のプレーは通用するんだという自信になりました」(滝川)

 また、81分に投入され2トップの一角に入った鈴木は、ピッチに立った2分後に國澤の決勝ゴールをアシストしている。ベレーザの18歳コンビに負けじと、長野の18歳コンビも輝きを放った。

 ポジティブな要素とともに、結果も伴っている長野のサッカーが、今後どのような変化を遂げていくのか、見ものだ。

 この後、代表活動のためにリーグ戦は一旦中断され、今週末からはリーグカップが始まる。

 長野は3月31日(土)に、ホームの長野UスタジアムでINAC神戸レオネッサを迎える。

 また、4月1日(日)には、トランスコスモススタジアム長崎で「MS&ADカップ2018」の、なでしこジャパン対ガーナ戦が行われる予定だ。

ホーム開幕戦に3005人の観客が詰めかけた(写真:Kei Matsubara)
ホーム開幕戦に3005人の観客が詰めかけた(写真:Kei Matsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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