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昨シーズンのリーグカップ王者、千葉。新監督を迎え「走るサッカー」は進化するか

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグ戦上位入りを狙う千葉(ベレーザ戦、2017年9月17日)(写真:アフロスポーツ)

 今月の2月14日(水)から18日(日)までの5日間、千葉県内で「なでしこ交流戦」が行われた。

 参加したのは、なでしこリーグ1部の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)、浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和)、マイナビベガルタ仙台レディース(仙台)、AC長野パルセイロ・レディース(長野)、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)、ノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)と、2部のちふれASエルフェン埼玉(埼玉)、オルカ鴨川FC(オルカ)、そして、韓国WKリーグ所属の国民体育振興公団(KSPO)の9チーム。

 3月21日(水・祝)のなでしこリーグ開幕を前に、交流戦に参加したなでしこリーグ1部所属6チームの現状をリポートする第5弾。

千葉交流戦結果(千葉公式HP)

【カップ戦初優勝を支えた「走り」と「堅守」】

 昨シーズン、千葉はリーグ戦を7位で終えた。目標だった「シーズン10勝」は達成できなかった(7勝1分10敗)ものの、8月のリーグカップで優勝し、皇后杯はベスト4だった。

 中でも、最も印象に残る出来事は、1部での初タイトルとなったリーグカップ優勝だ。リーグ上位のINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)と浦和を、ともに1-0の最少得点差で破る原動力となったのは、千葉のチームコンセプトでもある「走り、闘う」サッカーだ。

 決勝の浦和戦では、疲労で足が止まってもおかしくない後半アディショナルタイムに、5人もの選手が自陣からゴール前に駆け上がり、MF瀬戸口梢の決勝ゴールをサポートした。

 その中でも、チーム在籍12年目になるFW深澤里沙は、90分間、最前線で苦しい顔を見せることなく、飄々と走り抜いた。

「ジェフ(千葉)は技術がない分、泥臭く走ること、闘うことが基本です。(私は)加入してから11年間それをやってきたので、試合前に『走らなきゃ』と意識したり、試合後に『今日も走ったな』と思うことはないんです」(深澤/2017年9月)

 

 献身的に走ってチームを支える選手が多いのは、千葉の強みとも言える。

 今シーズンは、その走りをより効果的に多くのゴールに結び付けたいところだ。

【U-18で日本一になった実績を携えて】

 千葉は昨年まで4年間、チームを率いた三上尚子監督が退任し、女子の18歳以下の年代を率いていた藤井奈々監督を新たな指揮官として迎えた。

 藤井監督は、現役時代は日テレ・ベレーザなどでプレーし、2007年から指導者の道に入ると、2015年からは千葉の育成年代の指導に当たってきた。そして、昨年末の第21回全日本女子ユース(U-18)サッカー選手権では、セレッソ大阪堺レディース、浦和レッズレディースユース、日テレ・メニーナなどの強豪を抑え、チームを悲願の初優勝に導いた。

 藤井監督は、トップチームで迎える1年目のビジョンについて、新体制発表記者会見の席で次のように話している。

「今シーズンは、個々の感覚と判断を研ぎ澄まし、『ゲームを読む』目、『ボールを持つ』体力をつけていきたいと思います」(藤井監督)

 その言葉からは、今までのカウンター主体の攻撃に加えて、ボール保持率を高める試合運びもできるチームにしていきたい、という狙いがうかがえる。

 トレー二ングでは、オフザボールの動きの質や状況判断力を磨くことに並行して、ボールコントロールも高めることにも力を注いでいるという。

「走ることは選手たちが得意とするところですが、『止める』、『蹴る』ができていません。走るためにはまず頭を使って、どこで駆け引きするのか、どのスペースに、どのタイミングで走り出すのかを考え、その中でボールを扱っていけるように、力を入れています」(藤井監督/2018年2月新体制発表記者会見)

 交流戦ではポジションやフォーメーションを固定せず、競争の中でポジションを勝ち取ってほしい、という選手たちへのメッセージも感じられた。

 交流戦の結果は、2勝2分4敗。

 コンビネーションから相手ペナルティエリアに侵入する回数は少なかったが、セットプレーからのゴールなどで、ベレーザ(1-2)、浦和(0-1)、仙台(0-1)と、昨シーズンのリーグ戦上位チームを相手に接戦を演じた。

【攻守の鍵となるのは…】

 

 昨シーズン、ボランチとしてチームの中盤を支えたMF磯金みどりが、シーズン終了後に引退。一方、FW山崎円美が長野から、MF大久保舞が伊賀FCくノ一から加入した。

 センターバックのDF櫻本尚子は、交流戦を終えて、新チームについてこのように話した。

A代表入りにも意欲を見せる櫻本尚子(C)Kei Matsubara
A代表入りにも意欲を見せる櫻本尚子(C)Kei Matsubara

「監督が変わって、新加入も含めて選手の評価はフラットな状態になったと思うので、自分自身がアピールすることも大切だと思います。藤井監督は、サッカーの原理原則をミーティングの中で言葉にされていて、『まずはゴールを見る』とか、そういう当たり前のことを改めてやるのは、すごく新鮮ですね」(櫻本/交流戦5日目)

 1対1の強さと高いコミュニケーション能力で、これまでディフェンスラインで不動の存在感を放ってきた櫻本だが、この言葉には、危機感と、前向きなモチベーションの両方が感じられた。

 そして、長野戦ではコーナーキックから豪快なボレーシュートを叩き込み、しっかりとアピールした。

左サイドで積極的な攻撃参加を見せた上野紗稀(C)Kei Matsubara
左サイドで積極的な攻撃参加を見せた上野紗稀(C)Kei Matsubara

 各ポジションに目を向けると、GKは、1対1や飛び出しのタイミングの良さで、昨シーズンのリーグカップ優勝を支えたGK根本望央(みお)と、正確なパスとシュートブロックを得意とするGK船田麻友の2人が、今年も正GKの座を争うことになりそうだ。対照的な強みを持ち、切磋琢磨する2人だけに、対戦相手によってGKが変わる可能性もある。

今シーズンはゴールへの期待もかかる成宮唯(C)Kei Matsubara
今シーズンはゴールへの期待もかかる成宮唯(C)Kei Matsubara

 また、サイドでは、左サイドバックのDF上野紗稀の積極的な攻撃参加が光った。

 昨年に続きキャプテンを任されることとなった上野は、今シーズン注目したい選手の一人だ。千葉の鋭いカウンター攻撃を支える思い切りの良いオーバーラップと、ここぞという場面でしかけるドリブルは、相手にとって怖い存在になるに違いない。

 また、交流戦では、MF成宮唯が2列目で攻撃のアクセントになっていた。

チーム随一の高いテクニックとキープ力を持ち、時に予想外のテクニックで会場を沸かせることもある成宮だが、今年は目に見える「ゴール」という結果が欲しいところだ。

 そして、今年も、最年長の深澤には注目したい。派手なプレーやスーパーゴールで沸かせずとも、人の心を打つその走りは、スタジアムに足を運んでも見に行きたいと思わせる。

 

 開幕戦は、新加入の選手も含めて、「横一線」でスタートした競争を勝ち抜く11人が並ぶことになる。藤井新監督の初陣を勝利で飾れるか、注目だ。

 千葉は、3月21日(水・祝)にアウェイのユアテックスタジアム仙台で、マイナビベガルタ仙台レディースと開幕戦を戦う。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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