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リーグ開幕まで、あと1ヶ月。新監督を迎えた常勝ベレーザの新たなチャレンジ

松原渓スポーツジャーナリスト
昨年は、リーグ3連覇と皇后杯優勝を達成した(2017皇后杯決勝戦)(写真:アフロスポーツ)

 今月の2月14日(水)から18日(日)までの5日間、千葉県内で「なでしこ交流戦」が行われた。

 参加したのは、なでしこリーグ1部の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)、浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和)、マイナビベガルタ仙台レディース(仙台)、AC長野パルセイロ・レディース(長野)、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)、ノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)と、2部のちふれASエルフェン埼玉(埼玉)、オルカ鴨川FC(オルカ)、そして、韓国WKリーグ所属の国民体育振興公団(KSPO)の9チーム。

 3月21日(水・祝)のなでしこリーグ開幕を前に、交流戦に参加したなでしこリーグ1部所属6チームの現状をリポートする第2弾。

千葉交流戦結果(千葉公式HP)

【リーグ3連覇の王者】

 昨年、ベレーザはリーグ戦と皇后杯の2冠を達成した。

 リーグ戦は2015年から3連覇中で、昨シーズンは2位以下を寄せ付けない強さを見せた。現在チームの平均年齢は約22歳と若く、伸びしろも大きい。

 安定した強さを支えるのは、変わらないメンバーで5年以上かけて培ってきた連係の良さだ。その中で、個々の選手が持つ高いテクニックと状況判断の良さが活きる。

 ベレーザは今シーズンも、優勝の最有力候補だ。

 交流戦は1試合のみの参加で、千葉と対戦した。結果は2−1で勝利。MF長谷川唯とFW植木理子がゴールを決めた。今回の交流戦には、主力メンバーのMF阪口夢穂、GK山下杏也加、FW籾木結花の3人が参加しなかったが、メニーナから昇格した植木とGK田中桃子、星槎国際高等学校から新加入したMF宮澤ひなたら、新戦力が出場機会を得ていた。

【さらなる成長を期して迎えた新監督】

 ベレーザは昨年、リーグ3連覇と皇后杯優勝を達成した森栄次監督がシーズン終了後に退任し、3シーズンぶりに新監督を迎えた。

 圧倒的な強さで勝ち続けている時に監督を交代した理由について、竹本一彦GMは次のように話した。

「勝っているチームに新監督を迎えた狙いは、勝っている時にこそ、新たな刺激を、新しいチャレンジとして求めるためです」(竹本GM)

 

 ベレーザは、2019年のワールドカップや2020年のオリンピックに向け、「世界で通用する選手を育成する」という目標も掲げている。その大事な時期を任せられたのは、東京ヴェルディユースをはじめ、男子の育成年代を20年以上指導してきた経歴を持つ永田雅人監督。鋭い目つきとミステリアスな雰囲気の新監督は、新体制発表会見で、3連覇中のチームを率いることについて「プレッシャーや不安、恐れは全くありません」と言い切った。

 そして、その言葉からは、ベレーザをより高みに導けるという、たしかな自信がうかがえた。

「一人ひとりのクオリティを上げられる部分を多く見つけましたし、試合では、今までの戦術に新たなものを足していきます。プレーエリアを広げたり、判断の選択肢を増やすことなど、個人の技術や戦術を、グループやチームに影響するまでに高めていきたい。彼女たちがサッカーに、より深い興味を持つことがチームの結果につながり、代表や、世界にもつながっていくと思います」(永田監督)

 永田監督が目指す成果は、短期的な「結果」ではなく、むしろ、一人ひとりがサッカーの本質をより追求し続けるプロセスの中にある。「上手くなり続けることに限界はない」という言葉も、そのことを裏付ける。

 その上で、チームとして今まで培ってきたものを壊したり、新しいものに変えることは求めていないという。

「まずは、選手それぞれに未開拓の部分で気づきを与えたいですね。あとは、感覚的にやってきたことを具体的に知って、何がうまくいかなかった原因なのか、立ち返って考えられるようにすること。そういうことを、一つずつやっています」(永田監督)

 千葉戦は、4−4−2のフォーメーションだった。先発メンバーは、今回不在の阪口、山下、籾木以外は昨シーズンのリーグ戦とほぼ同じ顔ぶれで、中盤の両サイドに新加入の植木と宮澤が入った。昨年と違い、縦へのスピードがある選手を両サイドに置いたのは、中央を固めて守っていた千葉に対する、この試合限定の配置。「戦術っぽくやっているつもりはありません」という永田監督の言葉からは、開幕に向けてすべてが未知数であることがうかがえた。

【新キャプテン】

ベレーザからは、なでしこジャパンにも多くの選手が選ばれており、毎年2月末から3月にかけてポルトガルで行われるアルガルベカップには、今年、7人の主力メンバーを送り出す。

 代表招集された選手7人は、20日以降の約2週間チームを離れる。そのため、開幕戦に出場するメンバーが決まるのは、開幕直前になる。

 昨シーズン、リーグ最少失点を支えたGKの山下と、センターバックのDF岩清水梓とDF清水梨紗のトライアングルは安定している。両サイドバックはDF宮川麻都とDF土光真代に加え、怪我から復帰したDF有吉佐織の存在が間違いなくプラスになる。そして、中盤は3年連続MVPの阪口を中心に、MF中里優、MF隅田凜、長谷川らがスタメン争いをリードする。

 とはいえ、昨シーズンの控えメンバーにも流れを変えられるピースが揃っており、前線がどのような組み合わせになるのかは楽しみだ。

 攻撃面では、2年連続得点王のFW田中美南が、今年も多くのゴールを見せてくれそうだ。田中は一昨年に比べて、昨年はチームの勝利に直結するゴールが増えた。特に、相手を背負った状態からターンしてシュートという一連の形は、継続してきたフィジカルトレーニングによって、揺るぎない得点パターンになりつつある。

 そして、田中は今年、ベレーザの新キャプテンになった。7年間、キャプテンマークを巻いた闘将・岩清水からバトンを受けた形だが、その責任を、田中は自分なりに受け止めていた。

「FWでキャプテンは珍しいですよね、人生で初めてです。でも、今のベレーザは頼れる選手が多いので、あまり考えすぎずにやっています」(田中)

 そのポジティブなキャラクターは、苦しい時にチームを支える一助になるだろう。

 「責任という意味では、最後に点を決めるのは自分ですし」ーーサラッとそう口にした田中には、エースの頼もしい自覚も感じられた。永田新監督の下で行われている新たなトレーニングは、田中の目にはどのように映っているのだろうか。

「去年までとはかなり違うので、今はやることが多くて大変です。監督は、戦術ボードで説明するときに、難しいプレーを簡単そうに言うんです(笑)。例えば、『ボールを回すことは歩いていてもできる』ということや、『ここで引きつけてワンツーして、ここで2−1を作って、相手を引きつけてボールを受けて、ゴールを決める』とか。話を聞いていると、確かに、とか、なるほど!と思うのですが、実際にやると難しいですね」(田中)

 その言葉を裏付けるように、田中はワントップで出場した千葉戦で、いつもとは違う動き出しのタイミングやボールの受け方を工夫しているように見えた。

 

 また、千葉戦では、新加入の宮澤も印象的な動きを見せていた。

 宮澤は左サイドハーフで先発出場し、持ち前のスピードやドリブルを活かしたプレーで、全く物怖じすることなく仕掛けてチャンスに絡み、コーナーキックのキッカーも務めた。年代別の代表チームで活躍してきた宮澤は、今年1月、なでしこジャパンのフィジカルキャンプに初招集されている。

千葉戦で積極的な仕掛けを見せた宮澤ひなた(C)Kei Matsubara
千葉戦で積極的な仕掛けを見せた宮澤ひなた(C)Kei Matsubara

 メニーナから有望な選手を昇格させることが多いベレーザが、高卒の選手を獲得するのは珍しく、クラブの期待の高さを表している。そして、宮澤自身がベレーザを選んだのは、なでしこジャパン定着に向けて、よりレベルの高い環境を求めたからだ。

「なでしこジャパンは(一度)選んでもらった以上、今後も入らなければいけない場所です。まだ一度選ばれただけですが、定着できるように、日々の練習を頑張っていきたいです。U-20ワールドカップで世界一を獲ることもそうですが、東京オリンピックも目指します。まずは一人の選手として、たくさんの人に応援されて愛される選手を目指したいです」(宮澤)

 少しはにかみながら静かに話したその言葉には、強い意志と覚悟が感じられた。大器の予感を漂わせる、18歳の1年目の活躍が楽しみだ。

 新監督と新戦力を加え、4連覇を目指すベレーザは、3月21日(水・祝)にホームの味の素スタジアム西競技場で、セレッソ大阪堺レディースと開幕戦を戦う。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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