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日テレ・ベレーザが3大会ぶりに皇后杯制覇。堅守を支えたリーダー、DF岩清水梓が先導した新たな黄金時代

松原渓スポーツジャーナリスト
ベレーザが今シーズン2冠を達成した(2017年12月24日、皇后杯決勝)(写真:アフロスポーツ)

【2冠目】

 キャプテンのDF岩清水梓が、優勝カップを高々と掲げる。

 表彰台には今シーズン、リーグ優勝に続く2つ目のタイトルを勝ち獲った選手たちが、自信に満ちた笑顔で並んでいた。

 12月24日(日)にヤンマースタジアム長居(大阪)で行われた、第39回皇后杯全日本女子サッカー選手権大会決勝。

 3大会ぶりの優勝を目指す日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)と、クラブ創設6年目にして初の決勝進出を果たしたノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)の一戦は、ベレーザがノジマを3-0で下し、全国477チームの頂点に立った。

 90分間を通じ、両チームのシュート数はともに8本で、ボール支配率も拮抗していた。その中で、結果的に3点差がついた理由は、明らかだった。

「ベレーザは決めるところをしっかり決めて、私たちは決めなければいけないところで決められませんでした」(MF田中陽子/ノジマ)

 積極的なプレーで相手ゴールに迫りながら、最後まで決めきれなかったノジマの田中(陽)は試合後、ベレーザとの決定力の差を口にした。

 勝敗を分けたもう一つのポイントは、刻々と変化する試合状況の中で相手のわずかな「隙」を見逃さず、的確に攻めるベレーザの抜け目なさだ。それは、3つのゴールシーンによく表れていた。

 ベレーザのゴールはいずれも、パスの出し手と受け手のシンプルなコンビネーションによって生まれている。

 先制点は、試合開始早々の6分。ベレーザはFW田中美南が鋭い動き出しで岩清水のフィードを引き出し、相手GKの上を抜くループシュートを決めた。このゴールには伏線があった。岩清水は、次のように振り返る。

「(試合中に)美南が、『(相手のディフェンス)ラインがちょっと高いから(裏のスペースを狙ったら)いけるかもしれないです』と伝えてくれたので、ボールを持ったら真っ先に高い位置を狙っていました。美南の動き出しが良かったので、引き出されたパスですね」(岩清水)

先制ゴールを決め、ベンチに走った田中(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)
先制ゴールを決め、ベンチに走った田中(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)

 その後も、点を取るために前がかりになったノジマの最終ラインの背後に生じるスペースを狙い続けた。24分には、1点目とほぼ同じ形で、MF阪口夢穂が相手最終ラインの背後で岩清水のフィードを引き出し、ループシュートを決めて2-0。

「相手の技術が高い分、(球際で)強く(ボールを奪いに)いったらスッと抜かれるんじゃないかと恐れる部分があって、前半は守備が軽すぎました。それで、後半は強くいきました」(DF吉見夏稀/ノジマ)

 試合後にそう話したのは、ノジマの吉見だ。その言葉通り、後半はノジマが持ち前のタイトな守備で、試合のペースを握った。

 しかし、ベレーザはこの時間帯は無理をせず自陣に引いて耐え、反撃の機会をうかがった。そして、74分のゴールで試合を決定付ける。

 ノジマ陣内で、右サイドから中央に流れたミスパスを拾ったMF中里優が、タイミング良く相手の最終ラインの背後に抜け出した田中(美)に鋭いパスを送り、田中(美)が相手GKの重心の逆をつく技ありのシュートをゴール右隅に決めて、3-0と突き放した。

 ベレーザは、速攻か遅攻か、中央突破かサイド攻撃かにこだわらず、常に相手の状況に応じたプレーの判断を共有していた。そして、そのチャンスを確実に決めた。

 ベレーザの森栄次監督は、「(全体的に)若干、堅かったと思います」と、内容は満足できるものではなかったことを試合後に明かしたが、確かな個人戦術と連係の良さに裏打ちされた実力が、3-0というスコアに反映されていた。

【負傷者続出の中で築いた鉄壁】

 今シーズン、リーグ戦と皇后杯の優勝で2冠を達成したベレーザ。その強さを支えた要素の一つが、堅守だ。リーグ戦は18試合で8失点で、これは昨シーズンと同じだが、皇后杯は5試合で1失点に抑えた。今シーズン、最終ラインに負傷者が続出したことを考えれば、この数字はより重みを増す。

 リーグ開幕前の3月に左サイドバックのDF有吉佐織が右膝前十字靭帯損傷で離脱、7月にはセンターバックのDF村松智子が左膝前十字靭帯損傷で離脱し、最終ラインの再編成を余儀なくされたが、両ポジションを本職ではない選手たちが埋めた。そして、シーズン終盤は、右サイドバックを本職としてきたDF清水梨紗がセンターバックにコンバートされ、岩清水とコンビを組んだ。

 この2人のコンビが、はまった。清水のスピードを活かした後方へのカバーリングは、前でボールを奪うことを得意とする岩清水との相性が良く、GK山下杏也加の的確な飛び出しやセービングにも助けられ、最終ラインが安定した。

 ところが、11月3日の皇后杯2回戦では、その清水が左鎖骨骨折を負うアクシデントが発生。全治は2〜3ヶ月と発表されたが、ここで清水は一般的な保存療法ではなく、手術をして早期の復帰を目指すことを選択する。それだけ、このタイトルにかける想いが強かった。リハビリの後、準決勝の3日前にベレーザの練習に完全合流した清水は、患部にボルトを入れて準決勝以降の2試合に出場した。

「恐怖心はなかったのですが、試合勘(のなさ)や、対人プレーへの不安はありました。でも、試合に出るからには、出られない人の分も頑張らなきゃ、と。ケガを理由に強くいけないのは嫌なので、ケガをする前のプレーを心掛けました」(清水/準決勝後)

 準決勝では清水のカバーリングが光り、ベレーザは浦和レッドダイヤモンズレディースの猛攻を1点に抑えた。

 さらに、準決勝ではもう一つ、明るいニュースがあった。6ヶ月間のリハビリを経て皇后杯で先発に復帰していた有吉が、今シーズン初のフル出場を果たしたのだ。

「90分間プレーしたのが1年ぶりだったので、正直、キツかったですね。でも、90分間やれたことは自信になったので、徐々に質を上げながら(ゲーム)コントロールしたいです」(有吉)

 準決勝の後にそう話していた有吉は、この決勝戦では78分までプレーし、勝利に貢献した。まだ本調子とは言えないが、着実にパフォーマンスを上げている。表彰台の上で、今シーズンの目標としてきた皇后杯を手にした有吉の笑顔は一際、輝いていた。

【堅守を支えたディフェンスリーダー】

 今シーズン、負傷者が続出する中でベレーザの最終ラインを支えたのは、センターバックの岩清水だ。

 今年、岩清水はリーグ戦(18試合)とリーグカップ(9試合)、皇后杯(5試合)の計32試合に、チームで唯一フル出場した。そして、年間のリーグ表彰式では12年連続12度目のベストイレブンを受賞。クラブの先輩、加藤與恵(ともえ)さんと並ぶ大記録を達成した。

 キャプテンマークを巻いて7年目の岩清水は、下部組織のメニーナを含めてクラブ在籍年数は17年目になる。そして、2000年から2010年までに8回ものリーグ優勝を果たしたベレーザの黄金時代を知る、現チームで唯一の証人でもある。

 2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、2012年ロンドンオリンピック銀メダル、2015年FIFA女子ワールドカップ準優勝と、なでしこジャパンでも活躍した岩清水だったが、その一方で、所属チームのベレーザは2011年以降、主力選手たちの移籍や海外挑戦が相次いだために戦力低下を避けられず、勝てない時期が続いた。その後、チームが世代交代を目指して産みの苦しみを味わう中、岩清水自身もキャプテンとして辛い時期を過ごした。

「当時は澤(穂希)さんとか(大野)忍ちゃんがINAC(神戸レオネッサ)に移籍して、ベレーザがタイトルを獲れなくなってしまって。悔しさを抱えてやっていた時期は辛かったけど、あの頃があったから今があると思いたいですね。若手が育って、キャプテンとして『強いベレーザ』をまた感じることができているのは、長い間サッカーをやってきて良かったと思える成果の一つです」(岩清水)

 チームを取り巻く環境の変化や時代の流れも含めて、サッカー人生の酸いも甘いも噛み分けてきた岩清水は、ピッチ上で見せる厳しさとは違う穏やかな表情で、そう話した。

 現在、先発メンバーの平均年齢が22歳前後のベレーザには、これからの伸びしろも十分にある。クラブの過去と未来をつなぎ、ベレーザの新たな黄金時代を支える存在として、岩清水にかかる期待は大きい。

2点目を決めた阪口(右)のゴールもアシストした岩清水(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)
2点目を決めた阪口(右)のゴールもアシストした岩清水(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)

【ノジマは皇后杯の経験を来シーズンに活かす】

 初の決勝進出を果たしたノジマは、残念ながら初タイトル獲得とはならなかった。だが、敗戦の悔しさ以上に、この一戦で得たものが選手たちの表情を前向きなものにしていた。

「最高の舞台を用意してくれて。本当に、みんなに感謝しています」(MF尾山沙希/ノジマ)

 今大会限りで引退することを表明していたキャプテンの尾山は、試合後の取材エリアで、そう言って笑顔を見せた。

 2012年のチーム創設時から在籍しているメンバー4人のうち、尾山を含めた3人がこの試合を最後に引退を決意していた。そして、チームの出発点を知る選手は、唯一、背番号10をつける吉見だけになった。

 吉見はこの試合で66分に左コーナーキックのこぼれ球に反応し、左ポストを直撃するシュートを放った。吉見は、6年前の記憶を引き出しつつ、今大会の収穫を次のように話した。

「(チーム創設)1年目の皇后杯は、(岡山)湯郷ベル(2部)に0-9で負けたことを覚えています。当時、ベレーザとの練習試合は0-8や0-9のスコアで負けていました。そういう意味では、近づいてきたかな、と。組み合わせとか(他のチームの勝敗による)運もあったと思いますが、創設時のメンバーが3人引退する年に、決勝までこられたことは本当に良かったです。トーナメントでの勝負強さという部分では、この皇后杯で大きく成長できたと思います。この1試合にかける想いの強さを、来シーズンはリーグ戦でも出していきたいです」(吉見)

 なでしこリーグ1部昇格1年目という激動のシーズンを戦い抜いたノジマの、来シーズンの戦いが楽しみである。

積極的なプレーが光った吉見(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)
積極的なプレーが光った吉見(2017年12月24日、皇后杯決勝(C)アフロスポーツ)

 これで、なでしこリーグ全チームの、2017年の全日程が終了した。来シーズンに向けて、移籍や新加入も含め、各チームのオフの動向にも注目したい。

 2018年は、4月にヨルダンで開催されるアジアカップ(兼2019フランスワールドカップ・アジア予選)をはじめ、8月にフランスで開催されるFIFA U-20女子ワールドカップや、11月にウルグアイで開催されるFIFA U-17女子ワールドカップなど、なでしこジャパンと年代別代表も大きな大会が控えている。

 2018年もまた、日本の女子サッカー界にとって重要な1年になる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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