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優勝をかけた一戦は、北朝鮮に0-2で完敗。なでしこジャパンはここから這い上がって強くなる

松原渓スポーツジャーナリスト
北朝鮮戦は、0-2で敗れた(2017年12月15日、EAFF E-1北朝鮮戦)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【予想できなかった展開】

 フクダ電子アリーナで開催されたEAFF(東アジアサッカー連盟)E-1サッカー選手権2017決勝大会(以下:E-1選手権)で、なでしこジャパンは12月15日(金)に北朝鮮との最終戦に臨んだ。

 結果は0-2。高倉麻子監督の下で臨んだ初の公式戦でタイトル獲得ならず、3連勝を飾った北朝鮮が大会3連覇を果たして幕を閉じた。

 高倉監督の就任後、チーム立ち上げから1年7カ月が経ち、初めて臨んだアジアの強豪との連戦の中で、高倉ジャパンの現在地が分かった大会だった。

 特にこの北朝鮮戦には、チームが積み上げてきたものと足りないものが如実に表れていた。

 北朝鮮は予想通り、個の力強さもチームとしての組織力も、第1戦の韓国(日本が3-2で勝利)や第2戦の中国(日本が1-0で勝利)よりワンランク上だった。

 

 この試合に、日本は中国戦の先発メンバーから5人を入れ替えて臨んでいる。フォーメーションは4-4-2で、サイドバックは右にDF高木ひかり、左にDF宇津木瑠美が先発。サイドハーフは右にFW櫨まどか、左にFW籾木結花が入り、2トップの一角にはFW岩渕真奈が先発した。

 立ち上がりの15分間は、2トップのFWキム・ユンミとFWソン・ヒャンシムにロングボールを蹴り込んでくる北朝鮮の攻撃に押し込まれる時間帯が続いたが、日本はここを我慢強く耐えて、前半15分過ぎから攻撃に転じた。

 4バックにGK池田咲紀子を加えた5人がピッチを広く使ってボールを大きく動かし、北朝鮮の前線の守備に的を絞らせない。そこに、中央からMF阪口夢穂、MF隅田凜のダブルボランチがタイミングの良いサポートで顔を出し、タッチ数の少ないパス回しで攻撃にリズムを加えていった。

 力強いアプローチを仕掛けてくる北朝鮮の中盤の圧力に対して、籾木、隅田、阪口、櫨という技巧派が揃う中盤の巧さと連係が機能した。そして、立ち上がりに飛ばしすぎた北朝鮮は、その勢いを急速に失っていった。

 しかし、日本はパスを回す事はできるものの、2トップのFW岩渕真奈とFW田中美南になかなか効果的なボールを収めることができず、前半のシュートは、23分にペナルティエリアの外から田中が放った1本にとどまった。

 そして、後半は前半とは異なる様相を見せた。自信を失いかけているように見えた北朝鮮が再び、力強い攻撃を仕掛けてきたのだ。日本にボールを回させつつ、奪ったら2トップにボールを入れ、分厚い攻撃を仕掛ける。北朝鮮の運動量は試合終盤になっても衰えを知らなかった。

 試合が動いたのは、日本が岩渕に替えてMF中島依美を投入し、新たに攻撃のスイッチを入れようとした65分のことだ。

 北朝鮮のカウンター攻撃を日本がゴール前で跳ね返すと、そのクリアボールをFWキム・ユンミにつながれ、強烈なミドルシュートが矢のようにゴール右隅に刺さった。

 得失点差の関係で、引き分けでは優勝できない日本は、この時点で2点を取らなければならなくなった。そのため、さらに前掛かりになり、82分には北朝鮮に右サイドを突破され、クロスボールをMFリ・ヒャンシムに決められて0-2。

 これで、日本は打ちのめされた。

なでしこジャパンは2位で大会を終えた(2017年12月15日、EAFF E-1北朝鮮戦(C)YUTAKA/アフロスポーツ)
なでしこジャパンは2位で大会を終えた(2017年12月15日、EAFF E-1北朝鮮戦(C)YUTAKA/アフロスポーツ)

【積み上げたものと、足りなかったもの】

 スコアは完敗だが、前半戦の試合運びには日本が狙いとするサッカーが、一部分ではあるが確かに表現されていた。

 それは、全体をコンパクトに保つ守備と、「苦しい時間帯も含めてゲームをコントロールする」ということだ。

 ディフェンスラインと中盤の8人は初めての組み合わせだったが、うまく機能していた。相手の強いプレッシャーの中で、韓国戦や中国戦のように、自分たちのミスで流れを手放すことがなかった。「誰が出ても力が落ちない」「型なき攻撃」を目指す高倉ジャパンにとって、計算できる組み合わせが増えるに越したことはない。

 また、隅田や籾木、高木など、A代表経験が浅い選手たちが大一番で力を見せたことも、チームの底上げを示していた。 

「サメ(鮫島)さんとか(宇津木)瑠美さんがボールを持った時に、北朝鮮がプレッシャーに来てくれるので、その分、(空いた)スペースでボールが受けやすかったし、積極的にボールを受けてリズムを作ろうとしました」(籾木)

 試合後にそう話した籾木は、ポジションにとらわれない動きで、パスの流れをスムーズにした。前半20分には、トップ下に入って相手陣内で高木からのパスを引き出し、3人の相手ディフェンダーの圧力をかわしながらペナルティエリアに侵入しかけた田中に鋭い縦パスを入れた。

 この場面で、籾木は縦パスを入れてからも動きを止めず、緩急や相手の逆を取るプレーを見せている。それによって、ゴール前で数的不利の状況でも、受け手と出し手の意図が合えばシュートまで持ち込める可能性を示した。

 また、右サイドバックの高木も、積極的なフィードで決定機を創出した。37分と42分には、質の高いクロスを前線に供給。また、中国戦に続いてフル出場したボランチの隅田は、阪口と良い距離感で最終ラインの4人からボールを引き出し、北朝鮮の強いプレッシャーをうまくいなした。

 一方で、この前半戦は、日本に決定的に足りないものも明確にした。それはゴールに至るコンビネーションであり、シュートだ。

 中盤ではよくパスが回っていたが、日本が90分間で打ったシュートは前半1本で、後半もわずか4本。ビルドアップ時のミスは減ったが、北朝鮮のようなレベルの相手からゴールを奪うためには、もうひと工夫、ふた工夫が必要になる。ミドルシュートすら打たせてもらえないようでは、ワールドカップなどの国際試合ではさらに厳しい戦いを強いられるだろう。

 北朝鮮は、少ない決定機を確実に決めてきた。北朝鮮が今大会であげた5得点中、4点を決めたキム・ユンミの決定力は、凄かった。オーストラリアのエースFWサマンサ・カーしかり、アジアには、20代前半にして非常に高い決定力を持つFWがいる。同年代の岩渕、田中、FW横山久美にとっては、良きライバルでもある。

【チャレンジの中で】

 今大会、日本の中で最も難しい役回りをこなした一人がDF鮫島彩だ。

 鮫島は、本職の左サイドバックではないセンターバックで3試合にフル出場した。さらに、韓国戦と中国戦に関しては、DF万屋美穂、DF三宅史織、DF大矢歩と、代表経験の浅い若手が並ぶディフェンスラインをコントロールした。

 日本は今大会に8人のディフェンダーが招集されていたが、そのうち、鮫島を除いてセンターバックでプレーできる選手は4人いた。しかし、高倉監督は、「選手がサッカー理解を深める中でチャレンジしながら、1つのポジションではなくて、2つ、3つのポジションをこなし、いろいろな形でサッカーができるチームを作りたいと思っています」と話し、各選手を様々なポジションで起用している。

 その中で、鮫島は7月のアメリカ遠征以来、センターバックや右サイドバックで起用される機会が増えた。

センターバックとして3試合にフル出場した鮫島(2017年12月8日、EAFF E-1韓国戦(C)田村翔/アフロスポーツ)
センターバックとして3試合にフル出場した鮫島(2017年12月8日、EAFF E-1韓国戦(C)田村翔/アフロスポーツ)

 大会前、「センターバックとしてやれることが、今は少なすぎます」と、自身のセンターバックとしての実力と最終ラインの完成度に危機感を見せていた鮫島だが、それでも「任されたら、死ぬ気でやるしかないと思っています」と、口にしていた。

 責任感が強く、自分に厳しい鮫島だからこそ、相反する2つの感情の間には少なからず葛藤があった。

 試合中には、コンビを組んだ三宅にセンターバックとしての知識を質問しながらプレーすることもあったという。4バックの連係が浅いために生まれたミスもあったが、それは避けられないことでもあった。

 北朝鮮戦では、20分に相手に抜け出された決定的な場面で、鮫島のスピードが日本を救っている。鮫島は試合後、「自分たち(センターバック)からフォワードに直接(ボールを)入れられるシーンがもっとあった」と、北朝鮮戦の課題を挙げた。

 ディフェンスリーダーのDF熊谷紗希(リヨン/国際Aマッチデーの開催ではないため招集されず)を欠いた今大会で、その軸を担ったのは鮫島だった。国際試合では、同じような状況に陥った際のオプションとして実現する可能性は考えられる。

 逆に、本職がセンターバックながら、今大会ではサイドバックとして2試合に出場した高木も、難しい役割をこなしてきた選手の一人だ。高木はこのチームが発足した昨年6月からコンスタントに招集されているが、これまで、なかなか先発での出場機会に恵まれなかった。それでも、地道な努力を重ねてサイドバックとしての戦術理解を高め、北朝鮮戦でついに先発の座を勝ち取った。

 試合中は攻撃面で良さを見せたが、2失点目に絡み、試合後は「守備の選手なので、一番大事なところで守りきれなかったことにすごく、責任を感じます」と、涙をこらえた。

 一つのミスが失点に繋がる緊張感の中で、積極的なチャレンジを見せた高木が得たものは小さくないはずだ。 

【北朝鮮の強さの理由】

 この試合で日本にとって誤算だったことの一つは、北朝鮮が前半から後半にかけて、見違えるような強さを取り戻したことだろう。

 その理由について、キム・グァンミン監督は次のように答えている。

「ハーフタイムに選手たちにこう、尋ねたんです。『日本の選手たちは強いだろう?でも私たちの方が強いと思わないかい?』と。そうしたら、最初はやや臆していた選手たちが、『監督が言うように、自分たちの方が強いと思う』と、自信を取り戻しました。そして、『後半は、守備のことは考えずに思い切り攻撃を仕掛けろ』と発破をかけました。選手たちが若いこともあって、それで自信を持って積極的に戦った結果、勝利を収めることができました」(キム監督)

 北朝鮮は、2019FIFA女子ワールドカップはすでに予選敗退が決まっているため、来年4月のアジアカップに出場しないが、2020年の東京オリンピックに向けてチーム作りを進めている。

 そんな中、今大会は過去2大会を制したチームからメンバーを大きく入れ替え、年代別代表で活躍してきた選手を中心に、平均年齢21歳の若いチームで臨んでいた。

 そして、その若さとエネルギーを、北朝鮮女子代表を指揮して13年目になるキム監督が巧みにコントロールしていたのだ。

 また、北朝鮮は10月に中国の重慶市永川区で行われた4ヶ国対抗戦、「Yongchuan Cup」(※)に出場した後、今大会に向けて再び11月15日に代表メンバーを招集し、約3週間の練習を積んで大会に臨んだことも、キム監督は明かしている。

 大きな大会の前は数ヶ月間の代表合宿を組むアメリカのやり方に近いものがある(日本は直前のヨルダン遠征も含めて、実質8日間の代表活動で今大会に臨んでいる)。

(※)参加国は、中国、北朝鮮、ブラジル、メキシコ。優勝はブラジルで、北朝鮮は2勝1敗で2位になった。

 北朝鮮で女子サッカーが盛んな理由として、育成システムが体系的に整っていることもあるのだという。キム監督は具体的な数字を口にはしなかったが、「わが国における女子サッカーは、非常に大衆化しており、広く国民の間で楽しまれています」という言葉から、競技人口も相当数いることがうかがえた。

 強くならないわけがない――。それが、優勝後の記者会見でのキム監督の言葉を聞いた印象だった。

 代表活動にそれだけの情熱と時間をかけている北朝鮮が、今のチームをさらに3年かけて強化するのだから、東京オリンピックを迎える時にどれだけ強くなっているかは想像するに余りある。

優勝した北朝鮮女子代表(2017年12月15日、EAFF E-1北朝鮮戦(C)YUTAKA/アフロスポーツ)
優勝した北朝鮮女子代表(2017年12月15日、EAFF E-1北朝鮮戦(C)YUTAKA/アフロスポーツ)

 これで、なでしこジャパンの年内の活動は終了した。

 来年4月にヨルダンで開催されるアジアカップ(兼2019フランスワールドカップ・アジア予選)まで、あと4ヶ月。

「(アジアカップに向けて)各チームも変わってきますし、この大会のイメージのままだとやられると思います。課題が出たことをポジティブに捉えて、必ず強くなりたいと思います」(鮫島)

「(アジアカップで同組になった)韓国とオーストラリアとは(このチームで)対戦していますし、オーストラリアには(2-4で)負けているので必ず借りを返したいです。韓国は招集されていない選手もいたので、勝ったことは忘れて、3、4か月でしっかりレベルアップしたいと思います」(籾木)

 アジアカップは8チームが出場し、そのうち、上位5チームがワールドカップへの出場権を得る。つまり、4カ国ずつに分けられた2つの各グループ内で2位に入れば、大会出場は確実になり、残る1枠はグループ3位同士の対戦によって決まる。

 日本が属するBグループには、オーストラリア、韓国、ベトナムが入り、Aグループには、中国、ヨルダン、タイ、フィリピンが入った。Bグループは混戦が予想される。

 残された準備期間は決して長くはない。

 だからこそ、この敗戦を憂いている暇はない。アジアで伝統的な強豪国と発展途上のチームがひしめき合う中、アジアカップで優勝を掴み取れるかどうかは、ここからの4ヶ月間が勝負になる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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