FW横山久美の国内ラストマッチを5ゴールで飾った長野。新潟はこの難局をどのように乗り越えるのか(1)

移籍前のラストマッチで2ゴールを挙げた横山久美(C)松原渓

 6月24日(土)に行われた、なでしこリーグカップ第5節の長野パルセイロ・レディース(以下:長野)とアルビレックス新潟レディース(以下:新潟)戦。

 この試合は、ドイツ1部の1.FFCフランクフルトに移籍が決まっている長野のFW横山久美の国内ラストマッチでもあった。

 

 長野県初の代表選手としてなでしこジャパンに選ばれたのが2015年。 

 以来、横山は女子サッカー人気を支える長野のエースとして活躍し、なでしこジャパンのストライカーとしても欠かせない存在になった。

 長野Uスタジアムには、今シーズンのカップ戦最多となる5,645人の観客が詰めかけた。

 スタンドには横山への惜別と激励の気持ちを込めた手作りのフラッグが掲げられ、横山がボールを持つたびに、オレンジ色に染まったスタンドが湧いた。

 そんな中、横山は2ゴール1アシストの活躍で、5-2の勝利に貢献。

「今までの得点はすべて、この3年半、一緒にプレーしたチームメートがいたからこそ獲れたゴールだったと、あらためて感じています」(横山)

 試合後に横山が口にした言葉に象徴されるように、長野はこの試合で多くのチャンスを作り、計17本のシュートを放った。

【ゴールラッシュを導いた児玉の先制ゴール】

  ゴールラッシュの口火を切ったのは、長野のMF児玉桂子だ。

  前半20分、長野は左サイドの相手陣内でMF國澤志乃が新潟のMF上尾野辺めぐみに厳しくプレッシャーをかけてボールを奪うと、横山が前線のFW泊志穂にパスを送った。泊は左にターンすると、相手DFを引きつけて右を並走するMF齊藤あかねにパス。齊藤がさらに右にパスを送ると、フリーで走り込んだ児玉がペナルティエリアの手前から思い切り右足を振った。そして、豪快なシュートがゴール右上に決まった。

 長野は28分、最終ラインのクリアボールを拾った泊が再び、カウンターの起点になった。ドリブルで3人のディフェンダーを引きつけると、右サイドをオーバーラップした児玉にパス。ペナルティエリアに侵入した児玉は、ファーサイドで待っていた横山の頭に、ピンポイントクロスを送った。

「ケイちゃん(児玉桂子)のボールが良かったので、触るだけでした」(横山)

というこのゴールは、横山にとって、公式戦初(記録上は2点目)のへディングでのゴールとなった。ゴールを決めた直後、横山は大歓声に湧くゴール裏に走り、サポーターの歓声に応えた。

 

 攻撃のリズムが作れず、消極的なプレーが目立ち始めた新潟に対し、長野はさらに攻勢を強めていった。

 

 42分には、左CKから長野の3点目が生まれる。横山がコーナーから蹴る瞬間、ペナルティエリア中央からニアサイドに向かって走った國澤とDF坂本理保の動きに新潟のディフェンダーが付いて行ったため、ゴールの前を横切るように入ったボールにタイミングよくつめた斎藤が、左足にピタリと合わせてゴール。

 44分には、自陣右サイドで相手ボールをインターセプトした児玉が、前方にロングボールを送った。この場面で、新潟はボールの落下点にいたDF瀬倉春陽がヘディングで後方に逸らしてしまう痛恨のクリアミス。そのこぼれ球にいち早く反応したのは長野の横山。細かいタッチのドリブルでペナルティエリア内に侵入すると、新潟のGK福村香奈絵との1対1の状況から冷静に、強烈なシュートをゴール左隅にたたき込んだ。

【本来のサッカーを取り戻した新潟】

 長野の4点リードで迎えた後半も、立ち上がりは長野ペースで進んだ。50分、51分、52分、54分には、流れの中から長野が立て続けにシュートを放つが、いずれも枠を外した。

 一方、前半のシュート数がわずか「1」にとどまった新潟は、後半から、FW川崎(崎は大の部分が立)咲耶に代わって2トップの一角にMF園田瑞貴を投入。すると、この交代が、新潟にじわじわと流れを引き寄せる。

 園田は2列目に下がってパスを引き出し、新潟の攻撃に多様性をもたらした。

 そのプレーが実ったのは、61分。

 FW大石沙弥香からのパスをペナルティアーク付近で受けた園田は、長野のDF木下栞を左にかわすと、そのまま左足を振りぬいた。シュートは強烈な勢いでバーに当たってそのままゴールに吸い込まれ、新潟が1点を返した。

 新潟はこのゴールの直後、61分にボランチのMF小須田璃菜に代えてMF阪口萌乃を投入。すると、さらにパスがスムーズにつながるようになり、長野を自陣に押し込んだ。

 一方、長野は失点直後の61分にMF野口彩佳に代わってFW山崎円美を投入すると、73分にその山崎が魅せた。

 木下のロングフィードに、泊が右サイドのゴールラインギリギリで追いつき、新潟のDF中村楓のスライディングをかわして、フリーで走り込んだ山崎にマイナスのパス。山崎は一つトラップを入れると、飛び込んできたディフェンダーの股を抜く技ありのゴール。長野が5-1と、再びリードを広げた。

 しかし、その4分後の77分には、再び新潟。

 右サイドバックのDF小原由梨愛が長野の最終ラインの裏のスペースに入れたロングボールに、園田が抜け出し、ゴールエリア右の角度のない位置から左足でファーサイドのネットを揺らし、新潟の2ゴール目を決めた。

 ラスト15分間は、手拍子と声援に後押しされた長野が再び主導権を握って新潟陣内でプレーする展開が続いたが、スコアは動かず、そのまま5-2で長野が勝利。

 

 カップ戦5試合を終えて勝ち点を「6」とした長野は、得失点差でグループ2位に浮上。一方、新潟は2連敗でグループ最下位に落ちた。

【結実した攻撃のオプション】

 

 試合翌日の25日、日刊発行部数約48万部に上る長野の信濃毎日新聞は、横山の活躍を朝刊の一面で報じた。その内容は主に、試合後のセレモニーに触れていた。

 横山は試合後のセレモニーで、とめどなく流れる涙を隠すことなく、感謝の言葉を紡いだ。真っ先に感謝を伝えた相手は、本田美登里監督である。

「ここ長野に来て結果を残せたのも、なでしこジャパンに選ばれたのも、フランクフルトを選択できたのも、(本田)監督がいたからできたことです。普段は、生意気で、反抗したりもしましたけれど、いつもうまくまとめられ、子供のように扱われて、とても親心のある監督でした」(横山/長野)

 横山を高校時代から知る本田監督は、湯郷時代に燻(くすぶ)っていた横山に、長野で飛躍するきっかけを与えた。

 本田監督が長野の監督になり、横山を引き取ってから長野の快進撃は始まった。横山は長野の1部昇格を牽引し、チームの顔になるまでに成長した。

 そんな横山に対して、本田監督の胸にも一言で言い表せない想いがあるだろう。しかし、この試合が横山のラストゲームになることについて、一週間のチーム練習や試合前のミーティングでも一切触れなかった。それは勝負に徹するためであり、「あえて私が口にすることはないと思っていた」(本田監督)からだ。 

 試合後の会見でも、本田監督は横山の移籍に関して多くを語らなかった。

「まだ、(横山がいなくなるという)実感が湧かないんです。今日の試合に勝つことに必死だったので、彼女の最後の試合であるということに対してセンチメンタルになる気持ちの大きさがなくて、目の前の試合に勝てたことにホッとしていて。『あぁ、試合に(横山が)いないんだなぁ』と、次の試合で感じるのかな、と思います」(本田監督/長野)

 この日の試合内容に目を向けると、横山移籍後のゴールパターンを確立したい長野にとって、2点目のゴールの形は収穫と言える。

 これまで、長野が流れの中で決めてきたゴールは、カウンターや中央を経由した攻撃がほとんどだった。一方、中央を固められた時や、カウンター時のターゲットとなる横山を封じられると、苦しくなる試合が多いため、今シーズンはサイド攻撃をうまく取り入れることにも取り組んできた。

 2点目のゴールを決めたのは横山だが、その前の児玉のクロスに至るまでのカウンターからの一連の流れとクロスの精度は理想的で、まさに狙いとしていたサイド攻撃が結実した形だ。1点目と5点目の形も、横山不在となる次節以降に希望が持てるゴールだった。

 長野は次節、7月1日(土)に、アウェイの相模原ギオンスタジアムで、Aグループ4位のノジマステラ神奈川相模原と対戦する。チームの得点源だった横山の移籍後に迎える初めての試合で、長野がどのような攻撃を見せるのか、注目したい。

【カップ戦後半に向けて】

 新潟は今シーズン、辛島啓珠監督の下、昨年度の皇后杯準優勝を達成した自信を胸に、選手たちが連携し合い、しっかりとしたパスワークでゴールを目指すスタイルを志向しているが、ここまではなかなか結果が出ず、苦しい状況に直面している。

 特にこの試合では前半、選手同士の呼吸が合わない場面が目立った。

 たとえば前半35分の場面では、センターバックの中村が、トップの川崎(崎は大の部分が立)の足元にグラウンダーの強いパスを送った。通れば一気にチャンスになりそうだったが、川崎はパスが出てくるタイミングを感じておらず、長野のDF坂本の密着マークを受けてパスを見送っている。単純なパスミスでボールを失う場面もあった。

 また、長野のプレッシャーに対してなす術なく、20分と28分にはカウンターから失点を重ねている。

 しかし、新潟は後半、前線に園田が入ってボールが収まるようになったことと、ダブルボランチの一角にMF阪口萌乃が入って上尾野辺の近くでボールを受けられるようになり、2人が中心となってゲームを組み立てられるようになったことで、これらの点は解消された。

 今後は早い段階で、ピッチに立っている選手同士で修正できるようにすることが課題となる。

 現在の新潟は負傷者が多いため、メンバーを固定できず、試合ごとに配置が変わる苦しい懐事情はある。

 しかし、上尾野辺は「練習ではいろいろな選手同士の組み合わせでプレーしているので、メンバーが変わったことは言い訳にできない」と話す。その上で、今は練習でできていることを試合で出せるようになるための「我慢の時期」だと話した。

 一方、後半からの出場で、なでしこリーグ初得点を含む2ゴールを挙げた園田の活躍は収穫だ。

「チャンスがあればゴールする自信があった」(園田/新潟)

 と自身の2ゴールを振り返った20歳のレフティーは、以前、フットサル日本女子代表にも選ばれたことがあり、左足の繊細なボールタッチには非凡な能力を感じさせた。今後が楽しみな存在である。

 また、ボランチの阪口はコンディションが万全ではないために、この試合は後半からの出場となったが、中盤の底でリズムを作り、上尾野辺を活かせる彼女の存在はやはり大きいと感じた。

 負傷者が続出している新潟だが、この試練をどのように乗り越え、リーグ後半戦につなげていくのか、引き続き注目したい。

 新潟は次節、7月2日(日)に、ホームの新潟市陸上競技場でAグループ首位の日テレ・ベレーザと対戦する。

試合詳細 

なでしこリーグカップAグループ(1部)結果・日程 

なでしこリーグカップAグループ(1部)順位 

(2)【監督・選手コメント】に続く

長野Uスタジアムに5,645人の観客が詰めかけた
長野Uスタジアムに5,645人の観客が詰めかけた