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4年ぶりの勝利。日テレ・ベレーザの首位独走を阻止したINAC神戸レオネッサの秘策と執念(2)

松原渓スポーツジャーナリスト
折り返し地点で首位に立つベレーザ。常勝チームゆえに試練も多い(C)松原渓

5月21日(日)に行われたなでしこリーグ第9節、第8節終了時点で2位のINAC神戸レオネッサが首位の日テレ・ベレーザをホームに迎え、INACが1-0で勝利した。

4年ぶりの勝利。日テレ・ベレーザの首位独走を阻止したINAC神戸レオネッサの秘策と執念(1)

以下、試合後の監督・選手コメント。

【監督・選手コメント】

松田岳夫監督(INAC)

ーー4年ぶりにベレーザ戦に勝利しましたが、今の率直なお気持ちを教えてください。

僕が(神戸に)来てからは勝てていないので、やっと(勝てたな)、という感じです。(勝ちたいという)気持ちに関しては今日のゲームに関してみんな持っていましたし、前半は支配されましたけれども、やるべきことは頭の中に整理されていたので、時間の経過とともに、守備面でも攻撃面でも変化はあったなと思います。試合がスタートしてから終わるまでの間にいろいろなストーリーがあって、今日はその(ストーリーの)中で選手が一番成長したゲームだと感じます。

ーースタメンでフォワードの高瀬(愛実)選手をサイドバックに起用した狙いと、試合を終えての評価を教えていただけますか?

元々、右サイドバックをやっていた(DF守屋)都弥がセンターバックでプレーしています。背後のスピードへの対応では、今の2人のセンターバック(DF三宅史織と守屋)が機能しているので、そうなると、(レギュラーで本職の右サイドバックが守屋以外にいないため)どうしても一枚足りず、他のポジションからのコンバートも含めて、模索段階です。高瀬の良さはハードワークできることと、守備力も含めて(期待を込めて)起用しました。

ーーこれまでと比べて、今日は、特にどのような点を修正したのでしょうか?

(ボールを)奪い返した後、あるいは相手がすぐに奪い返しに来た時のサポートを強化しました。一度ボールを奪っても、その後すぐに(ベレーザの)プレッシャーが来るので、そのプレッシャーを回避することを意識付けさせました。(ボールを奪った)最初の段階で、味方へのサポートが後ろになりがちなので、なるべく横でサポートするように、中盤の選手に伝えました。

ーー交代をギリギリまでしませんでしたが、どのような意図があったのでしょか。

ボランチの(福田)ゆいが昨日誕生日を迎えて19歳になりましたけれども、18歳(のチェ・イェスル)と19歳の若い2人が成長しながらゲームを進めて行くというところは、今日のゲームでは一番ポイントになったと思うし、2人のコンビをできるだけ長く継続したいと考えていました。そこが崩れると、チーム全体が崩れてしまうほど大事なところだったと思います。

FW 高瀬愛実(INAC/キャプテン)

ーー最初にサイドバックでプレーすることを聞いた時の心境と、今日の試合を振り返って、感想を教えてください。

最初に(サイドバックでプレーすると)聞いた時は笑ってしまいましたけれど、練習の2日目、3日目ぐらいからサイドバックしかやらなかったので、いい加減、覚悟を決めた方が良いなと思って(笑)心の準備はできていました。うまくプレーできたかどうかは分かりませんが、1試合を通してプレーできたことは良い経験でした。

ーー攻撃面で、高い位置を取ることを意識していたのでしょうか?

積極的にいけたシーンもあったのですが、実際は攻め込まれたり、怖さもあって、そこまで攻撃に絡めなかったことは個人的な課題です。

ーー守備面はいかがですか?

体を張ることしかできないと思っていました。逆に、組織的な部分や連携では周りの選手にやりにくさを感じさせてしまっていた部分があったかもしれないのですが、(センターバックの三宅)史織だったり、杉田(妃和)がカバーしてくれていたので、本当に周りに助けられながら90分間プレーできました。

ーー準備期間が少ない中で、ラインコントロールはどのように対応したのでしょうか。

最初は誰も、何も教えてくれなかったので(笑)ラインコントロールに関しては、ラインを合わせることや、蹴られそうだったら下がることを、自分の知っているサッカーの範囲の中でやりながら、なんとかプレーしていました。分からないことは守屋(都弥)に聞いたり、鮫島(彩)さんに聞いたりしながら、あと何日か(準備するのに)欲しいなと思いながらやっていましたね。

ーーベレーザ戦で4年ぶりに勝利して、今の気持ちを教えてください。

やっと勝てたな、という感じですし、サポーターの方が喜んでくれてホッとしました。90分間、集中を切らさずに全員が体を張れたと思います。ただ、今日勝ったことで何かを得たわけではないですし、目指すのはリーグ優勝なので、この勝利を無駄にしないようにつなげていきたいです。

ーー今後も右サイドバックでプレーする自信がつきましたか?

そうですね、とは言いたくないのですが(笑)、できるポジションが増えていくことはプラスだと思いますし、今日に限らず、ピッチに立つ以上は与えられた場所でしっかりと自分のプレーを出すことにこだわっていきたいと思います。

FW 京川舞(INAC)

ーーこの試合に臨むにあたって、どのような意識で試合に入りましたか?

「絶対に、相手よりも走ってハードワークしよう」と話していました。前だけではなく後ろにもパワーを持って守備をして、攻(撃)から守(備)だけではなく、守から攻への切り替えも意識していました。

ーーいつもとは違うポジションでプレーした選手もいましたが、前半を終えて、いかがでしたか?

(前半は)ベレーザにボールを持たれる時間が長かったのですが、自分たちもうまくボールを奪えるシーンがあって、良い形でシュートまで持ち込めた部分に手応えを感じていました。

ーーベレーザ戦は今までなかなか勝てなかった中で、今日の試合は何が違っていたのでしょうか?

これまでも「勝ちたい」という気持ちは強かったのですが、前からプレッシャーに行く部分をうまく(ベレーザに)打開されたり、サイドチェンジされて、自分たちが(守備を)頑張っているだけで、疲れてしまい、その分、攻撃面で力が発揮できない試合がほとんどだったんですけれど、(この試合では)自分たちで考えながら、質の良いハードワークをしてボールを奪えていました。

ーーPKの場面を振り返っていただけますか?

(INACのゴール裏だったので)サポーターの声援がすごく近くに聞こえて、その気持ちに応えたいと思って、自分を信じて、蹴る場所を決め、後悔しないように振り抜きました。(ゴール裏のINACの)サポーターに届くように蹴りました。

DF 守屋都弥(INAC)

ーー試合を振り返っていかがですか?

自分よりも強い相手に対してどうアプローチするか、ということが課題だったのですが、そこまで大きなピンチがなかったですし、抑えられて良かったです。田中(美南)選手に振り向いてシュートを打たれる場面があったのですが、あの場面で決められていたら多分、相手に流れがいっていたと思いますし、球際ではいけるところでいけていない場面があったことは課題ですね。

ーー相手の良さを出させなかった要因はなんだと思いますか?

(ボールの)奪いどころはしっかり共通理解していたので、回されても慌てずに、守備をしている時でも自分たちの流れを大事にしていたので、慌てずにできたことではないかと思います。

ーー周囲との連携はどのようなことを意識していましたか?

センターバックは、声(を出すこと)が特に必要なポジションです。私は声を出すことがすごく苦手だったのですが、前(のポジション)に自分よりも若い選手がいるので、自分がしっかりしなければいけないと思い、前の選手を動かして、自分がプレーしやすいようにすることを心がけました。

ーーセンターバックで、 どのようなことを意識してプレーしているのでしょうか。

左にはスピードがあるサメさん(鮫島彩)がいて、右には力強い(三宅)史織さんがいます。微妙なチャレンジをすると味方もカバーしにくいと思うので、思いっきりチャレンジすることを心がけています。

ーーセンターバックでプレーしていて、どんな時が楽しいですか?

高校の頃にセンターバックをやっていたので、その時はあまり楽しくはなかったのですが、なでしこリーグでプレーすることで、楽しさも見えてきました。センターバックの声でフォワードがコースをどのように切るかを指示することで、センターバックが奪いどころを決めたり、ゲームを作れる楽しさも感じています。

GK 武仲麗依(INAC)

ーー3試合ぶりの無失点です。試合を振り返っていかがですか?

ゼロ(失点)で終われるのはやっぱり、気持ちが良いですね。

ーーディフェンスラインのメンバーが変わる中でどのようなことを意識しましたか?

ラインの上げ下げだったり、相手のフォワードに対して強くいく部分や、自由にさせないことは話していたので、そこはみんなでいけていたかなと思います。

ーーチームの失点パターンを踏まえて、どのような修正をして臨んだのでしょうか?

個人の集中力が切れてしまった失点が多かったので、点を決めた後や、交代で入ってきた選手に(集中を)切らすなということは絶えず伝えるようにしていました。

ーーベレーザの攻撃に対してはどのようなことを気をつけていましたか?

やっぱり、田中(美南)選手を狙ってきたり、阪口(夢穂)さんが上がってきてヘディングという形は気をつけていました。そこで自由にやらせないようにして、ボールをブレさせていたり、球際で強くいけていたのは良かったです。

DF 岩清水梓(ベレーザ/キャプテン)

ーー試合を振り返っていかがですか?

率直に、悔しいですね。

ーー特に後半、良さをだせなかった理由をどのように考えますか?

後半はルーズボールのところで、相手の方が人数が多かったです。ただ、PK一本で(勝敗が)決まったので、それ以外の場面はやられていなかったですし、相手のゴールも固かったです。ハードワークはできた試合だったと思います。

ーー前半は様子を見て、後半に勝負を仕掛けた部分もあったのでしょうか?

そうですね。暑さもあったので、お互いに相手のプレッシャーも前からというよりはブロックを敷いて、ある程度の距離から、という感じがしました。それで、前半はそういう(少し様子を見る)戦いになったのかなと思います。

ーー(INACの)高瀬選手がサイドバックで出場したことは予想外でしたか?

はい。メンバー表を見てもしかしたら…と思いましたが、実際にそのポジションで、しかもプレーできていたのはすごいなぁと思いました。

ーー攻撃面の課題は、どのようなことだと思いますか?

裏(のスペース)を消された時に、次に空くのはどのスペース?ということをもっと考えなければいけないし、(この試合では)サイドから相手にとって嫌なクロスを入れるなど、サイド攻撃を有効活用できなかったことは課題だと思います。

ーーベレーザにとっては今シーズン初の敗戦ですが、引きずらないためにはどのようなことが必要だと思いますか?

次の試合への切り替えが大切だと思いますし、まだ勝ち点3差で1位にいることは変わらないので、後半戦は負けずに、この一敗で終わらせられるように、次の試合は勝ち点3にこだわりたいです。

MF 長谷川唯(ベレーザ)

ーー試合を振り返っていかがですか?

前半から、あまり(相手の)間で良いタイミングでボールを受けることができませんでした。サイドバックにボールを入れさせてからプレッシャーにくる感じだったので、あまり良い関わり方ができませんでした。その中で、前半に一本、自分がドリブルで内側にボールを運んで、裏に走った(右サイドバックの清水)梨紗にサイドチェンジした場面があったのですが、そういう場面を増やせないとなかなかチャンスが作れないと思って、後半も狙っていました。ただ、後半は結構(裏に)蹴ってしまう場面が多くなってしまい、あまりボールを触れずに1試合が終わってしまったな、という感じです。

ーーこれまでとINACが戦い方を変えてきた部分で、戦いづらさはありましたか?

相手に(昨年までベレーザのコーチだった鈴木)俊さんがコーチとして行ったこともあって色々と分析していたと思います。特に意識はしていなかったし、やりにくさもなかったのですが、もっとボールを呼んで受けないと、自分のプレーがうまくできないと感じましたね。

ーー守備面では違和感はなかったですか?

相手のボランチが飛び出してくるので、(相手の)サイドハーフが中に入ってきた時に(ベレーザの左サイドバックのMF土光)真代が獲りに行かなければならなくなり、自分が(相手)サイドバックの高瀬さんを見るために後ろに下がらなければいけない場面が多かったですね。そういう意味では、相手に先手を取られていました。

うちのサイドバックがもっと高い位置を取って裏を狙えるようにできれば良かったです。

ーー高瀬選手がいつもと違うポジションだったのは気になりましたか?

高い位置を取る選手だと、自分が下がらなければいけなくなるので、どう対応するかを考えなければいけなくなります。以前は近賀(ゆかり)さんも高い位置を取る選手だったので、どちらが先手を取れるかが重要でした。

ーーPKの判定で失点した後は、精神的なダメージもありましたか?

悪い雰囲気はなかったですね。PKになった時も、取られた時間帯も遅くなかったので大丈夫だと思っていたのですが、焦って前に蹴ってしまうとベレーザの場合は活きない選手も多いので、時間帯も考えて攻撃していかなければいけないなと思います。

ーー2位と勝ち点3差で折り返し地点を迎えましたが、今後の戦い方についてはいかがですか?

負ける試合はない方が良いのですが、合計で18試合ある中ではそういう試合もあるので、今日の負けを反省して、後期の9試合に向けてしっかり修正していきたいです。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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