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初戦はスペイン相手に苦戦。敗戦から得た教訓と課題(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
初戦はスペインに1-2と苦戦した(C)松原渓

なでしこジャパンは、昨年6月に高倉麻子新監督を迎えて以来、初の国際大会であるアルガルベカップに参加している。3月1日の初戦はスペインと対戦し、1−2で敗れた。

日本のスターティングメンバーは、GK山根恵里奈、DFラインは左から北川ひかる、熊谷紗希、高木ひかり、鮫島彩。阪口夢穂と佐々木繭がダブルボランチを組み、2列目は左からMF中里優、増矢理花、中島依美。1トップに田中美南が入った。

【無効化された日本のプレス】

点差はわずか1点だが、ゲーム内容には、両チームの完成度の違いがはっきりと見て取れた。

スペインは、ホルヘ・ビルダ監督の下で1年半以上をかけて築いてきたスタイルを、確かなクオリティーで表現した。

序盤からスペインにペースを与え、日本が押し込まれた要因は、守備がうまく連動して機能しなかったことにある。

日本は守備において、高い位置からプレッシャーをかけて、ボールを奪うことにトライした。この守備では、自分がマークする相手にプレッシャーをかけるときに、味方の複数の選手が連動してフォローすることが重要だ。連動してタイミングを合わせることができなければ、「行かない」判断をしなければならない。

前半は、そのタイミングがバラバラだった。

日本は4-2-3-1のシステムで臨んだが、スペインは3-5-2で、中盤に人数のギャップができたことも、プレッシャーをかけるタイミングを難しくさせた。

選手たちの判断の迷いや、各選手の相手にかけるプレッシャーのタイミングが異なり、連携がうまくいかず、試合の趨勢は決まった。

スペインは攻守の切り替えが速く、少ないボールタッチ数でテンポよくパスを回し、日本のゴールを脅かした。トップの10番、ジェニファー・フェンテスが力強いポストプレーで縦パスを収めると、攻撃のスイッチが入る。わかっていながら、その流れを食い止めることができなかった。

もとより、体格にはかなりの差があった。その中で、球際でまともに競り合わないようにするために、予測やサポートの面で相手を上回らなければならない。だが、日本はスペインの素早いプレッシャーを掻いくぐることができず、サポートの遅れも重なり、球際でも強く行けず、競り負ける場面が多く見られた。

攻撃面では、ボランチの阪口が相手に囲まれながらも積極的にボールを受けに行ったが、周囲のサポートが遅れ、パスの出しどころがない。躊躇している間に囲まれてしまう。味方同士の呼吸が合わず、鮫島と北川の両サイドバックが攻撃参加のために上がろうとするタイミングで出されたバックパスが、相手へのパスになってしまう場面も見られた。トップの田中にボールが入っても、両サイドの裏のスペースにタイミングよく走る選手がおらず、練習で見られたような、ダイナミックな3人目の動きは見られなかった。タイミングが合わないので、自信を持ってパスを回すことができなくなり、練習で取り組んできたパスのスピードも弱くなってしまうなど、悪循環に陥っていた。

それでも、最終ラインでは鮫島と熊谷が中心となり、A代表の経験が浅い高木と、この試合がA代表デビューとなった北川をフォローしつつ、スペインの猛攻に耐え、なんとか前半を0-0で折り返した。

ハーフタイムには、佐々木繭に代えて長谷川唯、増矢理花に代えて横山久美を投入。中里をボランチに移し、長谷川が左サイドに入った。

すると、にわかに流れが変わった。

途中出場の長谷川が鋭い出足で相手のサイド攻撃を封じ、高い位置でボールを奪う場面が増えた。長谷川は田中との連携から、右サイドの裏のスペースに走った中島へスルーパスを通してチャンスを演出。前線では、横山が貪欲にゴールを狙い、得点の雰囲気を漂わせた。

前半、スペインの素早いプレッシャーに苦しんだ日本は、後半に入ってようやく流れをつかみかけた。だが、そんな矢先の59分に、自陣でのスペインのスローインから、中盤のシルビア・メセゲルが右足を一閃。低い弾道のミドルシュートが左隅に決まり、先制点を許した。

さらに、71分、スペインは高い位置でプレシャーをかけてきた。そんな中、熊谷のバックパスをクリアしたGK山根のキックがフリーの相手に渡り、オルガ・ガルシアがドリブルからゴールを決めて、2点目。

日本は76分に中里優に変えて宇津木瑠美を投入。

「ワンタッチ、ツータッチで回していこう!」

ピッチ上での声も少なくなっていたところで、宇津木が大きな声でチームを盛り上げる。

すると、日本は、81分、途中出場の2人が魅せた。長谷川からの縦へのスルーパスに抜け出した横山が相手GKの股を抜く、技ありのゴールで1点差に迫る。88分には籾木結花を投入して追加点を狙うが、残されたわずかな時間で、日本が再びゴールネットを揺らすことはなかった。

【中1日で迎えるアイスランド戦】

試合後、高倉監督は敗因をこのように話した。

「自分たちの良さである、ボールを動かすことについては、シンプルなサポートの質と運動量を含めて、ぼやけた試合になってしまったと思います。失点のシーンは、スローインと、集中力が一瞬切れたところでやられたな、と。まだまだ、勝負に対する甘さを感じました」(高倉監督)

2失点とも、防げないものではなかった。些細なミスも、世界の舞台では命取りになることを、改めて肝に銘じなければならない。

なでしこジャパンは1日休んで、3日にはアイスランド戦が控えている。

リカバリーの時間は24時間と短いが、気持ちを切り替え、もう一度、日本の良さを発揮できるように自信を取り戻すことが大切だ。

「できたこととできなかったことをしっかり分析して消化して、反省点をプラスに変えて行くことに全力で取り組んで、一つひとつ、ブロックを重ねて行く作業だと思っています」(高倉監督)

チームとしての連携を構築するには時間がかかるものだ。この敗戦に気落ちすることなく、何が通用して何が通用しないのかを知るためにチャレンジし続けることは大切だ。国際舞台で肌を通じて得る経験は、選手たちを大きく成長させる糧となる。

日本はこの試合でA代表デビューを飾った北川、長谷川、籾木の3人を含め、国際Aマッチ出場数が10に満たない7人の選手がピッチに立ち、お互いが初めて一緒にプレーする選手もいた。そんな中で、積極的に自分の持ち味を出そうとした北川と長谷川のチャレンジは光った。

スペインは、チーム全体としてプレッシャーをかけるタイミングの合わせ方やスピード、選手同士の距離感にも、調和性や連動性が感じられた。

日本にとって、お互いを高め合うことができる新たなライバルが出現したことを喜びたい。

2019年のワールドカップ、2020年のオリンピックに向けてチームの総合力を高めているのはどの国も同じである。まずは3年後に向けて、日本は独自のスタイルを突き詰めていくことが大切だ。

今のなでしこジャパンで、阪口に次いで長い代表歴を誇る宇津木瑠美は言う。

「このチームで、高倉監督の下でサッカーをした期間が一番少ないのは、私を含め、今、チームでベテラン(と言われる年齢)の選手たちです。そのことについては、『私たちで良かったな』と思っているんです。たとえば、ベテランが長く高倉監督のサッカーをしてきた中で、若い選手たちが後から来て、4年間でこちらにフィットする方が難しいと思います。そういう意味で、私たちはいい意味でのプレッシャーをすごく感じていて、だからできることもあります。ノリさん(佐々木則夫前監督)の(下でチームを作るためにかけた)10年間を4年間で、ということではなく、これまでの(10年間の)経験を反映させながら、ここからの4年間をより進化させていくと考えれば、短い期間だとは思いません。その分、国際試合を増やさなければいけないとは思います。海外組が参加できる試合は少ないのですが、小さな大会や試合でも参加できる機会を増やしていきたいですね。常にリアリティを持って試合をするということが、大切だと思います」(宇津木)

若い頃から達観した思考と人一倍の行動力を発揮し、ベテランとなった現在まで、それぞれの年代の立場で代表チームを支えてきた宇津木の言葉だからこそ、深い説得力がある。

この試合で得た教訓をもとに、現在、取り組んでいる課題を次の試合でいかに解決できるか。

明日(3日)のアイスランド戦で成長するチームの姿をみられることを、期待している。

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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