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英中銀、8月会合で1委員がQE減額提案―ベイリー総裁も2023年から保有国債の減額開始示唆(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
450億ポンドのQE(量的緩和)減額を提案したサンダース委員=BOEサイトより

<8月5日の英中銀(BOE)の金融政策決定会合の要点>

●BOE、QE(量的金融緩和)規模を賛成多数で8950億ポンドに据え置き

●BOE、タカ派のサンダース委員が450億ポンドのQE規模減額を提案

●BOE総裁、資産買い入れ減額開始の閾値(政策金利)を0.5%に引き下げ示唆

●BOE・8月経済予測、2021年GDP伸び率は7.25%増―前回予想と変わらず

●BOE、「デルタ株感染拡大の英国経済への影響は段々と薄れる」と予想

●BOE、4-6月期見通しを前期比5%増に上方修正=7-9月期は同2.9%増

●BOE・8月経済予測、2021年インフレ見通しを4%上昇に引き上げ

●BOE、「インフレ率は中期的には2%上昇の物価目標に戻る」

●BOE、「経済のたるみ解消と物価目標の持続的達成まで金融引き締めず」

●市場、2022年8月までに0.15ポイントの利上げを予想

 イングランド銀行(BOE)は5日、金融政策委員会(MPC)の結果を発表し、政策金利を過去最低水準の0.1%に据え置くことを全員一致で決めたことを明らかにした。しかし、BOEが昨年11月会合で新型コロナのパンデミック(世界大流行)で疲弊した景気を回復させるため、非伝統的な金融緩和措置である量的金融緩和(QE)規模を国債買い入れ枠だけ1500億ポンド(約23兆円)増額し、総額8950億ポンド(8750億ポンドの国債買い取り枠と200億ポンドの投資適格級の社債買い取り枠)に拡大した資産買い入れ規模については、1委員が反対し、7対1の賛成多数で据え置いた。

 反対したのはインフレリスク重視のタカ派(強硬派)で知られるマイケル・サンダース委員だ。同委員は国債買い取り枠を8300億ポンド(約127兆円)に450億ポンド(約7兆円)減額するよう提案した。前回6月会合では首席エコノミストのアンディ・ホールデン氏(前回会合で任期満了)が1500億ポンドの追加国債買い入れ枠の減額を提案していたが、今度はサンダース委員がQE規模減額の急先鋒となった。サンダース委員はもともと米金融大手シティグループの英国担当のエコノミスト(1990-2016年)で、QEがいつか打ち切られることを意味するテーパーリング(段階的縮小)の早期開始を予想している市場寄りと見られている。

 現在の総額8950億ポンド(約137兆円)の資産買い入れプログラムは今年12月末に終了する計画だが、サンダース委員は前倒しで早期に終了するよう主張している。その根拠として、同委員は英国経済が回復し、インフレ率が4%上昇と、加速していることを挙げ、「需要過多の経済状況が今後も長く続き、インフレ率は2-3年後に物価目標の2%上昇を超え続けてる可能性が高い」と懸念を示す。

 市場ではBOEがどの程度、タカ派にシフトするかに注目している。これはBOE内でタカ派の意見が今後増えれば、テーパーリングの議論が始まる可能性が高いからだ。ただ、もう一人のタカ派のデイブ・ラムスデン委員は、BOEの計画通り12月末に資産買い入れを終わらせる考えに傾いているとみられている。

 BOEはテーパーリングについて、会合後に発表した議事抄録で、「多くの委員はフォワードガイダンス(金融政策の指針)で定めた、将来、金融引き締めが必要となる条件を満たしていないと判断した」とし、タカ派へのシフトは時期尚早との考えを強調。また、「数人の委員はGDPや雇用は中期達成目標をかなり下回っており、新型コロナ(デルタ株)感染拡大による景気下振れリスクを考慮すると、景気が回復し、物価目標を持続的に達成できるような道筋ができているとは言えない」とし、時期尚早の金融引き締め転換による景気回復の腰折れ懸念を示している。BOEのアンドリュー・ベイリー総裁も7月1日、ロンドンでの講演で、「今の一時的な強い景気回復とインフレ加速に過剰に反応すべきではない」とくぎを刺している。

 また、BOEは今回の会合でも失業率が低下し、景気回復が進んできているものの、声明文で、「適切な金融政策の決定は目先の一過性で終わる可能性が高い要因に基づくよりも中期的なインフレやインフレ期待の見通しに基づくべきだ」とし、その上で、「2%上昇の物価目標が持続的に達成されるか、または、経済全体の余剰生産能力(spare capacity)が解消されない限り、金融引き締めは行わない」としたフォワードガイダンス(2020年下期に採用)を維持した。これはFRBと同様、目先のインフレ加速は一時的との見方を示すもので、当面、低金利政策を継続する考えを示す。

 市場では今回の会合で、BOEはQEプログラムで買い入れた保有国債の減額開始のフォワードガイダンスとなっている、「政策金利が1.5%に達した時点」というルールが緩和(1.5%の閾値の引き下げ)されるかに注目していたが、ベイリー総裁は会見で、「閾値を(現在の1.5%から)0.5%に引き下げることは重要なことだ」と述べ、今後、閾値の引き下げの可能性を示唆した。(「下」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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