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英保守党が総選挙で圧勝、EU離脱大きく前進へ(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

ジョンソン首相が提出したEU離脱協定法案(WAB)が第2読会の採決で圧倒的賛成多数で可決され、来年1月7-9日に成立する見通しとなった=英BBCテレビより
ジョンソン首相が提出したEU離脱協定法案(WAB)が第2読会の採決で圧倒的賛成多数で可決され、来年1月7-9日に成立する見通しとなった=英BBCテレビより

ボリス・ジョンソン首相は選挙公約で指摘したように、選挙から約1週間後の12月20日、下院にEU離脱協定法案(WAB)を提出し、委員会審議に入るための第2読会の採決を実施し、賛成358票に対し、反対234票の124票の圧倒的な大差でWABを可決した。反対した労働党では6人の造反議員が賛成に回り、32人が棄権し、労働党の一枚岩の体制にひびが入った。今後は来年1月7-9日の3日間の日程で、下院の委員会でWABの詳細が審議され、修正動議の採決を経て、上院に送られ議会通過となる見通しだ。

 WABの議会成立後については、英紙デイリー・テレグラフ紙のピーター・フォスター欧州デスクは11日付で、「2020年1月31日のEU離脱後、移行期間に入り、EUとの漁業協定の協議に入る。その後、EUとの自由貿易協定の協議を2020年12月末までに完了させ、この時点で合意してもしなくても2021年1月1日に完全に離脱することになる」と予想する。

 保守党が総選挙で勝利したことについて、EU側は今後のEU離脱協議はメイ前首相の当時とは180度変わると戦々恐々としている。マニュエル・ヴァルス元仏首相は13日のツイッターで、「EU離脱と英国の将来という極めて重要な問題に対し、労働党のコービン党首はジョンソン首相と真逆の立場を主張し、すべてを失った。もはや(EU離脱が)曖昧となる余地はない」(英紙ガーディアン)と評す。ポーランドのマテウシュ・モラビエツキ首相も13日、EU本部で記者団に対し、「保守党の単独過半数は英国の政治が安定するという重要な意味がある」(同紙)とし、英国のEU離脱が前進するとの見方を示している。

 また、保守党が単独過半数を占めたことを受け、英国メディアでは「英国の政治安定」と「EU残留支持派封じこめ」が進むとの論調が一気に増えてきた。英コンサルタント大手ヨーロッパ・エコノミクスのアンドリュー・リリコ専務理事は13日付テレグラフ紙のコラムで、「1832年の選挙法改正以来の国論を二分した恥ずべき、反民主主義の反動主義的なブレグジット阻止の運動に終止符が打たれた。英国をEU法やEUの貿易政策の下に置き、EU関税同盟に英国を残すことでブレグジットを無効化しようとするテリーザ・メイ前首相やフィリップ・ハモンド前財務相、多くの政府官僚、労働党幹部の野望を打ち砕いた」とし、「今後、英国は日米と自由貿易協定やカナダ、豪州とも連携することが可能になる」と指摘する。

 政治評論家のエイサ・ベネット氏も同日付テレグラフ紙のコラムで、EU残留を支持してきた保守党内の重鎮で元首相のジョン・メジャー氏やデービッド・キャメロン氏の政権当時よりも大きな単独過半数を占めたことで党内はもとより、大敗した労働党と自民党の党首交替圧力を高め、英国最大のEU残留支持の政治団体「ピープルズ・ボート」にも打撃を与えたと分析している。ジョンソン首相の9月の電撃的な議会閉会に対する憲法違反訴訟をリードしたEU離脱反対派の著名弁護士ジーナ・ミラー氏も12日、英テレビ局ITVのインタビューで、「今後は首相のEU離脱協定が議会を通過し、国際条約として批准される」と述べ、事実上の敗北を認めている。

 保守党の勝利とは裏腹に、今後のEUとの貿易協議は難航が予想されるとの論調もある。英紙インデペンデントは13日付で、「ジョンソン首相は選挙公約で2020年末までにEUと自由貿易協議を終わらせるとしているが、EU側は包括的貿易協定を結ぶまでにはあと11カ月では無理で、5-7年かかると見ている」と指摘する。また、「EU離脱による貿易の穴を埋めるために、英国は日米中やカナダなどとの自由貿易協議に長い時間をかけることになる」と懸念を示す。ブレグジットを巡る英国の苦悩は続く。

 また、SNP(スコットランド国民党)は今回の総選挙でスコットランド地方の59議席中48議席を獲得し大躍進したことを受け、スッコトランド独立の是非を問う2回目の国民投票を画策している。マイケル・ゴーブ・ランカスター公領大臣は15日の英テレビ局スカイニュースで、「政府は絶対認めない」と対決姿勢を示しており、新たな火種となるのは間違いない。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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