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英総選挙、ブレグジット党が台風の目に―ジョンソン首相がEU離脱戦略を転換(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

英下院で早期総選挙法案の必要性を訴えるジョンソン首相=英BBCテレビより
英下院で早期総選挙法案の必要性を訴えるジョンソン首相=英BBCテレビより

英下院は10月29日、ボリス・ジョンソン首相が提出したクリスマス前の12月12日を投票日とする早期総選挙法案を438票対20票の大差で可決し、英国は一気に総選挙モードに入った。総選挙には今の絶対多数の政党がいないハングパーラメント(宙ぶらりん議会)の状況から抜け出し、与党・保守党による単独過半数政権を復活させることにより、EU(欧州連合)残留支持の抵抗勢力によって議会で成立させられたベン法(離脱日延期法)法に従って断腸の思いでEU(欧州連合)離脱日を10月末から来年1月末に3カ月延期させられたEU離脱を今度こそ成就したいというジョンソン首相の願いが込められている。

 ジョンソン首相が総選挙を選択したのは、テリーザ・メイ前首相のEU離脱協定(旧協定)に代わる新離脱協定が10月17日にEUと最終合意したものの、10月末の離脱日前の議会通過が困難となったためだ。最大野党の労働党や自民党、SNP(スコットランド国民党)などEU残留を支持する野党に加え、ジョン・バーコウ下院議長(元保守党議員)までもがノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)阻止を狙った巧みな離脱延期戦術を繰り広げた。

 新離脱協定の議会通過が困難となり苦境に立たされたジョンソン首相は10月29日、ツイッターで、「議会と労働党のジェレミー・コービン党首がすべてに反対し、EU離脱を遅らせた」と非難した上で、事態を打開するためには、「新しい議会が総選挙によって誕生する必要がある」(10月29日付英BBC放送)と述べ、また、「英EU離脱の動きが止まったことは国益に重大な損害を与えると判断した。総選挙は必要だった」(10月30日付英紙デイリー・テレグラフ)とも述べ、解散総選挙に踏み切らざるを得なかった理由を説明している。

 英国では2011年の任期固定法(議員任期中の首相の解散権不行使)により、次回総選挙は2017年の前回選挙から5年後の2022年と決まっている。このため、それより前に総選挙を実施するには議会の3分の2の賛成が必要になる。ジョンソン首相はこれまで3度、事態打開のため、総選挙法案を議会に提出したが、いずれも3分の2の賛成という壁を突き破ることができなかった。

 そのため、4度目の試みとなった今回はウルトラCとして、ジョンソン首相は10月29日、過半数の賛成で済む、いわゆる、ワンライン動議(首相が選挙日を特定(12月12日)した法案を提出する1行だけの法案)を議会に提出。それと同時に、議会での可決を目指し、首相は保守党造反議員の21人のうち、10人の復党も決めた。その一方で、労働党のコービン党首も党内で下からの突き上げ受け、ようやく、「離脱日が延期され、3カ月間はノーディールがなくなった」(10月29日付テレグラフ紙)と、これまでの強硬姿勢をから解散総選挙で雌雄を決する方向に戦術転換した。これにより総選挙法案が圧倒的多数で可決されたのだ。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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