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ジョンソン英首相、EU離脱の大幅遅延阻止狙って解散総選挙実施へ―11月28日投票案が浮上(1/4)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

ジョンソン首相は22日の下院本会議で10月末のEU離脱を目指す議事日程動議が否決されたのを受け、解散総選挙によるEU離脱の大幅延期阻止を目指す考えを示した=英紙ガーディアンのビデオから
ジョンソン首相は22日の下院本会議で10月末のEU離脱を目指す議事日程動議が否決されたのを受け、解散総選挙によるEU離脱の大幅延期阻止を目指す考えを示した=英紙ガーディアンのビデオから

英下院は10月22日夜の本会議で、ボリス・ジョンソン首相の新離脱協定法案に対する「意味ある投票」(政府合意案に対する議会の最終承認の投票)を実施し、329票対299票の30票差の賛成多数で可決し、10月末のディールによるEU(欧州連合)離脱の第一関門を突破した。これはジョン・バーコウ下院議長が新離脱協定の第2読会を受け、議会による投票のゴーサインを出したことでようやく新協定の批准に向け動き出したもの。

 しかし、ジョンソン首相が同時に提出した、10月末までにすべての新協定関連法案を議会通過させるのに必要な審議日程を決めた、いわゆるプログラム(議事日程)動議については308票対322票の14票差の反対多数で否決された。この動議が可決されれば、政府は22日から24日まで新協定の関連法案を含め集中討議し、24日に下院で関連法案を可決。週末25日に上院で審議入りし、30日に上下両院での修正動議の可決とエリザベス女王による同意を取り付け、その上で31日午後11時までにディールでのEU離脱という日程で進み、ジョンソン首相の最後の賭けが達成されるはずだった。

 この結果、今後のEUとの協議結果にもよるが、離脱日が来年1月末か、それよりも長期になった場合、ジョンソン首相はEU離脱の大幅遅延に危機感を強めているため、解散総選挙の道を選択する見通しだ。テリーザ・メイ前首相当時、最初の離脱日は3月29日だったが、EU残留支持派の議員の抵抗で4月12日、さらには10月31日と、これまで3回も延期され今度で4回目となる。

 ジョンソン首相は22日午後の下院本会議で、プログラム動議の投票に先立ち、「もし、この動議が否決されたならば、EU離脱が1月末か、それ以上に遅れる可能性がある。政府、この場合、新離脱協定法案を断念し、総選挙によって民意を問う。また、野党はブレグジットとスコットランドの英国からの独立について、それぞれ民意を問うべきだ」と述べており、初めて公の場で総選挙を選ぶ考えを示している。

 総選挙の動議は下院議員の3分の2以上の賛成か、ワンライン動議(首相が選挙日を特定した法案を提出する1行だけの法案)だと単純過半数の賛成多数で可決される。仮に10月24日に解散総選挙が決まれば、最短で25日後の11月28日が投票日となるが、政府は11月28日までに選挙を実施したい考えだ。ただ、EUとの協議で、離脱日延期が1カ月程度の短期にとどまれば、ジョンソン首相は総選挙をせず、延期を受け入れるとみられている。

 これより先、メイ前首相がEU(欧州連合)と合意した離脱協定に代わるジョンソン首相のディール(新離脱協定)をめぐる英・EU離脱協議はタイムリミットとされた10月17日のEUサミット(加盟27カ国の首脳会議)初日の土壇場でかろうじて合意したが、ジョンソン首相は「スーパー・サタデー」と呼ばれた19日(土曜日)の臨時の下院本会議で新離脱協定の批准に失敗。ジョンソン首相は同日夜、ベン法(離脱日延期法)に従って、EUのドナルド・トゥスク欧州理事会議長(EU大統領)宛てに離脱日の延期を要請する書簡の送付を余儀なくされた。

 しかし、政府は10月31日のEU離脱をまだ完全には断念せず、ジョンソン首相は21日に2度目の新離脱協定の批准動議を議会に提出した。しかし、議会に提出される動議の選択権を握っているバーコウ下院議長は、政府の新離脱協定案を取り巻く状況は19日以降、何も変わっていないことを理由に、新協定案の内容を文書にして議会に提出する第1読会だけは認めたものの、意味ある投票は行わないことを決め、政府の10月末のEU離脱の動きを封じた。それでもジョンソン首相は諦めず、前段で示したように22日にプログラム動議を提出した。

 しかし、この動議が否決された結果、議会は何の制約設けることなく、今後、数週間でも新協定案を巡って討議することができるので、EU離脱がかなり長期にわたって延期される可能性が出てきた。このため、ジョンソン首相は下院本会議で解散総選挙の選択肢を選ぶ考えを示したのだ。

 もし、このプログラム動議が可決され、10月30日までにすべての離脱関連法案が議会を通過すれば、現在、政府はEUに離脱日延期を要請し、EUも延期要請を受ける見通しだが、それでもあとで取り消しが可能だった。その意味ではジョンソン首相にもまだ10月末のEU離脱の最後のチャンスは残されていたといえる。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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