英国、ジョンソン元外相の次期首相就任で合意なきEU離脱の可能性(下)

 

テリーザ・メイ首相は5月24日、首相の出処進退を決める与党・保守党の1922年委員会の党幹部との会談後、6月7日に保守党の党首を辞任することを正式に発表し泣き崩れた=BBCテレビより
テリーザ・メイ首相は5月24日、首相の出処進退を決める与党・保守党の1922年委員会の党幹部との会談後、6月7日に保守党の党首を辞任することを正式に発表し泣き崩れた=BBCテレビより

与党・保守党内や国内メディアで首相辞任要求がピークに達した5月24日、テリーザ・メイ首相は党首としての出処進退を決める1922年委員会との会談後、直ちに党首を辞任すると表明した。メイ首相はこのテレビ演説で、「(ディールによる)ブレグジット(英EU離脱)を果たせなかったことは残念であり、今後も残念に思う」と述べ、ブレグジットの実現に失敗したことを受け入れた。演説の最後では悔しさのあまり感極まって泣き崩れる場面もあったが、メイ首相が自身の離脱協定案の失敗を率直に受け入れたことは、6月初めに新案を議会に提出し4回目の意味ある投票を目指すという目論見が外れ、すべてが無に帰したことを意味する。

 次期党首、そして、事実上の次期首相となる後継候補には、離脱急進派のボリス・ジョンソン元外相やドミニク・ラーブ元離脱担当相、エスター・マクベイ元労働・年金相、マイケル・ゴーブ環境相、アンドレア・レッドソム院内総務のほか、残留支持派のジェレミー・ハント外相を含め10人超が立候補する予定で、党首選はEU離脱かEU残留かの一騎打ちとなる見通しだ。しかし、この中で、ジョンソン氏が最有力とみられており、ゴーブ氏もすでに5月25日、決選投票になればジョンソン氏を推すと表明した。一方、メイ首相は次期党首が決まるまで首相を続ける。

 ジョンソン氏が有力とみられる背景には、5月23日に投票された欧州議会選挙の結果、UKIP(英国独立党)の元党首、ナイジェル・ファラージ氏が率いるブレグジット(英EU離脱)党が結党わずか6週間で得票率33.3%、28議席を確保して第一党となったことがある。次いで2度目の国民投票を目指す自民党(15議席)、労働党(10議席)の順位となり、与党・保守党は得票率8.8%、3議席と、一気に15議席も失い、緑の党(7議席)を下回る第5位に転落した。保守党の党首選は10月末にノーディールか、またはディールで離脱するかどうかが争点となるが、欧州議会選挙でブレグジット党が躍進したことは、多くの有権者がノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)を支持していることを意味し、そうした方向に進む可能性が一段と強まったといえる。

 保守党・離脱支持派のエスター・マクベイ元労働・年金相はノーディールを主張する一人だ。同氏は英紙デイリー・テレグラフ紙への5月25日付寄稿文で、「EUは英国が390億ポンド(約5.5兆円)もの離脱清算金(手切れ金)を支払うにもかかわらず、なぜ驚くような離脱案(バックストップ条項など)を提示したのか。もしEUが今後、いい離脱条件を英国に示さないならば、英国はWTO(世界貿易機関)ルールの下で、ノーディールで離脱すべきだ。欧州議会選挙でブレグジット党が圧勝し、1740万人の有権者が離脱を支持した」と指摘。今後の新首相の下でのEU離脱協議の再開の必要性を主張しながらもメイ首相のような妥協は許さないとしている。

 ジョンソン元外相も同意見だ。同氏が次期首相になれば、「二度と離脱日を延長せず、予定通り10月末にディールか、またはノーディールで離脱する」と言明した。ジョンソン氏はテレグラフ紙に寄稿した5月26日付コラムで、「2016年の国民投票の結果を尊重し、英国が独自の関税と法律、ルールを決めることができる主権国家の仲間入りすることが国民から支持が得られる唯一の方法だ。欧州議会選挙で保守党が大敗したのは国民投票の結果に従って3月29日に離脱せず、EUと妥協し、国民の声を裏切ったからだ。この使命を達成できなければ保守党への支持や保守党を離れて欧州議会選挙でブレグジット党に投票した有権者は二度と保守党に戻ってこない」と語っている。

 また、ジョンソン氏は今後のEUとの離脱協議の見通しについて、「誰も最初からノーディールを目指す人はいない。また、そうかと言って、ノーディールを選択肢から除外する無責任な人もいない。楽観的になるが、10月末までにEUといい条件で離脱合意することは可能だ」としている。ジョンソン氏が首相になれば、「ディールかノーディールで離脱する」と言っているが、ここでいうノーディールは「クリフエッジ」といわれる、10月末の離脱日に移行期間なしにEU単一市場から即離脱ということではなく、「管理されたノーディール」を意味する。

 もともと、ジョンソン氏はEU離脱を実現する唯一の方法は「管理されたノーディール」だと主張しているからだ。メイ首相の主張とは相反する真逆の方向だ。管理されたノーディールとは、英国が10月末にEUから離脱するものの、2021年末までの移行期間はEU離脱後もバックストップ条項(北アイルランドにEUルールを合致させることでハードボーダーを避けるという解決方法)の発動なしに、従来通りゼロ関税とし、その間に自由貿易協定を結ぶという案だ。ただ、これまで同案にはEUは否定的な見方を示しているため、曲折が予想される。

 これとは対照的にあくまでもディールによるEU離脱、つまり、ソフトブレグジット(穏健離脱)を目指すというのがハント外相の主張だ。同氏はテレグラフ紙への5月27日付寄稿文で、「ノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)はノーブレグジット(EU離脱の取り消し)となるより好ましいが、政府はどんな場合でもEU離脱協議をノーディールで終わらせてはならないという修正動議を議会が3月に可決している。それでもノーディールにするため、総選挙を実施すれば、保守党にとって政治的な自殺行為となる」と述べ、メイ首相の元の離脱協定案を軸に、EUとディールを目指し再協議に入りたい考え。さらに、離脱協定案を議会で通過させるため、同相の離脱交渉チームには最初から保守党の離脱急進派であるブレグジット欧州調査グループ(ERG)のジェイコブ・リースモッグ代表や連立与党の北アイルランドの民主ユニオニスト党(DUP)、スコットランドとウェールズの議会代表者らを中に取り込むとした。

 保守党の新党首が7月末までに決まっても政局の先行きは不透明感が漂う。テレグラフ紙のコメンテーターである保守党のウィリアム・ヘイグ元党首は5月27日付コラムで、「次期党首は少数与党政府の首相として議会で信任投票(クイーンズ・スピーチ(女王の朗読による政府の施政方針演説)の内容を承認するかどうかの採決)を受けることになるが、わずか3人差で支持が得られなければ8月に総選挙のスタートとなる。また、労働党が2回目の国民投票を行うことを要求し、新首相のブレグジットを阻止する可能性もある。さらにブレグジット党からの圧力で、新首相がノーブレグジットでも離脱すると安請け合いし、それがあとでカラ約束になれば、議会や保守党内から信頼を失いメイ首相の二の舞いになりかねない」と指摘した。

 また、同氏は、「10月末のEU離脱日は当初の3月29日の離脱日と同様、その通り離脱できるという保証は何もないので、(再延長されれば)EUとの再協議を通じ、EUとの将来の関係(自由貿易協定)の大枠を示す政治宣言案を修正し、本体の離脱協定案を議会で通過させる可能性はあるが、これは相当な交渉能力を必要とする。あるいは、何が何でもEUから離脱するという断固とした信念を持った首相であれば、ノーディールでの離脱はありうる」と分析する。(了)