Yahoo!ニュース

英国、ジョンソン元外相の次期首相就任で合意なきEU離脱の可能性(中)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

テリーザ・メイ首相は5月24日、首相の出処進退を決める与党・保守党の1922年委員会の党幹部との会談後、6月7日に保守党の党首を辞任することを正式に発表し泣き崩れた=BBCテレビより
テリーザ・メイ首相は5月24日、首相の出処進退を決める与党・保守党の1922年委員会の党幹部との会談後、6月7日に保守党の党首を辞任することを正式に発表し泣き崩れた=BBCテレビより

英有力紙デイリー・テレグラフの5月5日付社説で注目されたのは、政局再編のシナリオだった。同紙は社説で、「保守党が首相の出処進退を決定する1922年委員会のルールを改定し、再度、テリーザ・メイ首相を更迭できなければ、UKIP(英国独立党)のナイジェル・ファラージ前党首が最近結成した新党「ブレグジット(英EU離脱)党」が保守党と労働党の2大政党の間を縫って急浮上する」と指摘した。ブレグジット党は今回のイングランド統一地方選挙(5月2日投票)では候補者の出馬を見送ったが、ファラージ党首は5月7日の会見で、5月23日の欧州議会選挙と次の英総選挙に参加する意向を表明している。

 統一地方選挙前、保守党が大敗する可能性を示す世論調査が4月末、英市場調査会社ユーガブから公表された。これは英国の有権者はどの政党がEU離脱に賛成か反対かをみるイメージ調査で、2017年の総選挙で保守党に投票した有権者の29%が「保守党はEU離脱賛成」と感じているとしたのに対し、それを上回る31%が「保守党はEU離脱反対」と感じていると回答。保守党は思ったより離脱賛成が少なく、反対にUKIPとブレグジット党は圧倒的に離脱賛成が多い(それぞれ約75%と約85%)というイメージだった。つまり、有権者は保守党が2016年の国民投票での離脱決定を尊重せず、EU離脱反対という印象が強かったと判断したため、統一地方選の大敗につながったのだ。

 ユーガブの別の世論調査では、ブレグジット党が欧州議会選挙で躍進する見通しが示された。実際にその通りとなったのだが、テレグラフ紙は選挙前の4月30日付で、「2017年総選挙で保守党に投票した有権者の半数以上が欧州議会選挙でブレグジット党に投票するとした。これは保守党の有権者のわずか27%しか、欧州議会選挙で保守党に投票しないとするのとは対照的だ。また、これまで3回の世論調査で、有権者の28%が欧州議会選挙でブレグジット党に投票するとしており、これは労働党と並ぶかリードしている」と分析した。また、同紙は5月9日付で、「メイ首相の後継者候補が党首の座を求めて争う一方で、ブレグジットの不手際に対する有権者の怒りで保守党は欧州議会選挙で得票率は10%を割り、6位に後退すると党関係者は予想している」と報じた。

 また、最新の英コムレスの世論調査では、メイ首相の下で総選挙が実施された場合、獲得議席数で労働党が第1党(316議席)となり、保守党は2位(179議席)に後退する見通しが示された。ブレグジット党は49議席と、SNP(スコットランド国民党)に次いで4位だが、得票率では20%と、保守党(19%)を抑え、労働党(27%)に次いで2位となる予想だ。興味深いのは保守党党首がEU離脱急進派のボリス・ジョンソン元外相に代わった場合、得票率は26%に跳ね上がり、労働党といい勝負となるので首相交代に根拠を与えるという点だ。欧州議会選挙の得票率でもブレグジット党は27%でトップ。保守党は13%で4位に後退すると予想していた。

 欧州議会選挙の5月25日の開票結果は、ブレグジット党が得票率33.3%で28議席を確保し、第一党となり、2度目の国民投票を目指す自民党(15議席)、労働党(10議席)の順位となった。保守党は得票率が8.8%で3議席と、一気に15議席も失い、緑の党(7議席)を下回る第5位に落ち込んだ。

 ブレグジット党のファラージ党首は、欧州議会選挙前、「メイ首相がEU関税同盟に残ることで労働党と合意し、英国をEUと連携させ続け、国民を敵に回すならば、次の議会総選挙(2022年)にブレグジット党が保守党や労働党に対抗する候補者を立て、二大政党制の歴史を破壊する」(5月4日付テレグラフ紙)と警告した。

 保守党選出のダニエル・ハンナン欧州議会議員はテレグラフ紙の5月4日付コラムで、「メイ首相は今度こそ、統一地方選挙の大敗の責任を取って辞任すべきだ。悪いのは首相の政策ではなく首相自身である。今回の大敗は750年の英国議会の歴史の中で最悪だ」と主張。一方、英テレビ局スカイニュースの政治部デスク、ベス・リグビー氏も5月8日の社論で、メイ首相の早期辞任を主張した。「EU離脱支持にとって、メイ首相はベッドブロッカー(本来、病院の救急ベッドを必要としない健康老人)だ。ノーディール離脱も辞さない離脱派の行く手をふさぐ、いわゆる“人間の盾”となっている。早い段階で首相を更迭し、離脱を完遂できるジョンソン元外相やドミニク・ラーブ元離脱担当相らと入れ替えるべき」と痛烈に批判している。(「下」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

増谷栄一の最近の記事