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イタリア、ユーロ圏離脱に向かう可能性―英保守党のヘイグ元党首(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
イタリアのマッタレッラ大統領(左)と会談する連立与党のコンテ首相候補。会談後、コンテ氏は大統領の反対を受け首相就任を断念した=大統領府より
イタリアのマッタレッラ大統領(左)と会談する連立与党のコンテ首相候補。会談後、コンテ氏は大統領の反対を受け首相就任を断念した=大統領府より

イタリアのセルジョ・マッタレッラ大統領は27日、欧州議会でUKIP(英国独立党)と連携したことがある左派のポピュリズム(大衆迎合主義)政党の五つ星運動と右派で反移民のEU(欧州連合)懐疑派のリーガ(同盟、旧・北部同盟)の連立与党によるユーロ離脱を阻止するため、与党が指名したユーロ懐疑派エコノミストであるパオロ・サボーナ氏の経済相就任に拒否権を行使した。予想されたこととはいえ、イタリア政界は急転直下、再び混乱に陥ることになった。

振り返れば、今年3月4日のイタリア総選挙から2カ月半に及んだ新政権樹立の連立協議が今月18日、ようやく終了し、五つ星運動とリーガが連立政権の樹立で合意。ドイツやフランスに続いてユーロ圏(加盟19カ国)3位の経済大国イタリアで反EU・反移民の連立政権が誕生し、EUにとってEU離脱協議を進めている英国に続いて、イタリアが単一市場と統一通貨ユーロへの新た脅威として浮上してきた矢先だった。

当初、与党陣営は過半数の議席を保有する議会で大統領の弾劾・罷免(単純過半数で大統領を罷免できる)を目指す方針だったが、市場への悪影響が大きいことからその可能性は薄くなった。むしろ、マッタレッラ大統領が28日、直ちにIMF(国際通貨基金)の元高官のカルロ・コッタレッリ氏を新首相に指名し組閣を指示したことを受けて、30日の段階では五つ星運動のルイジ・ディマイオ代表とリーガのマッテオ・サルビーニ書記長もコッタレッリ首相の組閣に一定の理解を示し態度をやや軟化し始めている。しかし、上下両院で過半数を占める連立与党がコッタレッリ政権を信任しなかった場合、または、選挙管理内閣という条件付きで信任した場合でもいずれにせよ短命政権に終わり、夏休み前の7月末か、夏休み後の9月か10月には解散総選挙に向かうとみられている。

再選挙で与党が勝利しても大統領が変わらなければ同じことの繰り返しとなり政治混乱は続く。ただ、再選挙で与党、特に3月総選挙で第1党となったポピュリズム(大衆迎合主義)政党の五つ星運動の支持基盤がさらに強化されユーロ離脱の流れが変わらない可能性がある。

英国の与党・保守党のウィリアム・ヘイグ元党首=FBサイトより
英国の与党・保守党のウィリアム・ヘイグ元党首=FBサイトより

英国のテリーザ・メイ首相が率いる与党・保守党のウィリアム・ヘイグ元党首(1997-2001年)は5月21日、英紙デイリー・テレグラフに寄せた寄稿文で、「イタリア新政府はユーロ圏からの出口を模索し始める可能性が高い。すぐには始まらないにせよ、EUとの対立が激化し離脱の方向に向かう。(その意味で)EUにとってイタリアの連立政権はブレグジット(英国のEU離脱)より脅威になる」と警告している。これは英国が特例的にユーロの採用を免れているが、イタリアはユーロ圏の中軸国でありユーロ圏離脱は単なるEU離脱とは重みが違うからだ。

 イタリアがユーロ圏を離脱する理由として、ヘイグ氏は、(1)両党はいずれもユーロ圏にとどまることに強く反対し数十万人の移民の追放を約束している(2)イタリアは重債務国だが、大幅減税と大型財政支出を同時に進める経済政策を主張。具体的には所得税の税率引き下げとユニバーサルインカム(政府による現金支給制度)の導入、退職年金支給開始年齢の引き下げを約束しているーことを挙げる。その上で、「イタリアがユーロ圏にとどまる限り、安定・成長協定の財政赤字ルール(毎年の財政赤字をユーロ加盟基準の対GDP比3%未満とする)に縛られ大型減税・財政支出政策を実現する資金調達ができないという現実がある。従って両党はユーロ圏からの離脱を目指す」と指摘する。

 また、イタリアがユーロ圏を離脱しなければならない背景について、ヘイグ氏は、「イタリアは1999年にユーロ圏に加盟したが、その後、経済は疲弊し、失業者数が増え、企業経営は苦しい状況となった。しかし、ドイツ経済は労働生産性が高いため、イタリアの労働者がある程度、ドイツ並みの労働生産性を持つようにならない限り、イタリアだけのためにユーロの価値を切り下げて景気を刺激することは不可能となっている。このため、ドイツ経済は強くなる一方で、イタリア経済はEU以外の他国への輸出が困難になり、この20年間経済は拡大していない」という。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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