Yahoo!ニュース

英国のEU離脱協議、北アイルランド国境問題で折り合わず“強硬離脱”の恐れ(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
土壇場でEU離脱協議の合意を覆したメイ首相(左)はユンケルEC委員長とそろって会見に臨んだ=EUサイトより
土壇場でEU離脱協議の合意を覆したメイ首相(左)はユンケルEC委員長とそろって会見に臨んだ=EUサイトより

英国のテリーザ・メイ首相は12月4日、ベルギー・ブリュッセルのEU(欧州連合)本部に乗り込みジャン・クロード・ユンケルEC(欧州委員会)委員長(ルクセンブルク元首相)とのトップ会談に臨んだ。会談は英国がEU離脱に伴う清算金、いわゆる、手切れ金の増額や英国に居住するEU市民の在留権、そして、離脱協議の最大の難関となっている北アイルランド国境の3つの問題のすべて一気に解決し合意することが期待された極めて重要な会談だった。

しかし、午前中の段階でいったんメイ首相は3つの懸案問題について合意する文書を了承したが、メイ首相の連立与党の連立与党である北アイルランドの民主ユニオニスト党(DUP)が合意案に強く反対したことから、土壇場でメイ首相が一方的に会談を打ち切り、両者の合意は幻に終わった。今後、EU離脱協議は継続されることになったが、12月14-15日のEUサミット(加盟27カ国首脳会議)までに合意に達しない場合には強硬離脱の可能性が出てきた。

会談が土壇場で打ち切られたことについて、英BBC放送は4日、「DUPのアーリーン・フォスター党首が午後2時(英国時間)に会見したあと、その20分後にメイ首相がユンケル委員長との会談を中断してDUPのフォスター党首に電話。その後、会談会場に戻るや否や合意は打ち切りと切り出した」と伝えた。アイルランド共和国のレオ・バラッカー首相は当初、午後2時半に会見を開くと発表したが、その後、会見の延期を発表した。その背景には午前中に合意した内容を発表できるとの思い込みがあった。午後5時からの会見で、バラッカー首相は、「午前中、合意はできていた。メイ首相はいったん合意文書案に同意したが、その後,実現に移すことができなかった」と述べ、DUPが合意をひっくり返したと悔しさをにじませた。今後のメイ首相との会談についても「合意した案を変える気はない」と述べている。

当初の合意文書には南北アイルランドの国境管理は「これまで通りEU規制を継続する(full continued regulatory alignment)」という文言が盛り込まれていた。これは南北アイルランドには従来通り国境管理(規制)を行わないというもので、北アイルランドは離脱後もEUの関税同盟と単一市場に残るという意味になる。

しかし、この合意通りに、英国のEU離脱後に北アイルランドにEU規制が続けば、つまり、EU域内に残れば、英国はEU離脱後に北アイルランドとの間に国境管理を導入しなければならなくなる。これは北アイルランドと英国の一体性が失われることを意味する。仮に北アイルランドとの一体性を維持するために英国もEU規制を受け入れればEU残留と変わらないことになり、英国がEU離脱後に、米国など他国と自由貿易協定を結ぶことは論理的に不可能となる。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

増谷栄一の最近の記事