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ブラジル中銀、利上げは短期決戦かーインフレ懸念で約2年ぶり利上げ転換

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ブラジル中銀のアレシャンドレ・トンビニ総裁=中銀サイトより
ブラジル中銀のアレシャンドレ・トンビニ総裁=中銀サイトより

ブラジル中央銀行(BCB)は17日の金融政策決定委員会で、最近の急激なインフレリスクの悪化に対処するため、政策金利(セリック)である翌日物金利誘導目標を0.25%ポイント引き上げて7.5%にすることを6対2の賛成多数で決めた。この結果は市場の大方の予想通りだった。中銀は2011年7月に政策金利を12.25%から12.5%に引き上げており、利上げはそれ以来、1年9カ月ぶりとなる。

最近のインフレ状況は、ブラジル地理統計資料院(IBGE)が10日に発表した3月のIPCA(拡大消費者物価指数)が前年比6.59%上昇と、1年4カ月ぶりに中銀の物価目標(2.5-6.5%)の上限と中央値(4.5%上昇)を上回っている。このため、市場では中銀は今回の金融政策決定会合で、政策金利を7.25%から0.25%ポイント引き上げて7.5%にするとの観測が広がっていた。また、ギド・マンテガ財務相とアレシャンドレ・トンビニ中銀総裁も先週末、最近のインフレ加速に懸念を示し、政府はインフレを抑制するために躊躇せず必要な措置を講じる考えを示しており、予想通りの利上げ決定だったといえる。

もともとセリックは昨年8月の12.5%から12%に引き下げられて以降、昨年10月の会合まで10回連続で引き下げられ、下げ幅も計5.25%ポイントに達していた。しかし、11月の会合で初めて据え置かれ、利下げサイクルに終止符が打たれている。前回3月会合まで3回連続で据え置かれたが、今回の会合で8人の委員のうち、トンビニ総裁ら6人が利上げを支持したが、アルド・ルイス・メンデスとルイス・ペレイラ・ダ・シルバの2委員は金利据え置きを支持した。利上げは全員一致ではないところが注目点だ。言いかえれば景気刺激に配慮して、利上げを急ぐべきではないとの意見もあったといえる。

前回3月会合時の声明文では、「中銀は次回会合時までマクロ経済のシナリオがどう推移するかを見てから、次の金融政策の戦略を定義する」と述べたことから、アナリストは、中銀は1月会合以降、インフレ見通しが悪化していることから、政策金利の長期据え置き戦略は取らず、早期に利上げに転換する可能性が高まったと見ていた。

今回の声明文で、中銀は利上げを決めた理由について、「高水準のインフレと、とりわけ、広範囲の物価上昇がインフレの強靭性を増すことに寄与した。このため、金融政策で対処することが必要になった」としている。ただ、「インフレの先行きの見通しを取り巻く、国内、主として世界の要因(経済・金融情勢)が不透明であることを考慮し、金融政策は慎重を期す必要がある」とも述べている。これは大幅な利上げキャンペーンに入るのは慎むという意味で、景気刺激にも配慮した格好だ。

17日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)で、米証券大手ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アルベルト・ラモス氏は、「今後、ブラジル中銀は3%ポイントくらいの利上げを目指す金融引き締めサイクルに入ることはなく、むしろ、インフレ率を物価目標の中央値に戻す政策を優先するだろう」とし、「中銀は今後3‐4回の金融政策決定会合を経て、合わせて1-1.5%ポイントの短期的な利上げサイクルに入る」と、緩やかな追加利上げを予想している。

経済界は中銀の利上げ政策転換を批判

ブラジル経済界を代表する全国産業連盟(CNI)は、こうした中銀による約2年ぶりの利上げ政策への転換は産業界に大打撃を与えるとして猛烈に批判している。

国営通信アジェンシア・ブラジル(電子版)が伝えたところによると、CNIは声明文で、「インフレを抑制することの重要性は理解できるが、政策金利を0.25%ポイント引き上げて7.5%することで生産活動が大きな打撃を受けても(それでも構わず)インフレと戦う道を選択したことは残念だ」と失望感を顕にし、その上で、「産業界は今年に入っても依然として、昨年暮れからの低調な動きを続けている」と述べ、利上げ転換によって産業界の景気回復の腰が折られると強い懸念を示した。

また、CNIは、利上げへの政策転換によって為替相場がドル安・レアル高に向かい、輸入が刺激される一方で、海外でのブラジル製品の国際競争力が弱くなると主張。「結果的に、インフレが加速し、経済成長が鈍化するという最悪シナリオに陥る」と痛罵している。

次回の金融政策決定委員会は5月28-29日に開かれる予定。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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