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米FRB議事録:出口戦略のソフトランディングで意見一致―時期はまちまち

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

FRB(米連邦準備制度理事会)は先月19-20に開かれたFOMC(公開市場委員会)会合で、量的金融緩和政策の据え置きを前回同様、賛成多数で決めた。しかし、先月の会合ではいわゆる、出口戦略(利上げへの転換時期や量的金融緩和からの脱却を目指す戦略)に関する議論が一段と深化した。

中銀は10日に、その議論の模様を要約した議事録を公表したが、それを見ると、FOMCの各委員は

ベン・バーナンキFRB議長=FRBサイトより
ベン・バーナンキFRB議長=FRBサイトより

出口戦略のソフトランディング(緩やかな調整)でほぼ意見が一致したものの、いつの時点で月850億ドル(約8.5兆円)もの資産買い取りペースを緩め、最終的に中止を決断するのかをめぐって意見はまちまちとなっている。

これより先、前回2月20日に公表された議事録(1月29-30日開催分)でも、委員の間で出口戦略について議論されたが、そこでも意見は割れていた。

もともとFRBは出口戦略への転換を決める判断基準として、(1)失業率が6.5%を下回ること(2)1-2年先のインフレ率がFRBの長期達成目標(2%上昇)を0.5%ポイント超えない見通しであること(3)インフレ期待が抑制されていること―の3点を決めているのだが、前回の議事録では、「ある一人の委員は、これらの基準がクリアされた時点で、FRBが即座に利上げに転じると誤解している市場参加者がいる」と指摘したように、直ちに資産買い取りを中止すべきかどうかで意見が分かれていた。

前回の議事録によると、多くの委員は、「FRBが出口戦略に転換しても、しばらくの間、買い取った資産を市場に売り戻さず保有し続けることで、市場が思っているほど早く大量の国債やMBSを売却しないと約束する方法も従来とは違う形での量的金融緩和になりうる」とし、買い取りを直ちに中止しても、買い取った資産の売り戻しはゆっくり時間をかけるべきだと主張している。

しかし、その一方で、一部の委員は、「雇用市場が相当改善するまでは資産買い取りは続けるべき」と、資産買い取りの中止を急ぐべきではないと主張。他の委員も「FRBがすぐに資産買い取りを終了したり、あるいは、買い取り規模を縮小したりすれば、それによって生じる潜在的な損失額は莫大なものになる」とし、直ちに買い取りを中止すべきではないと主張している。また、「過去の経験から量的金融緩和政策の中止を急ぐあまり、その後の経済成長や雇用、物価の安定に悪影響が及んだ」と指摘する意見もあった。つまり、前回までの出口戦略をめぐる議論は、直ちに買い取りを中止するかどうかに焦点が当てられていたといえる。

今回4月10日に公表された議事録(3月19-20日開催分)では、前回と違い、出口戦略への転換を決める判断基準がクリアされても直ちに資産買い取りを中止せず、しばらく継続するという議論を前提にしており、いつの時点でどうソフトランディング(緩やかな調整)させるかに議論が移っているのだ。

今回の議事録では、「少数の委員は、昨年秋以降、(雇用やインフレの)先行き見通しが改善していることから、年央(6月ごろ)に資産買い取りペースを緩め、暮れごろに買い取りを中止すべきとする一方で、他の委員は、雇用市場の状況が想定通りに改善すれば、暮れごろに資産買い取りペースを緩め、年末に中止すべき」、あるいは「2人の委員は、資産買い取りは今のペースを変えず、年末まで継続すべき」と、買い取りのペースダウンと中止のタイミングをめぐって意見はまちまちとなっている。

3月雇用統計の悪化、資産買い取りに影響も

しかし、3月のFOMC会合が終わったあとの今月5日に発表された3月雇用統計が再び悪化したことから、米国の一部のエコノミストは、今回の議事録に見られたような年央ごろに月850億ドルの資産買い取りによる量的金融緩和(QE3)のペースを緩めることは難しくなったと見ている。

ちなみに、3月の新規雇用者数は、前月比わずか8万8000人増と、昨年6月以来9カ月ぶりの低い伸びとなり、前月の26万8000人増の約3分の1にまで急減したことから、多くのエコノミストは1‐3月期のGDP(国内総生産)伸び率は3%増と強い結果が予想されているが、4‐6月期以降は2.2%増に減速すると予想、景気の先行きに赤信号が点灯したとの見方が強まっている。

この点については、ベン・バーナンキFRB議長も3月20日のFOMC会合後の記者会見で、「我々は経済状況の先行き見通しの変化に応じて我々の金融政策手段(QE3)を調節することを考えている。景気が弱くなれば買い取りペースを高め、そうでなければ絞り込むかのいずれかの方向に向かう」と述べ、経済データを見ながら資産買い取り規模を調節するとしている。特に、春の時期は過去3年間、景気が再び低調になる傾向があるため、同議長は、今年もそうした“春のスランプ”が見られるのか注視していくとしている。

米国のエコノミストの多くは、FRBは第3四半期(7-9月)から資産買い取りペースを徐々に落とし始め、第4四半期(10-12月)か、来年第1四半期(1-3月)に資産買い取りを中止すると見ている。ただ、一部のエコノミストは来年末まで買い取りが継続するとの見方もしている。

3月のFOMC会合で決定したことをもう一度おさらいすると、(1)政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の現状0~0.25%を維持する(2)2012年9月の会合で導入された月400億ドル(約4兆円)のMBS(不動産担保証券)の買い取りによる第3弾の量的金融緩和(QE3)を継続する(3)2011年9月に導入された月450億ドル(約4.5兆円)のツイストオペ(短期債を売却して長期債を購入し、バランスシートを拡大しないで保有債券の期間を長期化させるオペ)を継続する―という金融政策が維持された。

この現状維持の決定は前回1月と同様、全員一致ではなかった。11対1の賛成多数で決まっている。反対したのは新メンバーとなったばかりのFRB傘下カンザスシティ地区連銀のエスター・ジョージ総裁だ。同総裁は超低金利と国債などの資産買い取りによる量的金融緩和を長期に継続すれば、インフレ悪化リスクを高めると主張している。昨年12月の会合までFOMC委員だったリッチモンド地区連銀のジェフリー・ラッカー総裁が同様な主張を続け、ジョージ総裁はそのあとを引き継いだ格好となっている。言い換えれば、まだFRB全体としては出口戦略への転換は大勢にはなっていない。

景気見通しは下方修正=インフレ見通しは改善

ところで、FRBは3月のFOMC会合後に最新の景気見通し(中央値)を発表している。それによると、長期見通し(5‐6年先)のGDP潜在成長率は昨年12月の前回予想時の+2.3~+2.5%(中心値2.4%)のまま維持された。

2013年のGDP(国内総生産) 伸び率見通しは、前回予想時の+2.3~+3%(+2.65%)から+2.3~+2.8%(+2.55%)へ、また、2014年も+3~+3.5%(+3.25%)から+2.9~+3.4%(+3.15%)へ、2015年も+3~+3.7%(+3.35%)から+2.9~+3.7%(+3.3%)へ、いずれも下方修正された。

失業率は、長期目標が前回予想時の5.2~6.0%のままだったが、2013年は7.4~7.7%(中心値7.55%)から7.3~7.5%(7.4%)へ、2014年も6.8~7.3%(7.05%)から6.7~7%(6.85%)へ、2015年も6~6.6%(6.3%)から6~6.5%(6.25%)へと、いずれも上方修正(改善)された。

一方、PCE(個人消費支出)物価指数で見たインフレ率の見通しは、長期インフレ目標は前回予想時の2.0%と変わっていない。2013年のインフレ率は前回予想時の+1.3~+2%(+1.65%)から+1.3~+1.7%(+1.5%)へ上方修正(改善)された。しかし、2014年は+1.5~+2.0%(+1.75%)、また、2015年も+1.7~+2%(+1.85%)と、いずれも前回予想時のまま据え置かれている。

また、FRBが最も重視する値動きの激しいエネルギーや食品を除いたコアPCE物価指数で見たコアインフレ率は、2013年は前回予想時の+1.6~+1.9%(+1.75%)から+1.5~+1.6%(+1.55%)へ上方修正(改善)されたが、2014年は+1.6~+2%(+1.8%)から+1.7~+2%(+1.85%)へ、2015年も+1.6~+2%(+1.8%)から+1.8~+2.1%(+1.95%)へ、いずれも下方修正(悪化)された。しかし、どれもFRBが望ましいとするインフレ率のレンジ(+1.5~+2%)内にとどまっている。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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